神秘学メンズラブシリーズ”nihil”

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第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)

Verse 5-4

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 式典を終えて夜も更けた頃、歓迎式を終えた軍人達は来客用の広い談話室やカジノで賭博を興じている。と言っても、軍人達の賭博は基本的に法律で禁じられていた。ROZEN本部に備え付けられたカジノで使うのは専用のプラスチックのチップで、勝って貰えるものはごく僅かな特権だけである。サイコロの転がる音やルーレットの回る音を聞きながら、レイはテーブルの上にトランプカードを放り出した。

「それ何回目?」

 後ろでポーカーの勝敗の行方を眺めていたアーサーは思わず切り出す。レイと机を囲んでいる軍人達は顔面蒼白であった。ニコニコとしてなにも答えないレイにアーサーは薄ら寒さを感じる。

「十勝負中、八勝二敗。うち今の含めて五回がロイヤルストレートフラッシュです。」

 アーサーの後ろで同じく机上を見つめていたルイスが、兄に答えるようにして満面の笑みを浮かべた。どうやら給料を全て軍費に注ぎ込んでその僅かな恩恵を受けているだけのレイにとっては、ごく僅か特権でさえ与えられる為にはなんでもするようである。

「俺の目分量が間違ってなけりゃお前の所持チップは三百枚くらいなんだけど、なにに変えられんだよそれ。」

「本部食堂の無料券一ヶ月分。」

 口笛を吹きながらコインをカゴに入れて持って行くレイを傍目に、アーサーは半眼で嬌声の上がった方向に視線を向けた。そこには山のようなチップはないが、代わりに美女がテーブルを囲んでいる。かたや高官達の夫人、かたや軍御用達の花街の美女達。

「あらいやですわ元帥閣下ったら、少し大人げないですわよ。」

「相手に敬意を表して本気でやってらしてるんでしょ、ねぇ閣下?」

 中央にいる当の元帥本人といえば、別段慣れたように彼女達に微笑んで適当にあしらっていた。義理とはいえ親子は似るものだな、とアーサーは肩を竦める。バスカヴィルの向かい側に座っているのは狐のような糸目の茶髪の青年だ。

「手加減するほど余裕がなかったんだよ。」

 バスカヴィルがにこりと笑いかけると、青年もにこりと同じように笑いかける。

「チェスでこないに時間がかかったのは閣下が初めてですわ。」

 日本人はチェスに馴染みがないので、と青年は肩を竦める。

「坂本君はヨーロッパの文化にある程度は馴染みがある、という事かな?」

「わいはさして。チェスはあそこの人にぎょうさん教えて貰いましたさかい。」

 坂本隼人中尉が指を差した方向には、元帥に負けず劣らず端正な顔立ちがあった。

「ど、どうしても自分と遊びたいと坂本が言うので教えただけですよ。」

 アーサーが振り返ると、そこには慌てて受け答えをする咲口がいた。

「わいより随分強いんですわ。なぁ咲口はん?」

「そんな、元帥閣下の足下にも及びません……。」

 恥ずかしそうに目を背けて、咲口は頬をかいた。しかし、遠慮する咲口とは裏腹に、バスカヴィルは目を細めて彼を向かいの席に誘う。

「それは是非一つ勝負してみたいね。」

 日本人にしては随分と白い肌が焦りで赤くなる。そのやり取りを見ていたアーサーは、たまらずに咲口に聞いた。

「あんたもしかしてフランス人とのハーフか?」

 一つ思い当たる点といえば、彼の英語に微妙なフランス語の訛りが入っていた。しかし、それ以上にアーサーはどこか、彼にフランス人の血が混ざっている事を確信した。

「父は日本人で母はフランス人だ。」

「あー、納得。」

 それだけ伝えると、咲口はいそいそと元帥の向かい側の席に歩いていく。それを見届けると再び、今度はアーサーの背後で黄色い声が上がった。振り向けば、エドワードが投げキスをして女性集団から抜け出してきたところであった。アーサーの姿を見ると、エドワードは逃げるようにして彼に駆け寄る。

「ヨハン知らない?」

「さぁ。一緒じゃねぇのか?」

 首を振り、エドワードはカジノを隅々まで見渡した。

「談話室も見たんだけどいなかったんだよね。あとジークフリートも。」

 腕を組んでバスカヴィルを眺めていたアーサーの片眉が吊り上がる。

(へぇ、あの二人が……。)

 アーサーはくるりと方向を変えると、先程エドワードが入ってきた扉へ向かった。

「アーサー?」

「ちょっと用事思い出したわ。」

 背中を向けたまま手を振り、アーサーはカジノから姿を消す。エドワードが問いかけるような視線をルイスに向けたが、少年は肩を竦める。鼻から長々とため息を吐いて、エドワードはバスカヴィルへ視線を戻した。



 相変わらず勝手に鍵を拝借して、アーサーはジークフリートの執務室に入り込んだ。

「失礼するぜ、少将閣下。」

 明かり一つない部屋をぐるりと見回す。人の気配がない事を確認して、彼は執務机の引き出しを乱暴に全て開けた。一つ、見慣れない茶封筒が彼に目に入る。

(なんだこれ。)

 掴み上げて裏返せば、そこには右を向いた鷲のスタンプが押してある。急いで中身を開いた。

「ナチス、党員登録票……。」

 なぜロベルトが二人を調べるように言ったか、アーサーにはやっと合点がいく。前世でナチス党員であった人間を見つけて、この書類を送りつけている事を、彼は知っていたのだ。なぜなら、ロベルト自身もナチス党員であったからである。
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