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第一部 三章
第三十九話 群がられる幼女
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「邪魔にならない?」
「なりません。閃皇様もその強さは剣皇様に勝るとも劣らないと、伝承では聞いております。兵士達の良い模範になるかと」
「……そうでしたっけ」
初耳だった。
剣を極めた武人と同レベルという設定だとは聞いていない。
「そうですよ。閃皇様と剣皇様では、また違った需よではなく違った戦い方が見られるはずですから。それは素晴らしい勉強になるのです」
「うーん……」
剣を持つ職業じゃないのに、剣を教えたりできるのだろうか。
兵士達は剣術を何年も修行してきているはずなのだから、例えるならプロに素人がレクチャーするようなものだ。
とても上手く教えられるとは思えなかった。
「剣皇様! よろしくお願いします!」「今日はぜひ私と!」「どうも剣筋がブレているような気がしまして! 調整して頂ければ!」「まずはじっくりストレッチをすべきです!」
「あー、順番、順番で――近い近い!」
ミーミルはすでに大勢の兵士に取り囲まれている。
兵士の目が妙に血走っているのが気になるが、それだけ勉強熱心なのだろう。
とアヤメは解釈した。
「ヴァラク、フィードゥ! 剣皇様は頼んだぞ!」
「任せろ! お前ら近すぎるぞ! 押すな! コラ勝手に尻尾に手を触れない!」
「はい下がって! お触りは禁止! 下がって!」
「ニャー」
人の渦に巻き込まれているミーミルを放置し、アヤメは少し離れた場所に移動した。
「閃皇様、ここでやりましょうか」
エーギルが案内をしてくれる。
ミーミルの方はヴァラクが面倒を見てくれるようだった。
「う、うん」
「では誰と試合を希望されますか?」
「あの、まず簡単に練習でいい?」
ミーミルと違って木刀を持つ事すら、アヤメは初めてである。
まずは練習からやりたかった。
「ふむ……では素振りからですね?」
「そう、かな? 素振りは大事のはず」
「分かりました。では振り下ろしの素振りから」
エーギルは木刀を構えると、振り下ろした。
空気を割くような音がする。
軸がブレておらず、剣速も速い。
必要以上に力が入っておらず、安定した振り下ろしだった。
「えい!」
続いてアヤメも掛け声と共に、木刀を振り下ろす。
空気が破裂したような音がした。
その速度はエーギルの目でギリギリ捉えられるかどうかだ。
剣皇の見えない斬撃程ではないが、閃皇の斬撃も近いレベルにある。
エーギルは見かけに騙されないようにしないと、と思った。
「力を入れ過ぎて固くなっていますね。もっと肩の力を抜いて下さい」
「はい」
「体は柔らかく、鞭のように。振り下ろす瞬間に、柄を握って下さい。そうすれば剣先が疾ります」
「は、はい……!」
アヤメは言われるままに体の力を抜き、木刀を振りかぶる。
その瞬間、木刀が手からすっぽ抜けた。
すっぽ抜けた木刀は、弾丸のように飛んでいき、天井へ突き刺さる。
「!?」
天井は石造りである。
「さ、刺さっちゃった」
アヤメの周りにいる兵士達は、その様子を唖然としながら見ていた。
木が石に突き刺さるというのはどういう現象なのか。
「う、うーん。ちょっと久しぶり過ぎて体が錆びついてるみたいかな? ……なんて」
剣皇と同等クラスの剣術能力があるという伝承があるのに、この体たらくはマズイ。
アヤメは苦笑いを浮かべながら、何とか誤魔化そうとする。
やはり剣の適性はかなり低めらしい。
得意武器も『リ・バース』のキャラ設定を引き継いでいるようだった。
そうなるとやはり剣術ではなく、歌で戦うのがベストかもしれない。
ただスキルを使うのは危険すぎる。
レボリューショナリーの攻撃歌スキルは、殆どが範囲攻撃だからだ。
ミーミルの魔人刀スキル程の威力は無いが、半分くらいの威力はある。
恐らく歌うだけで家くらいなら楽に吹き飛ばせるだろう。
そんなものを人に向けて撃つつもりはないし、こんな屋内でぶっ放せばミーミルの二の舞は間違いない。
「そ、そうですか……いきなり練習というのも問題だったかもしれません。まずは体をほぐす所からやりましょう」
そんなアヤメの内心も知らず、エーギルは『錆びついててコレかよ』と思っていた。
「そう! 準備運動忘れてた!」
アヤメはエーギルの提案に乗っていく。
誤魔化せるなら何でもアリだ。
「では体の筋を伸ばして行きましょう。地面に座って下さい」
「うん」
アヤメは地面に座る。
「おい! お前たちもボンヤリしていないで準備運動だ! 二人一組!」
エーギルは周りで観戦モードに入っていた兵士に檄を飛ばす。
兵士達は慌てて地面に座った。
「まずは前屈から行きましょう。こうやって手を伸ばして」
見よう見まねで柔軟体操をする。
「んぐぅー」
身体能力が強化されているのに、体の固さは余り変わっていなかった。
もしかしたらゲームには『柔軟性』というパラメーターが無いからかもしれない。
「随分と固いですね。股割りは出来ませんか?」
そう言ってエーギルは足を開き、そのまま体を倒して地面に胸をくっつける。
「す、凄い」
実際に目の前で見るのは初めてだった。
人間の身体はここまで柔らかくなるのか、と生命の神秘を感じる程である。
「これくらいは基本ですよ。出来ないと怪我の元になりますからね」
「そうなんだ……」
「さ、閃皇様も頑張ってみてください」
「うう……無理」
弱音を吐きながらアヤメはめいいっぱい開脚する。
やはり身体の固さは昔と何も変わっていなかった。
「ふむ、では手伝いましょうか。失礼しますね」
エーギルはアヤメの太ももを持ち、少しずつ開く。
「いたたた」
「これくらいが限界ですかね――では後ろからゆっくり押しますので、息を吐いて下さい」
エーギルが後ろに回って背中をゆっくり押して来る。
「ウギギギギ」
「固いですね……足はもう少し開きませんか」
そう言ってエーギルはアヤメの内股に手を添える。
「隊長、宜しいですか」
いきなりエーギルに兵士の一人が声をかけてきた。
「む? どうした?」
「反則ではありませんか」
「は?」
エーギルは首を傾げる。
気が付くとエーギルの周りには人だかりが出来ていた。
ミーミルの周りにいる人数の方が多いが、さっきよりこちらに人が流れて来ている。
「何が反則だ?」
「一人で閃皇様を独り占めするのがです」
「……」
エーギルは少し考えてから、周りを見る。
閃皇の前方だけ人口密度が高い。
前列で前屈している兵士が、いつもより遥かに体を丸めていた。
不自然にならないように、できる限り視点を低くしようとしている。
「お前らって奴はどうしようもないな……」
集まってくるとは思っていたが、こうも露骨ではいつバレてもおかしくない。
「どうもこうも、反則ではありませんか?」
代表の兵士の言葉に、周りの兵士達も頷いている。
「いいか? 余り露骨にやると――」
よく見ると『こっち側』の兵士に、自分の直属の部下のカナビスとトトラクがいた。
「おい、お前ら?」
エーギルが声をかけると二人は瞬時に目を逸らした。
どうやら、これからこの二人に関しては付き合い方を変えていかねばならないようだ。
深いため息をつくと、エーギルは代表の兵士に、こう言った。
「はぁ……分かった。好きにしろ」
「閃皇様! 柔軟のコツをお教えします! 背中を押す速度が重要で、私が押します!」「待て! 俺が先だ!」「前屈より上体反らし! 上体反らしが素晴らしいのです!」「大丈夫、もっと足を開けます。とりあえず内股失礼します」
その言葉を聞いて、見ているだけだった兵士がぶわっと駆け寄って来た。
しかも口々に意味の分からない言葉を発している。
目がヤバい。
「ヒィッ……!」
「お前ら好きにしろの意味を間違えてないだろうな!?」
意味不明な熱気に気圧されたアヤメの悲鳴と、エーギルの怒号が練習所に響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
フィードゥ=ノーマルな人
トトラク=ヤバい人
「なりません。閃皇様もその強さは剣皇様に勝るとも劣らないと、伝承では聞いております。兵士達の良い模範になるかと」
「……そうでしたっけ」
初耳だった。
剣を極めた武人と同レベルという設定だとは聞いていない。
「そうですよ。閃皇様と剣皇様では、また違った需よではなく違った戦い方が見られるはずですから。それは素晴らしい勉強になるのです」
「うーん……」
剣を持つ職業じゃないのに、剣を教えたりできるのだろうか。
兵士達は剣術を何年も修行してきているはずなのだから、例えるならプロに素人がレクチャーするようなものだ。
とても上手く教えられるとは思えなかった。
「剣皇様! よろしくお願いします!」「今日はぜひ私と!」「どうも剣筋がブレているような気がしまして! 調整して頂ければ!」「まずはじっくりストレッチをすべきです!」
「あー、順番、順番で――近い近い!」
ミーミルはすでに大勢の兵士に取り囲まれている。
兵士の目が妙に血走っているのが気になるが、それだけ勉強熱心なのだろう。
とアヤメは解釈した。
「ヴァラク、フィードゥ! 剣皇様は頼んだぞ!」
「任せろ! お前ら近すぎるぞ! 押すな! コラ勝手に尻尾に手を触れない!」
「はい下がって! お触りは禁止! 下がって!」
「ニャー」
人の渦に巻き込まれているミーミルを放置し、アヤメは少し離れた場所に移動した。
「閃皇様、ここでやりましょうか」
エーギルが案内をしてくれる。
ミーミルの方はヴァラクが面倒を見てくれるようだった。
「う、うん」
「では誰と試合を希望されますか?」
「あの、まず簡単に練習でいい?」
ミーミルと違って木刀を持つ事すら、アヤメは初めてである。
まずは練習からやりたかった。
「ふむ……では素振りからですね?」
「そう、かな? 素振りは大事のはず」
「分かりました。では振り下ろしの素振りから」
エーギルは木刀を構えると、振り下ろした。
空気を割くような音がする。
軸がブレておらず、剣速も速い。
必要以上に力が入っておらず、安定した振り下ろしだった。
「えい!」
続いてアヤメも掛け声と共に、木刀を振り下ろす。
空気が破裂したような音がした。
その速度はエーギルの目でギリギリ捉えられるかどうかだ。
剣皇の見えない斬撃程ではないが、閃皇の斬撃も近いレベルにある。
エーギルは見かけに騙されないようにしないと、と思った。
「力を入れ過ぎて固くなっていますね。もっと肩の力を抜いて下さい」
「はい」
「体は柔らかく、鞭のように。振り下ろす瞬間に、柄を握って下さい。そうすれば剣先が疾ります」
「は、はい……!」
アヤメは言われるままに体の力を抜き、木刀を振りかぶる。
その瞬間、木刀が手からすっぽ抜けた。
すっぽ抜けた木刀は、弾丸のように飛んでいき、天井へ突き刺さる。
「!?」
天井は石造りである。
「さ、刺さっちゃった」
アヤメの周りにいる兵士達は、その様子を唖然としながら見ていた。
木が石に突き刺さるというのはどういう現象なのか。
「う、うーん。ちょっと久しぶり過ぎて体が錆びついてるみたいかな? ……なんて」
剣皇と同等クラスの剣術能力があるという伝承があるのに、この体たらくはマズイ。
アヤメは苦笑いを浮かべながら、何とか誤魔化そうとする。
やはり剣の適性はかなり低めらしい。
得意武器も『リ・バース』のキャラ設定を引き継いでいるようだった。
そうなるとやはり剣術ではなく、歌で戦うのがベストかもしれない。
ただスキルを使うのは危険すぎる。
レボリューショナリーの攻撃歌スキルは、殆どが範囲攻撃だからだ。
ミーミルの魔人刀スキル程の威力は無いが、半分くらいの威力はある。
恐らく歌うだけで家くらいなら楽に吹き飛ばせるだろう。
そんなものを人に向けて撃つつもりはないし、こんな屋内でぶっ放せばミーミルの二の舞は間違いない。
「そ、そうですか……いきなり練習というのも問題だったかもしれません。まずは体をほぐす所からやりましょう」
そんなアヤメの内心も知らず、エーギルは『錆びついててコレかよ』と思っていた。
「そう! 準備運動忘れてた!」
アヤメはエーギルの提案に乗っていく。
誤魔化せるなら何でもアリだ。
「では体の筋を伸ばして行きましょう。地面に座って下さい」
「うん」
アヤメは地面に座る。
「おい! お前たちもボンヤリしていないで準備運動だ! 二人一組!」
エーギルは周りで観戦モードに入っていた兵士に檄を飛ばす。
兵士達は慌てて地面に座った。
「まずは前屈から行きましょう。こうやって手を伸ばして」
見よう見まねで柔軟体操をする。
「んぐぅー」
身体能力が強化されているのに、体の固さは余り変わっていなかった。
もしかしたらゲームには『柔軟性』というパラメーターが無いからかもしれない。
「随分と固いですね。股割りは出来ませんか?」
そう言ってエーギルは足を開き、そのまま体を倒して地面に胸をくっつける。
「す、凄い」
実際に目の前で見るのは初めてだった。
人間の身体はここまで柔らかくなるのか、と生命の神秘を感じる程である。
「これくらいは基本ですよ。出来ないと怪我の元になりますからね」
「そうなんだ……」
「さ、閃皇様も頑張ってみてください」
「うう……無理」
弱音を吐きながらアヤメはめいいっぱい開脚する。
やはり身体の固さは昔と何も変わっていなかった。
「ふむ、では手伝いましょうか。失礼しますね」
エーギルはアヤメの太ももを持ち、少しずつ開く。
「いたたた」
「これくらいが限界ですかね――では後ろからゆっくり押しますので、息を吐いて下さい」
エーギルが後ろに回って背中をゆっくり押して来る。
「ウギギギギ」
「固いですね……足はもう少し開きませんか」
そう言ってエーギルはアヤメの内股に手を添える。
「隊長、宜しいですか」
いきなりエーギルに兵士の一人が声をかけてきた。
「む? どうした?」
「反則ではありませんか」
「は?」
エーギルは首を傾げる。
気が付くとエーギルの周りには人だかりが出来ていた。
ミーミルの周りにいる人数の方が多いが、さっきよりこちらに人が流れて来ている。
「何が反則だ?」
「一人で閃皇様を独り占めするのがです」
「……」
エーギルは少し考えてから、周りを見る。
閃皇の前方だけ人口密度が高い。
前列で前屈している兵士が、いつもより遥かに体を丸めていた。
不自然にならないように、できる限り視点を低くしようとしている。
「お前らって奴はどうしようもないな……」
集まってくるとは思っていたが、こうも露骨ではいつバレてもおかしくない。
「どうもこうも、反則ではありませんか?」
代表の兵士の言葉に、周りの兵士達も頷いている。
「いいか? 余り露骨にやると――」
よく見ると『こっち側』の兵士に、自分の直属の部下のカナビスとトトラクがいた。
「おい、お前ら?」
エーギルが声をかけると二人は瞬時に目を逸らした。
どうやら、これからこの二人に関しては付き合い方を変えていかねばならないようだ。
深いため息をつくと、エーギルは代表の兵士に、こう言った。
「はぁ……分かった。好きにしろ」
「閃皇様! 柔軟のコツをお教えします! 背中を押す速度が重要で、私が押します!」「待て! 俺が先だ!」「前屈より上体反らし! 上体反らしが素晴らしいのです!」「大丈夫、もっと足を開けます。とりあえず内股失礼します」
その言葉を聞いて、見ているだけだった兵士がぶわっと駆け寄って来た。
しかも口々に意味の分からない言葉を発している。
目がヤバい。
「ヒィッ……!」
「お前ら好きにしろの意味を間違えてないだろうな!?」
意味不明な熱気に気圧されたアヤメの悲鳴と、エーギルの怒号が練習所に響き渡った。
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フィードゥ=ノーマルな人
トトラク=ヤバい人
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