国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第一部 三章

第四十話 現神

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「ふぃー、いい汗かいた。インドア派だったが、運動ってのも悪くないもんだ」
「筋肉痛になりそう」

 アヤメとミーミルの二人は自室の前まで戻ってきていた。
 アヤメが食事を作り、ミーミルは剣術の練習をする。
 この数日はこれが二人の行動パターンであった。
 自室に戻って来るのは夕食を食べた後だ。
 その後、寝る前まで三人で勉強会である。
 二人は部屋の鍵を開いて中に入る。

「やっと帰って来たか。最近、少し遅いのではないか?」

 オルデミアがすでに自室に待機していた。
 予定の時間より遅くなってしまったらしい。

「アヤメが悪い」
「ぐっ」

 朝食や昼食より、夕食が最も手間がかかる。
 予定の時間より一時間も遅れていたのは、そのせいであった。
 二人はソファーにやっと腰を落ち着ける。
 中々にハードな一日であった。

「よし、とにかく時間がない。昨日の続きをやるぞ」

 オルデミアは会議室から持ってきた黒板を机の前に引っ張り出してくる。

 ただの黒板ではない。
 精霊の力を使って文字を書くという、とんでもないアイテムである。
 ただ二人には全く使えないアイテムだ。
 少し試してみたが、精霊の扱い方がさっぱり分からない。
 ちゃんと精霊の力を借りるのは基礎からの練習が必要になりそうだった。

「今日はちょっと眠いんですよね」
「明日、出発だよな。今日はもう寝た方がいいんじゃないか?」

 二人は抵抗するがオルデミアには通用しなかった。

「じゃあ教科書の十二ページを開いてくれ」
「聞いてねぇ」

「昨日は精霊の説明をしたな。アヤメ、覚えているか?」
「むー……そこそこ?」

 アヤメは昨日の勉強のまま、机の上に置きっぱなしだったノートを開く。

「復習が必要かもしれんな。精霊とは何だミーミル」
「何か凄い力貸してくれる物体」
「アバウト過ぎるだろう……ほぼ何も覚えていないのか」

 ミーミルの答えを聞いてオルデミアは頭を抱える。

「だって高卒だしー。勉強嫌いだしー。偏差値40だしー」
「コウソツというのは何だ? ヘンサチ?」
「き、気にしないで」

 やさぐれるミーミルに顔を引きつらせるアヤメ。

「アヤメは覚えているか?」
「……世界を構成してる生き物で、目に見えないけど確かに存在していて、対価と呼びかけによって力を貸してくれる存在……だったはず?」
「うむ、完璧だな。さすがだ」

 オルデミアは笑顔になる。
 アヤメは照れくさそうに笑みを返した。

「チッ……こういうのは転生すると無条件に賢くなるんじゃないのか。いつも通りさっぱり頭に入らん」
「ミーミルは勉強の仕方が悪そうだな。ノートを取るのが下手過ぎるぞ。ノートはただ取るだけでは駄目だ。後で見返して分かるように書かねば何の意味もない」
「それ学校の先生に五十回くらい言われたわ」
「学校に行っていたのに、ノートの取り方は教えて貰わなかったのか?」
「……」

 ミーミルは机に突っ伏す。
 ミーミルは教えられても面倒臭いのが先に立ち、実現できないタイプであった。
 根本的に勉強に向いていない。

「現場で覚える方なのだ。実践あるのみなのだ……」
「それはいかんぞ。現場がかき乱されてしまうからな。自分はいいかもしれんが、フォローに周りが苦労する」

 オルデミアに返す言葉もなく、ミーミルは机に突っ伏したままであった。

「ミーミルは放っておいて、先に進めた方がいいかも」
「なるべくなら二人共に理解して貰いたいのだが……。誰でも知っている基礎知識なのでな」
「アヤメが後で現代風に要約してくれるはずなので、それに期待する」
「明日からご飯抜きね」

 ミーミルは体を起こす。

「ハイハイ勉強頑張ります! 頑張りますよー!」

 ヤケクソな叫びであった。

「よし、やる気になってくれたようだな。では説明の続きをしよう」

 オルデミアの指先が微かに光る。
 その指で黒板をなぞると、その通りに文字が浮かび上がった。

「精霊は力の流れをコントロールする存在だ。火が灯るのも、水が流れるのも、木が育つのも、風が吹くのも、全て精霊によってコントロールされている」

 科学を勉強した二人には、色々と言いたい事があったが口は出さなかった。
 実際にあり得ない現象を目にしたのは確かだ。
 事実、オルデミアの指先は発光している。
 この世界で自分たちの常識が通用するとは考えない方がいい。

「それらは光霊や水霊と呼ばれ、我々のエネルギーを食う代わりに、力を与えてくれる。例えばこういう風にだ」

 オルデミアは机に置いてあった果物ナイフを持つ。

火霊刃フゥ・ブレード

 オルデミアが言葉を発すると同時に、果物ナイフの刀身が燃え上がった。
 超常現象だ。
 いつ見ても恐ろしい。

「精霊への呼びかけの後に、具現化する対象と目的を指定すれば、その精霊の力を借りた力が発言する。ここまではいいか?」
「オッケーです」

 昨日は氷霊に呼びかけ、刀身を凍らせていた。

「今日はその精霊の上位種について話そうと思う」

 オルデミアはナイフの炎を消すと、黒板に向き直った。

「精霊達には王がいる。精霊単体では無秩序に動くだけで大きな流れは作れない。その精霊を一まとめにコントロールし、目的を持った流れに変えていくのが精霊王の仕事だ。例えばただの風を一まとめにして、嵐を作る。電気をまとめ、一本の雷とする――という感じだな」
「王からも力は借りれる?」
「うむ、いい質問だ。寝るなミーミル」
「寝てない」

 ミーミルは腕組みをし、目を閉じたまま答える。
 そんなミーミルにため息をつくと、アヤメに講義を続けていくオルデミア。

「王から力も借りる事が出来る。精霊に比べると難易度が高く、ちゃんとした勉学や修練を受けていなければ厳しいがな。しかも食われるエネルギー量も精霊に比べると多く、生まれ持った才能も多分に影響する。この辺りは女性の方が有利だな。魔力キャパシティが男性より多い傾向にある」
「なるほど。だから女性騎士団もちゃんと成り立つのかぁ」
「む……それアベルから……聞いた気がする……」

 ミーミルは目を閉じたまま、小刻みに揺れながらブツブツと何かを呟いている。

「リリィと精霊力を使わない練習では、私の方が勝ち越している。だがリリィと本気で戦えばどうなるか分からんな。互角かもしれん」
「あの女の人、やっぱ強いんだね」
「お前達ほどではないがな。少なくとも精霊力を全力で使ったとしても、城壁に穴を開けるような事はできんさ」

 ミーミルはまた机に突っ伏した。
 オルデミアの嫌がらせを無視するために、本格的に寝るようだ。
 どうしようもない奴である。
 アヤメは我が親友ながら、呆れるのみであった。

「とにかく、だ。世界には様々な現象を司る精霊王がいて、それぞれにエネルギーの流れを統治している。という事だ」
「んー、ちょっと気になる事が」

 アヤメは不思議に思い、ふと生じた疑問をぶつけてみる事にした。


「精霊王がそういう立場なら、神の立場って?」


 日本では自然現象が、しばしば神の業として扱われる事がある。
 雨乞いは神に祈るものだし、雷も神が鳴っているからだ。
 だが、この世界ではそういうものは精霊王が起こしているとされている。
 だったら、神が生まれる余地など無いのではないか?

 アヤメは何となくそう思った。

「やはり本当に知らないのだな。生きた神――現神を」

 オルデミアは本棚に向かうと、一冊の本を抜く。

「これに現神の事が載っている」


 そこには『現神――その邪悪な存在』と書かれていた。


「今日の本題は、これだ」

 オルデミアはそう言って、分厚く重い本を、ゆっくりと開くのだった。


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火霊刃フゥ・ブレード=攻撃力を上げる炎属性の強化魔法。武器に燃え盛る炎を付与する。
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