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第2章~学園動乱編~
希望を切り裂くもの
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女生徒をかばう俺の背中めがけてエビルクロウが爪をふりおろす。装備している冒険者の服を切り裂く音が聞こえる。
しかし、レベル2のエビルクロウの攻撃はレベル11の俺には効かない。せいぜい1~2ダメージというところだろう。
痛くもなんともないが、ノーダメージが学園側に悟られてもまずいのでとりあえず叫んでおく。
「ぐああぁぁぁーー!!!!」
「大丈夫!?ナツヒ君!」
エリスがこちらの様子に気付き、俺を攻撃していたエビルクロウを大剣で一刀両断する。
俺はエリスを見上げる形になる。パンツが丸見えだが、鉄の意志を振り絞り視線をひきあげエリスの目に固定する。
「ありがとうエリス!少し驚いて大声を上げてしまったけどうちどころが良かったみたいで大丈夫だ!でも助かったよ!」
「ううん。無事なら良かった!」
弾ける笑顔が眩しい。恋が加速する。エリスと話すたびに、その屈託のない笑顔を見るたびに、サラリーマン生活でやさぐれた俺の心はあたたかな春の日差しに包まれたように、優しい色で満たされる。
16才の女子に大人の俺が本気で恋をする事なんてないと思っていたが撤回だ。
俺は初恋のように甘酸っぱく、胸が締め付けられるような感情を確かに感じている。
もう俺は満足だ。異世界に来た目的を達成したと言っていい。
・・・あれ。ちょっと前にも同じような事を思ったような気がする。
頭や心の方はともかく体の方は本当に全然平気だったので、心配してくれたエリスに対して少し申し訳ない気持ちになる。
俺はかばった女生徒に薬草を使い傷の手当てをする。
「大丈夫か?薬草だよ。」
「あ・・。はい!ありがとうございます。」
そして、俺を心配してくれているエリスにも薬草を渡しておく。本当に薬草を配っているだけだな俺・・・。
「エリス!薬草だ。回復してくれ。」
「ふふっ!ありがとう。戦えない分そうやってみんなを助けていたんだね!ナツヒ君は優しいな。」
入学試験の時の記憶が強いのだろう俺はエリスから戦えない男認定をされているようだ。
それでも人の良い部分を見ようとするエリスの人柄を改めて素敵だなと思う。
あたりを見渡すとエビルクロウはざっと残り20体程だろうか。
対して重傷者は見当たらずこのままいけば死者がでる事はなさそうだ。
しかし、交戦している生徒たちも徐々にダメージを蓄積している。彼らが瓦解した場合の事を考えるとまだまだ予断を許さない状態ではある。
ここで「いけるか!?」的な油断をしてはいけないのである。
負傷して戦えない生徒のみでなく、交戦中の生徒たちにも薬草を使いにいこうかと思っていた矢先、大音声が講堂内に響き渡る。
「平民どもよ!!伏せるがよい!!!!!邪悪なるものを光の勇者が授かりし我が聖なる魔法で一掃してくれよう!!」
クロードが赤いマントをなびかせ、手のひらを斜め上にかざしながら叫んでいる。
「――聖なる英霊よ、かつて世を救いしその力を貸したまえ。穿つべくは地を血で染めんとする邪なるもの。我、汝の愛せし祝福の地を守らんとする者。乞い願うは悠久なる安寧。願いは閃々たる牙と化し敵を地の果てまで追駆し討ち滅ぼさん!」
え・・!詠唱?やばい!ちょっとかっこいい。だけど長い。長いのって強いんじゃなかったっけ?巻き添えとか大丈夫だよね?勇者様?
詠唱中にもクロードの正面には光が収束され、膨大な魔力が集まっているのが俺から見てもわかる。
「――邪悪なる者を滅せよ!!!勇敢なる猟犬(セイクリッドチェイサー)!!!!!!」
魔法詠唱と共に、収束されていた光がひときわ強く輝いたかと思うと、次の瞬間にはクロードの前に体高3メートル程の光でできた猛獣が現れる。
神社などで見る狛犬をリアルにしたらこんな感じなのだろうが、より俊敏そうで獰猛な体つきだ。
光の猛獣は辺りを見渡し大きく咆哮したのち、無数の小さい分身に分かれ光の尾をひきながらエビルクロウたちへと殺到した。
モンスターの断末魔と着弾時の光が講堂内を包み込む。
光が収まる頃には、講堂内のモンスターは1匹残らず片付いていた。
束の間の静寂。
・・・どっと講堂内が湧く。
「クロード様ーーー!!!!」
「光の勇者・・・!なんて強さだ・・。」
「助かった!!!!!」
「ありがとう!!光の勇者様!!!!!」
「はーーーはっはっは!!これしき当然の事だ!!追尾型の魔法ゆえ、貴公らたちには当たっていないはずだが負傷したものがいたら名乗りでよ!そこの平民の少年が薬草を配っているようだからうけとりたまえ!」
さっきは伏せろとか言っていたのに追尾型だったとか、勝手に人の薬草をうけとりたまえとか言っているし、やはりつっこみどころが多く鼻につくのは間違いない。だが、死者を出さずにこの場を収めることができたのはクロードの力による部分は大きい。素直に称賛するべきだろう。
レベルはまだ俺の方が高いかもしれないが、スキルやアーツの持つ力の強大さをまざまざと見せつけられた。
入学試験の時に見せた魔法と似ていたが、詠唱を加えたことでより強力になっていたのだろうか。
まだまだ己の知識不足を実感する。
さらにクロードは俺が薬草を使い回復をして回っていた事もめざとく見ていたようだし、本当に侮れないやつだ。
「薬草が必要な人は教えて下さいー!たくさん持っていますから!」
俺は引き続き薬草配りおじさんと化し、けがをした生徒の傷を手当てする。
「死ぬかと思ったよ!生きててよかったー!」
「回復ありがとう!」
「クロード様かっこよすぎる。」
大規模な戦闘を切り抜けた安堵感が会場内にただよい始める。
俺も自分の実力がばれないこと、死者を出さないことという2つの目的を達成する事ができひとまず安心する。
オルニア学園は在学中に死者もでると聞いてはいたが、まさか入学初日でこんな事が起きるとは予想できなかった。
俺が知っている異世界ってこんなだったっけ?
とりあえずなんか悔しいので、まだ倒れた状態で看護されている学園長の乳でも拝みにいくかと思い檀上に向かうとしたその時――
講堂内の弛緩した空気を切り裂くように女生徒の鋭い悲鳴が上がる。
悲鳴をあげた女生徒の視線の先には大きな闇が虚空に浮かんでいる。
闇から湧き出てきたのは、新たなモンスターだった。
エビルクロウと姿形こそ似ているものの、その体躯はふた回りほど大きく、身長は3メートルほどもあり、腕や脚も太くたくましい。明らかにエビルクロウの親玉と言った風貌だ。
・・・レベル7!名前は、ザ・ホープリッパー。
希望を切り裂く者か・・嫌な名前だ。
俺ならソロで倒せるだろうが、レベル1や2の生徒なら一撃で死んでしまう可能性もある。
――オルニア学園!ここまでやるとは!本気で生徒を殺す気か!
場合によっては、俺の実力がばれてしまってもあのモンスターを倒すしかない。
誰かを見殺しにした上で楽しい学園生活なんて送れる気がしない。
「ギイイェエアアアアーー!!!!」
聞くものの恐怖を駆り立てるおぞましい叫び声を上げる。
右足を後ろに下げ脚をたわめ右手も後ろに大きく引き絞り、左手を前につきだす。雄叫びを聞き恐慌状態に陥っている生徒たちへ向け狙いを定めているようにも見える。
エビルクロウよりも一段と長く鋭い爪が赤く発光する。
猛烈に嫌な予感をちりちりと肌で感じる。
次の瞬間、ザ・ホープリッパーが水平に跳躍する。講堂内の椅子や机を粉砕しながら狂気の弾丸と化し、怯える生徒たちをまとめて串刺しにしようとする。
「あぶなーーーーーいっっっ!!!!!」
ポポロが叫びながら、動けなくなっていた生徒たちを突き飛ばす。
ポポロの勇敢な行動により、ザ・ホープリッパーの狂爪の生贄になるはずだった生徒たちはその命を救われた。
しかし、「ゲハアァァ・・・」と笑い声のようなものを発するザ・ホープリッパー。
――その右爪は大盾ごとポポロの体を貫いていた。
「ポポローーーーーッッッ!!!!!!!!!!!!!」
しかし、レベル2のエビルクロウの攻撃はレベル11の俺には効かない。せいぜい1~2ダメージというところだろう。
痛くもなんともないが、ノーダメージが学園側に悟られてもまずいのでとりあえず叫んでおく。
「ぐああぁぁぁーー!!!!」
「大丈夫!?ナツヒ君!」
エリスがこちらの様子に気付き、俺を攻撃していたエビルクロウを大剣で一刀両断する。
俺はエリスを見上げる形になる。パンツが丸見えだが、鉄の意志を振り絞り視線をひきあげエリスの目に固定する。
「ありがとうエリス!少し驚いて大声を上げてしまったけどうちどころが良かったみたいで大丈夫だ!でも助かったよ!」
「ううん。無事なら良かった!」
弾ける笑顔が眩しい。恋が加速する。エリスと話すたびに、その屈託のない笑顔を見るたびに、サラリーマン生活でやさぐれた俺の心はあたたかな春の日差しに包まれたように、優しい色で満たされる。
16才の女子に大人の俺が本気で恋をする事なんてないと思っていたが撤回だ。
俺は初恋のように甘酸っぱく、胸が締め付けられるような感情を確かに感じている。
もう俺は満足だ。異世界に来た目的を達成したと言っていい。
・・・あれ。ちょっと前にも同じような事を思ったような気がする。
頭や心の方はともかく体の方は本当に全然平気だったので、心配してくれたエリスに対して少し申し訳ない気持ちになる。
俺はかばった女生徒に薬草を使い傷の手当てをする。
「大丈夫か?薬草だよ。」
「あ・・。はい!ありがとうございます。」
そして、俺を心配してくれているエリスにも薬草を渡しておく。本当に薬草を配っているだけだな俺・・・。
「エリス!薬草だ。回復してくれ。」
「ふふっ!ありがとう。戦えない分そうやってみんなを助けていたんだね!ナツヒ君は優しいな。」
入学試験の時の記憶が強いのだろう俺はエリスから戦えない男認定をされているようだ。
それでも人の良い部分を見ようとするエリスの人柄を改めて素敵だなと思う。
あたりを見渡すとエビルクロウはざっと残り20体程だろうか。
対して重傷者は見当たらずこのままいけば死者がでる事はなさそうだ。
しかし、交戦している生徒たちも徐々にダメージを蓄積している。彼らが瓦解した場合の事を考えるとまだまだ予断を許さない状態ではある。
ここで「いけるか!?」的な油断をしてはいけないのである。
負傷して戦えない生徒のみでなく、交戦中の生徒たちにも薬草を使いにいこうかと思っていた矢先、大音声が講堂内に響き渡る。
「平民どもよ!!伏せるがよい!!!!!邪悪なるものを光の勇者が授かりし我が聖なる魔法で一掃してくれよう!!」
クロードが赤いマントをなびかせ、手のひらを斜め上にかざしながら叫んでいる。
「――聖なる英霊よ、かつて世を救いしその力を貸したまえ。穿つべくは地を血で染めんとする邪なるもの。我、汝の愛せし祝福の地を守らんとする者。乞い願うは悠久なる安寧。願いは閃々たる牙と化し敵を地の果てまで追駆し討ち滅ぼさん!」
え・・!詠唱?やばい!ちょっとかっこいい。だけど長い。長いのって強いんじゃなかったっけ?巻き添えとか大丈夫だよね?勇者様?
詠唱中にもクロードの正面には光が収束され、膨大な魔力が集まっているのが俺から見てもわかる。
「――邪悪なる者を滅せよ!!!勇敢なる猟犬(セイクリッドチェイサー)!!!!!!」
魔法詠唱と共に、収束されていた光がひときわ強く輝いたかと思うと、次の瞬間にはクロードの前に体高3メートル程の光でできた猛獣が現れる。
神社などで見る狛犬をリアルにしたらこんな感じなのだろうが、より俊敏そうで獰猛な体つきだ。
光の猛獣は辺りを見渡し大きく咆哮したのち、無数の小さい分身に分かれ光の尾をひきながらエビルクロウたちへと殺到した。
モンスターの断末魔と着弾時の光が講堂内を包み込む。
光が収まる頃には、講堂内のモンスターは1匹残らず片付いていた。
束の間の静寂。
・・・どっと講堂内が湧く。
「クロード様ーーー!!!!」
「光の勇者・・・!なんて強さだ・・。」
「助かった!!!!!」
「ありがとう!!光の勇者様!!!!!」
「はーーーはっはっは!!これしき当然の事だ!!追尾型の魔法ゆえ、貴公らたちには当たっていないはずだが負傷したものがいたら名乗りでよ!そこの平民の少年が薬草を配っているようだからうけとりたまえ!」
さっきは伏せろとか言っていたのに追尾型だったとか、勝手に人の薬草をうけとりたまえとか言っているし、やはりつっこみどころが多く鼻につくのは間違いない。だが、死者を出さずにこの場を収めることができたのはクロードの力による部分は大きい。素直に称賛するべきだろう。
レベルはまだ俺の方が高いかもしれないが、スキルやアーツの持つ力の強大さをまざまざと見せつけられた。
入学試験の時に見せた魔法と似ていたが、詠唱を加えたことでより強力になっていたのだろうか。
まだまだ己の知識不足を実感する。
さらにクロードは俺が薬草を使い回復をして回っていた事もめざとく見ていたようだし、本当に侮れないやつだ。
「薬草が必要な人は教えて下さいー!たくさん持っていますから!」
俺は引き続き薬草配りおじさんと化し、けがをした生徒の傷を手当てする。
「死ぬかと思ったよ!生きててよかったー!」
「回復ありがとう!」
「クロード様かっこよすぎる。」
大規模な戦闘を切り抜けた安堵感が会場内にただよい始める。
俺も自分の実力がばれないこと、死者を出さないことという2つの目的を達成する事ができひとまず安心する。
オルニア学園は在学中に死者もでると聞いてはいたが、まさか入学初日でこんな事が起きるとは予想できなかった。
俺が知っている異世界ってこんなだったっけ?
とりあえずなんか悔しいので、まだ倒れた状態で看護されている学園長の乳でも拝みにいくかと思い檀上に向かうとしたその時――
講堂内の弛緩した空気を切り裂くように女生徒の鋭い悲鳴が上がる。
悲鳴をあげた女生徒の視線の先には大きな闇が虚空に浮かんでいる。
闇から湧き出てきたのは、新たなモンスターだった。
エビルクロウと姿形こそ似ているものの、その体躯はふた回りほど大きく、身長は3メートルほどもあり、腕や脚も太くたくましい。明らかにエビルクロウの親玉と言った風貌だ。
・・・レベル7!名前は、ザ・ホープリッパー。
希望を切り裂く者か・・嫌な名前だ。
俺ならソロで倒せるだろうが、レベル1や2の生徒なら一撃で死んでしまう可能性もある。
――オルニア学園!ここまでやるとは!本気で生徒を殺す気か!
場合によっては、俺の実力がばれてしまってもあのモンスターを倒すしかない。
誰かを見殺しにした上で楽しい学園生活なんて送れる気がしない。
「ギイイェエアアアアーー!!!!」
聞くものの恐怖を駆り立てるおぞましい叫び声を上げる。
右足を後ろに下げ脚をたわめ右手も後ろに大きく引き絞り、左手を前につきだす。雄叫びを聞き恐慌状態に陥っている生徒たちへ向け狙いを定めているようにも見える。
エビルクロウよりも一段と長く鋭い爪が赤く発光する。
猛烈に嫌な予感をちりちりと肌で感じる。
次の瞬間、ザ・ホープリッパーが水平に跳躍する。講堂内の椅子や机を粉砕しながら狂気の弾丸と化し、怯える生徒たちをまとめて串刺しにしようとする。
「あぶなーーーーーいっっっ!!!!!」
ポポロが叫びながら、動けなくなっていた生徒たちを突き飛ばす。
ポポロの勇敢な行動により、ザ・ホープリッパーの狂爪の生贄になるはずだった生徒たちはその命を救われた。
しかし、「ゲハアァァ・・・」と笑い声のようなものを発するザ・ホープリッパー。
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