ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

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~二章 献身の聖女編~

二十四話 首都バイエル

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「──……ん……。あれ……ここは……」

 夜風が身に染みるのを感じる。私は深い夢から目を覚ます。

「うーん…………。はっ! うおう!」

「わっ! びっくりした!」

 隣で眠っていたお父さんが急に目覚める。それと同時に対面に座っていたマルセロさんも目が覚めたみたいだ。

「ここは──。どうやら現実に戻ってきたようですね……。そうだ! あの少女は!?」

 マルセロさんの隣にいたゼルメイダを名乗る少女はいつの間にか消えていた。それどころか馬車は道の途中で止まっており、人影も無い平野で立ち往生をしている。

「まだ頭が痛いぜ。俺達、本当に夢を見せられていたんだな……」

「あの子は一体……。それに、ここはどこなんでしょうか──」

「おそらくあの少女もクリンスマンと同じ僕達を狙いにきた刺客でしょう。逃げられてしまったのは残念ですが──油断はできませんね」

「まさかあんな小さな子まで俺達を殺しに来るとはな……。で、ここはどこなんだ?」

 三人は馬車を降りて周りを見渡すと、遠くに割りと大きな街の灯りが見えた。

「向こうに灯りが見えますね。あそこは……どこかの街のようですね」

「そういえば運転手さんもいなくなってますね……」

「あの馬車のオーナーも"グル"だったのか。馬がいないのをみると馬車と切り離して逃げたんだろうな」

「──! 地面を見て下さい。馬の足跡があの灯りの方へと向かって行ってます。敵もあの街に向かったのでしょう」

 迷いの無い真っ直ぐな足跡はあの少女の行方、逃走経路を示している。

「ゼルメイダちゃん……。──ここで道草を食っている場合じゃ無いですね。とにかく行ってみましょう」

「ああそうだな。月の位置から見てまだ夜は浅そうだ。急ごうぜ」

 淡い泡沫うたかたの夢は覚めた。私達は本当の家族を探すべく、再び地に足を着ける。もう、幻想に惑わされることは無いだろう。家族を想う固く強い意志は、二度と浮き足を立たぬ強い覚悟を持っているのだから──。


           ・


「おどろいたな……ここは──」

「バイエル──。私達バイエルに来たんだ……」

 歩くこと数時間。深夜の闇の中で私達の目の前に広がる大きな街は目的地である西大陸の首都『バイエル』であった。

「どうやら僕達は長い間、眠らされてあのような夢を見せられていたんですね……」

「でもラッキーじゃねえか! 襲われはしたが、こうやって目的地までたどり着いたんだ。神の加護ってやつだな」

「そうだね。これはミカエル様の加護に違いないです──。この街に来れたこと、ここまでの奇跡を感謝します──」

 街の門に差し掛かると、見張りである教団の自警団達が倒れているのを見かける。

「! どうしたのですか!」

 私は自警団の人に近寄って話しかける。しかし、返答は無い。

「なんだ!? 死んでんのか!?」

「サビオラさん。ちょっといいですか」

 マルセロさんが倒れている自警団の一人を抱きかかえると、

「──この人達、眠っていますね。いや、眠らされたと言った方が正しいかもしれません」

「どういうことだ?」

「おそらくあの少女に眠らされたのでしょう。急いだ方がいいかもしれません。僕達のように夢に縛られて目覚めなくなるかも知れない……。このバイエルの街の人達が大勢犠牲になるかもです」

「無差別に襲っているのか……。そう言えばなんか街から甘い匂いが──」

「この匂いは……」

「! この匂いを嗅いではいけない! これは『クーゼンの花』を燻したものです! 二人ともこれを噛んで下さい」

 マルセロさんは細い木のような物を差し出す。私とお父さんはそれを受け取って口の中で噛むと、

「おうえッ! なんだこれ!? 苦いなんてもんじゃねえ!」

「おええ……。苦いよお……。これ、なんですか……?」

 卒倒するようなものすごい苦い汁が溢れ、意識を嫌でもハッキリとさせた。

「それは気付け薬です。これでしばらくは大丈夫な筈です。苦いのは我慢です。うっ……。我慢、です……!」

 みんなで青い顔をすると、街の中へと進む。深夜のバイエルは驚くほど静寂さに包まれており、これほど大きな街だというのに人影さえ無かった。

「なんか、静かすぎてここがバイエルなのか疑いたくなりますね……」

「ああ、怖いくらいだ。酒場の灯りさえねえな」

「いまこの街は眠りに包まれてます。この匂いが止まぬ限り……いえ、あの少女を止めぬ限りは目を覚まさないかもしれません」

「そんな……! でもこんな広い街であの子を探すのは──」

「……サビオラさん。もし、あの子が奴等の仲間であるならば例のバッジを持っていた筈です。それならば──」

「──! 大聖堂……。あの子がもし教団と繋がりがあるならば……」

「そうです。あなたは信じたくは無いでしょうが、僕はセントミカエル教団が怪しいと踏んでいます。教団の潔白を望む意味でも行く価値はあります」

「そうですね……。証明をするために、大聖堂へ行きましょう──!」

 バイエルの街の大広場に、それは堂々たる門構えでそびえ立つ。歴史を感じさせる建物の作りは芸術的であり、美しい。故郷ブンデスの聖堂とは比べ物にならない大きさの総本山は偉大さに満ち溢れており、観ているだけで神の威光さえ感じるようだ。

「で……でかいな。流石は教団本部だな……」

「これがバイエルの大聖堂……」

 大きな身体のお父さんが小さく見えるほどに、その教団の大きさと広さに私達父娘は目を丸くした。

「すごい……。私のような未熟なシスターが、ここに足を踏み入れるのはやはり、恐れ多いですね……」

「いまやっとバイエルに来たんだなって実感が沸いてきたぜ──」

「──行きましょう。全ての謎が解けるかもしれません」

 マルセロさんが先陣をきって正面の大扉を開けた。鈍い音と共に開かれた先には灯りの照らされた広い廊下があり、私達は心臓の高鳴りを感じながら足を踏み入れる。

 廊下を奥まで進むと、また大扉がある。この先はおそらく礼拝堂になっているだろう。

「……」

「どうした? マルセロ」

「──この先に人の気配がします。この深夜に礼拝堂にいるのは……」

「開けましょう。ゼルメイダちゃんかもしれません……」

「よし──。いくぞ!」

 バンッ!

 お父さんが勢いよく扉を開いた。目に写る礼拝堂は視界に収まりきらないほどの広さだ。神秘的な明かりに包まれた堂内は金や銀の装飾で彩られ、眺めてるだけで心が洗われる場所であった。

 私達が中に入ると、パイプオルガンがその侵入を報せるように鳴り響く。

「なんだ!?」

「落ち着いて! 慎重に!」

「あれは──、あの人は……」

 驚く父、身構える銀の剣士、そして私の視界にあの少女が奥の教壇の上にちょこんと座っているのが見えた。

「あら、やっと来たのね」

 少女は退屈そうに言い放つ。

「ゼルメイダ! 君は何者だ!」

「ゼルメイダちゃん! あなたは一体──」

「──それはワシから説明しようか」

「あなたは……!?」


 教壇奥から現れたその人は何度も写真や本で見た教団の頂点に立つ人、『マテウス教皇』その人であった──。







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