サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

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第2章~学園動乱編~

陽のあたる世界への生還と新たなる問題

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俺はクエストクリアの余韻に浸る間も無く、この状況をどうするか考えを巡らせる。

まずは気を失い無防備なエリスを含む、囚われていた女性達を安全な場所まで連れていかなければいけない。

全員を引き連れてオルニアの街まで戻るのは、戦えるのが俺だけの状態では、道中モンスターに襲われた時のことを考えるとリスクが大きい。

何よりも半裸の美女集団を引き連れて街に戻ったら俺が捕まりかねない。

よって却下。

外に戦えない女性達を連れていくことを考えると、この洞窟にとどまっている方が得策だと結論づける。

この洞窟の主であったホブゴブリン・ザ・スウィンドラーを倒し、手下もまとめて駆逐した今、ここは外よりも安全だろう。

洞窟がゴブリンの巣だと認知しているであろう野生のモンスターも恐らくは入ってはこないはずだ。

俺は街から救援部隊を呼び必ず戻ることをジャスリーンに告げオルニアに向け全力で走った。



馬車が石畳の上を走るガラガラという音に、思い思いの武器を携えた冒険者達の喧騒。

その冒険者を相手に商売をしている人たちの呼び込みの声。

今日もオルニアは活気に溢れていた。s

なんだかさっきまで自分がいた空間でおきた出来事――ゴブリン達に凌辱されている女性達、エリスの奮闘にゴブリン達との激闘――その全てが夢とさえ思えてくる。

これが冒険者の日常なのか。

ゲームやアニメで経験してきた、“冒険”とは似て非なるもの。

救助隊を呼ぶ為オルニアについた俺はそんな感慨を抱きながら、異世界に来てから最もお世話になっている【山賊の隠れ家亭】へと向かう。

「ヒルダさん!!」

「おう、坊や!こんな昼間っから血相変えてどうしたんだい?」

俺はゴブリン退治のクエストの一部――すぐに救援が必要な女性達がいるということ――をヒルダに伝える。

「・・・それはご苦労だった。よくやったね坊や!イセラ!ちょいとひとっ走りいけるかい?」

「はーい、お頭!どうしたんですかぁ?」

俺よりも高い身長にすらりと伸びる手足。頭には長い耳が生えている兎の獣人イセラが、外国人のスーパーモデルのような抜群のプロポーションをこれでもかと見せつけるように歩いてくる。――本人にそんな意志は全く無さそうだが。

ヒルダはイセラにゴブリンの巣で被害者女性たちが救助を待っているから、すぐに助けに行ってほしい旨を伝える。

イセラはゴブリンの被害女性がいるという話を聞き、一瞬剣吞な表情を覗かせたがすぐにいつものあけすけな空気を纏い直す。

そして、店員の制服からお腹と背中が大きく空いたデザインが刺激的な、ハイレグの黒いボディスーツへと装備を変える。

「ではいって参りますねー!」

そう口にしたイセラは店から通りにでると、大きく跳躍し屋根を伝い走って行きあっという間にその姿を消してしまった。

・・・確実に俺より速い。

その速さに気をとられているとヒルダから女性達に着せる為の服を渡される。

「はいよ!人数分の服だ。坊やのインベントリならこれくらい入るだろ。」

そう言われ渡された服は、【山賊の隠れ家亭】の女性店員たちが着ているような、胸や腰部分を覆う動物の革や、薄手の布だった。

・・・まぁ何も着ていないよりはマシかと心の中で独り言ちる。

「はい。ありがとうございます!では僕もイセラさんを追っかけて・・・」

「なーにを言っているんだい!イセラは女たちを守る為に行かせたんだよ。モンスターやゴブリンの残党が来ないとも限らないからね。あんたはギルドへ行ってきな。21人も女が捕まっていたとなっちゃそれなりの事件だよ。ギルドも職員や冒険者を派遣してくれるだろう。それにしかるべき報酬ももらえるだろうね!」

・・・報酬!

オルニア学園の学費300万円という莫大な借金を抱えている俺としては、非常に魅力的な響きだ。

エリス達の救援というミッションがある今はそれどころで無いとわかっていても、思わず心が躍ってしまう。

「なるほど!イセラさんが行ってくれるならひとまず安心ですね!では僕はギルドへ行ってきます!」

俺はヒルダに言われた通りギルドへ向かった。



「えぇぇ!!それは大変!ナツヒ君よく無事だったね。今すぐギルドの救援を派遣するわ!」

ギルド職員であり、俺の担当をしてくれている牛の獣人アリナは、種族特有であろう巨大に実りすぎた果実を盛大に揺らしながら驚いて、救助隊の派遣を申し出てくれた。

「あ!それと救助隊はできれば女性だけでお願いしたくて・・・」

俺は被害者たちが女性のみで、全員がほぼ裸の状態だということも付け加える。

アリナは俺のリクエストに応えてくれて、すぐに女性のみの救助隊5人を揃えてくれた。

「ではアリナさんまた戻ってきます!」

俺はアリナが用意してくれた救助隊と共にエルレ平原東の洞窟へと向かう。



「おつかい士さーん!待ってましたよー!」

洞窟の入り口でイセラが手を振る。

「ひとまず洞窟の中は安全です。残党と思われるゴブリンが数匹巣に戻ってきましたけど全員星に還ってもらいました!」

投擲武器のチャクラムをくるくると指先で回しながら屈託の無い笑顔で物騒なことを言うイセラ。

それから洞窟内へと入りヒルダからもらった服――【山賊の隠れ家亭】の制服なので露出は多めだが――を被害者女性達に着させる。

着させるのはもちろんイセラや救助隊の女性達だ。

宣言通りに俺が救助隊を連れて戻ってきたことはもちろん、露出度が高いとは言えちゃんとした服を着られたことにより、ゴブリンの被害者女性たちはいよいよ助かったという実感が湧いた様子だ。

ある者は泣きながら喜び、ある者は安堵の表情を見せる。ゴブリンたちに凌辱された悲壮感よりも今は無事に戻れる喜びが勝っているように見えた。

もちろん戻ってからの心のケアも必要だろうが、今は素直に彼女たちが無事生還できることを俺も喜びたい。

謎の依頼人によるブローチを奪還して欲しいとのクエストから始まった俺とエリスの冒険だったが、クエストをクリアできた喜びよりも彼女たちを救えたという思わぬ報酬が俺の胸を満たす。

俺は密かに達成感を抱きながら、被害者女性やイセラ達救助隊と共に、肉欲と悪意にまみれた洞窟をあとにした。



エルレ平原は先ほどまでいた陰鬱な洞窟とは対照的に、澄みやかに晴れ渡る青い空にさんさんと太陽が輝き温かな日差しに包まれていた。

被害者の女性たちは、久方ぶりに浴びるであろう日の光に照らされその表情は太陽にも負けず晴れやかなものだった。

このまま無事にハッピーエンドといきたいところだが、俺は今大きな“問題”を抱えていた。
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