ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜

サムソン・ライトブリッジ

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~三章 復讐の乙女編~

三十一話 孤高の武人

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 荒れる波のような剃りこみを入れた黒の坊主頭に、赤と緑の幾何学模様きかがくもようの柄の悪い間延びした服、薄茶色がかった長ズボンをはいてその狼のようなギラついた目をこちらに向けた男は黙っていた。

「カー君! しっかりして!」

「……う……ぅ……。つ、強い……。レベルが……違、う……」

 私はすぐに彼に駆け寄り頭を抱えると、わずかながら小さな呼吸をして話しかけて来た。よほどの激闘だったのか、彼の身体は持前の武術の特性で頑丈な筈なのにボロボロであった。

「ちょっとぉ! あんたがカーニヒア様をこんな目に合わせたのねぇ! 許さないわよぉ!」

 バラコフが怒鳴ると、男は静かに口を開いた。

「──これは仕合だ。俺とこいつは合意で勝負しただけだ。よく知りもせず大した口を開くな。失せろ」

 低く冷淡に述べる男はどこか異様な雰囲気を漂わせている。

「仕合──だって?」

 私は倒れたライバルをちらりと見ると、彼は薄れ行く意識の中で私を見ながら小さく頷いた。

「……どうやら本当のようね。正々堂々と勝負したって訳ね」

「ヴィエリィ! こいつの言うこと信用するの!?」

「カー君の目が真実を伝えてくれたわ。その人は紛れもなくタイマンで彼を打ち破ったのよ」

 私はがくりと意識を失った彼をゆっくりと地面に寝かせると、

「──そこのあなた。私と勝負よ」

 燃える瞳で仕合を申し込んだ。

 ──しかし、男はすくりと立ち上がって予想とは違うことを答える。

「断る。軟弱な女と殴り合う趣味は無い──。帰らせてもらう」

 男はそう言うと背中を見せて去ろうとする。私はその言葉に憤慨する。それは『女』だからって甘くみられる事が大嫌いだからである。

「ふざけるな! 私はあんたなんかよりずっと強いわ! 言葉じゃなく、拳で証明してやろうじゃない!」

「吠えるな、女。貴様がどれほどの腕かは知らんが俺を満足させることなどできん。俺は帰る」

 あしらうように男は背を見せて歩み始める。私はそれで更に怒りが沸騰した。

「待てっつってんでしょ!! 逃げるのか!!」

「そうよぉ! 腰抜けぇ! ならあたしが相手よぉ! カーニヒア様の仇、討ってやろうじゃないのぉ!」

 私達は今にも飛びかかりそうであった。だが、それを止めたのは他ならぬもう一人の仲間である。

「二人トモ、落チ着イテクダサイ。今ハ、倒レタ彼ノ治療ガ最優先デス」

 サンゴーがそれをなだめるように私達の間に入った。サンゴーのそれは間違いの無い正論、一刻も速く彼を町に連れていくべきだろう。私は少し冷静さを取り戻した──その時であった。

「──お前……! 機械人形か……!」

 急に歩みを止めた男が勢いよく振り返って、サンゴーを殺すような憎しみをこめた目で見てきたのだ。

「!? サンゴーを知ってるの!?」

 私は驚いた。まったく見ず知らずのこの男は、機械の友人のその特異な声を聞いて判別した。この男は知っている──サンゴーが機械の人形であることを知っている……!

「あなた、何者なの? なんでサンゴーを知っているの?」

「──そうか、そいつは参号・・か。まあ、何号だろうが俺のやることは変わらん……。機械人形、貴様を破壊する──!」

 ダッッ!!

 突然である! 疾風が巻き、花畑を削るような直線移動! 気づけば男はサンゴーのすぐ目の前まで距離を詰め、その拳をサンゴーの胸部に横薙ぎに叩きつけた!

 ガッシャァァン!!

 機械の体が宙を舞って吹っ飛んだ。あの重き体をこの男は一撃で薙ぎ飛ばしたのだ。数メートル飛ばされたサンゴーの胸部は地盤沈下のような大きなへこみと、全体から煙が立ち昇る重傷の如き状態である。

「サンゴー!!」

「サンちゃん!! てめぇぇ!!」

 バラコフが野太い声を放ち握り拳を男に食らわせようとするが、

二極にきょくしょう、『登破昇とうはしょう』」

「ぐっおおおお!!??」

 男はそれよりも速くオカマの腹に自分の肘を突き刺してそのままカチ上げると、バラコフの体は上空に舞い、吐瀉物を撒き散らしながらぐるぐると回転しながら地面へと落下する。

「バラコフ!!」

 私は地面にぶつかる直前で友を何とかキャッチする。男はこちらなど眼中にもくれずにとどめをささんとサンゴーの方へと向かう。

「──待てって言ってるでしょ」

 それを阻止せんと、私は渾身の力を込めて男の肩を掴んで怒りを表した。

「──失せろ。死ぬぞ、女」

「どっちがよ……!」

「……わからんな。なぜ死に急ぐか、俺には理解できん」

 男は捕まれた肩にかかる手を取ろうとする。私は素早く手を引くと、白い花畑の中央で二人の猛者は合いまみえた。

「女、加減はできん。機械の人形と共にいたこと、後悔するがいい」

「私の名前は"女"じゃないわ。私はヴィエリィ、それにサンゴーは私の友達よ。そこに倒れてるカー君もバラコフもそうよ。私の友達に手を出して──すまし顔してんじゃないわよ……!」

 男は沿うように生えた顎髭あごひげを親指でなぞると、戦闘の構えをとった。

 ──私はその瞬間に理解かんじる。この男の底の無い覇気のようなもの、それが肌を通して魂を震わせた。

「(こいつ……強い……! 今までの誰よりも、強い……!)」

 男の構えには"圧"があった。悠然とし、隙が無く、眩しいほどに完璧な構え。根が生えたように泰然不動な足は揺るぎ無くこちらの攻撃を受け止め、びくともしないだろう。盾のような堅牢な腕はこちらの攻撃をいなし、槍のような鋭い攻撃で反撃に転ずるだろう。

 男の体格は自分と同じほど……それなのに、私はこの男からそんな屈強、頑強なイメージが沸き上がってくるのだ。

「──震えているぞ。臆したか」

「まさか──嬉しいのよ、あなたみたいな武人がいることがね」

 私は自分と同等のライバルが倒されたのだから、この男が人間の力を凌駕する異能の力を持った逸脱だと思っていた。

 だが、男の足元に咲く無数のレアルの花がそれを否定する。花はその花弁を純白に咲き誇り、男がただの人間であることを証明していた。

 すなわち、今目の前にいるこの男は──南大陸で武術王者となった私よりも強いかも知れないということ。

 血が騒いだ。それは一介の武芸者として、そして友を傷つけた無作法な男に対して、私は打ち倒すべく構えをとった。

「クリステン流、流術──"ヴィエリィ・クリステン"。あなたを倒す者の名よ。覚えておきなさい」

「面白い──。九極拳きゅうきょくけん、"ヴライ・タヅラン"。田舎拳法を見せて貰うぞ──!」






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