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第二部 二章
第十六話 取り調べ
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翌朝、アヤメとミーミルは部屋で話し込んでいた。
「という事なんだけど、どう思う?」
アヤメは日記の内容をミーミルに説明し終わった。
特に現神の実について詳しく説明している。
「うーむ……やはり騙されているように思えるが」
「そんな気もするんだよね」
「うむぅ……」
ミーミルもアヤメも煮え切らない。
それはパークスの様子を見ているからだった。
亜人種達の態度も騙すにしては何か違う気がする。
その何か、というのが分からないのだが。
「駄目だ。埒があかん。パークスに聞こう」
ミーミルは早々に考えるのを放棄する。
だがアヤメもそれが最も手っ取り早く、それでいて確かな答えが出ると思えた。
「そうだね。その方がいいかも」
「ちょっとパークス呼んでくるわ」
「行ってらっしゃい」
ミーミルはそう言い残し、部屋を出て行った。
オルデミアには派手に動くな、と言われていたが我慢できそうになかった。
パークスとの付き合いは、そう長くはない。
オルデミアのように古くからの知り合いでもないし、亜人種達のように友達という訳でもない。
だが不思議と放っておけないのだ。
共に死線を潜った連帯感。
日本では絶対に味わえなかったであろう未知の感覚に、アヤメは少し戸惑っていた。
戦友というものがあるならば、こういうモノなのかもしれない。
「ただいま。連れて来たぞ」
しばらく待つと、ミーミルが部屋にパークスを連れて戻ってきた。
「失礼します。どうされました?」
警戒心も無く部屋に入るパークス。
今から自分が取り調べを受けるとは思ってもいないようである。
「そこに座って下さい。実は少しお話が」
アヤメは空いている椅子を指差す。
「はい」
パークスは何の話なのか首を傾げながら、椅子に座った。
どうも様子が違う。
アヤメの口調も、いつもと違って他人行儀だ。
椅子に座った姿勢も真っ直ぐで、綺麗に正している。
一方でミーミルは椅子に座らず、部屋の壁に背中を預けながら立っていた。
そうして取り調べが始まった。
「昨日、とても酔っていましたね」
いきなりのアヤメの言葉にパークスの顔が青くなる。
「ま、まさか。何かお二人に粗相を――?」
「いえ、特にそういうのはないです」
「良かった! 実は昨日、家に戻って来てからの記憶が無いのです。馬車に乗って到着したくらいまでは覚えているのですが……」
「なるほど」
「あんなに飲んだのは本当に久しぶりで……あっ、昨日は本当に申し訳ありませんでした。大変なご迷惑を」
「それはまあ、いいのです。慣れているので」
「以後、ああはならないように気をつけます。申し訳ありませんでした」
パークスは深々と頭を下げる。
何だか言いにくいなぁ……と思いながらもアヤメは続ける。
「それはそうとして、昨日パークスが酔っていたので、酔い止めの薬を飲ませたのですが、覚えていますか?」
「いえ、全く……申し訳ありません」
パークスは頭を下げながら謝る。
「エルザにも迷惑をかけてしまったのですね……。前に飲み過ぎた時に、エルザから酔い止めの薬を貰って飲ませて貰った事があって、今回も」
「酔い止めの薬は、エルザに貰ってないです」
「え?」
「酔い止めの薬はパークスの机から出しました」
「え?」
「鍵がかかっていたので鍵を開いて、出しました。パークスが机の中に酔い止めがあると言ったので、全て調べました」
――パークスの時が止まった。
そう形容するしかないくらいに、パークスから一切の動きが消えた。
「それで、机の中に色々と入っていたのですけど亜人種の」
アヤメは続きを話そうとする。
その前にパークスは椅子から、ずるりと滑り降りる。
そして地面に伏せた。
「パークス?」
パークスは地面に伏せたまま言った。
「今から死にます」
「待って」
「落ち着け」
「重罪なのは理解しています。ですがどうか、どうか部下達には、私の命をもって寛大な処分を」
パークスは地面に伏せたまま震えていた。
このままでは話もできない。
「とりあえず立ってパークス」
アヤメはパークスを立たせる。
「何か昔を思い出して辛くなるから、椅子に座ってくれ」
ミーミルは何らかのトラウマを思い出すのか、悲痛な顔をしていた。
パークスは言われるままに椅子に座る。
顔を上げたパークスは死にそうな顔をしていた。
本気で死ぬつもりなのだから当然なのだが。
とにかく落ち着かせなければならない。
「最初に言いたいのですが、特に罪を問おうとしてるつもりではないです」
「ど、どうしてですか! 家が取り潰しになってもおかしくは――!」
「確かに普通に考えれば洒落にならない事です。でも幾つか気になった事があって、その解答次第で判断しようかな、と思っています」
罰を与えるかどうかは回答次第――という風に言ってはいるが、実際には何か罰を与えようとは思っていない。
答えて欲しい事に、素直に答えて欲しいから、そう言っているだけである。
二人は純粋にパークスの身を案じているだけなのだから。
「では質問しますが、いいですか?」
「はははははい」
歯がかみ合っていない。
「ちょっと深呼吸してください」
「ヒュー。ヒュー」
深呼吸の音がヤバい。
どうしたものか。
アヤメは悩んでしまう。
「私たちは、お前を責めようとしてるんじゃないからな」
何と言って落ち着かせようか悩んでいるアヤメより先に、ミーミルがパークスに声をかける。
「し、し、ししかし」
「捕食事件の事もあるから、心配してるんだ。亜人種に騙されてるんじゃないか? って。騙されてるか騙されてないかって、第三者の目からじゃないと中々気づけないだろ。だからその辺の事を聞いて、見極めたいと思っているだけなんだよ」
「し、しかし亜人種と」
「パークス」
ミーミルがとがめるように言う。
「は、は、ははいッ!」
「私は亜人種だ」
ミーミルはそう言ってパークスの目を正面から見据える。
パークスが息を飲む音が、アヤメには聞こえた。
「フツーに喋ってくれりゃいい。それだけで十分だから」
そう言ってミーミルは、少しでも緊張を解きほぐせるように笑みを浮かべる。
「……はい」
パークスはやっと落ち着いた。
皇帝にここまで言わせてしまうとは。
自分の情けなさを恥じた。
そうしてパークスが落ち着いたのを確認してから、アヤメは質問を始めた。
「じゃあ、まずは亜人種との付き合いはどれくらいですか?」
「おおよそ十年程です」
「……え、そんなに?」
予想以上に長かった。
パークスの年齢は二十四である。
そうなると子供の頃から、ずっと亜人種との交流があったという事になる。
「結構長い付き合いなんだな」
「そうですね……実は父に連れられ、遠征をした時に出会いまして、それからになります」
パークスはその時の事を語ってくれた。
十年前にパークスは父に連れられ、現神の森近くまで遠出をしていた。
その時に魔物との戦闘で馬が暴走し、森の深い所にまで入ってしまったのだそうだ。
たった一人で途方に暮れていたパークスは、そこで亜人種と出会った。
「森の出口まで護衛してくれたのです。最初は恐怖しか感じませんでしたが、こちらに何も危害を与える事は最後までありませんでした」
「騙されてる、とは思わなかった?」
「騙されていてもいなくても、自力で森の外まで行けそうにありませんでしたからね……覚悟を決めて、ついていきました」
無事に森の外に出たパークスは、礼をする為に、もう一度会いたいと頼み込んだ。
最初は亜人種は礼を断っていたようだが、パークスの押しの強さに折れた。
「これが呼び笛です」
パークスはポケットから笛を取り出す。
これを指定した場所で吹けば会ってくれる、という約束を取り付けたのだ。
「あー、前に吹いてたやつね」
ミーミルはその笛に見覚えがあった。
現神の森でパークスが吹いていた笛だ。
「えっ? 前……というのは……?」
「一昨日に、夜中に亜人種に会いに行ってただろ」
「どうしてそれを!?」
「アヤメと一緒に追いかけた」
「そ、そんな! 馬の足音には気をつけていたのに、どうやって!?」
「徒歩で」
「と、とほで、馬の速度に追い付いたのですか?」
「まあ、そうなる」
パークスは信じられないといった表情を浮かべている。
自転車に歩きで一時間、並走したと言われても信じるのは難しいだろう。
「ま……まあ後日、部下と一緒に森へ向かいました。事件の事も知っていましたので、やはり信用しきれず」
「部下は良く了承したなー」
パークスはジェイド家の三男である。
パークスの身は何を差し置いても、優先して守るのが部下の仕事のはずだ。
「かなり止められました」
「だよね」
「それでも何とか押し切って……再会したのです」
「それからずっと今まで交流が?」
「そうなりますね……気づいたら親しくなっていました。森では手に入らない道具や食料を渡す代わりに、森で採れる薬草や鉱石を交換したりしています。騙されているのかと思いましたが、全くそんな様子はありません。今まで一度も危害を加えられた事も無いのです」
「捕食事件みたいに人数が集まる人数が増えるのを待っている……にしては気が長すぎるか」
「その事も考えて、会う時に連れて行くのは数人の護衛だけにしています。森の入り口にいるのは小型の魔物ばかりですし、ジェノサイドのような危険な魔物は森の奥にしか出ません。現神の森周辺で恐れられているのは何よりも『人を捕食する亜人種』なのです」
「その亜人種が襲って来ないなら、奥に入りさえしなければ安全な地域って事か」
「一応、小型の魔物はいるので安全とまではいきませんが、世間一般の認識より遥かに安全だと思います」
「ふーむ……」
パークスの話を聞いている限り、問題がないように思える。
ミーミルにはこれ以上、特に聞くべき事は思い当たらなかった。
後は実際に亜人種に会って確かめるしかない。
「一つお願いがあるのです」
「何でしょうか」
「私とミーミルで、亜人種に会うっていうのはできる?」
「――」
アヤメの言葉でパークスの顔が引きつり、固まる。
「別に酷い事はしようと思ってないよ。実際に会って、亜人種の事をもっと知りたいだけだから」
「本当ですか?」
「本当です。皇帝は嘘をつきません」
皇帝がまず嘘なのだが、それはまあ別とする。
パークスはしばらく俯き、考えていたが顔を上げた。
「分かりました。お二人を亜人種に紹介します。ただ護衛として数人の部下も同行しますが、宜しいでしょうか?」
「それで問題ない」
ミーミルはパークスの提案に頷く。
「うん、それでいいよ」
アヤメも頷く。
「では、いつにしましょうか。次の会う予定は一週間後を予定しているのですが」
随分と先だ。
ジェイドタウンにオルデミアが帰って来てからになるだろう。
それならオルデミアも一緒に同行して貰った方がいいかもしれない。
「それじゃあ、一週間後に」
「今日は?」
「今日ですか?」
「ミーミル?」
また無茶を言い出した、と思ってアヤメはミーミルを睨みつける。
「いやー、もやもやした気分で一週間も待つのはダルいなーと思ってさ」
「そりゃそうだけど、いきなりはさすがに」
「連絡すれば、今日でも大丈夫です。実は直通の結線石がありまして――」
「!?」
「よし、善は急げだ。行こう!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。パークスは今日は部隊練習とかあるんじゃないの?」
「それどころではありません」
パークスの言葉で、自分達が皇帝として扱われていた事に今更ながらに気が付いた。
パークスにとって二人の言葉は、想像を絶する程に重いのだ。
どんな事をしてでも優先するに違いない。
「じゃあ予約を取ってくれ。よろしく」
「分かりました」
「ええ……オルデミアいなくて本当に大丈夫?」
不安そうに聞くアヤメ。
「大丈夫だ! 信じろ!」
そのアヤメに親指を立てるミーミル。
嫌な予感しかしなかった。
「という事なんだけど、どう思う?」
アヤメは日記の内容をミーミルに説明し終わった。
特に現神の実について詳しく説明している。
「うーむ……やはり騙されているように思えるが」
「そんな気もするんだよね」
「うむぅ……」
ミーミルもアヤメも煮え切らない。
それはパークスの様子を見ているからだった。
亜人種達の態度も騙すにしては何か違う気がする。
その何か、というのが分からないのだが。
「駄目だ。埒があかん。パークスに聞こう」
ミーミルは早々に考えるのを放棄する。
だがアヤメもそれが最も手っ取り早く、それでいて確かな答えが出ると思えた。
「そうだね。その方がいいかも」
「ちょっとパークス呼んでくるわ」
「行ってらっしゃい」
ミーミルはそう言い残し、部屋を出て行った。
オルデミアには派手に動くな、と言われていたが我慢できそうになかった。
パークスとの付き合いは、そう長くはない。
オルデミアのように古くからの知り合いでもないし、亜人種達のように友達という訳でもない。
だが不思議と放っておけないのだ。
共に死線を潜った連帯感。
日本では絶対に味わえなかったであろう未知の感覚に、アヤメは少し戸惑っていた。
戦友というものがあるならば、こういうモノなのかもしれない。
「ただいま。連れて来たぞ」
しばらく待つと、ミーミルが部屋にパークスを連れて戻ってきた。
「失礼します。どうされました?」
警戒心も無く部屋に入るパークス。
今から自分が取り調べを受けるとは思ってもいないようである。
「そこに座って下さい。実は少しお話が」
アヤメは空いている椅子を指差す。
「はい」
パークスは何の話なのか首を傾げながら、椅子に座った。
どうも様子が違う。
アヤメの口調も、いつもと違って他人行儀だ。
椅子に座った姿勢も真っ直ぐで、綺麗に正している。
一方でミーミルは椅子に座らず、部屋の壁に背中を預けながら立っていた。
そうして取り調べが始まった。
「昨日、とても酔っていましたね」
いきなりのアヤメの言葉にパークスの顔が青くなる。
「ま、まさか。何かお二人に粗相を――?」
「いえ、特にそういうのはないです」
「良かった! 実は昨日、家に戻って来てからの記憶が無いのです。馬車に乗って到着したくらいまでは覚えているのですが……」
「なるほど」
「あんなに飲んだのは本当に久しぶりで……あっ、昨日は本当に申し訳ありませんでした。大変なご迷惑を」
「それはまあ、いいのです。慣れているので」
「以後、ああはならないように気をつけます。申し訳ありませんでした」
パークスは深々と頭を下げる。
何だか言いにくいなぁ……と思いながらもアヤメは続ける。
「それはそうとして、昨日パークスが酔っていたので、酔い止めの薬を飲ませたのですが、覚えていますか?」
「いえ、全く……申し訳ありません」
パークスは頭を下げながら謝る。
「エルザにも迷惑をかけてしまったのですね……。前に飲み過ぎた時に、エルザから酔い止めの薬を貰って飲ませて貰った事があって、今回も」
「酔い止めの薬は、エルザに貰ってないです」
「え?」
「酔い止めの薬はパークスの机から出しました」
「え?」
「鍵がかかっていたので鍵を開いて、出しました。パークスが机の中に酔い止めがあると言ったので、全て調べました」
――パークスの時が止まった。
そう形容するしかないくらいに、パークスから一切の動きが消えた。
「それで、机の中に色々と入っていたのですけど亜人種の」
アヤメは続きを話そうとする。
その前にパークスは椅子から、ずるりと滑り降りる。
そして地面に伏せた。
「パークス?」
パークスは地面に伏せたまま言った。
「今から死にます」
「待って」
「落ち着け」
「重罪なのは理解しています。ですがどうか、どうか部下達には、私の命をもって寛大な処分を」
パークスは地面に伏せたまま震えていた。
このままでは話もできない。
「とりあえず立ってパークス」
アヤメはパークスを立たせる。
「何か昔を思い出して辛くなるから、椅子に座ってくれ」
ミーミルは何らかのトラウマを思い出すのか、悲痛な顔をしていた。
パークスは言われるままに椅子に座る。
顔を上げたパークスは死にそうな顔をしていた。
本気で死ぬつもりなのだから当然なのだが。
とにかく落ち着かせなければならない。
「最初に言いたいのですが、特に罪を問おうとしてるつもりではないです」
「ど、どうしてですか! 家が取り潰しになってもおかしくは――!」
「確かに普通に考えれば洒落にならない事です。でも幾つか気になった事があって、その解答次第で判断しようかな、と思っています」
罰を与えるかどうかは回答次第――という風に言ってはいるが、実際には何か罰を与えようとは思っていない。
答えて欲しい事に、素直に答えて欲しいから、そう言っているだけである。
二人は純粋にパークスの身を案じているだけなのだから。
「では質問しますが、いいですか?」
「はははははい」
歯がかみ合っていない。
「ちょっと深呼吸してください」
「ヒュー。ヒュー」
深呼吸の音がヤバい。
どうしたものか。
アヤメは悩んでしまう。
「私たちは、お前を責めようとしてるんじゃないからな」
何と言って落ち着かせようか悩んでいるアヤメより先に、ミーミルがパークスに声をかける。
「し、し、ししかし」
「捕食事件の事もあるから、心配してるんだ。亜人種に騙されてるんじゃないか? って。騙されてるか騙されてないかって、第三者の目からじゃないと中々気づけないだろ。だからその辺の事を聞いて、見極めたいと思っているだけなんだよ」
「し、しかし亜人種と」
「パークス」
ミーミルがとがめるように言う。
「は、は、ははいッ!」
「私は亜人種だ」
ミーミルはそう言ってパークスの目を正面から見据える。
パークスが息を飲む音が、アヤメには聞こえた。
「フツーに喋ってくれりゃいい。それだけで十分だから」
そう言ってミーミルは、少しでも緊張を解きほぐせるように笑みを浮かべる。
「……はい」
パークスはやっと落ち着いた。
皇帝にここまで言わせてしまうとは。
自分の情けなさを恥じた。
そうしてパークスが落ち着いたのを確認してから、アヤメは質問を始めた。
「じゃあ、まずは亜人種との付き合いはどれくらいですか?」
「おおよそ十年程です」
「……え、そんなに?」
予想以上に長かった。
パークスの年齢は二十四である。
そうなると子供の頃から、ずっと亜人種との交流があったという事になる。
「結構長い付き合いなんだな」
「そうですね……実は父に連れられ、遠征をした時に出会いまして、それからになります」
パークスはその時の事を語ってくれた。
十年前にパークスは父に連れられ、現神の森近くまで遠出をしていた。
その時に魔物との戦闘で馬が暴走し、森の深い所にまで入ってしまったのだそうだ。
たった一人で途方に暮れていたパークスは、そこで亜人種と出会った。
「森の出口まで護衛してくれたのです。最初は恐怖しか感じませんでしたが、こちらに何も危害を与える事は最後までありませんでした」
「騙されてる、とは思わなかった?」
「騙されていてもいなくても、自力で森の外まで行けそうにありませんでしたからね……覚悟を決めて、ついていきました」
無事に森の外に出たパークスは、礼をする為に、もう一度会いたいと頼み込んだ。
最初は亜人種は礼を断っていたようだが、パークスの押しの強さに折れた。
「これが呼び笛です」
パークスはポケットから笛を取り出す。
これを指定した場所で吹けば会ってくれる、という約束を取り付けたのだ。
「あー、前に吹いてたやつね」
ミーミルはその笛に見覚えがあった。
現神の森でパークスが吹いていた笛だ。
「えっ? 前……というのは……?」
「一昨日に、夜中に亜人種に会いに行ってただろ」
「どうしてそれを!?」
「アヤメと一緒に追いかけた」
「そ、そんな! 馬の足音には気をつけていたのに、どうやって!?」
「徒歩で」
「と、とほで、馬の速度に追い付いたのですか?」
「まあ、そうなる」
パークスは信じられないといった表情を浮かべている。
自転車に歩きで一時間、並走したと言われても信じるのは難しいだろう。
「ま……まあ後日、部下と一緒に森へ向かいました。事件の事も知っていましたので、やはり信用しきれず」
「部下は良く了承したなー」
パークスはジェイド家の三男である。
パークスの身は何を差し置いても、優先して守るのが部下の仕事のはずだ。
「かなり止められました」
「だよね」
「それでも何とか押し切って……再会したのです」
「それからずっと今まで交流が?」
「そうなりますね……気づいたら親しくなっていました。森では手に入らない道具や食料を渡す代わりに、森で採れる薬草や鉱石を交換したりしています。騙されているのかと思いましたが、全くそんな様子はありません。今まで一度も危害を加えられた事も無いのです」
「捕食事件みたいに人数が集まる人数が増えるのを待っている……にしては気が長すぎるか」
「その事も考えて、会う時に連れて行くのは数人の護衛だけにしています。森の入り口にいるのは小型の魔物ばかりですし、ジェノサイドのような危険な魔物は森の奥にしか出ません。現神の森周辺で恐れられているのは何よりも『人を捕食する亜人種』なのです」
「その亜人種が襲って来ないなら、奥に入りさえしなければ安全な地域って事か」
「一応、小型の魔物はいるので安全とまではいきませんが、世間一般の認識より遥かに安全だと思います」
「ふーむ……」
パークスの話を聞いている限り、問題がないように思える。
ミーミルにはこれ以上、特に聞くべき事は思い当たらなかった。
後は実際に亜人種に会って確かめるしかない。
「一つお願いがあるのです」
「何でしょうか」
「私とミーミルで、亜人種に会うっていうのはできる?」
「――」
アヤメの言葉でパークスの顔が引きつり、固まる。
「別に酷い事はしようと思ってないよ。実際に会って、亜人種の事をもっと知りたいだけだから」
「本当ですか?」
「本当です。皇帝は嘘をつきません」
皇帝がまず嘘なのだが、それはまあ別とする。
パークスはしばらく俯き、考えていたが顔を上げた。
「分かりました。お二人を亜人種に紹介します。ただ護衛として数人の部下も同行しますが、宜しいでしょうか?」
「それで問題ない」
ミーミルはパークスの提案に頷く。
「うん、それでいいよ」
アヤメも頷く。
「では、いつにしましょうか。次の会う予定は一週間後を予定しているのですが」
随分と先だ。
ジェイドタウンにオルデミアが帰って来てからになるだろう。
それならオルデミアも一緒に同行して貰った方がいいかもしれない。
「それじゃあ、一週間後に」
「今日は?」
「今日ですか?」
「ミーミル?」
また無茶を言い出した、と思ってアヤメはミーミルを睨みつける。
「いやー、もやもやした気分で一週間も待つのはダルいなーと思ってさ」
「そりゃそうだけど、いきなりはさすがに」
「連絡すれば、今日でも大丈夫です。実は直通の結線石がありまして――」
「!?」
「よし、善は急げだ。行こう!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。パークスは今日は部隊練習とかあるんじゃないの?」
「それどころではありません」
パークスの言葉で、自分達が皇帝として扱われていた事に今更ながらに気が付いた。
パークスにとって二人の言葉は、想像を絶する程に重いのだ。
どんな事をしてでも優先するに違いない。
「じゃあ予約を取ってくれ。よろしく」
「分かりました」
「ええ……オルデミアいなくて本当に大丈夫?」
不安そうに聞くアヤメ。
「大丈夫だ! 信じろ!」
そのアヤメに親指を立てるミーミル。
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