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第三巻『その痩躯から 死が分たれる その時まで。』(RoGD Ch.4)
Verse 1-5
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矢桐が柵を越えていなくなった後、[シシャ]を感知する練習の為に、フィリップ二世は暫く東京郊外を歩き回った。帰宅した時は午前の一時半過ぎで、悠樹邸は居間以外すっかり電気が落ちていた。
「ただいま~。」
手持ちの鍵を使って引き戸をガラリと開けると、居間の方向から理恵が小走りにやってきた。
「お帰りなさい、相手は?」
「柏葉矢桐という陸軍軍人だった。ROZENで悠樹の上司やってたから、多分佐藤達に聞いたほうが話は早いだろうが……。」
明日は平日だったな、とフィリップ二世はショートブーツを脱ぎながら思い出した。
「なあ理恵、[核]の感知ってお前出来んのか?」
どうやら零は遅めの入浴をしているらしく、居間に行くまでに通る風呂場は煌々と炎の色が照っていた。
「[核]感知? えぇ、出来るわよ。それがどうしたの?」
まだ湯気の立っている急須から新しい無骨な湯のみに玄米茶を注ぐと、理恵はそれをフィリップ二世に差し出した。あまりの熱さに手を一瞬引っ込めかけたが、すぐに自身の体温をコントロールする。
「貴方、もしかして感知出来ないの?」
「あぁ、百貨店の壁登ってきたからそうなんだろうとは思ったんだが……。」
先まで誰かが座っていたらしき生暖かい座布団を勧められ、フィリップ二世は理恵の向かいで胡座をかいた。
「意外だわ、もうすっかり出来るんだと思っていたもの。アーサー王を感知出来ないなら仕方ないけれど、今回あった相手は全員感知出来たから貴方に出来ない筈がないわ。」
「俺も咲口達みたいに特訓が必要だなぁ。」
慰めの防寒着程度に着ていたおに入りの黒いライダージャケットを脱ぐと、フィリップは七分袖から露わになる腕を見た。
「体を鍛えてもどうにもならない事もあるもの。それに、貴方は[シシャ]になってから日が浅いわ。向こうが私達を潰しにきていないのであれば、焦らずにいるべきよ。暫く稽古をつけてあげる。」
「へぇ、お前が直々に? そりゃ面白い。一回薙刀の振るい方も見てみたかったしな。」
フィリップ二世の湯呑みが空になったところで、風呂から上がった零がタオルで髪の毛を拭いながら歩いて居間に来た。
「よお薄情者。」
「誰だった?」
理恵にした説明をもう一度端的にすると、零は思い当たるのか当たらないのかという半眼で相槌を打った。宙を見る瞳はどこか眠たげである。
「フィリップも寒かったろ、風呂に入ってきなよ。」
暫く待って出てきた零の答えだった。なにか策を講じてくるのかと身構えていたフィリップ二世は、頭の中ですかっと意識が空振りした。
「お前なぁ……。まあいいや、入ってくるよ。」
猫背になってぶつくさと文句を言いながら、フィリップ二世はライダージャケットをひっつかんでアルフレッドが温度調節する風呂場へ歩いていった。
「貴方……。そう、眠いのね。」
若干温くなった玄米茶を注いで、零はぐいっとあおった。頭をうつらうつらと上下に振りながら、零の意識は今にも溶けそうである。
「眠い……。」
ぼそりと呟いた零は、しかし悟られてはいけないとばかりに一度両頬を叩いた。
「ダメよ。貴方、体壊したらもう元も子もないんだから早く寝て。やっぱり明日の調査は私とフィリップが行くわ。」
「だけど——」
反論しかけたところで、理恵は零の鼻先に人差し指を突き出した。
「休んで。言ったでしょう、元も子もないんだから。」
いつもより少し他人行儀のきつい口調で一言添えると、零は耳を垂れた猫のように俯いて小さく頷いた。
翌日の月曜日、悠樹家の居候達はこの花々しい明治期の世界で勝手にあてがわれた学生、と言う身分をこなすために通学へ向かった。後からやってきた[シシャ]の四人と継子だけが残った悠樹邸は至極静かだった。
「今日はちょくちょく雪が降るわね。」
学生身分の四人よりも遅い朝食をとった後、食休みを挟んで理恵は薄っすらと雪の積もる庭に黒いブーツを出した。
「へぇ、黒セーラーのブーツってなまたニッチな層に受けそうだな。」
フィリップ二世も玄関に置いておいたショートブーツを縁側の先に放り投げた。いつもより厚手の黒タイツの上からブーツを履いてその調子を確かめると、理恵は柱に立てかけていた長物を手にする。
「雪の中でローファーって雪が入って好きじゃないの。私が良くても靴が先に駄目になって勿体無いから、冬場はブーツで過ごしてるのよ。」
悠樹邸の庭は広い、道場や茶室を含めずとも邸内はそれなりの広さがあるのだが、庭に至ってはその二倍以上は広い。邸から出てすぐには小さな畑が広がっており、その先の階段を降りると大きな池やそこから流れる小川があり、更に裏手には竹藪まで覆い茂っている。
「それで、特訓は何処でやるんだ?」
先程まで解いていた髪の毛を結んで、フィリップ二世も縁側から腰を上げた。
「どうしようかしら。道場でも構わなかったんだけど貴方ぶち壊しかねないし。」
「俺をなんだと思ってんだお前。」
遠くに見える道場を一瞥して、理恵は真反対の方角へ顔を向けた。冬であるにも関わらず青々と茂る竹を見て、フィリップ二世は日本の冬を感じた。
「仕方ないわ。見通しは良くないけれど、あそこにしましょ。」
「ただいま~。」
手持ちの鍵を使って引き戸をガラリと開けると、居間の方向から理恵が小走りにやってきた。
「お帰りなさい、相手は?」
「柏葉矢桐という陸軍軍人だった。ROZENで悠樹の上司やってたから、多分佐藤達に聞いたほうが話は早いだろうが……。」
明日は平日だったな、とフィリップ二世はショートブーツを脱ぎながら思い出した。
「なあ理恵、[核]の感知ってお前出来んのか?」
どうやら零は遅めの入浴をしているらしく、居間に行くまでに通る風呂場は煌々と炎の色が照っていた。
「[核]感知? えぇ、出来るわよ。それがどうしたの?」
まだ湯気の立っている急須から新しい無骨な湯のみに玄米茶を注ぐと、理恵はそれをフィリップ二世に差し出した。あまりの熱さに手を一瞬引っ込めかけたが、すぐに自身の体温をコントロールする。
「貴方、もしかして感知出来ないの?」
「あぁ、百貨店の壁登ってきたからそうなんだろうとは思ったんだが……。」
先まで誰かが座っていたらしき生暖かい座布団を勧められ、フィリップ二世は理恵の向かいで胡座をかいた。
「意外だわ、もうすっかり出来るんだと思っていたもの。アーサー王を感知出来ないなら仕方ないけれど、今回あった相手は全員感知出来たから貴方に出来ない筈がないわ。」
「俺も咲口達みたいに特訓が必要だなぁ。」
慰めの防寒着程度に着ていたおに入りの黒いライダージャケットを脱ぐと、フィリップは七分袖から露わになる腕を見た。
「体を鍛えてもどうにもならない事もあるもの。それに、貴方は[シシャ]になってから日が浅いわ。向こうが私達を潰しにきていないのであれば、焦らずにいるべきよ。暫く稽古をつけてあげる。」
「へぇ、お前が直々に? そりゃ面白い。一回薙刀の振るい方も見てみたかったしな。」
フィリップ二世の湯呑みが空になったところで、風呂から上がった零がタオルで髪の毛を拭いながら歩いて居間に来た。
「よお薄情者。」
「誰だった?」
理恵にした説明をもう一度端的にすると、零は思い当たるのか当たらないのかという半眼で相槌を打った。宙を見る瞳はどこか眠たげである。
「フィリップも寒かったろ、風呂に入ってきなよ。」
暫く待って出てきた零の答えだった。なにか策を講じてくるのかと身構えていたフィリップ二世は、頭の中ですかっと意識が空振りした。
「お前なぁ……。まあいいや、入ってくるよ。」
猫背になってぶつくさと文句を言いながら、フィリップ二世はライダージャケットをひっつかんでアルフレッドが温度調節する風呂場へ歩いていった。
「貴方……。そう、眠いのね。」
若干温くなった玄米茶を注いで、零はぐいっとあおった。頭をうつらうつらと上下に振りながら、零の意識は今にも溶けそうである。
「眠い……。」
ぼそりと呟いた零は、しかし悟られてはいけないとばかりに一度両頬を叩いた。
「ダメよ。貴方、体壊したらもう元も子もないんだから早く寝て。やっぱり明日の調査は私とフィリップが行くわ。」
「だけど——」
反論しかけたところで、理恵は零の鼻先に人差し指を突き出した。
「休んで。言ったでしょう、元も子もないんだから。」
いつもより少し他人行儀のきつい口調で一言添えると、零は耳を垂れた猫のように俯いて小さく頷いた。
翌日の月曜日、悠樹家の居候達はこの花々しい明治期の世界で勝手にあてがわれた学生、と言う身分をこなすために通学へ向かった。後からやってきた[シシャ]の四人と継子だけが残った悠樹邸は至極静かだった。
「今日はちょくちょく雪が降るわね。」
学生身分の四人よりも遅い朝食をとった後、食休みを挟んで理恵は薄っすらと雪の積もる庭に黒いブーツを出した。
「へぇ、黒セーラーのブーツってなまたニッチな層に受けそうだな。」
フィリップ二世も玄関に置いておいたショートブーツを縁側の先に放り投げた。いつもより厚手の黒タイツの上からブーツを履いてその調子を確かめると、理恵は柱に立てかけていた長物を手にする。
「雪の中でローファーって雪が入って好きじゃないの。私が良くても靴が先に駄目になって勿体無いから、冬場はブーツで過ごしてるのよ。」
悠樹邸の庭は広い、道場や茶室を含めずとも邸内はそれなりの広さがあるのだが、庭に至ってはその二倍以上は広い。邸から出てすぐには小さな畑が広がっており、その先の階段を降りると大きな池やそこから流れる小川があり、更に裏手には竹藪まで覆い茂っている。
「それで、特訓は何処でやるんだ?」
先程まで解いていた髪の毛を結んで、フィリップ二世も縁側から腰を上げた。
「どうしようかしら。道場でも構わなかったんだけど貴方ぶち壊しかねないし。」
「俺をなんだと思ってんだお前。」
遠くに見える道場を一瞥して、理恵は真反対の方角へ顔を向けた。冬であるにも関わらず青々と茂る竹を見て、フィリップ二世は日本の冬を感じた。
「仕方ないわ。見通しは良くないけれど、あそこにしましょ。」
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