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第二部 二章

第十四話 悪戯される猫

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「せーの、いー、よいしょおー!」

 アベルとレガリアはミーミルをベッドに放り出す。

 ベッドにゴロンと転がるミーミル。
 結構勢いよくベッドに転がしたが起きる事無く、そのまま眠り始めた。

「ふー。意外と大変だったな」
「……いくら責任があるとは言え、ここまで無理をせずとも良かったのでは」

 アベルはふらつきながら言う。

「無理をしてでも、やらねばならない事がある。メイドには任せられんよ」

 実は家に入った時点で、メイドが手伝いに来てくれたのだ。

 しかしレガリアは、それを制し自らミーミルを部屋まで運んだのである。

 酔った相手の面倒を、自ら最後まで見る。
 言動は軽く見えても、その実は責任感に溢れた人なのだ。
 その辺りはさすがジェイド家の長男といった所か。

 アベルはレガリアを見直していた。

「メイドに剣皇様に触れられる貴重な時間を邪魔されては困るからな」

 アベルは見直したのを見直した。

「さてと――」

 レガリアはベッドで眠るミーミルを見る。

「服を脱がすか」
「レガリア様?」

「何もやましい事は考えておらんよ。ドレスが皺になるな、と思っただけだ。服を脱がしてパジャマに着替えさせる。メイドでもよくやる事だ」
「それを我々がやるのは問題なのでは……それこそ、メイドに任せるべきでは」

「真面目だなぁ、アベル殿は。こういうのは役得と考えてだな」
「やはりやましい考えがあるのではないですか」
「それを100%排除するのは男には不可能であろう」

 そう言ってレガリアはミーミルのドレスの裾を摘まむ。

「首が飛びますよ」
「寝ている。問題ない」

 そう言ってレガリアは裾をたくし上げる。
 ミーミルの太ももが露わになった。

「おお……美しい」

 レガリアが感嘆の声を上げる。

「駄目です。駄目です!」
「アベル殿は出て行っても構わないのだぞ」

「こ、この状況で出ていく訳にはいきません」
「それなら手伝ってくれ。寝ている女性の服を脱がせるのは、結構な重労働なのだ」

 レガリアはミーミルの裾をさらにたくし上げる。
 黒い下着が露わになった。

「アッー! アッ! アッー!」
「アベル殿うるさいぞ。ちょっと抱き起してくれ」

「こ、っこっ、この状況は、無理」
「無理と言いながらガン見ではないか。後ろから抱き起すのだ。そのまま上までたくし上げるからな」

「高いですとても難易度が」
「ほら、早く、近寄ってこい」

 レガリアが手招きする。

 アベルにはレガリアがまるで悪魔の囁きを発しているように思えた。
 なのに、体は勝手にふらふらとミーミルへ引き寄せられる。

 アベルはベッドにに乗る。
 ベッドがアベルの重みで、ギシッと音を立てた。
 ミーミルの背に周り、羽交い絞めの要領でミーミルの身体を浮かせる。

 ミーミルの顔がすぐ真横に。
 長い髪と伝わる体温がアベルを誘惑する。

 抱かれたミーミルが「むーん」と鳴いた。
 声の振動が、密着したアベルの胸を震わせる。

「よし、そのままだ」

 レガリアは腹の部分までドレスを一気にたくし上げる。

「よし。降ろして、手を万歳の状態にしてくれ」
「……」

「アベル殿パンツや腹を見ている場合ではないぞ」
「申し訳!」

「静かに。ミーミル様が目を覚ます」
「もうし、わけ、ありません」

 小声で呟きながらアベルはミーミルを万歳させる。
 これ以上、見ないようにそっぽを向きながら。

「よし、後は楽勝だ」

 レガリアはお腹部分までたくし上げていたドレスを、さらにたくし上げる。

「っと……楽勝では無いな」

 胸で引っかかった。

「デカいとは思っていたが、これほどとは」
「何の話をしているのですかレガリア様」

「ミーミル様の胸がデカすぎて服が中々通らん。これはちょっと触らねばならんな」
「本当に触るのが必要なのですか?」
「こっちを見てみろ。ご覧の通り引っかかっている」

 アベルはミーミルの身体を見る。
 ドレスが下乳部分にひっかかり、胸を思い切り押し上げていた。

「これは駄目です。これは駄目です」

 アベルは横を向きながら言った。

「駄目だろう。だからちょっと失礼して」

 レガリアはミーミルの豊満な胸を、ぐっと押し、へこませる。

「んー。素晴らしく重厚な感触だ。少し硬いのはやはり若さか」
「レガリア様」

「ブラジャー越しでなく直接、触りたい所であるが」
「レガリア様!」

「ではアベル殿もちょっと触るか?」
「レガリア様ァ!!」
「うるさいな。少しばかりの遊び心だ。――よし、通ったぞ」

 後は簡単だった。
 レガリアは頭を抜き、手首までドレスをたくし上げる。

「手を離していいぞ」

 アベルは言われるままに、手を離した。
 レガリアはミーミルをベッドに寝かせると、手首まで来ていたドレスを抜く。

「よし。終わった。やはり二人なら楽だな。うっ、アベル殿、手汗が凄いぞ。ミーミル様の手首がベトベトしている」
「ふぅ……ふぅ……」

 アベルは返事すらできなかった。

「では、もうひと頑張りだ。パジャマを着せるとしよう」
「着せるのですか……」

「このまま下着姿で放っておくつもりか?」
「……」

 アベルはベッドに横たわるミーミルを見る。
 万歳したまま、黒い下着姿で横たわっている。
 白い肌は酒のせいか、うっすらと朱が差していた。

「まあアベル殿が望むならこのままでもアリだが。しばらく見学するか?」
「着せます!」
「いちいち大声を出さなくていい」


 そうして二人はどうにかこうにか協力しながら、ミーミルにパジャマを着せた。


「よーし、お疲れ様」
「……お疲れさまでした」

 一連の作業で、アベルの酒はすっかり抜けていた。

「食後のいい運動になったな」
「食後の運動は体に良くないそうです」
「悪いついでにもう一運動するか?」

 そう言ってレガリアは、手を閉じたり開いたりしながらパジャマのミーミルに近づく。

「本気で首が飛びますからね!」
「アベル殿はお堅いなぁー。想像してみろ。あの素晴らしい肉体を堪能したいと思わないのかね。あの豊かな胸に埋もれたり、猫耳や尻尾を思う存分愛でたいと思わないか?」


「…………」


「そこはすぐ否定してくれ。本気で考え込まれても困る。さすがに手を出すのはマズいぞ」
「そ、そうですね」

 レガリアは欠伸をしてから、真面目な表情に戻った。

「さてと、私は自宅に帰る。パークスの家に泊まってもいいが、用事があるからな」
「お疲れ様です」

「明日は早朝からジオと戦闘訓練があるのだ。アベル殿もアヤメ様やミーミル様の護衛任務があるのだろう。早めに寝るといい」
「そうさせて頂きます」

「っと、ベッドの上にドレスが置きっぱなしだ。片付けておかねば」
「私が片付けておきます」

「頼んだ。クローゼットの前にあるハンガーにかけておけば朝に掃除に来たメイドが洗濯してくれるずだ」
「分かりました」

「今日は楽しかったよ。お疲れ様」
「こちらこそ楽しかったです。お疲れさまでした」

 レガリアはそう言い残し、部屋から出て行った。

 時計を見ると、いつの間にか寝る時間になっている。
 アベルも欠伸をすると、ベッドに広げられているドレスを片付ける。

「むー」

 ベッドで寝転がっているミーミルが寝返りをうつ。
 そのせいかパジャマの裾がめくれあがってしまう。

「……全く。風邪をひきますよ」

 アベルは裾を直そうとミーミルに近づいた。

 目にミーミルの太ももが飛び込んでくる。
 尻尾がパタパタと布団を打っていた。

 アベルはごくり、と唾を飲み込む。


 ――他には誰もいない。


 この密室で、ミーミルと二人きりだ。

「い、いかんいかん。邪な考えは――」
「そんなに好き? 仕方ないにゃあ……」

 アベルが体をびくっと跳ねさせる。
 ミーミルの寝言だった。
 まるでアベルの邪な心を見透かしたような寝言で、心臓が早鐘を打つ。

 ――本当は起きている?

 いや、そんなはずはない。

 ミーミルは寝言と共に、寝返りをまたうったようだ。

 さらにパジャマの裾がめくれ上がり、またパンツが見える。
 ミーミルのお尻に食い込んだパンツが見えてしまう。

 ぐねぐねと動く尻尾が、まるでアベルを誘っているように見えた。

「……」

 尻尾の付け根が気になる。
 どうなっているのだろう。

 好奇心のような、そうでないような、悶々とした感情がアベルの身体を支配する。

 アベルはベッドに膝をかける。
 ベッドが重みで、ギシッと音を立てる。
 嫌に音が大きく響いた気がした。

 アベルは顔を寄せ、尻尾の付け根を覗き見ようとする。
 だがパンツに隠れて良く見えない。
 見るならパンツをおろさねば。

 手が震える。
 喉が渇いて仕方ない。

 だがアベルは意を決するとミーミルのパンツをゆっくりと、下にずらし


 バァン!!


「アベル殿! 忘れ物をした!」
 
 
 部屋の扉が勢いよく開け放たれる。
 アベルは縦に一メートルくらいフッ飛ぶ。
 レガリアが部屋に入ってきた。

「いやー、いかんいかん! 忘れ物をした。眼鏡を忘れたような気がしたのだ。これが無いと事務作業ができんのだ。あれっ、勘違いだった。ポケットの中に眼鏡が入っていた。これはウッカリだ。はっはっはっ」

 レガリアは清々しい顔をしながら、浮いてもいない汗を拭うように額を拭う。

「ん? アレッ? 何をやっているのだアベル殿? 部屋から出て来るのが遅いと思ったら、何をやっているのだアベル殿?」

 レガリアは寝ているミーミルに近づく。

「おかしい……。さっき見た時は、こんなにもミーミル様のパンツが下がっていただろうか? 不思議な事もあるものだな……。なあ、どう思うアベル殿?」
「もう本当に勘弁してください」

 アベルは涙目になりながら懇願した。
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