サラリーマンのおっさんが英雄に憧れたっていいじゃないか~異世界ではずれジョブを引いたおっさんの英雄譚~

梧桐将臣

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第2章~学園動乱編~

肉欲の終焉と抗うおっさん

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今まで生きていた中で何度となく、聞いてきた星の女神ガイア様の声。

その優しい声が告げる【ビキニアーマー】というアビリティ。

どんな効果なのか確かめたいところだけど、そんな時間も無い。

ただ私は体に力が漲ってくるのを感じる。噛みつかれている太ももの痛みも薄らいでいる。

アビリティの効果なのだろうか?

――今は考えても仕方ない。

まだまだ体が動きガイア様からアビリティを与えられたという事実に向き合い、失いそうになっていた戦意を取り戻す。

ここで私が倒れたら、ナツヒ君のもとへ援軍が駆けつけてしまう。

女の子たちもどんなひどい目にあうかわからない。

私が戦うことによって、これから起こりえる残酷な未来を変えられるのなら私は戦う。

絶対に諦めちゃいけない!

大剣を持つ手に力をいれ、柄で噛みついているゴブリンの脳天を叩く。

柄の殴打でゴブリンは大きな衝撃を受け地面に叩きつけられる。

ギャッという声と共に、絶命するゴブリン。

――なにこれ?力が増している?

力が漲ってきたのは気のせいでは無いみたいだ。

これならいけるかもしれない。

ナツヒ君が来るまでの足止めとは言わず、ここにいるゴブリン達を全滅させる事さえも。

「はああぁぁぁっ!!!」

私は目の前のゴブリンリーダーを片手剣ごと薙ぎ払う。

大剣の一振りで、ゴブリンリーダーの手から片手剣が弾け飛ぶ。

薙ぎ払った体勢から、大剣の慣性に逆らわず後方へ向かって斬撃を繰り出す。

その一撃で何匹かのゴブリンが吹き飛ぶ。

大剣がいつもよりも軽く感じられ、素早く振るうことができる。

私は大剣と一体化したかのような感覚を覚え、大剣の声に耳を傾け流れるように斬撃を繰り返す。

大剣を振り切ったあとの隙を狙いゴブリン達が攻撃をしかけてくるけど、今は私の方が早く動ける。

小さく跳躍して飛び掛かってくるゴブリンの攻撃が届く前に、大剣で反撃を加え大きく吹き飛ばす。

視界の端でゴブリンが光の粒となっているのを捉えながら、次の標的へと狙いを定め大剣を振るう。

私の描く鈍く光る銀閃がゴブリン達を的確にとらえ、次々とその命を奪っていく。

さっきまでは焼けるような痛みを伴ってダメージを負ったとわかっていたゴブリンの攻撃も、今では軽くたたかれた程度の痛みしか感じない。

私は大剣と共に目の前の敵を討ち据えるだけの存在と化す。

ゴブリンの悲鳴が意識の遠くに聞こえ、血しぶきすらも気にならない。

やがて私はゴブリン達を屠る血の嵐となり戦場を吹き荒れる。

そして極限まで研ぎ澄まされた感覚の中で、視界にとらえるは最後の1体であるゴブリンリーダー。

武器を無くし仲間を全て失ったゴブリンリーダーは背を向けて、ボス部屋へと向かおうとしていた。

――逃がすものか。

私は疾走し一瞬でゴブリンリーダーの背を大剣の射程圏内に捉えアーツを繰り出す。

「クレセントスラッシュ!!」

銀閃が三日月のような弧を描き、ゴブリンリーダーを一刀のもとに斬り捨てる。

グギャーーッという大きな悲鳴と共に、背中をのけぞらし両手をあげた体勢で一瞬硬直をしたのち、光の粒となって霧散。

――終わった。

私1人で18匹のゴブリンを倒す事ができた。

女の子達を守る事ができた。

ナツヒ君を守る事ができた。

気付くと私のHPは2割を切り、HPゲージは赤く点滅している。

あと少しで死にそうだったという事実に気付いた時に、この部屋へ入ってくる人の気配を感じた。

――ナツヒ君。

良かった。

ナツヒ君も生きていた。ここにいるという事は宣言通りボスたちを倒してきたんだ。

さすがだな。

彼の姿を見たら安心感が湧いてきて緊張の糸が切れてしまう。

「遅いよ、ナツヒ君・・・。」

続く「私1人でゴブリン達を倒せちゃったよ。」という言葉が口から出て形になる前に、私は心の中でピースサインを作りながら意識を手放してしまった。

*****************************
【ナツヒ=ミナミ】

「大丈夫か!エリス!」

俺の言葉が届くか届かないかのタイミングで、エリスはその場に崩れ落ちてしまった。

まさか死んで・・・!!!

倒れたエリスの顔に耳を近づける。

――良かった!!息はあるようだ。

念の為に胸の動きも確認するが、上下に動いており確かに生きている事が確認できた。

気を失っているだけのようだと安心すると、俺の視界に入ってきているものの意味が形を成して頭の中に入り込んできた。

エリスの豊満な胸は、横になっても重力に負けることは無くその張りを保ち大きく盛り上がり、その胸を包んでいたはずのレザーアーマーは大きく損傷し左胸は約半分程、右胸は4分の3程が露出しまっている。

右胸に至っては、その山の頂付近を彩る丸い桜の絨毯も顔を覗かせている。

更に下半身は気持ちのみだが大切な部分を覆っていたスカートが無くなっていて、薄緑色の下着1枚だけだ。

その下着さえもところどころ傷がつき、16歳のうら若き乙女の青い果実の一部が露わになっている。

エリスの半裸という暴力的なまでの視覚的攻撃を受け、俺の脳内は桃色に支配され顔を真っ赤に染めてしまう。

「――さん!ナツヒさん!」

危うく魅惑的な世界にいきかけた俺を現実に引き戻したのはジャスリーンの声だった。

そのジャスリーンも、俺が渡したはずの冒険者の服がところどころ破れ、素肌をちらちらと覗かせていて目のやり場に困る。

「ジャスリーンさん。大丈夫でしたか?ゴブリン達はエリスが?」

俺はジャスリーンからエリスの奮闘により、援軍のゴブリン達が全員倒され女性達が助けられたと聞いた。

その事実に安堵すると共に感嘆の念を覚える。

エリスがやつらに汚されなくて本当に良かったと、ゴブリン達の被害者である彼女たちを前にして思ってしまうのはやはり俺は独善的なのであろう。

自分の感情に嫌気がさしながらも、エリスがどんな手品を使って18匹のゴブリンをせん滅したのか興味を覚えてしまう。

全くもって彼女の行動には毎回度肝を抜かれる。

ゴブリンシャーマンの結界もギミックを無視して力づくで破ってしまったし、さすがに数分が限界だとふんでいた援軍の迎撃も、足止めどころかまさかせん滅してしまうとは思わなかった。

願わくば彼女の戦いぶりを見てみたかった。

今回のクエストは、いくつか賭けに近い要素もあったが、エリスがいてくれたおかげで全てが良い結果に繋がった。

気絶し横たわるエリスに向かって心のなかで“ありがとう”とつぶやく。

俺は倒れたエリスの看護を女性達に任せ、ジャスリーンと共にボス部屋まで戻り牢屋の鍵を探しに行く。

2匹を倒した時にはエリス救援の為、無我夢中で気が付かなかったが地面にきらりと光るものを見つけた。

青地に金の装飾が入り真ん中に深紅の宝石が埋め込まれた一目みて価値の高いものとわかる金属製のブローチだ。その隣に落ちていた牢屋の鍵も併せて回収する。

これで囚われていた女性達を救うということと、ブローチの回収というクエスト本来の目的も達成することができたと安堵していると、ちりっと肌を焦がすような邪気を感じた。

その気配の方向に素早く視線をうつすと目に入ってきたものはゴブリンシャーマンの執念が形となった杖だった。

鑑定の能力を持ち合わせてはいない俺でもわかる。この杖は相当危険なものだと。シャーマンや偽りの王があそこまで邪悪だったのは杖のせいもあるのかもしれない。

しかるべき場所へ引き渡し、安全に保管しておくべきだ。

俺は一抹の憂慮を抱えながら杖も回収しボス部屋を後にする。



激戦を繰り広げたボス部屋を後にして牢屋の鍵を使い、囚われていた女性達を全員解放した。

泣いて解放を喜ぶ者や、俺に感謝の言葉を投げかけながら抱き着いてくる者もいる。

・・・っ!!!

中身が34歳のおっさんで16歳の体を手にしている俺にとって、非常によくない状況だ。

ゴブリンの慰みものになってしまった彼女たちを前に、湧き出てはいけない感情なのだろうが男性の本能が首をもたげてしまう。

洞窟内には総勢21名程の女性が囚われていた。

ゴブリン共も人間の女性なら誰でも良いという訳ではないようで、囚われていたのは若く美しい女性ばかりだった。

その美しい女性たちは、ぼろ布を腰に巻き付けるのみで上半身は裸だったり、一糸まとわぬいで立ちだ。

エリスもいれて22人の半裸の美しき女性達とおっさんが1人。

俺は間違ってもゴブリンになってしまってはいけない。

俺が唯一できることは不躾な視線を送らないことと、平静を装うことのみであった。


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