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第二巻『[人間]の業は 人の傲慢で 贖われる。』(RoGD Ch.3)
Verse 3-12
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前髪を掻き上げながら顔を覆い、零は深呼吸をした。
「如何しましたか、我が君。」
「いや……なんでもない。」
第二次世界大戦収束に向けての説明を若干施した後、零以外の四人は休みや身体検査の為に管理室を後にしていた。零は円卓に嵌め込まれたモニターの前に座って、両肘をついている。
「まだその男を追って?」
「ただ、気になるだけだ……。」
人間界に今まで生まれた全ての[人間]のデータを見て、零は頭を掻いた。
「出生不明、国籍不明、幼少期もさっぱり分からない。突然どこかに消える人間は多少いるが、突然現れた人間は誰一人としていなかった……。こいつ以外は。」
モニターに映し出されたフォルダ名称はB。アヴィセルラは眉を下げた。
「管理局でも色々と調べ上げましたが、あまり良い成果は得られませんでした。」
「別にいいさ。俺個人の問題で、世界の存亡に関わる事じゃない。」
だとよろしいですが、とアヴィセルラが呟くと同時に、入り口の扉が開いた。
「零、身体検査するよ。」
思わず口をへの字に曲げたが、零は観念したように両腕を上げて席を立った。
「後で行くってフィリップに言ったんだけどなぁ。」
「君、そう言って絶対来ないからね。」
アヴィセルラの挨拶を背に受けながら、零は廊下に出る。
「不調とかはどう?」
「あぁ、若干体が怠いな。慢性的に眠たい。」
零が口を開くとともに、アルフレッドはカルテに急いで答えを書いていく。
「まだあんまり本調子じゃなさそうだね。」
「随分引き篭もり生活だったからな。」
すれ違う執事用ゴーレムに片手を上げながら、零はアルフレッドの医務室に案内された。
「それよりここの環境はどうだ?一応、ここでも仕事してるんだろ?」
「特に不自由してないよ。はい、そこ座って。服脱いで。」
黒い薄手のジャケットを脱ぎ、ワイシャツも脱いで網籠に放ると、零はアルフレッドに向き直った。
「はー、こんなに痩せたの……?」
若干肋骨の薄く浮き出るくらいの骨ばった体を見て、アルフレッドは痛ましい光景に目を泳がせた。
「ストレスだストレス。中見るのか?」
「あ、うん。頼むよ。」
瞬間、薄い布地を裂くような音とともに、零は左胸から腹にかけての皮膚を裂いた。
「もしかして、フィリップとかジャンにもこれやらせたのか?あいつらびびっただろ。」
「いや、フィリップ君は色々慣れてるお陰かそうでもなかったけど、ジャン君は確かに青ざめてたね。やったの僕だけど。」
[シシャ]の体内は[人間]を模倣して作られている。心臓に当たる[核]、血管に当たる[回路]、血液に当たる[燃料]など、全ては個人特有の色を持ち、かつ発光している。怪我をしても血液が体外に出てくる事はなく、食料や睡眠を取らなくとも、身体的な生命が危険に晒される事はない。
「全体的に確かに活動がかなり弱い……もとい縮小してるね。」
患者が痛覚をシャットダウンし、[燃料]によって作られた皮膚を裂いて内部を晒け出すのは、各々の部位の状況を知るのに最も手っ取り早く、かつ確実な検査方法であった。
「縮小の原因はアーサー王?」
「だろうな。体に合わない魂が入ってたから縮小したんだろう。」
手を離すと、皮膚はゆっくりと体内から溢れた燃料によって修復されていった。
「修復もフィリップ君達より大分遅いね。」
「仕方がない。戦闘は控えるつもりだが、俺がそう思っていても向こうから来られたら意味がない。」
内部活動に関するコメントを書き留めて、アルフレッドは、一応覚悟しておくよ、とぼやいた。
「で。君にとっては身体検査じゃなくて二人の方が気がかりなんだよね?」
カルテを仕舞って立ち上がったアルフレッドに、零も答えるようにして立ち上がる。
「そうだ。その口振りだとまだ目は覚めてないみたいだな?」
「陛下の方はともかく。ジークフリート君は陛下や君に短期間で接触したおかげで、脳震盪以前に記憶の混在で起きれなくなってる状態だね。」
医務室を出て、先ほどの円形の庭園の中央に戻る。ROSEAは三階まであるが、エレベーターやエスカレーターは愚か、階段さえない。
「あ、そうだ。食堂とかの公衆設備は二階、個室は三階にあるから。」
「あぁ、ありがとう。この庭園の規模じゃサッカーも出来そうだな。」
中央に立つと、先程リーズが音声操作したモニターと同じ物が腰の高さに現れる。
「せめてガラスは割らないように頼みたいところだけど……。あ、三階によろしく。」
音声が入る事もなく、二人の体は瞬時に三階のガラス廊下にシフトした。先程までいた庭園は吹き抜けになっており、廊下から一望出来た。
「衛星写真が撮れるようになったら、ここもカモフラージュしないとね。」
「ライオネルがどうにかしてくれるだろ。」
室内に入ると、個室用の扉がぽつん、ぽつんと幅を開けて並んでいる。
「ジークフリート君から先に見る?それとも陛下?」
「あー……心の準備の為にジークから。」
白い扉の前で二人は立ち止まった。アルフレッドはひとまずノックをして、すぐに扉を開けた。
「……。」
白いワイシャツ姿で横たわっているジークに歩み寄り、零はその顔を覗いた。プロイセン王国で出会った時からなに一つ変わらない、話に出てくる王子のような整った輪郭が枕に沈んでいる。
「……よし。」
閉じられた目に片手を当てて、零もまた目をきつく閉じた。どこからともなくきた風で、ジークフリートの細い金髪が揺れる。ただ見守るだけで突っ立っていたアルフレッドは、後ろから呼び出し音が聞こえて振り返った。背後に極小のスクリーンが浮かび上がっている。
「アヴィセルラ、どうかした?」
『はい、少しアルフレッドさんとお話ししたい事がありまして。今よろしいですか?』
ジークフリートの脇に立ち続ける零を一瞥して、アルフレッドは部屋を後にした。
* * *
「如何しましたか、我が君。」
「いや……なんでもない。」
第二次世界大戦収束に向けての説明を若干施した後、零以外の四人は休みや身体検査の為に管理室を後にしていた。零は円卓に嵌め込まれたモニターの前に座って、両肘をついている。
「まだその男を追って?」
「ただ、気になるだけだ……。」
人間界に今まで生まれた全ての[人間]のデータを見て、零は頭を掻いた。
「出生不明、国籍不明、幼少期もさっぱり分からない。突然どこかに消える人間は多少いるが、突然現れた人間は誰一人としていなかった……。こいつ以外は。」
モニターに映し出されたフォルダ名称はB。アヴィセルラは眉を下げた。
「管理局でも色々と調べ上げましたが、あまり良い成果は得られませんでした。」
「別にいいさ。俺個人の問題で、世界の存亡に関わる事じゃない。」
だとよろしいですが、とアヴィセルラが呟くと同時に、入り口の扉が開いた。
「零、身体検査するよ。」
思わず口をへの字に曲げたが、零は観念したように両腕を上げて席を立った。
「後で行くってフィリップに言ったんだけどなぁ。」
「君、そう言って絶対来ないからね。」
アヴィセルラの挨拶を背に受けながら、零は廊下に出る。
「不調とかはどう?」
「あぁ、若干体が怠いな。慢性的に眠たい。」
零が口を開くとともに、アルフレッドはカルテに急いで答えを書いていく。
「まだあんまり本調子じゃなさそうだね。」
「随分引き篭もり生活だったからな。」
すれ違う執事用ゴーレムに片手を上げながら、零はアルフレッドの医務室に案内された。
「それよりここの環境はどうだ?一応、ここでも仕事してるんだろ?」
「特に不自由してないよ。はい、そこ座って。服脱いで。」
黒い薄手のジャケットを脱ぎ、ワイシャツも脱いで網籠に放ると、零はアルフレッドに向き直った。
「はー、こんなに痩せたの……?」
若干肋骨の薄く浮き出るくらいの骨ばった体を見て、アルフレッドは痛ましい光景に目を泳がせた。
「ストレスだストレス。中見るのか?」
「あ、うん。頼むよ。」
瞬間、薄い布地を裂くような音とともに、零は左胸から腹にかけての皮膚を裂いた。
「もしかして、フィリップとかジャンにもこれやらせたのか?あいつらびびっただろ。」
「いや、フィリップ君は色々慣れてるお陰かそうでもなかったけど、ジャン君は確かに青ざめてたね。やったの僕だけど。」
[シシャ]の体内は[人間]を模倣して作られている。心臓に当たる[核]、血管に当たる[回路]、血液に当たる[燃料]など、全ては個人特有の色を持ち、かつ発光している。怪我をしても血液が体外に出てくる事はなく、食料や睡眠を取らなくとも、身体的な生命が危険に晒される事はない。
「全体的に確かに活動がかなり弱い……もとい縮小してるね。」
患者が痛覚をシャットダウンし、[燃料]によって作られた皮膚を裂いて内部を晒け出すのは、各々の部位の状況を知るのに最も手っ取り早く、かつ確実な検査方法であった。
「縮小の原因はアーサー王?」
「だろうな。体に合わない魂が入ってたから縮小したんだろう。」
手を離すと、皮膚はゆっくりと体内から溢れた燃料によって修復されていった。
「修復もフィリップ君達より大分遅いね。」
「仕方がない。戦闘は控えるつもりだが、俺がそう思っていても向こうから来られたら意味がない。」
内部活動に関するコメントを書き留めて、アルフレッドは、一応覚悟しておくよ、とぼやいた。
「で。君にとっては身体検査じゃなくて二人の方が気がかりなんだよね?」
カルテを仕舞って立ち上がったアルフレッドに、零も答えるようにして立ち上がる。
「そうだ。その口振りだとまだ目は覚めてないみたいだな?」
「陛下の方はともかく。ジークフリート君は陛下や君に短期間で接触したおかげで、脳震盪以前に記憶の混在で起きれなくなってる状態だね。」
医務室を出て、先ほどの円形の庭園の中央に戻る。ROSEAは三階まであるが、エレベーターやエスカレーターは愚か、階段さえない。
「あ、そうだ。食堂とかの公衆設備は二階、個室は三階にあるから。」
「あぁ、ありがとう。この庭園の規模じゃサッカーも出来そうだな。」
中央に立つと、先程リーズが音声操作したモニターと同じ物が腰の高さに現れる。
「せめてガラスは割らないように頼みたいところだけど……。あ、三階によろしく。」
音声が入る事もなく、二人の体は瞬時に三階のガラス廊下にシフトした。先程までいた庭園は吹き抜けになっており、廊下から一望出来た。
「衛星写真が撮れるようになったら、ここもカモフラージュしないとね。」
「ライオネルがどうにかしてくれるだろ。」
室内に入ると、個室用の扉がぽつん、ぽつんと幅を開けて並んでいる。
「ジークフリート君から先に見る?それとも陛下?」
「あー……心の準備の為にジークから。」
白い扉の前で二人は立ち止まった。アルフレッドはひとまずノックをして、すぐに扉を開けた。
「……。」
白いワイシャツ姿で横たわっているジークに歩み寄り、零はその顔を覗いた。プロイセン王国で出会った時からなに一つ変わらない、話に出てくる王子のような整った輪郭が枕に沈んでいる。
「……よし。」
閉じられた目に片手を当てて、零もまた目をきつく閉じた。どこからともなくきた風で、ジークフリートの細い金髪が揺れる。ただ見守るだけで突っ立っていたアルフレッドは、後ろから呼び出し音が聞こえて振り返った。背後に極小のスクリーンが浮かび上がっている。
「アヴィセルラ、どうかした?」
『はい、少しアルフレッドさんとお話ししたい事がありまして。今よろしいですか?』
ジークフリートの脇に立ち続ける零を一瞥して、アルフレッドは部屋を後にした。
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