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第二巻『[人間]の業は 人の傲慢で 贖われる。』(RoGD Ch.3)
Verse 2-1
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一九三三年、それは世界にとって最悪な年であった。NSDAP、蔑称ナチスがドイツの政権を獲得し、世界は戦争へ急降下を始めたのである。
「おーいハンス! 久し振りだな、何処に行ってたんだ?」
味気も洒落気もない食事プレートを前にぼんやりと昼食をとっていると、もう何度となく聞き及んだ声がかけられた。
「おはようジークフリート。フランスの方にバカンスにね。」
「そうか、何処だ? マルセイユか?」
制帽を脱いで、そこら辺にいるどの親衛隊員よりも似合っている制服を正すと、ジークフリートは椅子に座ってプレートを置いた。
「ん、まぁマルセイユだけじゃないけど色々行ってきたよ。ジークフリートは元気にしてた?」
そしてハンスと呼ばれたジャンもまた、ジークフリートと階級は違えど、国民からも恐れられた黒服を着用して昼食に勤しんでいた。最初はどうしても着たくないと駄々を捏ねさえしたが、慣れてしまえば朝からなんの嫌悪感もなくジャケットとズボンを着ていた。
「ん、まぁな。仕事は膨大になるばかりだ、SAとの仕事の奪い合いにカマかけてる場合じゃない。」
一息一息、とジークフリートは美味しそうにジャーマンポテトを頬張り始めた。ジャンにとっては一度も見た事がない、ジークフリートの心の底からの表情である。
(こいつ、こんな顔するんだ。)
レイを襲ったから、バスカヴィルが捕まえろと言ったから、ジャンにとってジークフリートのイメージは最下層まで落ちていた。醜悪でナルシストで冷徹無比で、人殺しを平気でするような男であると、勝手に思っていたのである。しかしどうだろうか。今思い直してみれば、フィリップ二世の態度といい、レイの態度といい、ジークフリートの人となりはそこまで酷いものではないのかもしれない。
「ジークフリートってさあ。なんで親衛隊に入ったの?」
ヴルストに噛りついていたジークフリートは、ジャンのほうに視線をやって、少し考えるような素振りを見せた。
「ユンカーだからそこまで金には困ってなかったが、あの不景気の中にノンポリなのはどうなんだ、って幼馴染のルプレヒトに毒突かれてな。ならオススメの政党でも教えてくれよって。」
(最悪なのはルプレヒトさんのほうか……。)
少し頭を抱えるジャンに、ジークフリートは声を上げて笑った。
「そんなに悩ましい顔するなよ。ルプレヒトだって冗談で言ったんだ。でもほら、暫く経ったらかっこよかったし、ほら。」
(おかしいな、俺の知ってるジークフリートはもっと頭いい筈なんだけど。)
更に眉間に皺を寄せたジャンを、ジークフリートは挑戦的な微笑みで見つめた。
「そういうお前はどうなんだ? ハンス。お前だって僕と同じようなもんだろ。大抵の奴はこの制服がかっこいいから入るんだ。」
世界一クールとまで言われたナチスのSS制服は、ジャンの好みではなかったが確かに格好よく写った。一説ではファッション界でその名を知らしめたココ・シャネルがデザインしたという話もあるが、実際のところは不明である。
「まぁ、うん。ジークフリートもだけど、俺、金髪碧眼だし。」
親衛隊にもそうそういない、見事なブロンドと青い瞳である。ジークフリートの場合は、その頭蓋骨の比率からヒトラーにでさえ賞賛され現在でも寵愛を受けている、とジャンは聞き及んでいる。
「さて、こんな所で無駄話してないでそろそろ仕事に戻らないとな。ハンスも早く行かないと、上司に怒鳴り散らされるぞ。」
すっかり綺麗になったプレートを戻して、二人は別れを告げた。
『もしもしジャンさん? お久し振りです、三ヶ月ぶりですかね、リーズです。』
「久し振りリーズ。調子はどう?」
毎月二十日の夜、ジャンは[シシャ]用の回線を使ってフランスに電話をかけていた。大抵はフィリップ二世が出てくるのだが、今回はリーズであった。
『生前の記憶の方は如何ですか?』
「まだちょっとイマイチ。」
[シシャ]達が必ず持っているものの一つ、別の世界で人間として生きていた頃の生前の記憶は、まだジャンにはなかった。
『そうですか。まぁ、焦らず早まらず、です。さて本題に入ります。明日の昼頃から父さんが、フィリップ二世がそちらのお家にお邪魔するんですけど、いいですか?』
ラジオのつまみを無意味にいじりながら、ジャンは答える。
「大丈夫だよ、諜報活動だよね?」
『えぇ、衣食住さえ確保されれば後は自由に動きます。ちなみに、父さんを派遣する理由は、実はリチャード一世陛下の、ヨハンさんの姿が見受けられた、という事なんです。ルプレヒト……ロベルトさんも恐らく一緒ですからあまりちょっかいはかけないように。事の真偽を父さんが確認するまでは、頑張って我慢してくださいね。』
ごくり、とジャンは喉を鳴らした。
* * *
「おーいハンス! 久し振りだな、何処に行ってたんだ?」
味気も洒落気もない食事プレートを前にぼんやりと昼食をとっていると、もう何度となく聞き及んだ声がかけられた。
「おはようジークフリート。フランスの方にバカンスにね。」
「そうか、何処だ? マルセイユか?」
制帽を脱いで、そこら辺にいるどの親衛隊員よりも似合っている制服を正すと、ジークフリートは椅子に座ってプレートを置いた。
「ん、まぁマルセイユだけじゃないけど色々行ってきたよ。ジークフリートは元気にしてた?」
そしてハンスと呼ばれたジャンもまた、ジークフリートと階級は違えど、国民からも恐れられた黒服を着用して昼食に勤しんでいた。最初はどうしても着たくないと駄々を捏ねさえしたが、慣れてしまえば朝からなんの嫌悪感もなくジャケットとズボンを着ていた。
「ん、まぁな。仕事は膨大になるばかりだ、SAとの仕事の奪い合いにカマかけてる場合じゃない。」
一息一息、とジークフリートは美味しそうにジャーマンポテトを頬張り始めた。ジャンにとっては一度も見た事がない、ジークフリートの心の底からの表情である。
(こいつ、こんな顔するんだ。)
レイを襲ったから、バスカヴィルが捕まえろと言ったから、ジャンにとってジークフリートのイメージは最下層まで落ちていた。醜悪でナルシストで冷徹無比で、人殺しを平気でするような男であると、勝手に思っていたのである。しかしどうだろうか。今思い直してみれば、フィリップ二世の態度といい、レイの態度といい、ジークフリートの人となりはそこまで酷いものではないのかもしれない。
「ジークフリートってさあ。なんで親衛隊に入ったの?」
ヴルストに噛りついていたジークフリートは、ジャンのほうに視線をやって、少し考えるような素振りを見せた。
「ユンカーだからそこまで金には困ってなかったが、あの不景気の中にノンポリなのはどうなんだ、って幼馴染のルプレヒトに毒突かれてな。ならオススメの政党でも教えてくれよって。」
(最悪なのはルプレヒトさんのほうか……。)
少し頭を抱えるジャンに、ジークフリートは声を上げて笑った。
「そんなに悩ましい顔するなよ。ルプレヒトだって冗談で言ったんだ。でもほら、暫く経ったらかっこよかったし、ほら。」
(おかしいな、俺の知ってるジークフリートはもっと頭いい筈なんだけど。)
更に眉間に皺を寄せたジャンを、ジークフリートは挑戦的な微笑みで見つめた。
「そういうお前はどうなんだ? ハンス。お前だって僕と同じようなもんだろ。大抵の奴はこの制服がかっこいいから入るんだ。」
世界一クールとまで言われたナチスのSS制服は、ジャンの好みではなかったが確かに格好よく写った。一説ではファッション界でその名を知らしめたココ・シャネルがデザインしたという話もあるが、実際のところは不明である。
「まぁ、うん。ジークフリートもだけど、俺、金髪碧眼だし。」
親衛隊にもそうそういない、見事なブロンドと青い瞳である。ジークフリートの場合は、その頭蓋骨の比率からヒトラーにでさえ賞賛され現在でも寵愛を受けている、とジャンは聞き及んでいる。
「さて、こんな所で無駄話してないでそろそろ仕事に戻らないとな。ハンスも早く行かないと、上司に怒鳴り散らされるぞ。」
すっかり綺麗になったプレートを戻して、二人は別れを告げた。
『もしもしジャンさん? お久し振りです、三ヶ月ぶりですかね、リーズです。』
「久し振りリーズ。調子はどう?」
毎月二十日の夜、ジャンは[シシャ]用の回線を使ってフランスに電話をかけていた。大抵はフィリップ二世が出てくるのだが、今回はリーズであった。
『生前の記憶の方は如何ですか?』
「まだちょっとイマイチ。」
[シシャ]達が必ず持っているものの一つ、別の世界で人間として生きていた頃の生前の記憶は、まだジャンにはなかった。
『そうですか。まぁ、焦らず早まらず、です。さて本題に入ります。明日の昼頃から父さんが、フィリップ二世がそちらのお家にお邪魔するんですけど、いいですか?』
ラジオのつまみを無意味にいじりながら、ジャンは答える。
「大丈夫だよ、諜報活動だよね?」
『えぇ、衣食住さえ確保されれば後は自由に動きます。ちなみに、父さんを派遣する理由は、実はリチャード一世陛下の、ヨハンさんの姿が見受けられた、という事なんです。ルプレヒト……ロベルトさんも恐らく一緒ですからあまりちょっかいはかけないように。事の真偽を父さんが確認するまでは、頑張って我慢してくださいね。』
ごくり、とジャンは喉を鳴らした。
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