ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

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~三章 復讐の乙女編~

八話 進めよ乙女、先は長し

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「ぐっ……クソ……いてぇ……! あの女、何てやつだ……」

 山道をよろよろと下る一人の男、ガスティーは自分を吹っ飛ばした女の愚痴をこぼしながら歩いている。

 動くたびに腹の辺りに痛みが走る。まるで大きな猛獣が突進してきたような痛みだ。常人なら内臓が口から飛び出すほどの衝撃だったが、普通の人間よりも多少は頑丈な逸脱である自分の体に感謝する。

「クソっ! 覚えておけ……! この恨みは必ず──」

「必ず──何だって?」

 悪態をついていたら、急に背後から声が聞こえてきて自分の肩をぽんと誰かが叩く。それは紛れもなく奴だった。

「お、お前は!?」

「探したわよ。あんたに聞きたい事があるわ」

 長い黒髪の女と浅黒いオカマが鬼の形相で自分の背後から現れたのだ。肩を掴む手は徐々に力が入る。というか、めりこんできている。この女は何故か怒っている、それも尋常では無い。さっき自分をぶっ飛ばしたのにも関わらず、まだやり足りないとでも言うのか。

「な、なななんだよ! 俺はもう悪い事はしねえよ! 自分の実力はよくわかった! あんた達の前にはもう現れねえよ!」

「そんなこと聞いてんじゃない。あんた、私達の村に行ったんでしょ。いつ頃、村の人に会ったか、そして変わった事はなかったか。簡潔に言いなさい」

「へっ!? はあ!?」

 質問の意図はよく分からなかったが、どうやら自分を再び倒しに来たのでは無いらしい。

「お、俺が村に言ったのは今日の早朝だ。ほんとは昨日の夜中に忍び込む予定だったが、予想外にこの山道が険しくて時間を食っちまったんだ」

「それでぇ? 早朝の村は誰かいたのぉ?」

 オカマが頭を鷲掴みにして問うてくる。

「む、村には誰もいなかった! だから最初廃村かと思ったんだ! でも、どこの家もさっきまで生活したような跡があって何か不気味だったからすぐに出たんだ! 小銭を盗んだくらいで他には何も盗ってねえ!」

「なら帰る途中で誰かに会わなかったのぉん?」

「あんた達以外は誰も見てねえよ! ほんとだ!」

 必死の問答に、女は冷たい目でこちらを見る。

「……他に変わった事は?」

「変わった事……? そういえば、あちこちに服が落ちてたくらいで別に何も……」

「そう……。じゃあ最後の質問。あんたは何者?」

「俺は……西大陸から来た只の流れ者だよ。この南大陸なら、生きやすいと思って来ただけだ!」

 女とオカマは顔を見合わせると、ガッカリしたようにため息を漏らした。

「だめね」

「そうね」

 そんな一言を呟いて二人は去ろうとしていた。そして俺はそんな二人の背中を見て、こう思ったのだ。

「(今なら、倒せるか……!?)」

 不意打ちなら倒せるのではないか。まずは女だ。こいつは特にヤバイからな、先に倒したい。女さえ倒せばオカマは何とかなる。そうさ俺は鏡のガスティー。こんなただの人間に俺のこの攻撃を反射させる能力が負けるなんて有り得ないのだ。今ならやれる、やれる……!

 纏う鏡のような服をゆらりと舞わせて背後からそろりと近づく、そして──

「油断したなあッ! 死──!!」

 俺の不意打ちパンチは、たったの一秒で女に止められた。まるで最初から攻撃が来るのをわかってたかのように、冷静に俺の腕を締め上げたのだ。

「だ──っ! ああっ!?」

「あんた──よっぽど死にたいのね」

 嘘や冗談の目では無かった。この女は本気だ。俺は全身から一気に脂汗が吹き出した。呼吸が乱れ、涙を流していた。ここで俺は終わる、そう思うと頭の中で走馬灯がよぎり始めた。

「あ、ああ、あ──」

「最後に何か言いたいことは」

 どうやらこれで終りらしい。俺は直面した死の現実に頭部の髪の毛がポロポロと落ちた。そして、生まれて初めて心からの言葉を口にする。

「──ほ──本当に──すいません、でした──」

 それは、心からの謝罪であった。自分でも驚きであった。まさか最後の言葉が謝罪だとは思わなかったからだ。そしてこの謝罪は嘘偽り無い俺の心意だ。最後の最後で今までの過ちを反省したのである。

 そして、女はこう言ったのだ。


「許す!」


 ────許されたっ。何を? 誰が? 足りない頭が混乱する。

「──えっ」

「許すわ」

「よかったわね、あんた。許されたわよぉん」

 俺はガクンと地面に突っ伏した。全然よくわからないが、確かに自分は生きているのだ。この時から、俺は彼女が女神に見えた。なんなら横のオカマも女神に見えたのだ。

「あ──ありがどうございやずぅッ!!」

 ひたすら感謝した。そうだ、もう悪い事はやめよう。元々俺は強くないんだ。新しい大陸で悪事の心機一転で無く、心を入れかえよう。

「その代わり、あんたに頼みがあるわ」

「は、はい! 何ですか!?」

「今からあたし達は少し村を離れるからその間、あんたが村を守ってなさい。要は留守番よ。空き家を使っていいからしっかりと村を守ること、これが条件よ。いいわね?」

 それは意外な条件であった。

「ちょっとぉ! こんな奴に村を任せるのぉ!? あたし心配よぉ!」

「大丈夫だよ。もしまた悪さするようならもう一度ぶっ飛ばすだけよ。それに見なよこいつの頭を、さっきまで生えてた髪の毛がもうほとんど残ってないほど地面に落ちて……それだけ反省してるってことさ」

「そんな悪さした子供が頭を丸めるみたいな事で……。まあいいわ。あんたが決めたんならあたしも反対しないわよ」

「ありがとうバラコフ」

「リリアンよ! ちょっとあんた! ちゃーんとあたし達の村を守ってなさいよね!」

「は、はい!! このガスティー! 確かに使命を承りました!」

 小悪党は全速力で村の方へと走り出す。私達はそれを見届けるとまた歩みを進めた。

「でもやっぱりちょっと心配だわぁ。ほんとに大丈夫?」

「まあ見ず知らずの男に村を任せるのは一抹の不安はあるけど、悲しい事に別に盗られて困る物も無いからね」

「それは一理あるわね……」

「あいつは昨日の深夜から村を目指していて、早朝には誰も居なかったと言ってたわね。……ということは村のみんなが居なくなったのは昨日の昼に私達が村を出てから間も無く消えた、そういう事になるわ」

「まさに怪事件ねぇ。それと犯人は間違いなく能力者よぉん。だってこんなこと出来るのは普通の人間には無理よぉ」

 村の人口は百人足らずだがそれでも短時間であれだけの人間をどこかに連れ去るのは至難だ。それも完璧に証拠を残さないでどうやって移動させたか、山道には獣の足跡しか無い。よほど犯人は特殊な能力を持っているのだろう。

「これは私達が思ってるよりも難事件になりそうね……」

「そうねぇ……。あっ! そうだとりあえずマスターに相談してみましょうよぉ!」

「そうだね! とにもかくにもまずは聞いてみよう!」




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