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~三章 復讐の乙女編~
九話 無計画
しおりを挟む~港町~
「──と言うことなのよぉマスター」
「……どうやらえらいことになったな」
私達は事情を説明すると、渋い顔をしてマスターは目をつむった。
「マスター! この事件についての有識者を誰か知らない!?」
「ヴィエリィ。すまないが君が望むような情報は私も知らないんだよ。正直、おどろいている。まさかヴァスコ村まで被害にあうとは……」
「マスターも知らないんじゃあどうしたらいいのぉ……。この港町には他に目撃者はいないのかしらぁん」
「それは難しいな。そんな村単位の大規模な人達が拐われ、移動してたら嫌でもこの港で噂になってる筈だ。少なくともこの近くには来ていないよ」
マスターは頷きながら答える。しかしそれはおかしいのだ。だって村からの道は一本しか無く、この港町に絶対にたどり着くように続いているからだ。
それならみんなどこへ行ったのか? この港町に来ていないとなると、山奥の獣道を無理矢理進んだ……? いいや、それは無理だ。昔から住んでる私達だからこそよくわかる。他の道などとてもじゃないが人間の進める道では無い。
犯人だけならまだしも、あれだけの村の人が移動するなどもってのほかなのである。
「いきなり八方塞がりじゃない……。みんなどこに行ったっていうのぉ。空でも飛んでいったとしか考えられないわぁん……」
「……うだうだしてても始まらないわ。バラコフ、行こう!」
「行こうって……あんたどこ行くのよぉ」
「わかんない! けど進む!」
私は近くにあった木の棒を持つと、それを地面に立てて転ばした。転ばした先を見つめると、
「よし! こっち!」
「アホじゃない!? そんなんで決める馬鹿がどこにいるのよぉ!」
「じゃあバラコフならどうするのよ!」
「リリアンってお呼び!! お馬鹿娘!」
くだらぬ喧嘩をする私達。それを見かねたマスターがこう言った。
「たしかに、この事件は普通では無い。それこそリリアンが言った空を飛んで行ったのかも知れない。二人とも、海を渡りなさい。そして王都ジュニオルスに向かうんだ。情報の収集は人の多い所でないと捗らない。王都なら過去の事件のことも含めて何かを掴めるかもだ」
「「た、たしかに」」
お互いの頬を引っ張り合いながら喧嘩してた私達はその一言でピタリと止まった。導なき道に一筋の光明が指したように、私は目を輝かせた。
「ありがとうマスター! 早速出発するわ!」
「落ち着きたまえヴィエリィ。残念だが今日の便はもう無い。明日の朝に出る船で行けるから準備を整えて今日は休むといい」
「ぬぬぬ。今日はもう船出てないのか」
私は出足をくじかれると、苦虫を噛み潰した顔をする。
「あんたそれよりももっと大事な問題があるでしょ」
「大事って?」
「お金よ! あんた王都まで行くお金無いじゃない!」
「お金ならあるよ! 去年武術大会で貰った賞金が…………」
ハッと、私は思い出す。お金はもう無いのだ。せっかく武術大会で優勝して貰った賞金は全て『うろうろくん』の制作費などにぶちこんでしまったからだ。
「っべー……」
「っべーじゃないわよぉ! どうするのよぉ!」
またも難題が出てきてしまった。この世は食うにしろ泊まるにしろ移動するにしろ金がかかるのだ。当たり前だが金が必用なのだ。私は苦悶する。まさかこんな単純な事でつまずくとは思わなかった。無計画、まさにここに極まれり。
「ヴィエリィ。これを持っていきたまえ」
そんな私達を助ける神がここにいた。マスターはカウンターにどさりと金貨の入った袋を置いてそう言うのだ。
「マスター……! いいの!?」
「もちろんただじゃないよ。これは私からの依頼料だ。依頼は──"この事件を必ず解決すること"。君を信じて先払いで払っておくよ。村のみんなを救ってきなさい」
「ありがとう!! マスター!!」
「それにリリアンも、これを」
マスターはバラコフにも金貨の袋を渡す。
「ちょっとちょっとぉ! マスターあたしなら大丈夫よぉ!」
「これは今月分の給料さ。それに依頼料もプラスしてある。リリアン、君がしっかりと友人をサポートしてやるんだ。一人なら心細いが、二人なら無敵だ。期待してるよ」
「マスター……」
バラコフは涙ぐむと、それを受け取って一礼をする。
「旅支度が済んだら今日はここに泊まりなさい。明日の朝に王都へ行く船が出る。厳しい旅になるぞ。二人とも頑張れよ」
「まかせて! 私が絶対に解決してみせる!」
「必ず無事に戻ってくるわぁ!」
~翌日、早朝
「おーい! こっちの荷物入れるの手伝ってくれーい!」
「なんだこりゃやけに重いなぁ」
「そろそろ出航すっぞー! はやくしろーい!」
朝から船員達が船へと貨物を運ぶ。私達は大した荷物もないので一足先に乗り込んで朝日を眺める。
しばらくすると、船がゆっくりと港町を離れる。私達は見送るマスターに手を振って港町を離れた。ここから先の航路はこの田舎の港からぐるりと時計の針が回るように、南大陸を半周して王都へと行くのだ。
「船に乗るなんて久しぶりねぇ……」
「私は去年振りだなあ」
「そっか、あんた去年王都で武術大会に出たんだもんねぇ」
「でも何回乗っても面白いね。旅の始まりってなんでこうわくわくするのかしら?」
「子供ねぇ……。遊びに行くんじゃないのよぉ。王都でしっかりと情報を集めるのよぉ」
「もちろんさ。……待っててね。村のみんな。私達が絶対に見つけてみせる──」
広がる大海原の真ん中で決意をこめる。こんなにも強く、私達を動かしているのはやはり怒りなのだ。大事な友を、隣人を、家族を奪った何者かに対しての復讐心。私とバラコフの瞳の奥は業火に燃えているのであった。
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