国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

文字の大きさ
4 / 136
第一部 一章

第三話 夜逃げ済み

しおりを挟む
 
 そして――。

 アヤメ時間で三分、オルデミア時間で三十分くらい経った頃だろうか。

 衛兵が戻ってきた。
 衛兵の顔も顔面蒼白である。
 それを見た時点でオルデミアは今にも倒れそうであった。

「大変です! あ、あの術士の部屋にこんな書置きが!」
「み、見せてみろ!」

 衛兵からひったくるように、オルデミアは書置きを手にする。
 その内容にオルデミアの体は完全に硬直した。
 アヤメは正座から立ち上がると、書置きを覗こうとする。
 だが身長が足りなかった。
 代わりにミーミルが書置きを覗きこむ。

「何て書いてある?」

 横からアヤメはミーミルに聞いてみる。


「んーとねぇ、『二千年前の偉人の魂なんか復活できるわけないだろ! いい加減にしろよこんな国滅びろ』ってさ」


「……」

 アヤメとミーミルは渋い顔をして、無言で顔を見合わせた。

 やはりその禁忌魔法は失敗していたのだ。
 そして失敗した結果、二人はここにいる。

「きっと無理言われて鬱になったんだろう。あ、そういえば上司の三輪さん、先週からうつ病で入院しちゃってさぁ。仕事が回らない回らない」
「それで日曜も?」
「出勤アンド残業」
「うーむ、真似できない……」
「お前も働きだしたらそうなるから覚えていろ大学生。楽しいのは今のうちだけだ。再来年の就活が楽しみだな?」

 ミーミルはギリギリと歯ぎしりしながら、アヤメを睨んだ。
 その表情は社畜の鬱屈した凄みを感じさせる。

「オルデミア様、どう致しましょう……」

 不安そうな衛兵の言葉に、オルデミアは遠い彼方に飛んでいた意識を取り戻す。

「そうだな――今は内密にしていてくれ。対策を考える」
「わ、わかりました」
「私はこの二人と少し重要な話をする。お前は席を外してくれ」
「了解致しました!」

 衛兵は叫ぶと、監獄の外へと出て行った。
 そしてオルデミアは衛兵がいなくなるのを確認すると、

「おわった」

 そう言って地面に座り込んでしまった。
 体操座りになって、ピクリとも動かなくなる。

「何だか大変な事になっているみたい……」
「だな」

 事情も何も分からないが、オルデミアに悲劇が起きている事だけは、はっきり分かった。
 小声で「むりだ」とか「しのう」とか言っているので間違いない。
 見た目よりずっとメンタルが弱いのか、強いメンタルがへし折れる程の事態が起きているのか、そこまでは分からない。
 しかし、さっきまでのゴツい軍人のようなイメージはすっかり霧散してしまった。

「とりあえず何だかよく分からない禁術で俺達はこの知らない国に召喚された……って事でいいのかな?」
「それでいいんじゃね?」
「ていうか、そもそもここは地球?」
「聞いた事ない国の名前だったから、地球じゃないかもな。そのまま信じるなら、だけど」
「地理苦手だからアイリスって地名、地球にあるかもしれない」
「仮にあってもこんな剣と鎧で武装した国ないっしょ。あったら有名で観光地だよ」
「確かに」

 ――参った。

『何かのドッキリであればいい』と思うが、ごく普通の一般人である二人に、こんなやたら手の込んだドッキリを仕掛ける理由など思いつかない。
 だとしたら本当に別の星か何かにワープさせられたのかもしれない。
 宇宙人のUFOにさらわれるように、何かの超科学で違う星に飛ばされた。
 まあ、どちらにしても信じ難い無茶苦茶な話ではあるのだが。

「すみません。ちょっと質問」
「うへぁ?」

 ミーミルが話しかけると、オルデミアは気の抜けた返事をする。

「じゃあ間違いなら間違いで、元の世界に帰して欲しいんだが。いや、やっぱり帰らなくていいか? 帰っても辛くて苦しいだけだし、その方がきっと幸せになれそ」
「落ち着いてブラック企業勤務。元の世界に帰りたいので、帰らせて下さい」

 いきなり心の平静を乱し始めたミーミルの言葉を遮り、アヤメは聞いてみる。
 呼び出したなら、戻せるはずだ。

「あ……ああ……うう」

 だがアヤメの言葉を聞いたオルデミアは、頭を抱えてしまった。

「まさか戻せない?」
「……戻せる人間はいなくなってしまった」

 オルデミアはそう呟くように答えた。

「手紙の主――このプロジェクトを主導していた術士が、行方不明になってしまったのだ。その術士以外には、禁術は行使できない」
「なら誰か代わりに禁術を……」
「あの術士は未知の技術と、恐るべき魔力を持っていた。あの能力があってこそ、行使できた術だ。奴がいなければ、もはや再召喚も叶わん。いや、そもそも召喚自体が無理な話だったのだな……フフフ」

 そう言ってオルデミアは自重気味に笑う。
 かなり精神的に追い詰められているようだ。

「じゃあ今から探せばいいんじゃね? 指名手配したりすればいい」
「もう間に合わん。いなくなってから一週間は経っている。恐らくこの国にはいないだろう。今頃は国外に逃亡している」
「どうしてそんなに放置を……」
「あいつが『徹夜続きで疲れた、研究も終わったし、一週間くらい休暇が欲しい』って言った! 俺も確かに疲れているだろう、と思って休暇を与えたのだよ!」

 そう声を荒げたオルデミアはさらに深く頭を抱える。

「何かおかしいような気はしていた。体に魂が定着して目を覚ますのに時間がかかるとか何とか、暴れるかもしれないから牢に入れておいた方がいいとか――そもそも剣皇様は亜人種じゃなかったのに、何で信じてしまったんだ。いくら二千年前の風化しつつある伝承でも、人種までは間違って伝わっていなかっただろうに……!」

 丸まったオルデミアはそのまま「馬鹿だ」とか「アホだ」とか呟き始めた。

「むーん」

 アヤメは唸ると地面に胡坐をかいて座り込む。

「止めなさい、女の子が胡坐なんてはしたない。パンツ見えますよ。パンツもろだしはいくら中身が男でも恥ずかしいでしょう」
「お母さんか!」

 ミーミルの突っ込みで、少し顔を赤くしながらアヤメは正座に座り直す。

「それはともかく、どうしたもんかね」

 ミーミルもアヤメの横に座る。
 と聞かれても、いい考えはアヤメも浮かびそうになかった。

「とりあえずアヤメ、俺の胸を揉んだから、俺もそっち揉んでいいか?」
「胸を揉んでもいい考えは浮かばないのは実証済み」
「んー、まぁ、揉むほどの胸はないからいっかぁ。ゴリゴリするだけだろうしな!」

 そう言ってミーミルはニャハハハと笑う。


 ――何故か非常にムカついた。


 アヤメはミーミルの豊満な胸を掴むと引きちぎる。

 と思ったがやめた。
 胸のネタは想像以上に頭に来る、というのが女になってよく分かった。
 殺意すら覚えるくらいだ。

 と思った所で、目の端に何かが映り込んだ。

「ん――?」

 点滅する光。
 いや、よく見ると光ではない。


 アイコン。


 しかも見知ったアイコンだった。
 このアイコンは――。

「PKモードONアイコン?」
「ん、どした?」
「今、視界の中にPKモードONアイコンが浮かんでる。そっちから見える?」
「何も見えんねぇ」

 アヤメの目には確かに、アイコンが映り込んでいた。

『リ・バース』にはプレイヤーに攻撃できるモードが搭載されていた。
 街や安全地帯以外ならば、それをONにすれば殺人――プレイヤーキルが可能だ。
 まあ実際にプレイヤーが死ぬ訳ではなく、キャラが殺されるだけだが。
 ノーリスクの決闘や戦争とは違い、PKをした場合は殺されたキャラクターは経験値が減少し、殺したキャラクターにはそれに勝る重度のペナルティが課せられる。
 オンラインゲームなのだから、基本的には会話で大体の問題は決着がつく。
 だが会話がまとまらず、それでも決着をつけねばならない事が起きた時に、ONにすれば相手を力で排除する事が可能になる。

 それをONにするアイコンが、アヤメの目には見えていた。
 しかしアイコンは不意に消滅する。

「消えた」
「何が?」
「PKアイコンが消えた……」
「よくわかんないけど、殺したい相手でもいた?」
「そんな訳――」

 いや、違う。
 さっきアヤメはミーミルに対して殺意を抱いた。
 まさかそれに反応して、PKモードを促すアイコンが表示された?

「実はさっき、ミーミルが俺の事を大平原の小さな胸って言った時に」
「言ってないぞ」
「ちょっと殺意を覚えたんだ。そしたら、目の前にアイコンが出てきた。『リ・バース』で表示されていたPKモードONアイコンが」
「ええ……思ったら表示されたって事? じゃあ仮にインベントリを思って、体力回復剤でてこい~♪で回復剤が出るとでも」

 
 ――カツン。

 
 ミーミルの正座している膝の前に、赤い液体の入った薬瓶が出現した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


閃皇『デルフィオス・アルトナ』=昔の偉人(皇帝)
剣皇『マグナス・アルトナ』=昔の偉人(皇帝)

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

処理中です...