70 / 157
~二章 献身の聖女編~
三十三話 分解師ラウドルップ
しおりを挟む不気味な仮面を傾かせながらその者が名乗ると、
「──俺の、俺の……娘を返せえええええッッ!!!!」
お父さんが泣き声にも似た雄叫びを上げながら斧を振り回して敵に突撃をかける。
「逸脱の者よ、君の力を見せてくれ」
「ダあああああッ!!」
乱暴に振り回す斧が敵に当たろうとする──。それなのにその場から一歩も動かぬ仮面の怪人はその攻撃をのんびりと眺めているのだ。
ガシィィィッ!
父の怪力から繰り出された致命傷となる一撃……しかし、そうなる筈であった攻撃は敵を目の前にしてピタリと止まった。
「う、ぐッおおお!」
「中々の力の強さだ。流石ここまで来ただけのことはある。気に入ったよ。君のその体……興味が沸いてきた」
斧を止めたのは三本の奇妙な手であった。ラウドルップは黒い外套の下から、左腕を三本出してその斧の柄を掴んで止めていた。初めから見えていた女性のような手と合わせた四本の腕はそれぞれ長さ、太さ、色さえも違う人間の腕である。
「私も力には心得があるのだが、君の力はすごいね。欲しいな……うん。その腕、とてもいい──」
「うるせええッ!!」
お父さんは斧から手を剥がすため、丸太のような足で蹴りを入れる。ラウドルップは巨体に似合わぬ機敏な動きでそれを後方へひらりと躱すと、魔手から離された斧を持って父は舌打ちする。
「いい反応だ。他の逸脱との戦闘経験が生かされているね」
「黙れ!! お前は……! 一体何人を殺してきたんだッ!! 俺の、俺の娘──コネホも殺したっていうのか!!」
「はて……? 名前で言われてもね、私は番号で覚えているのだよ。それにまだそんなことを気にしているのか。君は頭の方はあまり良くないみたいだね。君の脳は、そうだな──獣の脳を混ぜて模型にしよう。うん、それなら中々強そうだ」
狂っている──。仮面の怪人は老人の声でこちらをあざ笑うように言うと、終いには子供の声で笑い始めた。
私はその様子を見て震え上がった。まだ止まぬ嗚咽感が体温と水分を奪う。周りを見れば壁や床から見える人の身体の一部が苦しく嘆いているようにも感じた。
隣には茫然自失のマルセロさんが城の一部となった奥さんを静かに見つめている。
「マルセロぉ!! 動けえ!! こいつは……こいつは絶対に倒さなければならん"悪"だ!!」
「……マルセロさん」
絶望とはこのことだろう。彼も、そして私も──もう亡き探し人、ここまで来たのに……やっと真相にたどり着いたのに、無情で無慈悲な結果。言葉にできない思いで胸が張り裂けそうだ。
「あなたは……あなたの中に神はいないのですか。こんなこと、許されない……! 十年前、ブンデスの街で拐った私の妹を返してください!」
「神──。この大陸の者はみな本当に信心深い……そしてそれが故に愚かだ。神、そのような偽りの偶像に己の願望を勝手に届ける弱き民よ、そんなものはいないのだよ。この世は無情だ」
「神はいます! あなたの作った偽物の神様じゃなく、日々を生きとし生ける人々を見守る神はいるのです! あなたは自分の快楽のためにこんな事を続けていると言うのですか!」
「自身がやりたい事、楽しき事をやらぬ生涯に意味はあるのか?」
「あなたの悦楽は災厄です……! 人々を苦しめるそれは悪魔の所業です!」
私は涙を拭い、震える足をなんとか立ち上がらせる。
「いい瞳だ……。その眼球、ぜひ欲しい」
敵の両脇から腕がゆっくりと伸びるように出てきた。片側に四本、そしてもう片側に四本の腕。計八本の色とりどりの腕は、どんどんとその長さを延ばして私めがけて襲ってくる──。
「娘に触るなああッ!!」
お父さんが斧で振り払うが、隙をみた三本の腕が父の横をすり抜けて私に触れようとした。
「きゃああ!」
「──『稲妻斬り』ッ!!」
ザンッッ!!
襲う魔手が触れる直前、銀の剣が閃くとその三本の腕を斬り落とした。
「マルセロさん!」
「──ラウドルップ……! 貴様は……貴様だけは許さん……絶対に許すわけにはいけない!!」
怒りと悲しみが混ざる感情の爆発のような口調で彼は言った。
「君は剣士だったね。それも腕が立つ。君は──"筋"だな。その筋が欲しい。私の体がもっとよく動けるようになるだろう」
「ほざけ!! マルセロ! 奴の腕はあと五本だ! 全部叩き潰すぞ!!」
「そのつもりです……! 腕だけではすまさん……!」
二人が呼吸を合わせるように睨む。敵は腕が落とされたのにも関わらず、依然として慌てる様子は見せなかった。そして、女性の声で笑ったかと思うと落ちた三本の腕を拾い、こう言うのだ。
「接続」
腕を斬られた切断面に合わせてそう言うと、信じられないが再びその腕が縫合したかのようにくっつき、敵はそれを器用に動かしてみせるのだ。
「こいつ……!」
「再生もできるのか──!」
「その表現は正しくない。私は部品となる肉片をただ接合しているだけだよ。私はありとあらゆる物を分解し、そして接続できるのだよ」
うねうねとまた八本の腕を踊らせる。それはもう、下の階で戦った怪物となんら変わりない化け物である。
「しかし不便なことにね、生き物の体というのは脆く、月日と共に劣化していくのだよ。だから僕は定期的に新しい肉片に変えるんだ。僕にもこだわりがあってね、君達のような屈強な体や女性の滑らかな肌が好きなんだ。しっくりくるような自身に合った部品を見つけた時、僕の幸福は満たされる。この気持ち、わかるかなあ?」
青年のような爽やかな声で語る怪物。身の毛もよだつ、そんな内容に私はもはや耳を貸せなかった。
「化け物め……!」
うねる八本の腕がこちらを見る。それに父とマルセロさんは迂闊に動けずにいた。
「どうしたの? こないの? 早くきなよ。ねえ、あなた──」
剣士は、その言葉に反応する。
「レジーナの……! レジーナの声で喋るなああああ!!」
マルセロさんは怒りをぶつけるように敵へと突っ込む。それに合わせて四本腕が伸びてきてその身体を突き刺そうとする──!
「うおおお!! 『雷雨ノ舞い』!!」
四本の腕が雷のような怒涛の剣技に次々に斬られる!!
「やるものだ。やはり筋がいい。それを貰うぞ──」
残るもう四本の腕が技を打ち終わった彼を襲おうとする。
「くっ……!」
「片側は俺の仕事だ!! よそ見してんじゃねえッ! 『アックス・ボンバー』!!」
意表を突くように振り上げた斧が敵のもう片側の腕を狙い振り下ろされると、ラウドルップは咄嗟にその残る四本の腕でお父さんの攻撃を止めた。
「いまだ!! マルセロ!!」
「貰ったぞ!!」
狙うは敵の心臓──。黒い外套に隠れた左胸に剣を向け、その剣を突き刺す──!
「私の腕はね、まだあるのだよ」
怪物の背中が盛り上がる。そこから現れたのは、さらに四本の黒い腕であった。そしてその腕は銀の剣士を討たんと伸びてくるのだ──。
「マルセロさん!!」
「マルセロ!!」
想定外──。私達は勝手に敵の腕が八本だという先入観にとらわれていた。怒りに燃える剣士に向けて非情の魔の手が矢のように伸びる──!
「うおおおお!! 『巻き雲』ォォ!!」
それは、彼の使う雷光流の剣技では無い──。遠い昔にくらった敗北の剣。剣士は苦き思い出を呑み込んで、仇の剣を己の技と化したのだ。
下から巻き取るようなその剣は、敵の四本の腕を弾く、弾く、弾く!!
そして──がら空きとなった敵の体に、己が怒りと悲しみを乗せて、止めを叩き込むのだ!!
「終わりだああああ!! ラウドルップ!!!!」
ズシャャッッアアアア!!
鋭き憤怒の剣は、怨敵の左胸を確かに貫き──その赤き血潮を吹かせた──。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる