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~三章 復讐の乙女編~
十六話 便利機能
しおりを挟む──薬の町『リベルダ』。海沿いのジュニオルスから大陸の中心に向かうように森を抜けて見えてきた小さな町は、薬の町と呼ばれる静かなところだ。
この町は周囲を森に囲まれた場所にあり、その自然豊富な環境を利用するように辺りから薬草となる植物を採取し、それを薬にして住民は生計を立て町の経済を発展させている。
「ここがリベルダね。もう少しで夜になるし今日はここで一休みよぉん」
「そうね。適当な宿を見つけて休みましょ」
「二人トモ、オ疲レ様デス。ココハ静カデイイ町デスネ」
「サンちゃんの変装もバッチリねぇ。道行く人も特に気にしないで通りすぎて行くわぁ」
「でも一人だとその格好は怪しまれるから、あたし達と離れちゃ駄目よぉん。それとサンちゃんの声は変わってるから人前でペラペラ喋るのも控えた方がいいわねぇ」
「モチロンデス」
自然を振る舞うように軽快に進むサンゴーを見て笑いながら私達は小さな広場に面した宿へと入ると、受付に話しかけた。
「すみません三名で泊まりお願いします!」
元気よく私が言うと、受付のお姉さんがにこりと笑って答える。
「はい。ありがとうございます。三名様で"30000G"です」
「高っっっっ!!」
「高すぎぃ! なによそれぇ!? 宿の相場なんて一人500Gがいいとこでしょ!?」
どうみても高級宿とは違う普通の宿。最初は何かの冗談だと思ったが、受付のお姉さんは困ったような顔で言った。
「実は……最近リベルダでは薬の元となる『ミラの花』がまったく取れなくて町の経済を圧迫させているんです。物価や宿代を高くすることでバランスをとってるのですがやっぱり高すぎますよね……」
お姉さんはため息をつく。
「なんでミラの花が取れなくなったの? 今の時期なら大量に咲いてると思うんだけど」
「それが何者かがミラの花を乱獲しているみたいなんです。それで町の人達はよそから来た旅人のせいだと決めつけて、今この町では町の外からやってくる人に対してすごい厳しいんです。私は本当はこんなことしたくないのですが、宿代をちゃんと上げてないのがばれると町から追放されてしまうので仕方ないんです……。ごめんなさいね」
「むきー! とんだとばっちりねぇ! その犯人許せないわぁ!」
「バラコフ、落チツイテ」
「リリアンよぉ!」
バラコフが癇癪を起こすと、サンゴーがそれをなだめる。私はその横でお姉さんに問いただす。
「お姉さん、ミラの花の採集場所を教えて」
「えっ? ……すみません。それは町の秘密なので、部外者には教えてはならない決まりなので……」
「私達がその犯人を見つけ出すと言っても?」
正義感がまかり通る。私はまっすぐな瞳でお姉さんを見つめると、力強くその肩をがしりと掴んだ。
「え? え? あの……」
「ヴィエリィ! あんたまたそんな無茶なこと言って!」
「困ってる人は見捨てられないわ。その犯人、私達が見つけてぶっ飛ばしてやろうじゃない」
突然の提案に困惑するお姉さん。私はニヤリと笑うと、根拠の無い自信を込めた顔でバラコフを見る。
「……もうつっこむのも疲れたわぁ。好きにしてちょうだい……」
「さすが私の相棒! サンゴーもいいわね?」
「無論デス」
無理矢理感のある説得。だが、それがいい。この乙女を止めること、それこそが野暮である。
「──と、言うことでお姉さん。場所は?」
「えっ、あの、この町の北にある森の入り口の奥です……」
妙なる気迫。受付嬢である彼女は相手が女であるのに、そこに頼りがいのある男性のような気概というか、何故か信用に値する歴戦の猛者を見た感じがした。
「ありがと! じゃあちょっと行ってくるね!」
ほんのちょっとしたお使いを頼まれたかのような気軽さでお姉さんに言うと、私は宿を出る。
「……よし!」
「なにが"よし"よぉ。全然よくないじゃない! 犯人が見つかるまであんたこの深い森に潜り続ける気?」
「あー……それは考えてなかったわ。まあとりあえず行こうよ」
「無謀&無謀ね。はー……どうすんのよぉ」
元気の無いバラコフを私は背中を叩いて励ましながら、町の北の森の入り口まで足を進める。
もう少しで日が暮れる町を背にして、森の入り口まで来ると私は意気揚々と進入した。この森じたいには危険は無い。道もしっかりとしてるし、獰猛な動物もいないと山育ちの私達は近くにある木を見て悟る。
もし危ない動物がいるのなら必ず木に爪を研いだ爪痕が残っていたり、大きな排泄物があったりするからだ。それは動物にとって自分の縄張りを示す行為であったりするのだが、この森はそんなものが見当たらない。
「静かでいい森ねぇ」
「そうだね。何か犯人の痕跡があるといいんだけど……」
私達はどんどんと森の奥へと進むと、あるものが落ちてるのに気づく。
「あれ? これミラの花の花弁じゃない?」
「あらほんと。この青色、間違いないわねぇ」
道の端に青い花弁がぽつぽつと落ちていた。おそらくこの辺りがミラの花の採集場所と思われる。しかしそこには花は一本足りとも咲いておらず、散った花びらだけが無惨に落ちているだけだ。
「なるほどね。犯人はこの辺で取ってたのか」
「ヴィエリィいったん町に帰りましょうよぉ。犯人の足取りを掴むには情報が少なすぎるわぁ。それにもう夜になるし、ますます無理よぉ。あたしもう疲れたわぁ」
「うーん……たしかに。──サンゴーはどう思う?」
バラコフは気だるげだが冷静に助言する。私はサンゴーに聞いてみると彼は黙ったまま花弁が散った地面を見つめていた。
「サンちゃんどしたの? あんたこの森に入ってから随分無口ねぇ」
不思議そうにサンゴーに言うと、彼は周囲の森にそぐわない機械音を出しながら答えた。
「──解析完了。犯人ハ、コノ森ノ奥ニイマス」
唐突にサンゴーはそんなことを言い出した。
「なにかわかったの!?」
「ちょっとサンちゃん、あんたヴィエリィに影響されてノリで言ってないでしょうねぇ?」
「コノ地面ニハ犯人ノ足跡ガアリマス。ソレガコノ先ノ奥マデ続イテマス。行ッテミマショウ」
私達は驚いた。サンゴーの機械としての性能、古代のテクノロジーを再びこの身に味わうかのように驚愕するしかなかった。
「す、すごい……!」
「なによその便利機能……ちょっとうらやましいじゃないのぉ……!」
「エッヘンデス」
サンゴーはお茶目にガッツポーズをとる。彼の指し示した森の奥は人一人がギリギリ通れるほどの狭い道であった。もしかしたら地元の人間でも近寄らないし、気づきもしない道。彼が高度な機械だからこそ発見できたであろうそんな道だった。
藪を掻き分けるように慎重に進む私達。しばらく進むと、まるで隠されたかの如く、木に埋もれるような形で古そうな木造の小屋が突然に現れた。
「怪しいわ」
「怪しいわねぇ」
「ココニ犯人ノ足跡ガ続イテマス」
私はさっそく躊躇なく小屋の扉を開けると、
「これは──!」
そこには犯人の影はなかったが、小屋中に広がるように大量のミラの花が雑に積まれていた。
「やったわ! これで町の人達が助かる!」
「ふぅ。どうなることかと思ったけど良かったわぁ。犯人がいないのは残念だけど、とりあえずは持って帰って報告しましょうよぉ」
「そうね。犯人どこにいったのかしら? まあいいわ。今はこの大量の花を運び出しましょう」
喜びながら私とバラコフが花を持って帰ろうとすると、
「ヴィエリィ! バラコフ! 足音ガ聞コエル! 何者カガ、コチラニ接近中!」
サンゴーが急に警鐘を鳴らすように高い音を出して言ってきた。
「わっ! びっくりさせないでよぉ!」
「犯人ね! 迎え撃ちましょ!」
私達は小屋を出て暗くなりつつある森の奥を見つめると、何者かがこちらに近づいて来て私達を遠くから視認した。
「!? なんだお前ら!」
暗くて顔がよく見えないが、動揺するような男の声が聞こえてきた。
「あなたが犯人ね! ミラの花を返して貰うわ!」
「──ちっ!」
男は舌打ちをすると、背を向けて一目散に逃げ出した。
「あっ! 待て!」
この暗くなる森で逃げられるのはまずい。まず十中八九、森に溶けるように姿を眩ませて逃げられるだろう。そうなればまた犯人は花を盗りに戻ってくるかも知れない。悪の芽は摘まなければならない。
私は反射的に追いかけるが、犯人はこの森を熟知してるのかその足は速かった。藪を突き抜けて広い道へと出たがそこにはもう犯人の姿は無かった。
「あーもう! 逃げられた!」
「はぁ、はぁ、もう……速すぎぃ……。あんなの追いつけないわぁ……」
私は地団駄を踏み、バラコフはガックリと上半身を折って疲れをみせる。悔しいがもう日は暮れた。暗闇の森でこれ以上は犯人の行方を追うのは無理であろう。
「──仕方ないわね。花を持って引き上げましょう。びびって逃げるくらいだから敵は小物だわ。大したことないわね」
私は頭をぽりぽりと掻いてしょうがないという顔をすると、サンゴーは暗闇をじっと見つめる。
「どうしたの? サンゴー?」
「──熱源感知機能ON」
暗闇の奥をぐるりと見渡すと、サンゴーはまた私達を驚かせる。
「──熱源反応有リ。敵、発見。追イマスカ?」
「「えっ!?」」
どうやらこの暗闇で敵を発見したようだ。
「頼むわサンゴー! ここで取っ捕まえましょう!」
「なんつー便利機能よぉ……」
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