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~二章 献身の聖女編~
十三話 人質
しおりを挟む「ええと、ここから一番近い町は……」
「町はしばらくはありませんよレディ。一番近いのは『マインツ』と言う村がこの先にあります。それでも着くのは明日の朝方になりますがね」
私の問いにマルセロさんが答える。
「なら決まりだな。おい銀髪片目野郎。その『マインツ』の村で飯おごって貰うまで逃げるんじゃねえぞ」
「本当にそんな事でいいのですか……? それで気が済むのなら、いくらでもおごりますが……」
「それだけでも嬉しいです! ね、お父さん!」
「へっ! 優しくて可愛らしい俺の娘に感謝するんだな! 本当はてめえなんか顔面が団子になるくらいぶん殴る予定だったんだからな! 覚悟しとけよ、俺はたらふく飯を食うぜ」
お父さんはふんと、鼻を鳴らしながらマルセロさんを睨む。
「もう! 終わった事なんだからお父さん仲良くしようよ」
のしのしと先を行く父を追いながら私達は歩く。無言で歩き続ける父とマルセロさんはどこか空気が悪い。
「マルセロさんはどこから来たのですか?」
「僕ですか。僕は──」
「サビオラ! そんな危ない奴と喋っちゃ駄目だ! カロリーの無駄だ!」
「私は今お父さんと喋って無いの! ちょっと黙ってて!」
「そ、そんな……! パパ、サビオラにそんな事を言われたら、筋肉が削げ落ちてしまう……!」
この世の終りみたいな顔をして崩れる父。それを見ておろおろとするマルセロさん。道中で似たようなやり取りを何度も繰り返し、そんなこんなで会話は一向に進まなかった。
気がつけば夜の帳が下ろされ、辺りが静けさに満ちた。私達は丁度よさそうな大きな岩の下で野宿をする事に決めると、その岩影に腰を落として背を預ける。
近くから小枝を拾ってきてそれを一つに集めると、『レッチェの花』を私は腰についたポーチから取り出した。この花は花弁を同士を強く擦り合わせると火が着くのだ。
「よいしょ、──火が着いた!」
「これで焚き火ができるな。今日はゆっくり眠ろうぜ。どっかのアホのおかげで疲れちまったからな」
「……申し訳ないです」
「お父さん! まだ言ってる!」
「わ、わかったわかったよ。もう言わないからパパをいじめないでくれ~!」
「いじめてるのはお父さんでしょ! まったくもう……」
焚き火を三人で囲みながら夕飯の『塩ピーマン』を食べる。
「塩ピーマン美味しいね!」
「ほんとだな! みずみずしいな!」
親子はいつものように美味しそうに食べる。
「……えっ、これだけ……? これが夕飯ですか?」
「なんだよ文句あんのか!? ならてめえは食うな!」
「マルセロさんピーマン嫌いですか……? それならタマネギありますよ! 塩もどうぞ!」
「い、いや……僕は遠慮しときます……」
何故かマルセロさんはどこか引いたような顔で、塩ピーマンもタマネギも拒否した。お腹減ってなかったのかな?
「さて、腹も膨れたし寝るか」
「そうだね。私も何だか眠くなってきちゃった……」
私は食べ終わると、急に睡魔が襲ってきた。歩いた疲れやら何やらが一気に身体を駆け巡ったかと思うと、敷いたシートの上でゆっくりと瞼を閉じて眠りに落ちた──。
「はは、やれやれ……。サビオラはいつまでも子供だな……」
父は私にそっと毛布をかけると、ニコリと笑う。
「スタムさん。見張りは僕がやっています。あなたも休んで下さい」
「アホか。素性のわからんてめえなんかに無防備な姿を晒すわけねえだろ」
「しかしさっき──」
「俺が寝るって言わないと、娘が寝てくれないだろ。──俺はてめえを信用した訳じゃねえ。そこんとこ履き違えるな」
「……」
星が輝く空の下、巨漢と銀の剣士は静かにパチパチと燃える焚き火を眺める。時が進むのが遅い。それは互いに居心地の悪さを感じているせいなのか。虫のさざめきが耳にまとわりつきながら只々、朝が来るのを待つ。
「……おい。お前、何で俺を殺さなかった。てめえの腕前ならあの時の斬撃で俺の首も跳ねれた筈だ。どういう了見だ」
「……僕はあなた達を殺すつもりで戦ったのでは無いです。ただ、あなたは予想よりも頑丈で強かった。だから両手を落とすぐらいの半殺しにはするつもりでした」
「へっ、正直じゃねえか。なら何故やめた? 止めた理由を話せ」
「それは……」
マルセロは口をくぐもらせた。スタムはジロリと睨むと、あることに気づいたように目を見開いた。
「てめえ……! まさか俺の娘に惚れたんじゃねえだろうな──! 娘がいくら可愛いからって、てめえみたいな優男にはぜっっっったいにやらんぞッッ!!」
「ち、違います!」
「何が違うんだ! てめえまさか俺の娘が可愛いく無いとでも言いてえのかッ!」
「それも違います! それに僕は妻帯者です! 心に誓った女性と結婚してます!」
「なんだと!? てめえ既婚者かよ! ならなんでこんな事してんだ! ますます怪しいぜ!」
「それには深い訳があるのです……」
マルセロは慌てふためきながらも、肝心な所はお茶を濁す。
「……ん……。お父さんうるさいよ……」
「サ、サビオラ。すまない、起こしてしまったな」
私は父の響くような声に起こされると、マルセロさんが困っているのが見えた。
「あっ! またマルセロさんをいじめてるのね!」
「ち、違う違う! ほんとだよ!」
「レディ。スタムさんは何もしていませんよ。少しお話しをしていただけです」
「それならいいですけど……」
私は様子を探るように二人を交互に見る。どうやら喧嘩はしていないみたいだ。
「ふう。──おい、俺の予想だがてめえもしかして事情がありそうだが、それは妻が関係してるんじゃないか?」
「!」
マルセロさんは図星を突かれたように、身体をピクリと反応させた。
「? マルセロさん。何かお困りなら私達に相談してくれませんか? 力になるかどうかは分かりませんがお話しを聞くことなら私にも出来ます。まだまだ見習いシスターですが、あなたの迷いを導いてあげたいのです」
「いきなり襲ってきたんだ。そのくらいの事情は話しやがれ」
「────わかりました……。全て、話します」
マルセロさんは私達の目を見据えると、その頑なな口を動かした。
「僕には妻がいます。名前は『レジーナ』。ほんの三週間前のことです──。僕は身籠った妻のために平穏を求めて北の大陸からこの西大陸に来たのですが──その妻が拐われてしまいました」
「拐われた? おだやかじゃねえな」
「妻を拐ったのは『クリンスマン』と名乗る男です。僕はその男と戦おうとしましたが、妻を人質に取られて情けないが僕は手が出せませんでした……。そこでクリンスマンは僕にこう言ったのです。『スタムとサビオラと呼ばれる逸脱の親子を殺してここに連れてこい。そうすればお前の妻を返してやる』と……」
「そんな……!」
「なんだそいつは! あのキエーザとか言う野郎の仲間か!?」
「僕はそれに従うしかなかった……。すみません。あなた達には何も恨みは無いんです。本当にすまない……」
マルセロさんは私達に再び頭を下げる。そこには何の疑いも無い、誠意のこもった謝罪があった。
「──マルセロさん。顔を上げて下さい。あなたのしたことは何も間違いではありません。そして──」
「許せねえ……! 許せねえぞそのクソ野郎ッ!! おい! マルセロ! そいつをぶっ飛ばしに行くぞッ!!」
「お気持ちはありがたいです。しかし、これは僕の問題。もうあなた達にご迷惑はかけられな──」
「それは違います! 私達は私達がしたいから助けになりたいのです! それにその者は私達を狙っています。ゆくゆくは必ず私達の前に現れる筈です。マルセロさん。あなたの妻を、レジーナさんを助けましょう!」
「そうだぜ。これはてめえの問題だけじゃねえ。そいつは俺達親子の敵でもある。お前の剣と俺の怪力があれば必ずそいつを倒せる! 怪我したら自慢の娘が治してくれるしな! 俺達は無敵のパーティーじゃねえか!」
「スタムさん……! レディ……!」
「マルセロさん。私の事はサビオラでいいですよ。私はまだレディには遠いですから」
「──ありがとう。サビオラさん。スタムさん……」
銀の剣士が涙をこぼすと、三人の間に目に見えぬ友情が生まれたように感じた。
「……今ならお前が俺を殺さなかった理由が何となくわかるぜ」
「僕はあなた達の──親子の絆を見ました。僕もこれから子供ができます。あれだけの『親』と言うものを見せられたら、負けるしか無いですよ」
「へっ。いっちょまえな事はガキが産まれてから言いな! ……でもありがとよ。俺達のような逸脱に手心を加えてくれてよ」
お父さんはすっかりマルセロさんと意気投合したように、肩を組み合った。私はそれを見て、男の友情をちょっぴり羨ましくも思ったのであった──。
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