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第二部 一章
第八話 友達になろう
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――一時間かけてジェイドタウンに帰って来た翌日。
今日はオルデミアが一旦、帝都に帰る日であった。
皇帝の護衛というのは重要な任務ではあるが、オルデミアにしかできない任務ではない。
エーギルの部隊も帰還し、ジェイドタウンに残るのはアベルと、その部下だけである。
「もぐ……」
アヤメは寝ぼけまなこを擦りながらパンを頬張る。
自分で作らなくても、勝手に食事が出て来るのは何とも居心地が悪い。
ずっと自炊していたので、何日も作らないでいると謎の不安に駆られる。
「おはよー」
ミーミルが欠伸しながら、ダイニングのテーブルについた。
ミーミルの寝起きが悪いのはいつもの事だが、今日は特別に悪かった。
起床時間になって起こしても、なかなか起きようとしない。
「先に食べてるよ」
「んー……」
ミーミルはボンヤリしながらお茶をグラスに注ぐと、一気に飲み干し、ため息をついた。
昨日の遠出は、思ったより体に疲労を貯めていた。
まあ往復二時間の距離を、馬と同等の速度で走り続ければ当然ではある。
正確に測ってはいないが、恐らくフルマラソンより走っているはずだ。
「ミーミル、筋肉痛になってたりする?」
「なってない……けど、ちょっとだるい」
「こっちもそんな感じ」
「スタミナにも限界があるってこったな……」
身体機能が人外のレベルまで高められているから感じにくいだけで、酷使すれば疲労もするし、お腹も空く。
ゲームのように飲まず食わずで無限に動いたりは出来ないという事だ。
「おはようございます」
食堂にパークスが入って来た。
その表情に疲れは見えない。
自分達より遅く帰ってきたはずなのだが、どうして疲れていないのか――。
「馬に乗ってたね」
「何か言われましたか? アヤメ様」
「何でもないよ。独り言だから」
すっかり馬に乗っていた事を忘れていた。
疲れのせいか頭が回っていない。
ポーションでも飲めば気付けになるだろうか?
でも若い頃から薬に頼るのは良くないと聞いた事がある。
「頂きます」
そんな事を考えている間に、パークスの前には食事が並んでいた。
身の回りの世話はメイドさん達がテキパキとこなしてくれる。
食事はともかく服の洗濯や自室の掃除くらいはしたかったのだが、やろうとするとオルデミアに怒られた。
手を出すとメイドさん達の仕事を奪ってしまう事になるのだそうだ。
アヤメは家事をしないと焦燥感に襲われるのだが、そう言われてしまうと、どうしようもなかった。
「……」
アヤメはスープを飲みながら、ミーミルの様子をうかがう。
やはり無言であった。
パークスと顔を合わせた途端に黙ってしまう。
「そうだ。今日はどこを視察されますか?」
「うーん……どこにしようかな」
パークスの言葉にアヤメは少し考えてから、ミーミルに話を振ってみた。
「ミーミルはどこに行きたい?」
「どこでもいいんじゃねぇの」
口調が荒いなー。
長年の付き合いからして、激怒してはいないが何かで不快になっている。
この感じは、そのパターンだ。
「じゃあ一度オルデミアに聞いてみる」
「分かりました」
「御馳走様」
ミーミルはいつの間にか食事を終わらせていた。
椅子から立つと、そのまま足早にダイニングから出ていってしまう。
後にはアヤメとパークスだけが残された。
「……」
「……」
「あの、アヤメ様」
「はい」
「私、何かミーミル様に嫌われるような事をしたでしょうか」
「んー、してないと思うけど……」
「でも、何だか態度が冷たかったような」
「まあミーミルも人間だし、機嫌が悪い時もあるよ」
「はい……」
そう言ってパークスはがっくりと肩を落とす。
憧れの存在に嫌われるのは相当に堪えるのだろう。
可哀想になったアヤメは助け舟を出してあげた。
「機嫌が悪い時は酒を飲ませれば、すぐ機嫌が戻るかな」
「酒を……」
「飲みに誘ってあげて?」
「け、剣皇様を、私がですか!? そんな恐れ多い! できません!」
パークスは首を高速で横に振る。
「大丈夫大丈夫。誘ったら次の日が仕事でも来るから」
「とてもできません! 私には無理です!」
「んー……じゃあ皇帝としてパークスに命令します」
そう言ってアヤメは、意地悪な笑みを浮かべる。
皇帝命令ならば聞かざるを得ないはずだ。
こんな事に初の皇帝命令を使うとは思ってもみなかったが、まあいいだろう。
「め、命令ですか……」
一方のパークスは、いきなりの皇帝命令行使に顔を青くする。
パークスは頭を下げて項垂れてしまった。
命令というのは重すぎたかもしれない。
「パークス、頭を上げて。じゃあ命令ではなくて、お願いで」
パークスは頭を上げて、アヤメを見る。
アヤメはパークスの緊張を解きほぐすように、笑顔を浮かべながら言葉を続けた。
「ミーミルと仲良くしてあげて下さい。ああ見えて寂しがりなので、相手されないと悲しむのです」
「……はい」
「立場とかそういうのは気にしないで。ミーミルは、そういう面倒くさい事は気にするタイプじゃないから」
「とは言っても、さすがに……」
「いいのです。好きにすればいいのです。閃皇デルフィオス・アルトナの名にかけて、剣皇マグヌス・アルトナに自由に絡む事を許すのです」
アヤメは勝手にそう宣言した。
その場の勢いだが、まあいいはずだ。
「自由に……自由に、ですか……」
パークスはアヤメの『自由』という言葉を深く噛みしめているようだった。
その様子にアヤメは少し不安になる。
パークスに限って無いとは思うが「アヤメが言ったから」と理由で、自由という名の無法をされると困る。
「あ、いや、やっぱり、やり過ぎは怒るかも」
「ど、どれくらいがやり過ぎに?」
「んー、いきなり後ろから殴ったりしなければ」
「そんな事する訳ないじゃないですか……」
「では訂正! 常識の範囲内で自由に絡む事を許します!」
「私の常識の範囲内で、という事ですか?」
「ふぬー」
パークスの常識だと、自由に絡むとは程遠くなってしまうのではないか。
意図すべき所がどうにも伝わっていない気がする。
一体どう言えばいいのだろう。
……。
…………。
!
考え込んだアヤメは簡単な答えに辿り着いた。
むしろ何故、今まで気づかなかったのか。
やはり疲れでボケているのだろう。
実に簡単な答えだった。
「えーと、簡単な事でした。今までのは全部忘れて!」
「はぁ」
「では私からのお願いです」
「はい」
「ミーミルと友達になってあげてください」
今日はオルデミアが一旦、帝都に帰る日であった。
皇帝の護衛というのは重要な任務ではあるが、オルデミアにしかできない任務ではない。
エーギルの部隊も帰還し、ジェイドタウンに残るのはアベルと、その部下だけである。
「もぐ……」
アヤメは寝ぼけまなこを擦りながらパンを頬張る。
自分で作らなくても、勝手に食事が出て来るのは何とも居心地が悪い。
ずっと自炊していたので、何日も作らないでいると謎の不安に駆られる。
「おはよー」
ミーミルが欠伸しながら、ダイニングのテーブルについた。
ミーミルの寝起きが悪いのはいつもの事だが、今日は特別に悪かった。
起床時間になって起こしても、なかなか起きようとしない。
「先に食べてるよ」
「んー……」
ミーミルはボンヤリしながらお茶をグラスに注ぐと、一気に飲み干し、ため息をついた。
昨日の遠出は、思ったより体に疲労を貯めていた。
まあ往復二時間の距離を、馬と同等の速度で走り続ければ当然ではある。
正確に測ってはいないが、恐らくフルマラソンより走っているはずだ。
「ミーミル、筋肉痛になってたりする?」
「なってない……けど、ちょっとだるい」
「こっちもそんな感じ」
「スタミナにも限界があるってこったな……」
身体機能が人外のレベルまで高められているから感じにくいだけで、酷使すれば疲労もするし、お腹も空く。
ゲームのように飲まず食わずで無限に動いたりは出来ないという事だ。
「おはようございます」
食堂にパークスが入って来た。
その表情に疲れは見えない。
自分達より遅く帰ってきたはずなのだが、どうして疲れていないのか――。
「馬に乗ってたね」
「何か言われましたか? アヤメ様」
「何でもないよ。独り言だから」
すっかり馬に乗っていた事を忘れていた。
疲れのせいか頭が回っていない。
ポーションでも飲めば気付けになるだろうか?
でも若い頃から薬に頼るのは良くないと聞いた事がある。
「頂きます」
そんな事を考えている間に、パークスの前には食事が並んでいた。
身の回りの世話はメイドさん達がテキパキとこなしてくれる。
食事はともかく服の洗濯や自室の掃除くらいはしたかったのだが、やろうとするとオルデミアに怒られた。
手を出すとメイドさん達の仕事を奪ってしまう事になるのだそうだ。
アヤメは家事をしないと焦燥感に襲われるのだが、そう言われてしまうと、どうしようもなかった。
「……」
アヤメはスープを飲みながら、ミーミルの様子をうかがう。
やはり無言であった。
パークスと顔を合わせた途端に黙ってしまう。
「そうだ。今日はどこを視察されますか?」
「うーん……どこにしようかな」
パークスの言葉にアヤメは少し考えてから、ミーミルに話を振ってみた。
「ミーミルはどこに行きたい?」
「どこでもいいんじゃねぇの」
口調が荒いなー。
長年の付き合いからして、激怒してはいないが何かで不快になっている。
この感じは、そのパターンだ。
「じゃあ一度オルデミアに聞いてみる」
「分かりました」
「御馳走様」
ミーミルはいつの間にか食事を終わらせていた。
椅子から立つと、そのまま足早にダイニングから出ていってしまう。
後にはアヤメとパークスだけが残された。
「……」
「……」
「あの、アヤメ様」
「はい」
「私、何かミーミル様に嫌われるような事をしたでしょうか」
「んー、してないと思うけど……」
「でも、何だか態度が冷たかったような」
「まあミーミルも人間だし、機嫌が悪い時もあるよ」
「はい……」
そう言ってパークスはがっくりと肩を落とす。
憧れの存在に嫌われるのは相当に堪えるのだろう。
可哀想になったアヤメは助け舟を出してあげた。
「機嫌が悪い時は酒を飲ませれば、すぐ機嫌が戻るかな」
「酒を……」
「飲みに誘ってあげて?」
「け、剣皇様を、私がですか!? そんな恐れ多い! できません!」
パークスは首を高速で横に振る。
「大丈夫大丈夫。誘ったら次の日が仕事でも来るから」
「とてもできません! 私には無理です!」
「んー……じゃあ皇帝としてパークスに命令します」
そう言ってアヤメは、意地悪な笑みを浮かべる。
皇帝命令ならば聞かざるを得ないはずだ。
こんな事に初の皇帝命令を使うとは思ってもみなかったが、まあいいだろう。
「め、命令ですか……」
一方のパークスは、いきなりの皇帝命令行使に顔を青くする。
パークスは頭を下げて項垂れてしまった。
命令というのは重すぎたかもしれない。
「パークス、頭を上げて。じゃあ命令ではなくて、お願いで」
パークスは頭を上げて、アヤメを見る。
アヤメはパークスの緊張を解きほぐすように、笑顔を浮かべながら言葉を続けた。
「ミーミルと仲良くしてあげて下さい。ああ見えて寂しがりなので、相手されないと悲しむのです」
「……はい」
「立場とかそういうのは気にしないで。ミーミルは、そういう面倒くさい事は気にするタイプじゃないから」
「とは言っても、さすがに……」
「いいのです。好きにすればいいのです。閃皇デルフィオス・アルトナの名にかけて、剣皇マグヌス・アルトナに自由に絡む事を許すのです」
アヤメは勝手にそう宣言した。
その場の勢いだが、まあいいはずだ。
「自由に……自由に、ですか……」
パークスはアヤメの『自由』という言葉を深く噛みしめているようだった。
その様子にアヤメは少し不安になる。
パークスに限って無いとは思うが「アヤメが言ったから」と理由で、自由という名の無法をされると困る。
「あ、いや、やっぱり、やり過ぎは怒るかも」
「ど、どれくらいがやり過ぎに?」
「んー、いきなり後ろから殴ったりしなければ」
「そんな事する訳ないじゃないですか……」
「では訂正! 常識の範囲内で自由に絡む事を許します!」
「私の常識の範囲内で、という事ですか?」
「ふぬー」
パークスの常識だと、自由に絡むとは程遠くなってしまうのではないか。
意図すべき所がどうにも伝わっていない気がする。
一体どう言えばいいのだろう。
……。
…………。
!
考え込んだアヤメは簡単な答えに辿り着いた。
むしろ何故、今まで気づかなかったのか。
やはり疲れでボケているのだろう。
実に簡単な答えだった。
「えーと、簡単な事でした。今までのは全部忘れて!」
「はぁ」
「では私からのお願いです」
「はい」
「ミーミルと友達になってあげてください」
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