国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第一部 一章

第二話 魂違い

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「うーん、気持ちよくない。むしろ痛い」

 ミーミルは渋い顔しながら体をよじる。

「柔らかい……でかい」

 アヤメは正座したまま、憑りつかれたようにミーミルの胸を揉んでいる。
 妙に鼻息が荒いし、顔が紅潮していて、ミーミルは純粋にキモイと思った。

「とりあえずゲームで無い事は確かだな」
「うん。それは確かに。うん」

 とてもリアルな感触に、二人はその事を実感できた。
 現代のVR技術では、ゲームと脳の感覚のリンクは実現できていない。
 ――というか倫理やら道徳やら何やらの反発が非常に強く、恐らく永久に完成しないだろう。
 つまりここは間違いなく、ゲームの中ではない。

 現実なのだ。

「それはそうと、いい加減痛いって。このまま引きちぎる気か? 痛い痛い」
「うーん、力加減がよく分からない……」
「なるほど。さては童て――処女か貴様」
「しょしょしょしょ処女ちゃうわ!」

「ゴホン――失礼します」

 不意に横からかかる声。
 声の方向へ二人が同時に振り向くと、鉄格子の向こうに赤髪の大男が立っていた。

 白い肌に、青い瞳――恐らく日本人ではない。
 頬に深い切り傷の跡があり、ゴツい軍人のようなイメージだ。
 ファンタジー世界に出てきそうな、深紅の金属を金で装飾された、きらびやかなブレストアーマーを着込んでいる。
 アーマーの真ん中には炎をモチーフにしたエンブレムが刻まれていた。
 腰には赤い剣を携えている。

 何だか赤尽くしだった。
 よく見ると顔も赤い。
 一言で言うなら、水属性が弱点のような男だった。

「あー、ゴホン。お楽しみの最中、申し訳ありませんが、調子はどうでしょうか」

 その言葉で男が顔を赤くしている理由に気づく。
 アヤメは慌ててミーミルの胸から慌てて手を放した。
 客観的に見て幼女が猫娘のおっぱいを揉み続けているのは、かなり狂った絵面である事は間違いなかった。

「こ、これは誤解です! ただの確認なので! 特にやましい事では」
「にゃっふーん。もっと確認してぇ」
「その全く色気のない棒読み喘ぎを止めるのです!」

 アヤメはミーミルに腹パンを入れる。

「こひゅう」

 奇妙な呼吸音と共に、ミーミルは正座のまま突っ伏した。

「あー、ええっと。すみません、何でした?」
「え? あ、そ……そ、そうだ」

 男は露骨に引きつっていた表情を引き締める。

「その、体の調子はどうでしょうか? 何かおかしい所はありませんか?」
「調子は――おかしいです」

 アヤメは素直に答える。

「むっ!? 何か調子が悪いのですか? どこか痛む所が?」

 アヤメの言葉に、男が心配そうな表情を向けた。

「いや、調子はいいんですけど……根本がおかしくなっているというか、何というか」

 体調はすこぶる良い。
 むしろ人生の中で、最も調子がいいと思えるくらいに元気だ。
 だが根本的な所がおかしくなってしまっている。

 性別が。

「まあ……体が痛いとか、そういうのは無いです」

 アヤメは説明しようと思ったが、面倒くさくなって止めた。

「そうですか。それなら良かった……」

 男はアヤメの言葉を聞くと、安堵の表情を浮かべる。
 そして少し緩んだ表情のまま、言葉を続けた。

「私の名前は、オルデミア・エヴァ・ノクタリスと申します。アイリス帝国の第一騎士団長を務めている者です。貴女達の身の回りの世話を、ミゥン皇帝から頼まれております」
「……はぁ」

 全く聞いた事のない国の名前だった。
 もちろん『リ・バース』にもそんな名前の国は存在しない。
 また人の名前も聞いた事がない名前ばかりである。
 そんな名前のNPCなど存在しない。

「突然の事で、困惑されている事でしょう。ですが、落ち着いて話を聞いて欲しいのです」

 どうやらこの男が、二人の置かれている現状について答えを持っているらしい。
 アヤメは正座したまま、男の話を聞く事にした。

「まず我が国は――蛮族の攻撃や、隣国からの侵略に脅かされています。このままでは国が滅ぶのも時間の問題……そこで、我々は助けを求めることにしました。かつて世界を動かしたと言われる伝説の偉人を現代に復活させ、救いを求める事にしたのです」
「なるほど。それはまた壮大な」

「しかし、その法は世界を書き換えるに等しい外法にして禁忌の呪法……。成功率は限りなく低く失敗が続きました。ですが、奇跡が起きた。私たちは伝説の偉人の魂を復活させる事に成功したのです」
「はい」

「復活に成功したのは、我が帝国を建国したと言われる、伝説の双子の英雄、閃皇『デルフィオス・アルトナ』と剣皇『マグナス・アルトナ』――お二人の魂でした」
「ふむー」

「――そうです。突然の事で驚かれているでしょう。実は今、あなた方がここにいるのは、我々がお二人の魂を現世にお呼びしたからなのです!」
「人違いです」



「?」

 オルデミアはアヤメの言葉に首を傾げた。

「その何とかアルトナではないです。私はアヤメ」

 そして床に突っ伏してビクビクと痙攣している美少女を指さし、
「こっちがミーミルと言います」
 アヤメは笑顔で、はっきりと伝えてやる。

「???」

 だがオルデミアはさらに首を傾げただけだった。

「その何でしたっけ……禁忌魔法、失敗したんじゃ? 多分、違う人を呼び出してますよ」

 その一言でオルデミアの顔が、さっと真っ青になった。
 さっきまで赤い人だったので、ギャップがすごい。

「少々お待ちを」

 オルデミアは二人にそう告げると、衛兵に耳打ちする。

「なるほど――かしこまりました!」
「急いで頼むぞ!」

 衛兵はバタバタと走り去っていく。
 オルデミアはその後ろ姿を見送ると、落ち着きなくその場をウロウロし始めた。
 オルデミアの顔は蒼白のままである。
 時間が経つにつれ、親指の爪を噛みはじめ、その手はブルブルと小刻みに震え出す。
 その余りの狼狽っぷりに、本人だけでなく見てる方まで胃に穴が開きそうな気分になる。

「あの姿、100を1000って発注し間違えた新入社員時代を思い出すわ」

 いつの間にか復活していたミーミルが呟くように言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


オルデミア・エヴァ・ノクタリス=アイリス帝国第一騎士団長(赤い人)
アイリス帝国=今いる国
ミゥン皇帝=今いる国の皇帝

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