49 / 136
第一部 四章
第四十九話 降臨唱
しおりを挟む
アヤメの四方に、四色の光が渦を巻いた。
低い振動が、地面を揺るがす。
「な、な――これは一体――」
突然、起きた異様な現象に、オルデミアが狼狽える。
「いいから離れてろ!」
ミーミルが叫んだ。
「しかし――」
「早く! 巻き込まれて死にたいのか!」
ミーミルはもう一度、叫ぶ。
「オルデミア団長! 距離を離しましょう! この感じ、あの時と同じです!」
アベルはオルデミアの肩を掴み、引っ張る。
アベルには分かった。
あの城壁を破壊する直前に感じた感覚。
この世にいて、この世にいない。
世界が書き換えられるような、そんな例えようのない感覚だった。
「――ッ!」
オルデミアの理解を越えた事が起きつつある。
もはや自分達が介入できる余地など無いだろう。
それでも二人を放って、自分達だけ撤退する――そんな命令がだせようか。
護るべき者を死地に置いて、護る者が逃げ出すなど。
そんな命令を出せるはずがない。
オルデミアはアヤメを見る。
アヤメはオルデミアの視線に気づき、首だけをオルデミアに向けた。
そして、こう言った。
(ごめんね あとで ごはん いっしょに たべようね)
アヤメは笑みを浮かべながら、そう言ったのだ。
――何を。
こんな死地で。
こんな誰もが絶望している死地で、あの娘は何を言っているのか。
確実な死を前にして。
神を前にして。
ごはんの心配をしている。
確信した。
彼女たちならば。
人知を超越し、この世の理を書き換える、あの二人ならば。
――神をも、倒せる。
オルデミアはそう確信した。
オルデミアは大きく息を吸い、声を振り絞って命令を出す。
「全軍、距離を取れ! 閃皇様と、剣皇様の邪魔になってはいけない! お二人が、必ず何とかしてくれる! 希望を持て!」
オルデミアの命令で、絶望に彩られていた兵士達が立ち上がる。
「信じろ! そして全員、生きて帰るぞ!」
そして兵士達の目に、生気が戻った。
「んぎぎ……」
何かいつもと違う。
降臨唱を発動させたアヤメは、そう感じていた。
一言で言うなら「重い」。
MP消費が激しい訳ではないし、詠唱速度が遅い訳でもない。
だがゲームでは絶対に感じ得ない「重み」のようなものをアヤメは感じていた。
「大丈夫か?」
油断なく現神触を睨んでいるミーミルがアヤメに声だけかける。
『骸』も何が起きるか予測できていないようで、様子を伺っているようだった。
というか誰一人としてこの世界での降臨唱で、何が起きるか把握できていない。
文字通り神のみぞ知る、である。
光の渦が収縮し、楕円の形を取る。
一応、召喚ゲートは生成された。
後は何が出て来るかだ。
ゲームでは、ここから小さな妖精が出て来る。
歌の属性に合わせた色とりどりの可愛い――。
赤いゲートから深紅の巨大な泡立つスライムが出てきた。
青いゲートから青い鱗の複雑に絡んだ長い蛇が出てきた。
黒いゲートから骨と腐肉が混ぜこぜの謎のオブジェが出てきた。
白いゲートからほっそりとした二足歩行の猫が出てきた。
「…………」
「…………」
さすがに二人とも固まる。
意味不明な物が沢山出てきた。
四体の物体は、アヤメの動きをじっと見守っている。
確かに呼んだのはアヤメだが、こんな物体が出るとは思ってなかった。
「どうしよう」
「どうしようも何も。歌って貰え」
「……」
もうどうにでもなれ。
『アーディライトの夜想曲』
『ジグラートの烈火』
『カリギュラの協奏曲』
『アマツの神風』
アヤメは四つの歌を、同時に、発動させる。
召喚した物体が音にならぬ音を発した。
途端にアヤメやミーミルの身体が四色の膜に包まれる。
効果は無事に発揮されているようだ。
『降臨唱』
三次職である『レボリューショナリー』が習得するスキルである。
様々な魔ノ歌を生み出したエタニアバードは一つの壁にぶつかっていた。
口が一つである以上、歌は同時に一つしか歌えないのだ。
多くの便利な道具があるのに、前の道具を片付けてからでないと、次の道具が使えない。
同時に便利な道具を複数、使えないだろうか?
考えて出た結論は『口を増やせばいい』という実に単純な結論であった。
それを実現する為に、エタニアのバード達は自らの眷属である精霊を召喚し、精霊たちに歌を歌わせる秘術を編み出したのである。
その秘術を操るバード達は、もはや歌を歌う者ではなく。
歌によって世界を変革させる者であった――。
という設定のスキルだ。
レボリューショナリーの代名詞とも言えるスキルである。
複数の歌を組み合わせ、状況に合わせたバフを創り出す。
ちなみに今、使用したのはアヤメが考えたマクロの四番目。
HP・MP回復速度増加。
攻撃力・クリティカル率増加。
回避・命中率増加。
一定ダメージ吸収。
やや防御重視の四種類。
初見相手用、様子見四重奏である。
「じゃあいつも通りサポート頼む」
「初見ですがよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますー」
アヤメの冗談にミーミルは笑みを浮かべた。
「で、アレ、倒せると思うか?」
「ええと……何だっけ。前に見た古い映画で、ジャングルで透明になる宇宙人が出て来て……」
「ああ、一緒に見た奴な」
「それで主人公の大尉が言ってた言葉」
アヤメは地面に現神触が残した緑色の血を指差す。
『血が出るなら 殺せるはずだ』
低い振動が、地面を揺るがす。
「な、な――これは一体――」
突然、起きた異様な現象に、オルデミアが狼狽える。
「いいから離れてろ!」
ミーミルが叫んだ。
「しかし――」
「早く! 巻き込まれて死にたいのか!」
ミーミルはもう一度、叫ぶ。
「オルデミア団長! 距離を離しましょう! この感じ、あの時と同じです!」
アベルはオルデミアの肩を掴み、引っ張る。
アベルには分かった。
あの城壁を破壊する直前に感じた感覚。
この世にいて、この世にいない。
世界が書き換えられるような、そんな例えようのない感覚だった。
「――ッ!」
オルデミアの理解を越えた事が起きつつある。
もはや自分達が介入できる余地など無いだろう。
それでも二人を放って、自分達だけ撤退する――そんな命令がだせようか。
護るべき者を死地に置いて、護る者が逃げ出すなど。
そんな命令を出せるはずがない。
オルデミアはアヤメを見る。
アヤメはオルデミアの視線に気づき、首だけをオルデミアに向けた。
そして、こう言った。
(ごめんね あとで ごはん いっしょに たべようね)
アヤメは笑みを浮かべながら、そう言ったのだ。
――何を。
こんな死地で。
こんな誰もが絶望している死地で、あの娘は何を言っているのか。
確実な死を前にして。
神を前にして。
ごはんの心配をしている。
確信した。
彼女たちならば。
人知を超越し、この世の理を書き換える、あの二人ならば。
――神をも、倒せる。
オルデミアはそう確信した。
オルデミアは大きく息を吸い、声を振り絞って命令を出す。
「全軍、距離を取れ! 閃皇様と、剣皇様の邪魔になってはいけない! お二人が、必ず何とかしてくれる! 希望を持て!」
オルデミアの命令で、絶望に彩られていた兵士達が立ち上がる。
「信じろ! そして全員、生きて帰るぞ!」
そして兵士達の目に、生気が戻った。
「んぎぎ……」
何かいつもと違う。
降臨唱を発動させたアヤメは、そう感じていた。
一言で言うなら「重い」。
MP消費が激しい訳ではないし、詠唱速度が遅い訳でもない。
だがゲームでは絶対に感じ得ない「重み」のようなものをアヤメは感じていた。
「大丈夫か?」
油断なく現神触を睨んでいるミーミルがアヤメに声だけかける。
『骸』も何が起きるか予測できていないようで、様子を伺っているようだった。
というか誰一人としてこの世界での降臨唱で、何が起きるか把握できていない。
文字通り神のみぞ知る、である。
光の渦が収縮し、楕円の形を取る。
一応、召喚ゲートは生成された。
後は何が出て来るかだ。
ゲームでは、ここから小さな妖精が出て来る。
歌の属性に合わせた色とりどりの可愛い――。
赤いゲートから深紅の巨大な泡立つスライムが出てきた。
青いゲートから青い鱗の複雑に絡んだ長い蛇が出てきた。
黒いゲートから骨と腐肉が混ぜこぜの謎のオブジェが出てきた。
白いゲートからほっそりとした二足歩行の猫が出てきた。
「…………」
「…………」
さすがに二人とも固まる。
意味不明な物が沢山出てきた。
四体の物体は、アヤメの動きをじっと見守っている。
確かに呼んだのはアヤメだが、こんな物体が出るとは思ってなかった。
「どうしよう」
「どうしようも何も。歌って貰え」
「……」
もうどうにでもなれ。
『アーディライトの夜想曲』
『ジグラートの烈火』
『カリギュラの協奏曲』
『アマツの神風』
アヤメは四つの歌を、同時に、発動させる。
召喚した物体が音にならぬ音を発した。
途端にアヤメやミーミルの身体が四色の膜に包まれる。
効果は無事に発揮されているようだ。
『降臨唱』
三次職である『レボリューショナリー』が習得するスキルである。
様々な魔ノ歌を生み出したエタニアバードは一つの壁にぶつかっていた。
口が一つである以上、歌は同時に一つしか歌えないのだ。
多くの便利な道具があるのに、前の道具を片付けてからでないと、次の道具が使えない。
同時に便利な道具を複数、使えないだろうか?
考えて出た結論は『口を増やせばいい』という実に単純な結論であった。
それを実現する為に、エタニアのバード達は自らの眷属である精霊を召喚し、精霊たちに歌を歌わせる秘術を編み出したのである。
その秘術を操るバード達は、もはや歌を歌う者ではなく。
歌によって世界を変革させる者であった――。
という設定のスキルだ。
レボリューショナリーの代名詞とも言えるスキルである。
複数の歌を組み合わせ、状況に合わせたバフを創り出す。
ちなみに今、使用したのはアヤメが考えたマクロの四番目。
HP・MP回復速度増加。
攻撃力・クリティカル率増加。
回避・命中率増加。
一定ダメージ吸収。
やや防御重視の四種類。
初見相手用、様子見四重奏である。
「じゃあいつも通りサポート頼む」
「初見ですがよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますー」
アヤメの冗談にミーミルは笑みを浮かべた。
「で、アレ、倒せると思うか?」
「ええと……何だっけ。前に見た古い映画で、ジャングルで透明になる宇宙人が出て来て……」
「ああ、一緒に見た奴な」
「それで主人公の大尉が言ってた言葉」
アヤメは地面に現神触が残した緑色の血を指差す。
『血が出るなら 殺せるはずだ』
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる