国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第二部 三章

第二十三話 長老との出会い

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 パークスは両手に、けものっ娘を抱きながら――。

 いや、両肩をけものっ娘(?)に固められながら、木の上へと送り出されていった。

「それより私はどうしよっかなぁ」

 アヤメは木の上を睨む。
 木を登るのは恐らく不可能なので、誰かに持ち上げて貰うしかない。

「ごめん、私も頼んでいい?」

 アヤメはとりあえず近場にいた兵士に言う。

「わかりまし」
「畏まりました!」

 アヤメが話しかけた兵士が突き飛ばされて吹き飛ぶ。
 代わりにブラストソードの人が凄い勢いで割り込んできた。

「う、うん。まあ、誰でもいいんだけど。大丈夫?」

 地面に倒れた兵士はうつ伏せのまま動かない。

「私は法術の扱いに長けております。私が作戦を行うのが最も適任かと」
「そ、そっか。じゃあ、任せる……」

「では触ってもいいでしょうか」
「触る?」

「どうお持ちすれば宜しいでしょうか」
「うーん、適当に?」

「…………」

 そう言うと、ブラストソードの人はいきなり黙り込んでしまった。

 しばらく沈黙が辺りを支配する。
 アヤメとブラストソードの人、地面にうつ伏せの兵士以外は、もう木の上に上がってしまっているので、とても静かになった。

「…………」
「…………」

「…………………」
「あの、こっちから持ち方を指示した方がいい?」

「いえ! 今、ベストな抱き方と重心を考えているのです! 少々お待ち下さい!」
「適当でいいのに」
「閃皇様に触れるなど一生に……いえ! 閃皇様に何かあってからでは遅いのです!」

 この高さから落ちた所で、恐らくダメージも何もないと思うけど……。

 が、それを言った所で信用されないだろう。
 アヤメは大人しくブラストソードの人が答えを出すまで待つ事にした。


 そうして、さらに数分が経った頃。


 顔を上げると、兵士は答えを導き出した。

「……これしか考えられません」
「はい」

「アヤメ様、私と向かい合って胸にしがみついて下さい。手を背に回し、足は腰に回して貰ってですね。顔は私の胸にしっかり押し付けて固定します。もちろん邪魔なプレートメイルは外します。つけていると、ゴツゴツしますからね。そして私が右手で触手を出し、左手でアヤメ様を優しく抱きしめ固定します。これが最も重心が安定します。ではお願いします」
「今、すごい早口だったので、ゆっくり喋って下さい」

「説明では分かり辛いでしょう。何事も習うより慣れよと言います。という事で、まずは私に抱きついて下さい。それから順を追って説明します。プレートメイルは脱ぎました。これでゴツゴツしないはずです。ではどうぞ」
「何か息が荒いけど、もしかして緊張してたり、疲れてる? 緊張してるなら――」

「完全に元気です。何も問題ありません。早く」
「そ、れなら、まあ……」

 兵士の物凄い勢いに押されて、アヤメはゆっくりと近づく。

 問題ないとは言っていたが、何だか目が血走っているし、息が荒い。
 何だか気味が悪いなぁ、と思いながらもアヤメは兵士に手を伸ばす。

 ブラストソードの人は、目の前に迫るアヤメに触れられるのを今か、今かと待つ。
 その動きは緩慢で余りにじれったく、もういっそ押し倒してしまおうか。

 という獰猛な衝動が溢れるか溢れないかのギリギリであった。


「何をやっている」


 その犯罪行為を遮ったのは全く別の存在だった。
 
 ばさり、と羽をはためかせ、降りて来たのはイカルガだ。
 遅いアヤメを心配して迎えに来てくれたのである。

「あ、イカルガさん」
「どうした? 皆、もう長老の家にいるぞ」

「上がるのに、ちょっと手間取っていて」
「乗せてやろうか?」

「え?」
「背に乗せて飛んでやろう」

「はい!! お願いします!!!!」

 この世界に来て、最も大きな声が出たかもしれない。
 アヤメはイカルガに駆け寄る。

「では腰辺りにしがみつくといい。手を離すなよ」
「はい!!」

 アヤメは目を輝かせながら、イカルガの腰にぴょん、としがみつく。

「んがあああああああああはぐうううあおおお」

 ブラストソードの人は発狂すると、イカルガに襲い掛かった。
 突き飛ばす為に、全力でタックルする。

「少し待て」

 イカルガは片手一本でタックルを払いのける。
 力のベクトルをずらされ、ブラストソードの人は地面に頭から突っ込んだ。

「背に乗せるのは一人が限界だ。そんなに勢いよく来られても困るぞ」
「頭から地面に突っ込んだけど」

「ここは苔のお陰で全面クッションのようなものだ。あの程度の勢いで地面に突っ込んだ所で、せいぜい擦り傷くらいしかできんさ」
「それなら良かった」

「では飛ぶぞ。しっかり掴まっていろ」

 イカルガは羽を羽ばたかせる。

 ぶおん、と風がアヤメの金色の髪をなびかせた。
 足が地面から離れる。
 地面がみるみる遠くなっていく。

「わぁー!!」

 アヤメは空を飛んでいた。

 飛行機でもハンググライダーでも何でもいい。
 いつかこんな風に、何かを使って空を飛んでみたい。

 幼い頃の夢の一つが叶った瞬間だった。

 だがそれも長くは続かない。
 イカルガは長老の家まで滑空すると、着地する。

 ほんの十数秒ほどの空中散歩であった。

「よし、降りていいぞ」

 アヤメの足はすでに地についている。
 だが動こうとしない。

「どうした?」
「――もうちょっと飛んで欲しい」

 アヤメはイカルガにしがみついたまま、呟くように言う。

「ふ、また今度な」

 イカルガは微かに笑みを浮かべると、幼い子をあやすように、アヤメの頭を優しく撫でた。

「んー……」

 アヤメは不満げに唸りながら、イカルガの腰から手を離した。

「聞き分けの良い子だ」

 イカルガはアヤメの頭を、さらに撫でる。
 女性の手とは思えない硬い感触のする手のひらだったが、アヤメには不思議と心地よく感じられた。

 きっと女性ながらに、この手で村を護って来たのだろう。

「いかん。村の子供のようにしてしまったが、良かったのか」

 頭を撫でていたイカルガが、いきなり手を離す。

「え?」
「アヤメもアイリス帝国の切り札なのだろう? 見た目は子供だが、それなりの地位がある者ではないのか」
「大丈夫だよ。力があるだけで、平民と一緒だと思って貰えば」
「そうなのか。ではアヤメと呼び捨てでも大丈夫だな?」
「うん。みんなはかしこまってるけど、気にしなくていいよー」

 二人は談笑しながら、長老の家へと入って行く。


  
「がああああああああああ反則ああああっらあああああ」



 下で兵士が何か叫んでいたが、そんな二人の耳には入らなかった。



 
 
「遅いぞ。何やってたんだ?」

 長老の家に入ると、すでにミーミル達は一人の亜人種を中心に並んでいた。

 真ん中にいるのは一人の老女。
 眼鏡をかけ、顔には深い皺が刻まれている。
 茶色の兎耳を備えているが、その毛並みには白髪が混じっていた。

 おそらくこの人が、ネーネ族の長老なのだろう。

「おお、可愛らしい子じゃな」

 老女はアヤメを見ると顔を綻ばせた。

「こんにちは。アヤメと言います。よろしくお願いします」

 アヤメは老女に向かって頭を下げる。

「挨拶もきちんと出来ておる。きっと親の躾が良かったのじゃろう」

 そう言って老女は、横にいる二人をちらりと見る。

「……」

 老女の横には、二人の子供がいた。

 短く切り揃えられた黒く艶やかな髪の毛。
 亜人種の証とも言える尻尾と丸く広い耳。
 その長い尻尾は股の間に挟まれている。
 透明な湖水のように淡い青の瞳が印象的だった。

「見慣れない人が多いから、びっくりしているんです」
「……」

 ミョルドの言葉にも、子供たちは無言だった。
 その表情には怯えの色を濃く滲ませている。

「大丈夫、怖くないぞぉー」

 ミーミルは子供たちに、おどけた風に笑いかける。
 それを見た子供たちは老女の後ろに素早く隠れてしまった。

「これ、セツカ、リッカ。ちゃんと挨拶しなさい」

 だがセツカとリッカと呼ばれた幼女達は動こうとしない。

 顔が固い。
 ミーミルが話しかけたせいで、さらに怯えてしまったようだ。

「何で俺は毎回こうなんだ?」

 ミーミルは悲痛な顔をしながらアヤメに言った。

 昔からミーミルは子供に何故か恐れられる。
 初対面で絶対に懐かれない。
 下手すれば泣かれる。

 アヤメはセツカとリッカを見る。
 二人はアヤメの視線に気づき、警戒しながらアヤメを見る。

 アヤメは二人に向かって笑いかけた。

 セツカとリッカは老女の陰に隠れる。
 だがミーミルとは違って、少し雰囲気が柔らかくなったようだった。

 隠れながらもアヤメの様子を、じっと伺っている。

「申し訳ありませぬ。二人はいつも、こうなのです。お気を悪くなさらず……」
「いえ、慣れてるんで。ハハッ」

 老女のフォローにミーミルは乾いた笑いを浮かべた。

「では揃ったようなので始めましょうか」

 悲しみに暮れるミーミルの気を紛らわせるかのように、パークスが明るく声を張る。


 そうして人と亜人種との命運を握る会議が、始まった。
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