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~二章 献身の聖女編~
十一話 調達
しおりを挟むキエーザとの死闘から一夜明けた私達親子は、バイエルの街に向かうための準備をするために、朝早くからドタバタとしていた。
「お父さん食料買った? あと石鹸も買ってきてくれた?」
「こっちは大丈夫だ! そっちはどうだ?」
「私も花市場で色々買ってきたよ。ええと、水を貯える『アクアスの花』とライトの変わりになる『パルマの花』、それと火を起こせる『レッチェの花』……。この時期だと安く買えるから値段も張らずにすんだよ。これで大丈夫だね」
「よしよし。バイエルまでは長旅になるだろうからな。準備万端で行けば憂いはないな」
ここ、ボルシアからバイエルは歩いて十日間ほどはかかる長旅だ。それまでの簡単な食料や水を最低限に調達する。足りない分は道中で立ち寄る町で買い足すこともできるので、なるべく荷物は軽くしたい。
「ふう。あとはもう大丈夫かな?」
「……そうだな。少し寄りたい所がある。サビオラ、着いてきてくれ」
「寄りたい所?」
お父さんは大股で町の広場の方から大通りへとズカズカ歩くと、武器屋に立ち寄った。
武器屋は売れていないのか、店主のおじさんが暇そうに本を読んでいる。それも無理はない。ここ西大陸は他の大陸よりかは逸脱による被害が少ないのだ。逸脱もそうだが、様々な宗教が入り乱れている西大陸は宗教戦争のような争いなども起こりそうなのだが、信者が圧倒的に多い聖ミカエル教団はそれを抑えるべく、率先して治安維持の自警団を各方面に配置している。そのおかげで争いの火種は大火になる前に諭され、平和な日常を送れていると言うわけだ。
「お父さん武器なんか買うの……?」
「ああ。昨日の戦いでパパはちょっと危機感を持ったよ。もしこの先の旅であんな逸脱が現れたらサビオラの身が心配だ。だからあんな奴らに負けないように武器が必要だと感じたんだ」
お父さんはしみじみと言う。だけど私はちょっと心配だった。
「お父さん。武器はいいけど殺生は駄目だからね。だから……」
「わかっているよ。サビオラは本当に優しい子だね。これはあくまでもサビオラを守るための武器だ。決して相手を殺すためには使わないよ」
「ありがとうお父さん──。安心したよ」
父は鼻をこすって照れながら笑う。こうしてるとかわいいお父さんなのだが、その強面で大きすぎる図体のせいで他人には中々伝わりづらい。
「おう親父! 一番強い武器くれや!」
退屈そうにしてる武器屋の店主さんにお父さんは威勢よく言うと、
「一番強い武器か……。あんたみたいな筋肉男にはうちの武器はちょっと小さすぎるかもなあ」
「なんか無いのか!? こう、何て言うか、わかりやすく相手を威嚇できるような凄そうな武器を探してるんだが」
「えぇ……。あんたのガタイ見りゃ誰だって逃げ出すと思うがね……」
「それでも逃げない奴がいたんだよ! 頼むぜ!」
「うーん……。──あっ、そうだ。じゃあそれならどうだ」
店主さんが指差した先には、何かを包んである埃を被った大きなシートがあった。
「なんだこれ?」
「開けてみな。あんたにぴったりの武器かもな」
お父さんは咳をしながらシートに付いた埃を手で払い、勢いよくめくると、そこにはとても大きな斧が出てきた。
「おお!? よさげじゃねえか!」
「そいつは展示用の武器でな、しばらく店の前に看板代わりに置いてたんだが邪魔くさくなって物置になった悲しき武器だ。そんな重い斧なんか誰も使わんし使えん。それなら安く売ってやるからむしろ持っていってくれ」
「よし! 買った!」
即答である。お父さんはその大きな斧を軽々と持ち上げると、その造形のかっこよさに惚れ惚れとしている。
「親父! こいつには名前があるのか?」
「展示用の武器なんかに名前なんかありゃしねえよ。あんたで勝手につけてくれ」
「……可哀想な武器だな。せっかく作られたのに物置にされちまうなんて。──よし、決めたぞ。今日から俺の相棒となるお前の名前は──」
「物置大五郎にしようよ!」
「──え?」
「物置大五郎! かわいい名前でしょ!」
「サ、サビオラ。物置大五郎はちょっと、なんというか、カッコよく無いかなーとか……パパ思っちゃったりして……」
「え、駄目……? すっごくかわいいと思ったのに……」
「そ、そんなことないぞ! 物置大五郎……うん! すごいかわいくて、いいんじゃ……ないかな!」
私がガッカリしたのを見て、お父さんは慌てた様子でフォローする。
「ほんと! 嬉しい! 今日からよろしくね! 物置大五郎!」
「はは……。よ、よろしくな物置……大五郎……」
物置大五郎を装備した!!
「これで準備も完璧だね。行こうお父さん! バイエルに向けて出発しよう」
「お、おう。そうだな。行こうか……」
ボルシアにて旅支度を整えた親子は進む。娘は意気揚々に歩き、斧を携えた父は何故かテンションが低いまま町を後にするのであった──。
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