サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

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第2章~学園動乱編~

強きおっさんと優しさの弱点

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偽りの王たちが肉欲の宴を繰り広げていた空間に、不可視の壁が砕け散り消滅する音が響き渡る。

結界の破片がきらきらと輝く中に、凛と佇むエリスの後ろ姿は神々しいまでに美しかった。

冒険者になる為の鍛錬を重ねたであろう背筋の通った健康的な肢体は、腰はほっそりとしており臀部にかけては女性らしい丸みを帯びている。短めのスカートからは瑞々しい太ももから始まり程よく筋肉のついたふくらはぎへと繋がる脚が伸びる。

そして見る者の目を惹く桜色のツインテールをたなびかせるその美少女は、日本に生まれていたらアイドルにでもなっていただろう。

ただし単なる美少女との大きな違いを示すのは、手に大剣を携えるその姿。

ともすればその姿格好には似つかわしくない武器を手に、必ず目の前の敵を討ち滅ぼさんとする壮絶なまでの覚悟を放つ後ろ姿。

俺は戦闘中にも関わらずその姿に見惚れてしまっていた。

――柄の間の静寂を打ち破ったのは、ゴブリンシャーマンの醜い叫び声。

「ゲギャーー!!?ナントイウコトダ!!コンナオンナニケッカイガヤブラレルトハ!」

「ゴッファッファファ!!威勢のイイオンナダ!スグニデモワシの子種をクレテヤロウ!!」

結界が破られ動揺を露わにするゴブリンシャーマンと尚もエリスに固執するホブゴブリン・ザ・スウィンドラー。

手下の雑魚ゴブリンは不快な声で何やら喚きたてている。

しかし、恐らく正攻法ではない形で結界を破ったエリスには驚かされる。

黒水晶をひとつ破壊した事によって結界が弱まったのか。

それとも一定ラインを超えるダメージによって貫通できるタイプの結界だったのか。

はたまたその両方か。

いずれにせよエリスの渾身の一撃により厄介だった結界が無くなった事は確かだ。

エリスの真っすぐな想いが状況を打破してくれた。

ならばこれから俺がやる事はただひとつ。

――ゴブリン供の殲滅。

平穏な学園生活を送る為に、目立たず行動し変に目をつけられないようにレベル11という事実をできる限り伏せようと思っていた事も頭の中から消え、今は外道極まりないゴブリン達の殲滅に全力を注ぐ。

俺はレベル1から装備可能な打ち刀から【ユリダ武具店】で購入した春時雨に装備を変更する。

これで花風羽織と共に適正レベルの装備で身を固め、レベル11の力をいかんなく発揮できる状態になった。

「エリス!よく結界を破ってくれた!そのままシャーマンの相手をしてもらえるか?
すぐに加勢する!」

「うん!任せてナツヒ君!」

この場に似つかわしくないどこまでも真っすぐな声で返事をするエリス。

エリスは言うがいなやゴブリンシャーマンに斬りかかる。

その姿を見届け、俺もまずは石段のステージ上へ踊りでて、刀アーツ【月車】で雑魚ゴブリン達の一掃を試みる。

――自身を中心にした円形範囲攻撃。

春時雨の剣閃は大きく円を描き、その刃の煌めきは夜空を照らす満月のように冷たく輝やき、醜悪な小鬼どもの命を奪わんとする。

幸いとは素直に言えないが、女性達は横たわっていたり四つん這いだった事もあり体勢が低かった為に、ゴブリン達のみに攻撃を当てる事ができた。

「ゲギャー!!!」という断末魔と共に、9匹中6匹が絶命をして光の粒となり霧散する。

残った3匹もほぼ瀕死の状態だったのでそれぞれ一刀ずつ、3つの斬撃を追加してその命を終わらせた。

俺は一連の攻撃の中で適正装備の強さを実感する。

春時雨は手によくなじみ攻撃の際に確かな切れ味と手ごたえを感じ、花風羽織は身体の動きを全く邪魔せず非常に動きやすい。

――ステージに踊り出てから9匹を倒すまでの間約5秒。

呆気にとられているのか、自分の手下たちがシャーマンを残してほぼ全滅した様子を見ても動けないでいるホブゴブリン・ザ・スウィンドラー。

手に武器をとる様子も無いがそれを待つ義理も無い。

俺は偽りの王に向かって疾走し斬撃を繰り出す。

「グゥアアーーー!」

俺の斬撃はホブゴブリン・ザ・スウィンドラーの腹あたりを切り裂き確かなダメージを与える。

しかし、さすがにボスクラスのモンスターが故のHPの高さを持ち、全体の3%程を削ったのみだ。

「みんな!今のうちに逃げるんだ!」

俺はこれから激しくなるであろう戦闘に巻き込まないように、ゴブリン達の餌食になっていた女性達に声をかける。

心身共に疲弊しているのだろうか、動きはやや緩慢なもののもしかしたらこの地獄から抜け出せるという僅かな希望を持ち、この場から退避しようとする女性達。

スウィンドラーの肉欲の塊を受け止め、打ち捨てられた女性も共に偽りの王の欲望を愛撫していた2人の女性に支えられなんとか運ばれる。

――生きていてくれればいいが。

自分の飼っていた女性達が逃げ出そうとする様子を見ていた偽りの王は玉座の裏から武器を取り出す。

その手には金銀宝石がちりばめられた華美な片手剣。

王の威厳を見せつける為なのだろうが、安っぽさが否めない。実用的な強さには疑問符がつく武器だ。

「ゲハハーー!!大人しく逃がすトオモウカ!!」

先ほどまで己の膨張した欲望に愛撫を尽くさせていた女性達3人に向けて、容赦なく斬撃を繰り出し薙ぎ払おうとするホブゴブリン・ザ・スウィンドラー。

――人の命をなんだと思っているのか。しかも自分達の肉奴隷である女性をも平気で手にかけようとするとは。女性達が逃げ切るまでは、ボスを放置してエリスに加勢することはできない。

俺は怒りと焦燥と共にボスの片手剣と彼女たちの間に割り込みその斬撃を受け止める。

「くっ!」

レベルが下のモンスターとは言えさすがにボスクラス。

その斬撃の重さは、先の戦闘で喰らった雑魚ゴブリン達による攻撃の強さとは比べ物にならない。

しかしガードをすれば耐えられるレベルだ。

「ナニィ!?人間ゴトキガコノワシの攻撃ヲトメルトハ!!」

「へっ!本物のゴブリンの王なら俺を倒すなんて訳ないだろうが、偽者には無理だよ。“ホブゴブリンの詐欺師”さん。」

「ッッッ!!!キサマ何を言ウカ!ワシハゴブリン族を統べる“ロード”だ!ワシはコノ地に自分ノ王国ヲツクリアゲルノダ!」

やはり詐欺師。自らを“ロード”と名乗りホブゴブリンという事を隠し、体の大きさや立ち振る舞い、装飾過多な片手剣等でゴブリン供を騙し自らの楽園を作ろうとしていたのだろう。

俺の指摘に激高し片手剣を振り回してくるホブゴブリン・ザ・スウィンドラー。

斬撃を受け止めれば3メートルの巨体から来る重さは感じるだろうが、それでもダメージを受ける程ではない。

さらにでたらめに剣を振り回す適当な攻撃を避けるのはわけないことだ。

避けながらも俺は刀による斬撃や体術による蹴りや拳を叩き込み、僅かだが確実にボスのHPを減らす事に成功する。

そしてその間にも女性達の何人かが無事部屋の外に出ていったのも確認できた。

このまま押し切れる可能性をも感じたその時だった。

「うぐっ!!」

エリスの短い悲鳴が聞こえ、声の方を見るとエリスがひざまづき髪や装備からは黒い煙が上がっていた。

レザーアーマーの下に着ている白いシャツ部分や、ミニスカートは一部が焼け焦げところどころ穴が空いてしまっている。

「ギャッハーー!!オロカナオンナダ!!」
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