国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第一部 二章

第二十三話 目立たないようにしよう作戦開始

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「よく考えたら毒もやべーな」

 ミーミルはソファーに寝そべりながら呟いた。

「そう? 毒抵抗あるから大丈夫じゃないの?」
「いや、今回はCLASS3だったけどさ、次回はCLASS4かもしれないじゃん?」
「クラ? 何だって???」

 オルデミアがまた出てきたゲーム用語に疑問符を浮かべている。

「こっちの話なんでスルーで」
「す、するー? どういう意味だ?」

 さらに疑問符を浮かべたオルデミアを、スルーしながらミーミルは話を続けた。

「俺はCLASS7まで平気だからいいけどさ。アヤメは5までじゃん? もしもっと強い毒を盛られたら――」
「なるほど。そのうち抵抗破られるかもね」

 抵抗力以上の強力な毒を受ければ、当然ながら毒のバッドステータスになる。
 まあ仮に破られたとしても、ミーミルとアヤメのレベルならばCLASS7程度の毒なら、座っていればHP自動回復分で毒ダメージを相殺できる。
 食らうとヤバイのはCLASS10辺りからだ。
 それでもセルフヒールや体力回復剤を使いながら、毒効果時間が切れるまで持ちこたえる事も十分に可能である。

 だが、それはあくまでゲームの中での話である。
 抵抗を破る程の毒を受ける事で、どんな影響が出るか分からない。
 何よりこの世界には痛みがあるのだ。
 死ななくても、死ぬほど苦しむかもしれない。
 少なくとも一定時間、苦しみ続けるような事態に陥りたくは無かった。

「毒にも気をつけないと駄目かぁ……」

 アヤメはため息をつく。
 広い部屋を沈黙が支配した。

 こんなにも命の危険が迫っている状況だとは思っていなかった。
 少し考えれば予測は出来ただろう。
 だがあくまで予測出来るだけで、リアリティは欠けていた。
 少なくとも、今日会ったばかりの人間に、食事を食べていたら殺される――なんて心構えまでは出来ていなかったのだ。

「ったく、何でこんな事になってしまったのか」

 ミーミルはそう言って頭を抱える。
 その気持ちはアヤメも同じであった。

 異世界に飛ばされて、ゲームの設定を引き継いで、美少女と第二の人生を。
 創作物でよくありそうな内容だが、現実はどうだ。


 いきなりの性転換から、元の世界には戻れません宣告を受け。
 知らない英雄の演技をしながら、国の運命を任され。
 美少女はあらかたポンコツの難有りで。
 様々な人間からの嫌がらせに苦しみつつ。
 いつの間にか権力闘争に巻き込まれ、毒を盛られて殺されかけて。
 そして、これからも命を狙われる日々が確定した所だ。


 あまりにも現実がひどい。

 
「とにかく……しばらくは大人しくすべきだな。目立って存在感を出せば、それだけ四貴族に敵対視される。今が最も警戒している瞬間だ。それを過ぎて、警戒に値しない存在と思わせられれば、暗殺対象から外れるかもしれない」
「僕は城壁をふっとばしたんですけど、ほとぼりは冷めますかね」

 オルデミアはミーミルから視線を逸らすと、アヤメを見る。

「アヤメ殿、過程はどうあれ、貴女は私の命の恩人だ。出来る限りサポートさせて頂く」
「あ、ありがとうございます」

 アヤメは頭を下げた。

「僕はどうなるんでしょうか。どうなってしまうんでしょうか」

 しつこく食い下がるミーミル。

「サポートはするが余り期待しないで欲しい」
「オアー」

 ミーミルは悲しそうに鳴いた。

「――とにかく、だ。まず今後は派手な行動をしない。今後の作戦はそれで行こう」
「なるべく目立たない、ね」
「りょーかい」

 三人がそこまで話した所で、急に部屋のドアが開いた。

「失礼します!」

 部屋に入って来たのはコカワだった。
 そしてもう一人、白衣の老人――恐らく医者が傍らで息を弾ませている。

「ど、毒を受けた方はどちらに?」

 そう言えば助けを呼んでいたのだった、とミーミルは思い出す。

「ええと、治りました。急に治ったみたいで……」

 ミーミルは申し訳なさそうに言う。

「そんな――馬鹿な」

 医者が目を見開いて、立ち竦む。

「やっぱりそうでしたか」

 コカワが意味不明な言葉を発した。
 やっぱりそうでした、とはどういう事だろうか?

「何かあったのか?」

 医者とコカワのただならぬ様子に、オルデミアが問いかける。
 そして、その問いにコカワはこう答えた。

「城内の療養所にいた兵士達が、先ほど突然、治癒したのです」
「治癒とはどういう事だ?」

 オルデミアが思わず聞き返す。

「医者の話によると、先ほど療養所の兵士達の体が淡い紫色に発光したかと思うと、外傷があらかた治っていたというのです。三日前に足を骨折した兵士も、いまでは杖無しで歩けるほどに回復したとか――」


 ミーミルがアヤメを見る。


「あんまりにも驚きましてな。外の者とも連絡を取ってみたのですが、城の中だけで起こった現象のようなのです。このような現象は医者人生五十年、一度たりともありません。何か神様が奇跡でも起こしたのかと思うばかりで」


 オルデミアがアヤメを見た。


「実はこの奇跡、閃皇様が起こしたのではないか? と城内で噂が広まっております。治癒した兵士達が、もしそうであるならば閃皇様にお礼を言いたいと騒ぐ事態になりまして……ああ、ご安心ください。その騒ぎは、すでにカカロ様に抑えて頂きました。『閃皇様はすでにお休みになっている』という事で本日は納得して貰えたようです」


 そう言ってコカワはアヤメを見る。


「騒ぎのせいで診療所は完全に機能停止してしまいましてな。それでここに来るまでに、随分と時間がかかってしまったのです。ともかく、無事で良かったですじゃ」


 そう言って医者は笑ってから、アヤメを見た。


「所で閃皇様は――もしかしてそちらの方でしょうか?」

 そして全員の視線が集まったアヤメは、こう言った。


「ふええ」


 目立たないようにしよう作戦は頓挫した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『アーディライトの夜想曲』

スキル分類 魔ノ唄
消費MP 55
効果時間 300
クールタイム 0
効果 自然治癒力を上げ、HPとMPの自然回復量を大幅に引き上げる。
備考 薄い紫色の膜が展開される。


『効果範囲 1000』
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