国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第一部 一章

第一話 転生事故

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 ――目を開くと、そこは牢獄だった。


「?」

 体を起こすと、辺りを見渡す。

 継ぎ目のない真っ白な壁。
 無機質で真っ白な天井。
 そして無骨な鉄格子。

 部屋にはベッドすらなく、真っ白な地面に横たわっていた。

「む……むぅ?」

 横から声が聞こえる。
 声が聞こえる方へと視線を動かす。

 そこには一人の美少女が倒れ込んでいた。
 服装は自分と同じで、白い無地のワンピース。
 腰まで届く長い黒髪に金の瞳。
 黒髪から覗く猫耳は、確かに獣人族ナウシュカの証。
 最初は冷たさすら感じた美貌だったが、今は見慣れた顔だ。

 だがあり得ない。
 見慣れた顔だが、目の前にいてはならないのだ。

「あれ? な、何でお前がここに――」

 倒れていた美少女が自分を見て呟く。
 外見は見知っている姿だったが、聞いた事のないトーンで話す美少女。

「お前こそ何で」

 と声を出して違和感に気づく。
 いつもと声が全然違う。
 少女より若い――幼い女の子の声だ。
 向こうも同時に、違和感に気づいたのだろう。
 手を口に当てて、目を見開いていた。

「声が」

 喉に手を当てると、いつもと手の感触が全く違う。
 ぷにぷにとした感触。
 恐る恐る手を広げると、普段より二回りは小さい掌。
 手だけでなく体も明らかに小さい。
 顔も触るとやはり小さかった。
 肩にさらっとした感触を覚えると思ったら、それは肩まで伸びた髪で。
 横髪を引っ張っぱり見ると、美しいブロンドだった。
 色白だったはずの肌も、日焼けしたかのように褐色になっている。
 ゆっくりと立ち上がると、いつもの自分より遥かに視点が低い。

 間違いない。
 この姿は……。

「まさか、アヤメ……なのか」

『俺』は、そう呟いた。

 そう、俺は――。

 佐藤綾人は、いつの間にか幼女になっていたのだった。

 
「ちょっといいですか?」

 幼女は横で呆然としている美少女に話しかける。

「は――い?」

 美少女はぎこちない返事を返す。

「ミーミル……さん? ですよね?」
「その名前を知ってるって事は……やっぱりその外見はアヤメ?」

 やっぱりそうだ。
 外見が同じだから間違いない、とは思っていたのだが現実を認めたくない一心での確認だった。
 だが現実は重くのしかかる。

「そうです。アヤメです」

 幼女は自分のキャラクターネームを言う。
 オンラインゲームのキャラクター。
 彼が五年という長きに渡って付き合ってきたMMORPG『リ・バース』のキャラクターネームだった。
 オンラインゲーム初心者の彼は、友達に誘われてリ・バースを始めた。
『この種族と、この職業の組み合わせが強いから、これやって』という友達の
 よく分からないアドバイスのままキャラクターをクリエイトした。

 成人しても小さいままという聖霊族エタニアの女性キャラ。
 攻撃力は低いが、魔法適性が高く、状態異常耐性に優れている。

 それがアヤメである。
 それが一体、どうしてこうなったのか。

「じゃあ……中の人は綾人……?
 な訳ないよな?
 外見が同じ別人だよな」

 引きつった表情でアヤメを指さす、ミーミル。
 ゲームでは誰にも言っていないアヤメのリアルネームを知っている人間。
 それは綾人をリ・バースに誘った友達『柳原雅也』その人だけだ。

「待ってくれ、じゃあミーミルは……雅也なの……か?」
「そうだよ! 雅也だよ!」

 目の前の美少女はそう言って力説するが、全く説得力が無かった。
 見た目はどう見ても猫の耳が生えた、黒髪長髪のグラマラスな女の子だ。
 現実の雅也とは似ても似つかない。

「じゃ、じゃあプロフィールを」
「佐々木雅也。年齢二十二歳。西園学園卒業後、黒金設計事務所に勤務」
「――じゃあ好きな食べ物は?」
「こぶ茶!」
「好きな萌え漫画は?」
「日常系全部!」
「日曜も仕事?」
「仕事だよぉ!」

 ミーミルの悲痛な叫びが、牢屋内に響き渡った。


「――ヤバい。本物だわ」
「その質問でこっちも本物だと分かった」

 どうやら目の前の美少女は間違いなく、雅也らしい。
 こぶ茶が好きで、萌え日常漫画が好きで、社畜の猫耳娘なんて雅也以外に知らない。

「どうしてこんな事に……」

 アヤメは記憶を辿る。

 確か昨日はゲームをしていた。
 だが最後の記憶はパソコンの前で、落ちそうになる瞼と格闘しながら
数字キーをポチポチ押していた記憶である。

「あれ? 昨日、寝落ちしてた?」
「してたな。急に動かなくなったから、また寝落ちしてるなーって思ったし」

 ミーミルは質問に頷く。
 当たり前と言えば当たり前なのだが、男らしい口調のせいかさばさばとした印象を受ける。

「その後は――そういえば今日って何かアップデートはあった?」
「無かったはず。メンテの日じゃないし。緊急メンテ告知もなかった」
「じゃあ大型アップデートで突然バーチャルMMOになった、って可能性はなし?」
「無い。ていうかVRデバイス接続しないと対応しないっしょ」
「ふむー」

 アヤメはその場にぺたん、と正座する。
 まずは状況を整理しなければならない。

「これは何事?」
「わからん」

 ミーミルは首を振る。

「何か覚えてない?」
「こっちも寝落ちしたんだよ。目が覚めたらご覧の有様」
「ううむ」

 アヤメはしばらく考えてから、ミーミルに質問する。

「状況を整理しようと思うんだけど」
「それがいいな」
「何を整理したらいい?」
「そうだな」

 正座した二人は考え込む。

 ゲーム世界の設定のままに自分が変質しているのだから
ゲーム内の要素がどれくらい引き継がれているか調べるべきである。

 例えばスキルはどうなったのか。
 システムメニューは表示されるのか。
 武器や防具やアイテムは?
 まずは自分がどうなったのか調べるのが先決だ。

 ――普通ならば。


「じゃあ、とりあえずオッパイ揉んでみるか?」
「なるほど。何かいい考えが思い浮かぶかもしれない」

 最初に思いついた答えがそれだった。
 二人はアホだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

×主人公=佐藤綾人
×友達=柳原雅也



〇主人公=アヤメ(幼精)
〇友達=ミーミル(猫女)
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