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~四章 忘却の男編~
十八話 ストーカー
しおりを挟む賑やかな食事は続く──酒場で出会ったこの銀髪の男『マルセロ』と歌姫と呼ばれる『レジーナ』と僕達は他愛のない話しをしながら暖かな時を満喫していた。
「マルセロさんは東大陸の出身なんですね! 向こうはどんな所なのですか?」
「そうだなあ、こっちみたいに極端な寒さが無い普通の気候で過ごしやすいかな。それと剣術が盛んで武闘派な人が多い……それだけに並大抵の腕じゃ歯が立たないくらいにね」
ファリアが楽しそうに質問をすると銀髪の彼はクールに答える。僕は彼がテーブルに立て掛ける剣を見て、なるほどと思い質問する。
「その剣……マルセロは剣の修行のためにこっちへ渡って来たという訳か」
「その通り。故郷では僕なんかまだまだ未熟だという事に気づかされてからは、こっちで各地を周りながら剣の修行に明け暮れた。この北大陸の寒さは修行にはもってこいだ。おかげで精神が研ぎ澄まされたよ」
マルセロは笑みを見せながら答えたが、僕は彼の手についた生傷の痕……そして手のひらには剣を振りすぎたせいで硬化したであろう大きな"タコ"を見た。
それは彼の修行が生半可では無い事を語る、熾烈なものであったという証拠。僕は心の中で一人の"漢"として彼を尊敬した。
「なるほどなるほど……それじゃあレジーナさんとはどこで出会ったんですか!? 二人はなんでお付き合いに至ったのですか!? 気になります!」
ファリアはヒートアップするように質問をくり出した。心なしか一番聞きたいであろう質問なのかさっきよりも目を輝かせている。
「ああレジーナとは──」
「彼とは余所の街でね、出会ったのよ。前にね丁度こんな酒場で私は歌を披露していた時に彼はお客さんで来ていて、それが初めての出会い。私も自分の歌声を広めるためにこの北大陸を巡業していて、だから出会うべくして出会ったのかもね……」
レジーナはそれを少し恥ずかしげにしながら話し始めた。
「なんかロマンチックです~! 聞きましたかハザマさん! 運命的な出会いってあるんですね!」
「ロマンチック、なるほど……」
「もう! ハザマさん情緒が薄いですよ! ……それでマルセロさんとレジーナさんはなんで付き合う事になったんですか?」
恋の話しは男よりやはり女性の方が好きなせいか、ファリアはいつもより興奮しているようだ。
「それが実はね……私がとある街で歌を披露したさいに悪質なファンがいたの……」
「「悪質なファン??」」
僕達はレジーナのその言葉を復唱してクエスチョンを浮かべた。
「その人はね……私が歌を歌い終わって帰る所を着けて来たり、泊まってる宿の部屋を窓から覗いて来たり、婚姻届の書類を何枚も送って来たりしたわ」
「それは……」
「ストーカーってやつですね!」
『ストーカー』……それは好意の行き過ぎた者の蔑称! 本人曰く、好きよ好きよも好きの内と都合のいい聞こえではあるが立派な犯罪にして迷惑"好意"である!
「困った事に他の街に行っても、彼は追いかけるように私の歌う場所に現れては朝から晩まで同じような事を続けたわ。私は四六時中彼に監視されているような感覚でノイローゼ気味だった……」
「許せないです! 本当に好きな人なら節度と距離を保って、相手の気持ちをくみ取るのが常識です!」
ファリアは熱くなるように一人の女性として怒る。"好き"と言う気持ちは前のめりになりがちなのだと思う。その想いを行動にした際に不器用すぎる者がストーカーになるのだろうか? ……僕も記憶を失う前は誰かに恋をしていたのかと思うと、一概に恋愛は語れないのかも知れない。
「そんなある日──その人は人気の無い夜道で私を襲って来たの」
「ええ!? レジーナさん大丈夫だったんですか!?」
「うん。だって彼が助けてくれたから」
レジーナはマルセロの方を向いてにこりと笑う。マルセロは静かに目を伏せながら口を開けた。
「あの日、僕が酒場で彼女の歌を聞いて感動したんだ。そして帰り道で何故か彼女の悲鳴が僕の耳に入ってね、急いで行ってみたら変な男に襲われかけてたんで成敗したという訳だ。危ない所だったよ」
「か、カッコいいです……! それで二人は出会って付き合う事になったんですね!」
「はは、こういっちゃ何だか照れくさいがそんな感じだね」
マルセロとレジーナは照れながら笑った。微笑ましい二人を見て、ファリアは羨ましそうに見つめた。
「はぇ~そんな事されたら惚れちゃいますね。ともかくレジーナさんが無事で良かったし、マルセロさんが腕の立つ人でこれからも安心ですね!」
「うふふ。そうね、これから私達はこの歌声を届けるため、そして彼の剣の修行も兼ねて西の大陸に渡るけど私はとても信頼しているわ」
レジーナはそう言うとマルセロの目を見た。
「……うん。そのために僕は修行を頑張らなきゃな。君達もこれから難しい旅になると思うけど、二人なら乗り越えられるさ。見た所、ただならぬ気配……というか、何か君達からは不思議な力を感じるよ」
「不思議な力……ですか? 私はハザマさんの足を引っ張ってばかりです……。それにレジーナさんのような美声も持ち合わせてないし……」
「ファリアちゃん。そんなことないわ。あなたは自分の足でこの過酷な旅をしようとした決意がある。それだけであなたは立派よ」
ファリアは決してか弱い女性では無い。仮に僕がいなくても彼女はこの旅を一人で遂行しようとしただろう。僕はうんうんと頷いてファリアを見た。
「ファリア、大丈夫。マルセロのように僕は強くは無いかもだけど……この先も必ず君を守るし、それに君だって、その、なにかな……他の女性には無い魅力──うん、僕にしかわからない魅力を君は持ってる。だから胸を張ってくれ」
「ハザマさん……」
僕はなんだかこっぱずかしい事を口からポロリと吐くと、自分の言葉に自分で赤面し、ファリアはまたそれを見て聞いて赤面した。
「ははは! これなら上手くやっていけそうだね」
「うふふ。そうみたいね」
マルセロとレジーナが僕達を見て笑うと、店の入口の方から酒場の店主の声が響いた。
「レジーナさんやーい! 何か届け物が来てるよー!」
その声を聞いてレジーナは立ち上がる。
「あら? 届け物……? 何かしら?」
「僕が取ってこようか」
「ありがとう。でも大丈夫よマルセロ、すぐに戻って来るわ」
レジーナはそう言ってパタパタと小走りしながら店の外へと出て行く。
「なんでしょうね? 届け物って?」
「たまに彼女の母親が手紙なんかを送ってくるから多分それだろう。彼女も故郷の母親に稼いだお金を送ったりしているからね。親孝行な所も彼女の素敵なところさ」
ファリアが不思議そうに言うと、マルセロが酒の入ったジョッキを少しずつ飲みながら言った。
「(親か……僕にも親がいるのだろうか……)」
僕はもし自分の心配をしてくれる親がいるのなら今頃どうしているのだろうと考えると──
「キャーーーー!!」
彼女の、レジーナの悲鳴が外から聞こえて来たのだ。
「悲鳴──!?」
「レジーナ!!」
その声に誰よりも速く反応したマルセロは、まるで疾風のように酒場の入り口まで駆ける。
「僕達も行こう──!」
僕とファリアは彼よりワンテンポ遅れて酒場の外から出る。
しかし、そこにはレジーナの姿は無く──静かな夜道と、犯行を見ていたであろう輝く月だけが辺りを深々と照らすだけであった──。
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