9 / 9
第一章
8話 殿下の提案
しおりを挟む「殿下……?」
瞬きを何度かしても幻のようにきえることのなく目の前にランベルト殿下が立っている。
見間違えではないとわかると私は慌てて立ち上がり、淑女の礼をする。
フェリクスは、少し警戒した様子で殿下に近づいているのが視界の端で見える。
「失礼いたしました。ランベルト殿下、本日はお日柄もよく……」
「ああ。王宮でもないのだからそう固い挨拶をしなくても構わない」
「いえ、そのようなこと恐れ多くいたしません」
頭を下げたままの私の頭に殿下のふっとした笑った呼吸が聞こえる。
「メルリからは、人見知りで引っ込み思案だと聞いていたがふるまいがしっかりとしているな」
「……恐れ多きお言葉です」
きっと初対面の際に固まってしまった私のフォローをメルリお兄様がしてくれたのだろう。
実際前世の記憶を取り戻す前と今では、前世の記憶の影響もあって人見知りはなくなったと思う。
周りは、成長と共に人見知りが改善されたのだろうと思ってくれているが。
「顔をそろそろあげたらどうだ? ずっと顔をあげないままは辛いだろう」
「ありがとうございます」
礼をやめて顔をあげると、数歩前にいるランベルト殿下がフェリクスを抱き上げているのが視界に入る。
前世で何度も何度も画面越しで見ていた人物が目の前にいるという不思議な感じが慣れない。
こちらが顔をあげたのを気づいた殿下と目線があう。
じっと目をそらずにこちらを見るランベルト殿下の瞳に思わず逸らすことが出来ず見つめかえす。
(……本当に綺麗な緋色)
「じっと見つめられるのは慣れないな」
「あ……申し訳ありません。綺麗だなと思って……」
咄嗟に応えると殿下は目をぱちくりとさせる。
「綺麗? 何がだ」
「えっと……その緋色の瞳がです」
「……俺の瞳が、か。変わったことをカメリア令嬢は言うのだな」
そこまで言われてはっと思い出す。
この世界では、緋色の瞳は滅多におらず血を連想させると恐れられており、嫌煙される瞳の色だと言われているということを。
実際ゲーム内でランベルト殿下は、父である皇帝陛下にその瞳の事などで幼い頃嫌煙されていた過去をもち、
そのことで自分の瞳にコンプレックスをもっていることがシナリオ中にヒロインに打ち明けていた描写があった。
「過ぎた事を申してしまい、申し訳ありません」
「いや、いい。気にするな」
慌てて頭を下げ謝る私に殿下はふっと優しく微笑み頭を上げるように言われる。
「別に悪い気をしたわけではない。ただ、そう言われるのは中々ないから驚いただけだ」
ふわっと普段の大人びた表情ではなく、年相応の幼さをうかがえる笑みを浮かべる殿下に不意打ちで思わずドキッとする。
(……流石メインのヒーロー。眩しい位かっこいい。そりゃ色んな令嬢が目をハートにしてお慕いするのもわかるわ)
眩しすぎる殿下から思わず目線を逸らすと、周りに誰もいないことに気づき話題を振る。
「……そういえば、メルリお兄様は?」
「ああ。来るのをそこの応接室で待っていたのだが、何処からか声が聞こえるなと思って少し待っている間勝手に歩かせてもらった」
殿下がおしゃっている応接室は確かにすぐそこで独り言が聞こえていたのを知り、恥ずかしさで頬に熱を感じる。
「それで? 何に困っているのだ?」
そんな私の様子に殿下は気にした様子もなく逃げようとするフェリクスの顎を撫でながら言葉を続ける。
「実は……」
先ほどの独り言を聞かれていては、話をそらすことも出来ないと悩み事について正直にこたえた。
「ふむ。なるほど。確かに光属性の魔術書は世に出ているものは少ないと聞く」
「はい。しかし、まだ魔術に関しては実践は先の事ですし。
それまでにどうにか探そうかと思っているので、殿下にご心配をおかけすることは――」
「――王宮の図書館へ行くといい」
「……え?」
殿下が発した言葉が一瞬理解できず、間の抜けた声が漏れてしまった。
目をぱちくりする私に気にすることなく殿下は言葉を続ける。
「この国で一番本が格納されているのは王宮の図書館だ。光属性についても勿論いくつか本が格納されている」
「光魔術について学ぶなら、うってつけだ」
そう親切にも殿下が話してくれるが、私は王宮基い殿下に迷惑をかけるつもりはない。
それに私にはそこまで殿下にしてもらう義理もないはずだ。
「申し訳ありません、殿下。悩みを相談した手前ですが、これ以上殿下にご迷惑が」
「いや、気にするな。いつもヴォワトール家には助けられている。その礼とでも思えばいい」
「それにカメリア令嬢も知っていると思うが、光属性の魔法を扱える者は少ない。
カメリア令嬢が光魔術をよく理解し、魔術を扱えるようになれば国としても喜ばしい事だ」
「その上、ただ図書館に来るだけで迷惑にはならないと思うが?
令嬢が俺に言い寄るなどしなければ、問題ない」
「絶対にそのようなことはいたしません」
即答するとランベルト殿下はぷっと噴き出す。
「なら、問題はない。皇帝陛下にもカメリア令嬢の御父上であるワイズラック侯爵にも話をつけておく」
そこまで言われると確かにと何も言えなくなる。
しかし前世の記憶を持つ私にとって、この誘いは乗っていいのか不安だ。
確かにゲーム内でオリヴィアと殿下が出会うきっかけはカメリアではあるけれど、
そこまで親しそうな描写はなかったのでお誘いを受けていいのかと少し戸惑ってしまう。……けれど、
「わかりました。それでは、後日ご連絡させていてだきます」
「ああ。カメリア令嬢が円滑に図書館に行けるように俺が話をつけておくから安心してくるといい」
「ありがとうございます」
殿下の提案をこれ以上無下にするのも上の立場の相手に失礼にあたるのでお受けすることにした。
モブである私が殿下の優しい計らいで図書館へいっただけでは、シナリオにそこまで影響が出ることはないだろう。
それに魔術について詳しくなっていれば、私と同様に光属性の魔法を使える主人公の役にも立てるはずだ。
そこまで話したところで、慌てた様子でクライヴが談話室から出てきたのが視界に入った。
「ランベルト殿下! どこですか!?」
「迎えがきたようだ。ではまたな、カメリア令嬢」
「はい。また」
殿下はふと優雅に笑みを浮かべて私にわざわざお辞儀をすると、背を向けクライヴの方へと歩いて行く。
一人中庭に残された私は、怒涛な展開に暫く呆然として動けずにいるというのに、
打って変わって殿下から解放されたフェリクスはそんな私の足元で無邪気に頭をこすりつけるのだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
皇帝とおばちゃん姫の恋物語
ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。
そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。
てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。
まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。
女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。
無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いてほしい!!
カントリー
恋愛
懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きなぽっちゃりした女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
異世界先は獣人の世界ークモード王国。住民の殆どが美男美女で、おデブは都子だけ。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
★いいね・応援いただけると嬉しいです。創作の励みになります。
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる