サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

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第2章~学園動乱編~

撤退か突撃か迷うおっさん

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「みんなで逃げられないってどうして?ここにいるゴブリンたちはナツヒ君が倒してくれたし、さっき外にでていったやつらが戻ってくる前に逃げちゃおうよ!」

「そう。奴らが戻ってくる前に逃げないとあなた達もひどい目にあってしまう。特にあなたは・・・。」

そう言いながら冒険者の服を着た女性はエリスの顔や体を一瞥する。

恐らくここにいる女性たちと同じか、場合によってはより悲惨な事が起きてしまうという意味だろう。

「すみません。外にでていったやつらが戻ってくる時間はわかるんですか?」

「はい・・・。はっきりとはわかりませんが、体感で30分~半日くらいだと思います。」

「随分と幅があるんですね。奴らはやはり女性をさらいに?」

エリスの前ではっきり問うのは憚れるが、悠長にしていられる時間も無い。

ただ奴らは恐らく俺たち――十中八九エリスだろうが――を捕獲する為に、外に狩りに行ったはずなので、目的の獲物であるエリスがここにいる以上30分程で戻ってくる事は無いだろう。

「はい。奴らはエルレ平原を行き交う女性や、時には近くの村まで出向いて気に入った女性をさらってきてここで繁殖の為に飼っています。」

「繁殖・・・!」

女性から聞いたおぞましい内容の話に、エリスが怒りとも哀しみともとれない表情と共に息を飲む。

「あ・・・。でも多分私は大丈夫だと思います。まだ下っ端のゴブリンからしか犯されていませんから。どういう訳か奴らに犯されても妊娠はしないみたいなんです。でも“ロード”と呼ばれるこの群れの長に犯されてしまった子は・・・。」

沈鬱な表情と共に口をくぐもらせる女性。

「わかりました。もうそれ以上は大丈夫です。そのロードの居場所は?それとここの牢屋の鍵はどこにあるかわかりますか?」

「あの奥です。」

大広間の更に奥に続く通路を指さす女性。

「なるほど。あなたが先ほど“みんなで逃げられる事ができない”と言ったのは、牢屋の鍵があの奥の部屋にあるからですか?」

「・・はい。」

「そしてそこにいるロードと呼ばれるゴブリンの長を俺たちが倒す事なんてできないと思っているから?」

「・・・!倒そうなんて思わないで下さい!今までも冒険者見習いの人達が助けにきてくれましたが、みんな返り討ちにあって男は殺されて、女は私たちと同じように・・・。悪い事は言いません!あなた達だけでも逃げて下さい!」

「ちなみに今まで助けにきてくれた人達の中に、胸にアイアンやブロンズのプレートをつけていたやつはいましたか?」

「・・・いいえ。多分着けてなかったかと思います。奴ら倒した人間から奪ったものを身につけてるから。そのようなプレートを見た覚えはありません。」

「なるほど・・・。」

やはり、レベル11以上――つまり冒険者学校卒業レベル、アイアンランクの冒険者が負けたという事ではないようだ。彼らはゴブリンなんて見向きもしないだろう。

アイアンランクの冒険者が倒せないのなら今の俺が倒せる道理は無いが、道中であったゴブリンやリーダーたちのレベルから察するに、そのロードとやらも俺とエリスで倒せない敵では無い気がする。

それにどちらにしろ、俺が冒険者ギルトで受けたブローチを奪還するというクエスト【小鬼たちのお宝】をクリアするには、この奥に進まないと達成できないだろう。

「ナツヒ君。助けるんだよね?このまま捕まっている人を見捨てたりしないよね?」

「あ・・あぁ!もちろんだ。」

そう、それにエリスが納得する訳もない。

しかしゴブリンロードのレベルが11以上だった場合には俺とエリスでは勝てないかもしれない。

レベルを確認して11以上だった場合には目の前の女性や、囚われている女性たちには申し訳ないが全力で撤退する。

俺が死んで1人も助けられないどころか、エリスまでもがゴブリン達に凌辱されてしまうというのは最悪の結末だ。

「その代わり約束してくれ。これから奥の部屋に行くが、敵の数が多かったりロードのレベル次第では戦うまでも無く俺達が倒せる可能性は低い。俺が倒せないと判断したら全力で逃げるぞ。」

「でも、戦ってみないとわからないよ!戦わないで逃げるなんて私はしたくない!」

「エリス!わかってくれ!エリスの気持ちも尊重したいが今は譲れない。君がここで約束をしてくれないのであれば、俺はこの女性だけを連れてこのまま洞窟を脱出する。」

視線と視線がぶつかる。

どうにか囚われている女性たちを救いたいという悲痛めいた目で、まっすぐに俺を射抜いてくるエリスの視線。

俺もエリスと同じように助け出すつもりもあるが、勝てない時には逃げるという約束をせずに戦いには行けない。

俺自身死にたくないし、その後のエリスの状況を考えるとここで引くわけにはいかない。

「・・・わかったよ。でも勝てそうだったら戦うって事だよね?」

「あぁもちろん。これは戦う為の確認だ。いざという時に退路があるか無いか、その意識があるか無いかで咄嗟にとれる選択肢は変わってくる。だから勝てなさそうな時には退くと約束して欲しい。その上でベストを尽くして必ずここにいる人達は救いだす!」

エリスの事を想う俺の気持ちが通じたのかはわからないが、しぶしぶ了承の意を示したエリスに俺も最大限やろうとしている事を伝える。

「という事なので俺たちは、無理しない程度にロードから鍵を奪ってきます。無理そうなら逃げますが、その時は援軍を連れて戻ってきます。」

ゴブリン達に凌辱の限りを尽くされていた女性に、俺も酷ではあるが責任の伴わない優しい言葉では無く本音を伝える。

それに援軍には心当たりがある。

――とある酒場の女たちにこの事を伝えたらすぐに解決できるだろう。

しかしいきなり彼女たちに頼るのではなく、せっかく異世界に来たのだからできる限りは自分の力で冒険してみたい。

「ちなみにこの奥にゴブリンが何匹くらいいるかはわかりますか?」

「今日はいつもロードの傍にいるリーダーたちも出ていたから、かなり少ないか場合によってはロード1人かもしれないけど正確な事はわかりません。」

「わかりました。ありがとうございます!本当に無理はしないので安心して下さい。」

自分がひどい目にあったにも関わらず、俺たちの身を案じてくれていたこの女性の強さに関心しつつ、この女性を必ず助け出したいという想いがクエストクリアという本来の目的を上回る。

「ところで君の名前は?」

「・・・私はジャスリーンです。」

「そうか。ジャスリーン、これから俺達はロードのいる部屋に行って場合によっては戦ってくる。もしかしたらすぐに逃げるかもしれない。それでも必ず君を救い出す。だから気を強く持って俺達を待っててくれ。」

「はい・・・。あ・・りがとう・・ございます・・・!」

目に涙を浮かべ嗚咽まじりに感謝の言葉を口にするジャスリーンから視線を移し、事のなりゆきを見守っていたエリスを見やる。

どこか満足そうかつ気を引き締める表情のエリスと目を合わせうなずいた後、俺達はゴブリンロードがいるという奥の部屋へ向かう。

通路を抜けた先に広がっていたのは30畳ほどの部屋。

そこに広がる光景は、先ほどジャスリーンが3匹のゴブリン達と繰り広げていた欲望の宴と比べても、勝るとも劣らない程に異質で受け入れがたいものだった。
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