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第二巻『[人間]の業は 人の傲慢で 贖われる。』(RoGD Ch.3)
Verse 1-8
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余震、というよりは衝撃による振動のように思えた。仮眠室で爆睡をかましていたフィリップはゆっくりと起き上がって辺りを見回す。起床しているのは島田と佐藤、それ以外はまだ布団に入っていた。
「おい、なんの音だ。」
起き上がって二人の立つところに行くと、島田が仮眠室の扉を指した。
「さっき外を見てきた。もう塔からも帝國の端の部分が見えるようになってるぞ。」
外にいた人々は叫び声も上げずに人形のように宙に投げ出され、ゆっくりと着実に、消失の影響は目の前に迫っていた。
「結局ここから出る方法は分からずじまい。理恵は……いなさそうだな。どこ行ったんだ?」
「分かりません。でももう塔の内部はだれもいなさそうですよ。エドワードさんもアルフレッドさんも。」
三人の話し声で、咲口と衣刀が顔を覗かせた。
「おはよう、まだ寝てても構わねぇぞ、数時間だろうがな。」
数時間、と聞いて、咲口はすぐに覚醒した、起き上がって革靴を履き三人の下に駆け寄った。
「もうそこまで来てるって事かい?」
「どうする事もできねぇが……。なぁ、これ下から崩れんのか?全員起きたなら最上階に行くのも手だろ。」
島田はよくよく記憶を掘り出して、先ほど見た外の景色を思い出した。言われてみれば、屋根が多少残っている所はあった。地面がなくても、屋根だけが宙に浮いてる形になっているのだ。
「よし、行ってみよう。確証はないが、予想ではまだ踏ん張れるはずだ。」
行くぞ、という声かけに、衣刀も素早く立ち上がって四人を追った。階段を上がり、地上に出て、フィリップは一度玄関から外を確認した。なるほど、まるで滅びが目の前にあるように、人々は誰一人として存在しない。
「取り敢えず元帥執務室のある最上階まで上がろう。屋根の上はその後で考えなきゃね。」
階段を駆け上がりながら咲口は息を切らして話す。
「おいおい大丈夫か?軍人なのにこんなんで息上がってよ。」
「咲口は頭脳派の上、内地担当だからな。」
島田も衣刀も佐藤にも、若干の呼吸の乱れがあった。しかし、いつ消滅の速度が速まってもおかしくはない。五人は無駄口を叩く事もなく最上階の執務室前までなんとか辿り着いた。
「取り敢えずここからなら最新の情報も目視できるだろ——」
だれもいない、と伝えられた佐藤の言葉は、確かに半ば合っていた。ここまで来る間、人にはだれもすれ違っていない。
「成る程、最後まで粘り強かったようだ。いや感服感服。自分達の置かれてる状態を鑑みて死に物狂いで生き延びたのは見事としか言いようがない。」
フィリップの言葉を途中で途切れさせたのは、レイの拍手と声だった。その表情にはぎこちなさも不自然さもなく、。今までの疑惑はフィリップの中で晴れた。これはレイ本人だったのだ。
「しかし、脱出の方法が見つけられなかったのは実に残念。いや、その体たらくで見つけられるはずもない。当たり前の事だ。冥土には行けないだろうが教えてあげよう。この世界はお前達を消し去る為に作られた。脱出方法などない。」
「俺らを消すたぁ?それでお前にどんな得があるってんだ。」
戦闘体勢をとるフィリップに、レイはいかにも同情しているといった表情を作った。
「お前にそれを知る必要はないよ。なんせ消えるのだか——」
刹那。執務室のガラスが一瞬にして砕け散った。黒いビロードのマントが外からの光を覆う。
「た、まるかぁー!」
その声は今先程まで聞いていたレイの声とそっくりだった。しかし、聞こえたところはまさしくマントの中である。
「どけフィリップ! そこにいられると邪魔なんだよ!」
急ブレーキをかけながらマントはそう怒鳴った。フィリップは慌てて咲口を押しのけて後退する。マントの中から一瞬にして、白銀の刃が抜き放たれる。
「お前、なぜここに……!」
「うるせぇ、ボケナス! ジークの件はあいつの独断だしまだ可能性があるからともかく、フィリップは俺の大事な親友だし、咲口達は俺の親父の部下だ! それに俺の思い出深い世界を、処刑台に使うたぁいい度胸だな。お前をどうにかできなくとも、こいつらだけは救う!」
刃の先はレイに向けられた。フィリップの目の前に現れた青年の剣幕に一瞬気圧されたレイは、しかしすぐに正気に戻って腰にあったロングソードを抜いた。
「ふん、そのご高説だけはきちんと聞いておこうか。」
「あぁ、後ろから来るぞ。」
酷く鈍い音がした。その影は刀の形はしていたが、その太さから恐らく鞘に入ったままのものだったのだろう。窓の外から一閃されたそれは、レイの後頭部を思い切り殴打した。
「ご紹介に預かりどうも。」
その軽やかな上流階級ばりの英語は、フィリップにあのフォントを打ち出したような文字を彷彿とさせた。軍人とは思えない長い髪とともに、するりと体重を感じさせない足取りで執務室の中にその男は入ってきた。
「げ、げ、げ。」
「あぁ、私の立派な執務室も無能な男の前では書類まみれになってしまったんだね。」
紙という紙によって様変わりした執務室に眉を下げながら、バスカヴィルは青年の背後に回った。
「っ貴様の存在は消え去ったはずだろう! どんな不正を働いた!」
「不正もなにも、チートしてるのは俺じゃなくてこいつのほうだ。」
床を蹴って、零はレイに膝蹴りをかました。そのまますっかり破壊された窓の外へ蹴飛ばされ、バスカヴィルはその後を追った。
「さ、時間稼ぎはしてもらってるからどうにかするぞ。」
「あ、貴方は一体……。」
佐藤の言葉に、零は唯一見えている口元で微笑むだけだった。全員の足元に突如として黒く輝く円が浮かびあがる。そして、フィリップを除いた四人の体が、段々と透け始めた。
「本当は長話したいんだが、それはまた今度だ。」
「ま、まだお礼もしてないのに!」
円の外に出ようとした咲口に、ほんの一瞬だけ電流が走るような痺れが生じた。
「お礼はまたできるって。会えるから待ってろ。」
その言葉とともに、日本軍の四人の姿は目の前から消え去った。零はフィリップに向き直る。
「お前、れい、って呼ばれてたな。」
「さすが中佐、恐れ入るよ。その鋭さを忘れないでくれ。お前にはROZENで何度も助けてもらった。ジークの事は、残念だけど、フィリップは悪くない。あれは、ジークが選んだ道だ。それに、あいつにもまた会えるさ。」
やがてフィリップの体も透けるようになり、黒いマントの向こうをどうにか見ようと、フィリップは目を凝らした。自らを救った青年の顔を、少しでも見ておきたかった。
「また会えるってのは、転生するから、なのか?」
「あぁそうだ。この世界の[人間]達は、転生するか[冥府]で最後の審判の時を待つか選ぶ事ができる。だけど、殆どは転生を選ぶんだ。ジークフリートもまた転生を選び、後ろの四人もまた——」
耳をつんざくような叫び声が二人の耳朶を叩いた。振り返るより先に、フィリップの目の前に剣先が現れる。
「愚かな、真似を。あそこで永遠に閉じこもっていればいいものを!」
引き抜かれるとともに、零の体はフィリップの方向へ倒れた。バスカヴィルの隙をついてレイが戻ってきたのである。執務室の中に転がり込んだ頃には、フィリップは体勢を崩して円の中で尻餅をつく。
「っ、親父はさっさと帰宅しろ無理すんな! フィリップ、このまま転移して……。まさかお前[核]ねぇのか!? 心臓部分にあった[聖杯]はどこにやったんだよ!」
「うるせぇ! 核とかなんとか知らねえよ!」
会話しているうちに、レイは次の攻撃を繰り出そうと、零の背中をめがけて剣を振りかざしていた。舌打ちをして、零はフィリップの左胸に手を当てる。
「多少荒くなるだろうが使ってるうちに馴染むもんだから勘弁してくれ……!」
青白くまばゆい光が、フィリップの左胸から煌々と輝き始めた。そこから溢れ出るなにかは体の中にひしひしと染み込んでいって、温もりは母の腕の中のように暖かかった。フィリップは目を見開いた。視界も頭もなにもかもが温もりの先へ持っていかれる。
「こ、れは……。」
突然他人の記憶が流れ込んでくる。前世、フランス王国のブルゴーニュ公だったフィリップは、少しの時間を置いてそれが誰の記憶かすぐに分かった。しかし、それはまるで自らのどこか欠けていたものが、まるでジクソーパズルの最後の一ピースを、引き出しの下から、思いも寄らず久し振りに見つけて嵌めようとする感覚に似ていた。
「やめろ!」
フィリップの怒声が部屋に響くと同時に、レイの剣が見えないなにかに弾かれた。
「ここで起こったの、ひっくるめてだれにも言うなよ。」
衝撃でレイの体も壁に叩きつけられ、骨がいくらか折れたのか動けない状況でフィリップ達を睨みつけていた。
「お、おい、お前はどうすりゃいいんだ。俺は転移できそうだけど、お前は——」
「私が預かるよ、元の位置にくらい戻しておけるからね。」
すっかりフィリップにのしかかって意識を失った零を、バスカヴィルは軽々と持ち上げて片手で抱き上げた。
「げ、元帥。……そうだ、あんたあの、オカルトの。」
「いずれまた会うかもしれない。縁というものがこの世界にあるのなら。そのお話は、その時に。」
からかうようにウインクして、バスカヴィルは今にも朽ちそうな執務室の外へ歩んでいくと、その姿を足下に湧き上がった魔法陣とともに消した。執務室に残ったのはたった二人。レイとフィリップだけである。
「お前、覚えていろ。天界に戻ったら承知していろ!」
「あんたがなんなのかまださっぱり分かってねぇけど、この俺を敵に回した自分を恥じな。」
尻の下の床にひびが入るほんの少し前に、フィリップもまた、無事に偽物の帝國から姿を消した。
* * *
「おい、なんの音だ。」
起き上がって二人の立つところに行くと、島田が仮眠室の扉を指した。
「さっき外を見てきた。もう塔からも帝國の端の部分が見えるようになってるぞ。」
外にいた人々は叫び声も上げずに人形のように宙に投げ出され、ゆっくりと着実に、消失の影響は目の前に迫っていた。
「結局ここから出る方法は分からずじまい。理恵は……いなさそうだな。どこ行ったんだ?」
「分かりません。でももう塔の内部はだれもいなさそうですよ。エドワードさんもアルフレッドさんも。」
三人の話し声で、咲口と衣刀が顔を覗かせた。
「おはよう、まだ寝てても構わねぇぞ、数時間だろうがな。」
数時間、と聞いて、咲口はすぐに覚醒した、起き上がって革靴を履き三人の下に駆け寄った。
「もうそこまで来てるって事かい?」
「どうする事もできねぇが……。なぁ、これ下から崩れんのか?全員起きたなら最上階に行くのも手だろ。」
島田はよくよく記憶を掘り出して、先ほど見た外の景色を思い出した。言われてみれば、屋根が多少残っている所はあった。地面がなくても、屋根だけが宙に浮いてる形になっているのだ。
「よし、行ってみよう。確証はないが、予想ではまだ踏ん張れるはずだ。」
行くぞ、という声かけに、衣刀も素早く立ち上がって四人を追った。階段を上がり、地上に出て、フィリップは一度玄関から外を確認した。なるほど、まるで滅びが目の前にあるように、人々は誰一人として存在しない。
「取り敢えず元帥執務室のある最上階まで上がろう。屋根の上はその後で考えなきゃね。」
階段を駆け上がりながら咲口は息を切らして話す。
「おいおい大丈夫か?軍人なのにこんなんで息上がってよ。」
「咲口は頭脳派の上、内地担当だからな。」
島田も衣刀も佐藤にも、若干の呼吸の乱れがあった。しかし、いつ消滅の速度が速まってもおかしくはない。五人は無駄口を叩く事もなく最上階の執務室前までなんとか辿り着いた。
「取り敢えずここからなら最新の情報も目視できるだろ——」
だれもいない、と伝えられた佐藤の言葉は、確かに半ば合っていた。ここまで来る間、人にはだれもすれ違っていない。
「成る程、最後まで粘り強かったようだ。いや感服感服。自分達の置かれてる状態を鑑みて死に物狂いで生き延びたのは見事としか言いようがない。」
フィリップの言葉を途中で途切れさせたのは、レイの拍手と声だった。その表情にはぎこちなさも不自然さもなく、。今までの疑惑はフィリップの中で晴れた。これはレイ本人だったのだ。
「しかし、脱出の方法が見つけられなかったのは実に残念。いや、その体たらくで見つけられるはずもない。当たり前の事だ。冥土には行けないだろうが教えてあげよう。この世界はお前達を消し去る為に作られた。脱出方法などない。」
「俺らを消すたぁ?それでお前にどんな得があるってんだ。」
戦闘体勢をとるフィリップに、レイはいかにも同情しているといった表情を作った。
「お前にそれを知る必要はないよ。なんせ消えるのだか——」
刹那。執務室のガラスが一瞬にして砕け散った。黒いビロードのマントが外からの光を覆う。
「た、まるかぁー!」
その声は今先程まで聞いていたレイの声とそっくりだった。しかし、聞こえたところはまさしくマントの中である。
「どけフィリップ! そこにいられると邪魔なんだよ!」
急ブレーキをかけながらマントはそう怒鳴った。フィリップは慌てて咲口を押しのけて後退する。マントの中から一瞬にして、白銀の刃が抜き放たれる。
「お前、なぜここに……!」
「うるせぇ、ボケナス! ジークの件はあいつの独断だしまだ可能性があるからともかく、フィリップは俺の大事な親友だし、咲口達は俺の親父の部下だ! それに俺の思い出深い世界を、処刑台に使うたぁいい度胸だな。お前をどうにかできなくとも、こいつらだけは救う!」
刃の先はレイに向けられた。フィリップの目の前に現れた青年の剣幕に一瞬気圧されたレイは、しかしすぐに正気に戻って腰にあったロングソードを抜いた。
「ふん、そのご高説だけはきちんと聞いておこうか。」
「あぁ、後ろから来るぞ。」
酷く鈍い音がした。その影は刀の形はしていたが、その太さから恐らく鞘に入ったままのものだったのだろう。窓の外から一閃されたそれは、レイの後頭部を思い切り殴打した。
「ご紹介に預かりどうも。」
その軽やかな上流階級ばりの英語は、フィリップにあのフォントを打ち出したような文字を彷彿とさせた。軍人とは思えない長い髪とともに、するりと体重を感じさせない足取りで執務室の中にその男は入ってきた。
「げ、げ、げ。」
「あぁ、私の立派な執務室も無能な男の前では書類まみれになってしまったんだね。」
紙という紙によって様変わりした執務室に眉を下げながら、バスカヴィルは青年の背後に回った。
「っ貴様の存在は消え去ったはずだろう! どんな不正を働いた!」
「不正もなにも、チートしてるのは俺じゃなくてこいつのほうだ。」
床を蹴って、零はレイに膝蹴りをかました。そのまますっかり破壊された窓の外へ蹴飛ばされ、バスカヴィルはその後を追った。
「さ、時間稼ぎはしてもらってるからどうにかするぞ。」
「あ、貴方は一体……。」
佐藤の言葉に、零は唯一見えている口元で微笑むだけだった。全員の足元に突如として黒く輝く円が浮かびあがる。そして、フィリップを除いた四人の体が、段々と透け始めた。
「本当は長話したいんだが、それはまた今度だ。」
「ま、まだお礼もしてないのに!」
円の外に出ようとした咲口に、ほんの一瞬だけ電流が走るような痺れが生じた。
「お礼はまたできるって。会えるから待ってろ。」
その言葉とともに、日本軍の四人の姿は目の前から消え去った。零はフィリップに向き直る。
「お前、れい、って呼ばれてたな。」
「さすが中佐、恐れ入るよ。その鋭さを忘れないでくれ。お前にはROZENで何度も助けてもらった。ジークの事は、残念だけど、フィリップは悪くない。あれは、ジークが選んだ道だ。それに、あいつにもまた会えるさ。」
やがてフィリップの体も透けるようになり、黒いマントの向こうをどうにか見ようと、フィリップは目を凝らした。自らを救った青年の顔を、少しでも見ておきたかった。
「また会えるってのは、転生するから、なのか?」
「あぁそうだ。この世界の[人間]達は、転生するか[冥府]で最後の審判の時を待つか選ぶ事ができる。だけど、殆どは転生を選ぶんだ。ジークフリートもまた転生を選び、後ろの四人もまた——」
耳をつんざくような叫び声が二人の耳朶を叩いた。振り返るより先に、フィリップの目の前に剣先が現れる。
「愚かな、真似を。あそこで永遠に閉じこもっていればいいものを!」
引き抜かれるとともに、零の体はフィリップの方向へ倒れた。バスカヴィルの隙をついてレイが戻ってきたのである。執務室の中に転がり込んだ頃には、フィリップは体勢を崩して円の中で尻餅をつく。
「っ、親父はさっさと帰宅しろ無理すんな! フィリップ、このまま転移して……。まさかお前[核]ねぇのか!? 心臓部分にあった[聖杯]はどこにやったんだよ!」
「うるせぇ! 核とかなんとか知らねえよ!」
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「多少荒くなるだろうが使ってるうちに馴染むもんだから勘弁してくれ……!」
青白くまばゆい光が、フィリップの左胸から煌々と輝き始めた。そこから溢れ出るなにかは体の中にひしひしと染み込んでいって、温もりは母の腕の中のように暖かかった。フィリップは目を見開いた。視界も頭もなにもかもが温もりの先へ持っていかれる。
「こ、れは……。」
突然他人の記憶が流れ込んでくる。前世、フランス王国のブルゴーニュ公だったフィリップは、少しの時間を置いてそれが誰の記憶かすぐに分かった。しかし、それはまるで自らのどこか欠けていたものが、まるでジクソーパズルの最後の一ピースを、引き出しの下から、思いも寄らず久し振りに見つけて嵌めようとする感覚に似ていた。
「やめろ!」
フィリップの怒声が部屋に響くと同時に、レイの剣が見えないなにかに弾かれた。
「ここで起こったの、ひっくるめてだれにも言うなよ。」
衝撃でレイの体も壁に叩きつけられ、骨がいくらか折れたのか動けない状況でフィリップ達を睨みつけていた。
「お、おい、お前はどうすりゃいいんだ。俺は転移できそうだけど、お前は——」
「私が預かるよ、元の位置にくらい戻しておけるからね。」
すっかりフィリップにのしかかって意識を失った零を、バスカヴィルは軽々と持ち上げて片手で抱き上げた。
「げ、元帥。……そうだ、あんたあの、オカルトの。」
「いずれまた会うかもしれない。縁というものがこの世界にあるのなら。そのお話は、その時に。」
からかうようにウインクして、バスカヴィルは今にも朽ちそうな執務室の外へ歩んでいくと、その姿を足下に湧き上がった魔法陣とともに消した。執務室に残ったのはたった二人。レイとフィリップだけである。
「お前、覚えていろ。天界に戻ったら承知していろ!」
「あんたがなんなのかまださっぱり分かってねぇけど、この俺を敵に回した自分を恥じな。」
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