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~一章 野望の剣士編~
三十六話 野望を抱いて……
しおりを挟む「すまねえな。相棒。こんなところに墓なんか作っちまってよ……」
俺達は館の横にある平地に穴を掘ると、そこにディーノを埋葬した。
本当は故郷へと連れて帰りたいところだが、状況がそれを許してはくれない。
アルラネルラが死んだ今、この森はすでに隠された森では無くなった。
王都の連中はジーダが帰らぬ事を不審に思い、間も無くここにも兵達が来るかも知れない。
猶予は無い。すぐにでもこの大陸から出なくてはならないのだ。
「ディーノ……」
ティエナはパルマの花を墓前に添えると、涙を拭う。
戻らぬ友に、黙祷を捧げる。これまでの旅路が、数多の思い出が、よぎっては消える──。
「必ず……禁断の花園を見つけるからな。見ていてくれよ」
俺は立ち上がり、上を向いてこぼれそうになった涙をこらえた。
「──二人は南にある小さな漁村を目指せ。そこにわしの知り合いがおる。そいつに頼んで南大陸へと渡るんだ」
墓の前で寂しい背中を見せる俺とティエナに、エリックが言う。
「エリックさんはどうするんですか。ジーダは恐らく、王都に定期的に連絡をしてる筈です。エリックさんも危険な身になってるに違いないです」
「そうだぜ。エリック。俺達と一緒に来いよ」
「……ありがとうな。だが、集落に残された者達が心配だ。それに拐われた男達のこともある。まだ館の中にいる彼等を弔って、それを遺族に説明もせんとな。その後にわしは集落を解散させ、皆を王都の連中から守るために安全なところへ移動させる義務がある。仮にもわしがあの集落の長であるから、厳罰に処されるかもしれんからな」
「でも……」
「安心しろ。全部が終わったらわしも後を追う。伊達に五百年生きてるわけではないわ。多くの知り合いに頼って、必ず南の大陸に行くさ」
エリックは自信げに豪語する。
「──わかりました。エリックさん。どうかご無事で……」
「エリック。色々ありがとよ」
「礼を言うのはわしだ。お前達には本当に感謝しておる。事件の解決──仲間の仇を取ってくれてありがとう。三人は命の恩人だ。それと、これを持っていってくれ。いくらか旅の足しになる」
エリックは懐から、小袋に入った目一杯の金貨を出すと、俺に渡した。
「おいおい! こんな大金いいのかよ」
「すごいお金……! エリックさん。こんなに貰えません」
「それも安心しろ。その金はジーダ達の荷物に入ってたものだ。金は有効に使わんとな」
エリックは小悪党のようにニヤリと笑った。
「──ははは! ちげぇねえな! それなら遠慮無く使わせて貰うぜ!」
「ふふふ! それなら仕方ないわね!」
三人は笑い合うと、なんだか肩の力が抜けたようであった。
「──さて、そろそろ行くか。エリック。もう捕まったりするなよ? 必ずまた、会おうぜ」
「ふん。言うてくれるわい。お前さんも達者でな。次に会うときまでに、少しは勉学に励めよ」
「へっ! 見てろよ! 次に会うときにゃ『男子三日怪しめば滑落してみろ』だぜ!」
「……『男子三日会わざれば刮目してみよ』でしょ」
「おう! それなんだなコレが!」
「先が思いやられるな……」
エリックとティエナは頭を抱える。だがどこか晴れた顔をして、俺に微笑んだ。
俺はディーノの墓に向かって、幻視ノ剣を抜く。その鏡のように反射する剣身を、垂直に目の前に上げて敬礼する。
「──ディーノ。お前の剣、しばらく借して貰うぜ。お前の意思、俺達の野望をこの剣に宿して連れて行くぜ」
幻視ノ剣は俺の顔を写す。──何故だか、そこに写るのは俺だけでは無くて、一瞬、相棒が笑ったかのように見えた。
「──ディーノ……!」
俺は嬉しさを感じながら、幻視ノ剣を鞘に納めると、腰に差した。
「よし! 行くぜ!」
「──そうね! いつまでもうじうじしてたら、ディーノに笑われちゃうわ! 行きましょ!」
「気をつけて行くんだぞ。──お前達の旅に幸あらんことを願う!」
俺とティエナはエリックに手を振ると、森の出口に向かいまっすぐに歩く。
朝日に照らされた一本道は、これからの旅路を祝うかのように……そして、困難を示唆するかのような、光と影が対極する美しき道が如く、
逸脱する二人を導くかのようであった────。
~一章 野望の剣士編~ 完
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