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第一部 二章
第二十二話 暗殺
しおりを挟む――夢を見た。
幼い頃に、木の陰で眠る夢を。
そこには母がいて、父がいた。
父は、母と何か話していたが内容は判然としなかった。
そして自分は、母の膝枕で吹き抜ける風の涼やかさを感じながら、まどろんでいた。
そんな自分の頭を優しく撫でながら、優しい笑みを浮かべる母親。
そして母はかつての記憶そのままの声で、こう言った。
「オルデミア、まだ眠ってはいけませんよ。やるべき事があるでしょう?」
「……!」
目が覚めた。
誰かの膝枕。
そして自分を見下ろす顔。
夢の続き?
「良かった。目が覚めたな」
ミーミルがふぅ、と息を吐く。
「体はどこか痛い所は無い?」
そう言ってアヤメはオルデミアに優しく微笑みかける。
「母さん――」
「え?」
「あ――いや、何でもない。体に不調な所は無いな」
夢の続きと思ったがオルデミアを見下ろしていたのはアヤメだった。
子供を母親に見間違えるなど、どうかしていると思いながらオルデミアは体を起こした。
「あいたた。足痺れたー」
そう言ってアヤメは足を痛そうにさする。
超人的な身体能力でも痺れる時は痺れるようだ。
「済まない、膝枕――をしてくれていたのか?」
「その場の勢いなので気にしないで。いたた……」
アヤメは痺れに耐えながら答える。
「私は……どうなったのだ?」
まだオルデミアは頭に霞がかかったようにぼんやりとしていた。
状況把握が十分に出来ていない。
「シシルの実に毒が盛られてたみたい。解毒薬と歌が効いて良かった。本当に死ぬかと思ったもん」
「そう……か。お前たちは私の命の恩人だな。心から礼を言う」
「元々は俺たちのとばっちりだし、気にしなくていいって」
「いや、助けて貰ったのは事実――そうだ。お前たちは大丈夫だったのか?」
「大丈夫、弱い毒なら効かないから」
そう言ってアヤメは笑みを浮かべる。
「弱い毒……と言っても私は死にかけたようだが……」
改めて『自分は本当に何を呼び出してしまったのだ』と思いながら、シシルの実に目を向けるオルデミア。
「暗殺――暗殺か。うっかりしていた。まさかいきなり仕掛けて来るとは。いや、警戒していなかった今だからこそ、実行できたという事なのだろう。完全に裏をかかれた」
そう言ってオルデミアは唇を噛みしめる。
暗殺の予想はしてはいたが、即日実行して来るなど思いもしていなかった。
「これってやっぱり、あの貴族の人たちがやったのか?」
「だろうな」
「マジかー」
ミーミルは顔を引きつらせる。
会食で全くそんな素振りは見えなかった。
全員が楽しく食事をしたと思っていたのに、腹の中では二人を殺す算段を整えていたというわけだ。
「じゃあ怪しいのは?」
「全員だ」
オルデミアの気持ちよさすら感じる即答にアヤメも顔を引きつらせる。
どうやらこの帝国は相当に闇が深いらしい。
まあ策謀で王族が全員死んでるので、当然と言えば当然の話なのだが。
「シシルの実を持ってきたのはマキシウスだろ? って事はマキシウスが一番怪しいんじゃね?」
「いや、そうとも限らん。シシルの実に別の人間が毒を仕込んだ可能性もある。マキシウスに罪をなすりつける為にな」
「――じゃあそれ以外?」
「その裏をかいてマキシウスが毒を仕込んでいるかもしれん」
「何とか調べられない?」
「無理だろうな……そんな甘い相手ならば、王族暗殺の時点で処断されている。あの四人は王族殺しをやってのけ、それでも平然と地位を保ち続けている四人なのだ」
「そう考えるとミゥンがまだ殺されてないのは奇跡だな」
ぽっと出の皇帝候補なんか、一瞬で殺されてもおかしくない。
今も普通に生存しているのが不思議なくらいだ。
「ミゥン様は――その」
オルデミアは苦虫を噛み潰したような、何とも言えない表情をする。
その顔でミーミルは察した。
「あー、なるほど。殺さなくても余裕で操れる、って事か」
「うむ……失礼ながら、簡単に言えば、そういう事になる」
これまでのミゥンの様子を見ればわかるが、政治に参加しようとする気力がない。
会食でもまともに貴族と政治の話をせず、本当にご飯を食べていただけであった。
ミゥンならば傀儡皇帝として、自由に動かせると思っているのだろう。
だから殺さず、生かされている。
そして同時に、貴族たちはアヤメとミーミルを自由に動かせないと思っている事となる。
邪魔であると、思われているのだ。
「あの……やっぱり、これからも狙われるのかな?」
アヤメが不安そうな表情でオルデミアに聞く。
――そんな事はない。
そんなアヤメを見たオルデミアは安心させたかったが、どうしても嘘はつけなかった。
「狙われるだろう。恐らく四貴族に、君たちは敵として認識されている」
「ぬぁー。めんどくせぇ! いっそ全員ぶっ殺してしまうか!」
ミーミルが途轍もなく物騒な発言をする。
「そ、それは止めてくれ。今の状況で各領のトップがいなくなれば確実に国は滅ぶ。中央だけでは支えきれんのだ」
「ゲームと違うんだから、面倒だからPKってのは止めてよ」
「PKペナ高すぎるわ。リ・バースと同じでカルマ下がるくらいでいいじゃん」
「な、何の話だ?」
突然のゲーム用語に戸惑うオルデミア。
「ええと、こっちの話なので気にしないで」
アヤメは苦笑しながら手を振る。
「ともかく何だか分からんが、そういう強硬手段は勘弁してくれ」
オルデミアは厳しい表情でミーミルを見据えた。
「りょーかい」
ミーミルは、ややふてくされながらソファーに勢いよく座った。
「問題は今後だ。何か対策が必要だろう」
「対策……」
アヤメは考え込む。
毒は無視できるから気にしなくていい。
問題は刺客の方だ。
「暗殺者が来た時が一番、怖いかも」
「確かにそうだな。我が城にも、四貴族の領地から出稼ぎで働いている者も多い。つまり四貴族の息がかかった者達が、複数存在するだろう」
「何でそんな外部の人間、雇っちゃったかなぁ」
「仕方ないだろう。暗殺の可能性があるから全員出て行け、など通るはずがない。四貴族から激しい抗議は間違いないだろうな。我が領民に対する差別だ、と。何より領地は違えど、同じ国民なのだ」
「ぐぬぬー」
ミーミルは唸りながら、ソファーにぱたりと横に倒れた。
やはり、というか何というか対策なんか簡単に出てこなかった。
良く考えると暗殺にあった時に、この国の人たちは色々と対策を考えたはずだ。
オルデミアやカカロ、リリィ、きっと他にも沢山。
その人たちが考えて、謀殺の嵐を止められなかったのだ。
それなのに、ほんの十数時間前にお邪魔した異世界人が、彼らよりいい考えを思いつくはずなどない。
それに気づいたアヤメも、ソファーに力なく座った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・『リバース』におけるPKシステム
プレイヤーキルモードをONにするとセーフゾーン以外で
モンスターと戦うのと同じようにプレイヤーに攻撃スキルが使用できる。
PKされた側=死亡時経験値ダウンペナルティと、被PKペナルティ(30分行動不可)が付与。
PKした側=カルマが-1000下がり街の守護NPCが全て敵対化。全商店使用不可能。アイテムトレード不可となる。
カルマを戻すには死ぬ(カルマ+400)かモンスターを倒す(カルマ+1)の方法がある。
なお一般プレイヤーのカルマ値は0が基本値でそれ以上には普段はならない。
戦争で城主ギルド所属プレイヤーになるとカルマ値ボーナスが貰え、一定の回数は合法的にPKできる。
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