83 / 157
~三章 復讐の乙女編~
九話 無計画
しおりを挟む~港町~
「──と言うことなのよぉマスター」
「……どうやらえらいことになったな」
私達は事情を説明すると、渋い顔をしてマスターは目をつむった。
「マスター! この事件についての有識者を誰か知らない!?」
「ヴィエリィ。すまないが君が望むような情報は私も知らないんだよ。正直、おどろいている。まさかヴァスコ村まで被害にあうとは……」
「マスターも知らないんじゃあどうしたらいいのぉ……。この港町には他に目撃者はいないのかしらぁん」
「それは難しいな。そんな村単位の大規模な人達が拐われ、移動してたら嫌でもこの港で噂になってる筈だ。少なくともこの近くには来ていないよ」
マスターは頷きながら答える。しかしそれはおかしいのだ。だって村からの道は一本しか無く、この港町に絶対にたどり着くように続いているからだ。
それならみんなどこへ行ったのか? この港町に来ていないとなると、山奥の獣道を無理矢理進んだ……? いいや、それは無理だ。昔から住んでる私達だからこそよくわかる。他の道などとてもじゃないが人間の進める道では無い。
犯人だけならまだしも、あれだけの村の人が移動するなどもってのほかなのである。
「いきなり八方塞がりじゃない……。みんなどこに行ったっていうのぉ。空でも飛んでいったとしか考えられないわぁん……」
「……うだうだしてても始まらないわ。バラコフ、行こう!」
「行こうって……あんたどこ行くのよぉ」
「わかんない! けど進む!」
私は近くにあった木の棒を持つと、それを地面に立てて転ばした。転ばした先を見つめると、
「よし! こっち!」
「アホじゃない!? そんなんで決める馬鹿がどこにいるのよぉ!」
「じゃあバラコフならどうするのよ!」
「リリアンってお呼び!! お馬鹿娘!」
くだらぬ喧嘩をする私達。それを見かねたマスターがこう言った。
「たしかに、この事件は普通では無い。それこそリリアンが言った空を飛んで行ったのかも知れない。二人とも、海を渡りなさい。そして王都ジュニオルスに向かうんだ。情報の収集は人の多い所でないと捗らない。王都なら過去の事件のことも含めて何かを掴めるかもだ」
「「た、たしかに」」
お互いの頬を引っ張り合いながら喧嘩してた私達はその一言でピタリと止まった。導なき道に一筋の光明が指したように、私は目を輝かせた。
「ありがとうマスター! 早速出発するわ!」
「落ち着きたまえヴィエリィ。残念だが今日の便はもう無い。明日の朝に出る船で行けるから準備を整えて今日は休むといい」
「ぬぬぬ。今日はもう船出てないのか」
私は出足をくじかれると、苦虫を噛み潰した顔をする。
「あんたそれよりももっと大事な問題があるでしょ」
「大事って?」
「お金よ! あんた王都まで行くお金無いじゃない!」
「お金ならあるよ! 去年武術大会で貰った賞金が…………」
ハッと、私は思い出す。お金はもう無いのだ。せっかく武術大会で優勝して貰った賞金は全て『うろうろくん』の制作費などにぶちこんでしまったからだ。
「っべー……」
「っべーじゃないわよぉ! どうするのよぉ!」
またも難題が出てきてしまった。この世は食うにしろ泊まるにしろ移動するにしろ金がかかるのだ。当たり前だが金が必用なのだ。私は苦悶する。まさかこんな単純な事でつまずくとは思わなかった。無計画、まさにここに極まれり。
「ヴィエリィ。これを持っていきたまえ」
そんな私達を助ける神がここにいた。マスターはカウンターにどさりと金貨の入った袋を置いてそう言うのだ。
「マスター……! いいの!?」
「もちろんただじゃないよ。これは私からの依頼料だ。依頼は──"この事件を必ず解決すること"。君を信じて先払いで払っておくよ。村のみんなを救ってきなさい」
「ありがとう!! マスター!!」
「それにリリアンも、これを」
マスターはバラコフにも金貨の袋を渡す。
「ちょっとちょっとぉ! マスターあたしなら大丈夫よぉ!」
「これは今月分の給料さ。それに依頼料もプラスしてある。リリアン、君がしっかりと友人をサポートしてやるんだ。一人なら心細いが、二人なら無敵だ。期待してるよ」
「マスター……」
バラコフは涙ぐむと、それを受け取って一礼をする。
「旅支度が済んだら今日はここに泊まりなさい。明日の朝に王都へ行く船が出る。厳しい旅になるぞ。二人とも頑張れよ」
「まかせて! 私が絶対に解決してみせる!」
「必ず無事に戻ってくるわぁ!」
~翌日、早朝
「おーい! こっちの荷物入れるの手伝ってくれーい!」
「なんだこりゃやけに重いなぁ」
「そろそろ出航すっぞー! はやくしろーい!」
朝から船員達が船へと貨物を運ぶ。私達は大した荷物もないので一足先に乗り込んで朝日を眺める。
しばらくすると、船がゆっくりと港町を離れる。私達は見送るマスターに手を振って港町を離れた。ここから先の航路はこの田舎の港からぐるりと時計の針が回るように、南大陸を半周して王都へと行くのだ。
「船に乗るなんて久しぶりねぇ……」
「私は去年振りだなあ」
「そっか、あんた去年王都で武術大会に出たんだもんねぇ」
「でも何回乗っても面白いね。旅の始まりってなんでこうわくわくするのかしら?」
「子供ねぇ……。遊びに行くんじゃないのよぉ。王都でしっかりと情報を集めるのよぉ」
「もちろんさ。……待っててね。村のみんな。私達が絶対に見つけてみせる──」
広がる大海原の真ん中で決意をこめる。こんなにも強く、私達を動かしているのはやはり怒りなのだ。大事な友を、隣人を、家族を奪った何者かに対しての復讐心。私とバラコフの瞳の奥は業火に燃えているのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる