34 / 271
第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)
Verse 2-28
しおりを挟む
規則正しい電子音が耳に響いてくる。うっすらと目を覚ますと、真っ白い天井が視界に飛び込んできた。落ち着いた橙色を搔き上げていたアルフレッドは、レイが僅かに動いているのに気付く。同室者を見上げるレイの顔に、アルフレッドは少し疲れたような笑みを浮かべた。
「目が覚めた? 試験お疲れ様、君も合格だって。……マルガレーテ、元帥に報告を。」
アルフレッドになにか告げようとしたレイの唇は、ノック音によって遮られる。バインダーを机の上に置いてアルフレッドは申し訳なさそうに片手を挙げると、扉へ駆け寄る。レイに来訪者が見えないようにして扉を開けて、そして後ろ手に扉を閉めた。
「すまないけど、……君は入室禁止なんだ。」
金髪の髪と孔雀色の瞳。さながら貴公子のようなその顔立ちを見て、アルフレッドは肩を竦める。ジークフリートは少しやつれた顔でアルフレッドに言い放った。
「誰の権限で?」
「元帥閣下。」
ジークフリートはため息をついて、一瞬だけ視線を横にやる。恐らく、沸き上がった感情を排除する為だろう。そうか、と一言ぼやいて、ジークフリートはアルフレッドに背を向けた。そして、思い出したように振り返る。
「そうだ、物も渡しちゃいけないのか? 出来たらこの本を返しておいて欲しい。……今更ながら、お前に預けておけばと思うよ。どうして、直接会う事しか考えてなかったんだろうな。」
苦笑混じりにジークフリートはアルフレッドに一冊の本を差し出した。アルフレッドはそれを受け取りながら、小さく囁く。
「直接会いたかったからじゃないのかい?」
その声はどこか寂しそうであった。ジークフリートは、一瞬だけ本から離す手を止める。
「……頼んだぞ。」
去っていく背中を見つめて、アルフレッドは本の表紙を見た。著者はプロイセン王フリードリヒ二世、タイトルには"Histoire de la guerre de sept ans"と書かれている。背表紙を見ながら医務室へ戻ると、レイはずっと気にしていたのかアルフレッドに声をかけた。
「だれだったんだ。」
「別に、なんでもないよ。」
ベッドまで歩いて行き、アルフレッドは点滴の量を確認する。
「そういえば、ジャン達がお見舞いに来てたよ。チョコレートを置いていったけど、当分は一日一個にしてね。」
チョコの詰まった缶を渡されたが、レイはそれをぎこちなく受け取ってからアルフレッドを見上げた。
「ジークは……ジャン以外に金髪碧眼の青年は?」
参ったようにアルフレッドは動きを止める。手に持っていた革の本を渡され、レイはそれを受け取った。愛しそうに表紙を撫でて呟く。
「会いに来てくれたんだな。」
表紙を見つめるレイに、アルフレッドは目を伏せた。
「ごめんね、会わせてあげられなくて。」
「いいんだ。どうせ親父の差し金なんだろ。」
首を振って、レイはチョコレートの缶をサイドテーブルに置く。革の表紙を開いて、ジークフリートが開いたであろうページを捲っていった。全てページを広げ終えて、彼は裏表紙を撫でる。
「また、きっと会えるよ。同じ建物で働くんだ。その内……忘れた頃にまた。」
肩にそっと手をやったアルフレッドに、レイは笑う。
「……そうだな。」
* * *
卒業式を迎えるに当たって、レイは軍服の採寸をしなければならなかった。試験最終日から三日後、漸くアルフレッドから許可を得て、レイは医務室の外で仲間と再会する。その二日後に、レイの寮室には新品の軍服が届けられた。卒業式当日の事である。
「すっかり痩せちまったな。」
白いベルトを締めながら、レイは採寸結果と健康診断表を見て肩を竦める。荷物は明日の早朝、実家へ出発する為に全て纏められていた。アルフレッドもきちんと軍服を着込んでいる。
「お前、最高に軍服似合わないな?」
堅苦しそうに軍服を着るアルフレッドをレイはからかった。アルフレッドは困り果てた顔をしながら肩を竦める。そして突然、寮室の扉が開いた。その先にいるのは、レイと同じ礼装を着込んだバスカヴィルである。新品の礼装を着るレイに、バスカヴィルは近付いた。
「式の前にお前の顔を見たかったんだ。よくここまで育ってくれたね!」
両腕を広げてレイを腕一杯抱き締めたが、レイの表情は氷のように固まったまま動かない。父親を抱き返す事もせず、彼は嫌そうにバスカヴィルの胸を押した。怪訝そうな顔をするバスカヴィルを真っ向から見返して、レイはアルフレッドの方を向かずに言う。
「アルフレッド、行こう。そろそろ時間だ。」
父親の横をすり抜けて、レイは寮室を去った。アルフレッドは目でバスカヴィルに一礼すると、レイの背中を追う。すっかり整頓された部屋に、バスカヴィルはただ一人取り残された。
卒業式は滞りなく行われた。主席であったレイは壇場でスピーチをする羽目になったが、そのスピーチは結局のところ、卒業生と軍人達から拍手喝采を浴びる事となった。帝國歴一八〇七年、この年に士官学校を卒業した士官生達は多くの実績と、類まれなき才覚を世に示した。この世代は、薔薇の貴公子と名付けられ、その名を馳せる事となる。
「目が覚めた? 試験お疲れ様、君も合格だって。……マルガレーテ、元帥に報告を。」
アルフレッドになにか告げようとしたレイの唇は、ノック音によって遮られる。バインダーを机の上に置いてアルフレッドは申し訳なさそうに片手を挙げると、扉へ駆け寄る。レイに来訪者が見えないようにして扉を開けて、そして後ろ手に扉を閉めた。
「すまないけど、……君は入室禁止なんだ。」
金髪の髪と孔雀色の瞳。さながら貴公子のようなその顔立ちを見て、アルフレッドは肩を竦める。ジークフリートは少しやつれた顔でアルフレッドに言い放った。
「誰の権限で?」
「元帥閣下。」
ジークフリートはため息をついて、一瞬だけ視線を横にやる。恐らく、沸き上がった感情を排除する為だろう。そうか、と一言ぼやいて、ジークフリートはアルフレッドに背を向けた。そして、思い出したように振り返る。
「そうだ、物も渡しちゃいけないのか? 出来たらこの本を返しておいて欲しい。……今更ながら、お前に預けておけばと思うよ。どうして、直接会う事しか考えてなかったんだろうな。」
苦笑混じりにジークフリートはアルフレッドに一冊の本を差し出した。アルフレッドはそれを受け取りながら、小さく囁く。
「直接会いたかったからじゃないのかい?」
その声はどこか寂しそうであった。ジークフリートは、一瞬だけ本から離す手を止める。
「……頼んだぞ。」
去っていく背中を見つめて、アルフレッドは本の表紙を見た。著者はプロイセン王フリードリヒ二世、タイトルには"Histoire de la guerre de sept ans"と書かれている。背表紙を見ながら医務室へ戻ると、レイはずっと気にしていたのかアルフレッドに声をかけた。
「だれだったんだ。」
「別に、なんでもないよ。」
ベッドまで歩いて行き、アルフレッドは点滴の量を確認する。
「そういえば、ジャン達がお見舞いに来てたよ。チョコレートを置いていったけど、当分は一日一個にしてね。」
チョコの詰まった缶を渡されたが、レイはそれをぎこちなく受け取ってからアルフレッドを見上げた。
「ジークは……ジャン以外に金髪碧眼の青年は?」
参ったようにアルフレッドは動きを止める。手に持っていた革の本を渡され、レイはそれを受け取った。愛しそうに表紙を撫でて呟く。
「会いに来てくれたんだな。」
表紙を見つめるレイに、アルフレッドは目を伏せた。
「ごめんね、会わせてあげられなくて。」
「いいんだ。どうせ親父の差し金なんだろ。」
首を振って、レイはチョコレートの缶をサイドテーブルに置く。革の表紙を開いて、ジークフリートが開いたであろうページを捲っていった。全てページを広げ終えて、彼は裏表紙を撫でる。
「また、きっと会えるよ。同じ建物で働くんだ。その内……忘れた頃にまた。」
肩にそっと手をやったアルフレッドに、レイは笑う。
「……そうだな。」
* * *
卒業式を迎えるに当たって、レイは軍服の採寸をしなければならなかった。試験最終日から三日後、漸くアルフレッドから許可を得て、レイは医務室の外で仲間と再会する。その二日後に、レイの寮室には新品の軍服が届けられた。卒業式当日の事である。
「すっかり痩せちまったな。」
白いベルトを締めながら、レイは採寸結果と健康診断表を見て肩を竦める。荷物は明日の早朝、実家へ出発する為に全て纏められていた。アルフレッドもきちんと軍服を着込んでいる。
「お前、最高に軍服似合わないな?」
堅苦しそうに軍服を着るアルフレッドをレイはからかった。アルフレッドは困り果てた顔をしながら肩を竦める。そして突然、寮室の扉が開いた。その先にいるのは、レイと同じ礼装を着込んだバスカヴィルである。新品の礼装を着るレイに、バスカヴィルは近付いた。
「式の前にお前の顔を見たかったんだ。よくここまで育ってくれたね!」
両腕を広げてレイを腕一杯抱き締めたが、レイの表情は氷のように固まったまま動かない。父親を抱き返す事もせず、彼は嫌そうにバスカヴィルの胸を押した。怪訝そうな顔をするバスカヴィルを真っ向から見返して、レイはアルフレッドの方を向かずに言う。
「アルフレッド、行こう。そろそろ時間だ。」
父親の横をすり抜けて、レイは寮室を去った。アルフレッドは目でバスカヴィルに一礼すると、レイの背中を追う。すっかり整頓された部屋に、バスカヴィルはただ一人取り残された。
卒業式は滞りなく行われた。主席であったレイは壇場でスピーチをする羽目になったが、そのスピーチは結局のところ、卒業生と軍人達から拍手喝采を浴びる事となった。帝國歴一八〇七年、この年に士官学校を卒業した士官生達は多くの実績と、類まれなき才覚を世に示した。この世代は、薔薇の貴公子と名付けられ、その名を馳せる事となる。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる