神秘学メンズラブシリーズ”nihil”

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第二巻『[人間]の業は 人の傲慢で 贖われる。』(RoGD Ch.3)

Verse 4-11

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 フランツ一世に急かされて、ゴーレムは零が乗ってきた車の運転席にせかせかと座った。零が助手席、フリードリヒ二世とフランツ一世が後部座席に乗り込むと、自動車は少し不安げな音を立てて発車する。

「エーデルワイスの屋敷までの道のりは?」

「私が足繁く通ったから覚えている。」

 自慢げに胸を張って答えるフリードリヒ二世に、零は思わず口端を上げた。零は前方を見ながら、長らく後ろの君主二人の会話を聞き流す事になった。携帯端末のメッセージには昼食を終えたジークフリートとジャンがお互いのランチメニューを乗せて会話を終了させている。

「……おい。」

「なんだね。」

 しらばっくれたフリードリヒ二世の声だった。

「私の知っている道と違うぞ。」

「そうだな。」

 フランツ一世が気付いたところで、零は運転手のゴーレムに急ぐように指示を出した。気付かれないように出来るだけゆっくりスピードを上げ始めたが、神経が尖り出したフランツ一世の前では意味がなかった。

「どこに連れて行くつもりだお前達! エーデルワイスの屋敷に行くんじゃないのか!」

「予定変更です。フリッツ陛下、お願いします。」

 茶化したような返事が後部座席から聞こえると、フリードリヒ二世は身を乗り出したフランツ一世を無理矢理座らせて目の前を腕で塞いだ。

 とりあえず口で喚くだけ喚いたフランツ一世が漸く解放された場所は、ウィーン郊外にある寂れた屋敷だった。

「こっちのゴーレムに話は?」

「無論通してあります。当の本人には話さないようにきつく言ってますが。」

 ベルを鳴らすと、待っていましたとばかりに接待用のゴーレムが扉を開けた。どうぞこちらへ、と腕を差し出し、三人が連れて行かれたのは広い庭園であった。

「イライラしてきた……。」

「今更すぎるぞフランツ。」

 腰より少し低い位置にある花壇に座って、フランツ一世は荒々しく制帽を脱ぎ捨てた。重苦しい無言が続いた。ただの数分の沈黙であったが、フランツ一世の不機嫌さで噴水の水も枯れそうな勢いである。

(来たぞ。)

 フリードリヒ二世の声が頭に木霊すると、零はガーデンが一望出来る全面ガラス張りの廊下を見回した。項垂れるフランツ一世を見て、口元を覆う女性が一人、ゴーレムの案内も追い越して足早にガーデンへ駆け出してきた。少女のような軽快な足音を聞いて、フランツ一世も思わず顔を上げる。

「フランツ! フランツなのね!!」

 豪華なレースに縁取られた純白のハンカチーフを片手でぐしゃぐしゃにしながら、ドレスの裾を上げる事も忘れて、マリアは呆然と立ち上がったフランツ一世の胸に飛び込む。

「マリア……?」

「フランツ、どうしてここに?やっと戻ってこようと思ってくれたの?」

 フランツ一世しか見えないマリアとは裏腹に、フランツ一世自身は並んで立っていた零とフリードリヒ二世に恨めしげな視線を送った。しかし、そんな事をしても仕方ないのは重々承知であった。フランツ一世は呆れと愛しげなため息を吐いて、マリアを抱き締めた。

「まあ、そういう事にしておこう。」

 ずっと抱擁を交わしていたマリアは、背後に零とフリードリヒ二世を見とめて顔を真っ赤にしながらいつもの尊大な振る舞いに戻った。礼を忘れなかったものの、ドレスも香水も髪飾りも全て普段使いの物だったようで、さっさと帰るように、と屋敷の玄関まで追いやられた。

「ではフランツ、私には感謝するように。恋愛の関係は二度目だぞ。」

「はあ?誰が感謝するか。いいから、またマリアにせっつかれる前に早く帰れ。」

 では先に、と零より先に身支度を終えたフリードリヒ二世はからかうような笑みで玄関扉から出て言った。

「……どうした。」

 ゆっくりと鞄の口を閉じた零は、金具を嵌めるとフランツ一世に背中を向けたまま口を開いた。

「……最後に一つ。これは非常に私的で唐突な質問です。思い当たる事がなければ答えて頂かなくても構いません。」

 姿見の横に寄りかかっていたフランツ一世は、至極落ち着いた声で呼びかける。

「零。」

 肩越しに振り返ると、フランツ一世は続ける。

「お前が今やっている事は、全て私的だ。」

 分かっているな、と首を傾げるフランツ一世に、零は参ったとばかりに苦笑する。

「それで、質問は?」

「はい。バスカヴィルを覚えていますか?」

 それはもう、とこれでもかとばかりにフランツ一世は濃く首を縦に振った。

「勿論だ。再三してやられた記憶しかない。……彼がどうかしたのか?[ルシフェル]の件は既に決着がついた筈だろうに。」

「彼を[人間]だと思いますか。」

 フランツ一世は、気怠げに首を傾げた。玄関扉の上にあるアーチ状のステンドグラスを見ながら、彼もまた静かに答えた。

「私が[ルシフェル]の名前を出して尚それを尋ねるのという事は、肉体の話ではないんだな。……なんだったか、他の[堕天使]から噂には聞いた話だ。[ルシフェル]は[人間]の悪魔召喚に応じたか、応じざるをえなかったと。そうであるならば、バスカヴィルとは、私達生物に必要な三つの要素……、肉体、霊魂、精神のうち、肉体以外は召喚者のものだったのだろうと仮定できる。」

 ただ黙ってフランツ一世の言葉を聞いていた零は、その詳しさに酷く驚いた。

「お前が聞きたいのは、その召喚者が[人間]かどうか、という事だな?」

「はい。」

 暫く考え込んで、フランツ一世は玄関中を見渡した。

「……残念ながら、召喚者に関しては憶測さえできない。一時期[ルシフェル]も召喚者を追っていたが、収穫は得られなかったそうだ。が、あの魔王級を召喚に応じさせるとは相当の手練れなんだろう。」

「僭越ながら陛下、なぜそんなにお詳しいんですか。」

 目を丸くしてたまらず振り返った零に、逆にフランツ一世も驚いたようだった。

「知らないのか。サン・ジェルマンは私らと同世代だぞ。」

 あんぐりと口を開けたのは、零のほうだった。

 * * *
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