国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第二部 一章

第七話 もやもやする現神の森

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 二人がパークスを尾行し始めて一時間。

 辺りに樹木が増え、背の高い草が増えてきた。
 そろそろ現神の森近くだ。
 パークスはまだ止まる気配は無い。

「尾行飽きた」

 ミーミルはうんざりした表情で呟く。
 馬を一時間以上追いかけるのは中々に骨だ。
 馬と同等――それ以上の速度で追いかけていたにも関わらず疲労は感じない。
 だが精神的な疲れだけはどうしようもなかった。

「刑事の人達は凄いって事だね」

 アヤメはかなり前を走るパークスを追いかけながら呟く。
 本来、平地での尾行は難しいが、二人の身体能力と夜の闇が尾行を可能にしていた。

「どこまで行くんだマジで」
「朝までに帰れなさそうな場所なら、途中で諦めた方がいいかもね」
「そういう時間切れってのはちょい悔しいな……ん?」

 前方を睨んでいたミーミルが目を細める。
 アヤメもミーミルから視線を外すと、前方を見た。

 ここに来て、パークスが初めて街道から逸れた。

 草原をまっすぐ横切っていくパークス。
 向かう方向には広大な深い森が広がっていた。

 行く先は完全に現神の森である。

「おいおい、森に近づいて大丈夫なのか? 亜人種に遭遇したらやべーだろ」
「とりあえず追いかけよう。何かあったら助けられるし」
「だな」

 二人はパークスに見つからないように、木や草むらの陰に隠れながら尾行していく。
 さらに木々が増え、馬では走れないようになってくる。

 パークス達は馬から降りると、歩き始めた。
 歩きでさらに奥まで行くらしい。

「ほんとにどこまで……」
「――!」

 アヤメの呟きを遮って、ミーミルがアヤメの口に手を当てる。

 ミーミルの研ぎ澄まされた耳が、パークス達以外の足音を拾ったのだ。

 森の奥に目を凝らす。
 ミーミルの瞳孔が猫のように散大した。
 僅かな星の灯りだけで、まるで昼のように森の中が見通せる。
 ミーミルは自分の身体機能に驚きながらも、森の奥を見据えた。

 人影が三つ。

 だが人ではない。
 ウサギのような耳に、太い尻尾がある。
 他の二人も獣の耳と尻尾を備えている。

 あれが恐らく亜人種なのだろう。

「亜人種っぽいのが森の奥にいる」

 ミーミルは小声でアヤメに囁く。

「助けた方がいい?」
「パークス達に気づいているが、何故か動いてない。もう少しだけ様子を見よう」

 アヤメとミーミルが話している間に、パークス達は足を止めていた。
 辺りを油断なく見渡してから、ずっと被っていたフードを脱ぐ。

 フードの下から出て来た顔は、やはりパークスだった。
 残りの人間も、昼間に見たパークスの部下達で間違いない。

「体型だけで追っかけてきたけど、合ってて良かったね。これで別人だったら笑い話にもならないよ」
「いや、匂いがパークスだったからな。最初の方で間違いないと確信してたぞ」
「ミーミルが人間離れしてく……」
「それよりあいつら、何か出したな」

 フードを抜いだパークス達は懐から笛を取り出すと、軽く吹いた。

 ミーミルの耳に、キーンと高い音が響く。
 ジェノサイドが襲って来たときに聞いた音とは違っていたが、感覚的には似たようなものだった。

 その笛の音が響くと同時に、森の闇から亜人種達が飛び出してきた。
 
 一人は兎耳のような長い耳と、リスのような太い尻尾を持った女性だった。
 背中まで届くような栗色の髪と、鋭い釣り目が印象的な美人である。

 もう一人は熊のような茶色の丸い耳と、同じく茶色の丸い尻尾を持った女性だ。
 とにかく背が高く、体格が凄い。
 恐らく二メートル近くある。
 女性だけでなく、男も含め、この世界で見た中では最も大きい。
 そんなゴツイ外見に反して、目はタレ目でとても優しそうである。

 最後の一人は、頭から長い二つの角と短い尻尾をもった女性であった。
 かなり小柄な女性だったが、顔立ちが子供ではない。
 成長途中という風ではなく、大人の女性をそのままスケールダウンしたような、小さな女性であった。

「ど、どうしよ」
「敵意は――なさそうに見えるが――」

 ミーミルは腰の剣に手をかけ、いつでもストーム・インパクトを発動できるように準備する。
 アヤメとミーミルは固唾を飲み、パークス達の動きに集中した。
 
 パークスは亜人種達を見ると、笛をしまう。
 そしてこう言った。

「こんばんは」
「こんばんは」
 
 パークスと亜人種達は、同時にぺこりと頭を下げた。




「ミョルドさん、いつもありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」

 パークスは兎耳の女性と、荷物を交換する。

「ニニャさん、薬が必要と聞いていましたが」
「怪我してる子がいて――薬ほしいです。代わりに鉱石もってきました」
「少し見せて下さい……うん、とてもいい品ですね」

 部下も熊耳の女性と物怖じする事なく喋っている。

「本は持ってきたか」
「もちろん」

「前は綺麗に忘れてたもんな」
「それはごめんって」

「駄目だ。許さん。当分いじってやる」
「勘弁してくれテトーラ」
「それはお前の誠意次第だな」

 角の女性は意地悪そうに笑みを浮かべる。

 
 
 そんな様子をミーミルとアヤメは藪の中から見ていた。

「なにこれ」
「しらん」

 オルデミアの話を聞いた限りでは、人と亜人種と仲が悪くなっていたはずである。
 現実にミーミルは嫌悪の対象になっているのだ。

 なのに今、目の前で起きている事は全くの逆であった。
 人と亜人種が楽しそうに談笑している。

「パークスが騙されてる……とか?」
「可能性はある……けど、それはパークスも分かってるはずだぞ?」

 ラナイア探検隊捕食事件。

 仲良くしていたのに後ろから亜人種に刺された。
 その事は異世界に来て一か月も経っていないミーミルやアヤメが知っているのだ。
 南部領で生まれ育ったパークスが知らない訳がない。

「どういうこった」
「わかんない」

 どうしてこうなっているのか分からない。
 しかし一つの疑問が解けた。

 パークスとパークスの部下は亜人種と仲がいい。
 だからミーミルに偏見を持たなかったのだ。

「道理で俺を見ても嫌悪しない訳だ」
「これで謎が解けたね」

「うむ……まあパークスが何か危険な事をしようとしているのではなくて良かった」
「うん」

 フードを被り、人目につかないように外出した時はパークスが自分達を狙っているのではないか? という疑惑すら浮かんでいたのだ。
 もし今までのパークスの行動がアヤメとミーミルを油断させる為の演技だったなら、もう誰も信じられない。
 人間不信一歩手前になっていただろう。

「――で、この後は?」

 アヤメの言葉にミーミルはニヤリと笑みを浮かべる。

「そりゃ決まってるだろ。あの輪の中に乱入して荒らす」
「うん、言うと思ったけど一応きいといた」

 ミーミルは藪から立ち上がると、パークスに声をかけようとした。



「ミョルドさん、村の方はお代わりないですか?」
「お陰様で静かなものです。神護者の方々もいらっしゃいますし」

「もし何かあったらいつでも手助けします」
「ありがとうございます」

 そう言ってミョルドと呼ばれた兎耳の女性は優し気な笑みを浮かべる。

「――パークスさんが、ずっと村にいてくれたらいいのに」
「確かに軍が常駐できればいいのですが」

「軍ではなく、パークスさんがいいのです」

 そう言ってミョルドはパークスに身を寄せる。
 腕に手を絡め、肩を寄せた。

「あ、あの、ミョルドさん?」
「お、団長が赤くなっている」
「馬鹿、茶化すな。私はあくまで、護衛としてですね」
「いつになったら、私の気持ちを受け入れてくれるのですか?」
「そ、それは――その――参ったな。確かにミョルドさんは魅力的ですが、私には勿体ないくらいで」

 パークスは顔を赤くしながら頭を掻く。

「ミョルド、人と亜人種では色々と難しいと言っただろうに」

 テトーラと呼ばれた角の女性が、少し呆れながら言う。

「それは分かっています。ただの人とならまだしも、パークスさんは貴族。正妻になるお方も決まっているのでしょう」
「それが分かってるなら――」

「でもパークスさんは貴族なのですよ? 愛人の一人や二人は囲える甲斐性があるはずです。そうですよね、パークスさん」
「いや、その……そういうのは私は苦手というか……」
「この色ボケ兎はどうしようもないな」

「そして発情期も近いです」

 いきなりの爆弾発言にニニャと呼ばれた熊耳の子が「ひゃー」と言いながら顔を真っ赤にする。
 パークスもその言葉には、さすがに固まった。

「団長、据え膳食わぬは男の恥という格言がありまして」
「いいから黙っていてくれ! 今日はただでさえ色々あってキャパオーバーなのだ!」

「何かあったんですか?」
「聞いて下さいよミョルドさん。実は団長、剣皇様と訓練中にですね」
「うおおおおおお! やめろ! 言うな!」

 パークスはさらに顔を赤くしながら、部下の口を塞いだ。

 
 ――その様子を見ながらアヤメは思う。


 パークス達や亜人種達の仲の良さは、一朝一夕で出来たような雰囲気ではない。
 一度や二度ではなく、かなり長い間、交流が続いていたのだろう。

 アヤメが今まで見たパークスは、どこか肩に力が入っていた。
 オルデミアに会った時も、ミーミルとアヤメに会った時も、父親と会った時も。
 ずっとパークスは緊張し、委縮していた。

 それが今だけは、力が抜けているように見える。

 自然体のパークス。

 それを引き出しているのは、他の誰でもない亜人種達であった。


 そんな楽し気なやり取りを見ていたミーミルは、何故か声をかけずに藪へ戻って来た。

「あれ? 声かけないの?」

 戻ってきたミーミルは、口をへの字に曲げながら、こう言った。



「――帰る」



「え?」
「帰る」

 ミーミルは早足ですたすたと帰り始めた。

「帰るって、いきなりどうしたの? 輪に突撃するんじゃないの?」
「……」

 無言だった。
 いきなり不機嫌になっている。
 どこでそんな不機嫌になるタイミングがあったのか、アヤメには見当もつかなかった。

「ミーミル? 何か怒ってる?」
「怒ってない。お風呂まだ入ってないから体がべたべたして気持ち悪いし、帰るのに時間かかるから早めに帰らないといけないし、眠いし」
「?」

「要するに忙しいんだよ。忙しくて時間がないの。だから帰んの」
「???」


 アヤメは意味不明のまま、ミーミルの後を追いかけるのだった。
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