国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第二部 三章

第二十四話 人間と亜人種の新たなる一歩

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「長老様、こちらのお二人がパークス様の上官です。今日は人間と亜人種との友好を深める為に、来て下さいました。私はお二人の護衛のアベルといいます」

 アベルが先に自己紹介を行う。

「アヤメです。改めて、よろしくお願いします」
「ミーミルです……」

 アヤメとミーミルも、長老に頭を下げた。

「ネーネ族をまとめておるククリア・ネーネです。この度はこんな辺境までよく来て下さった。心から歓迎します」

 ククリアは深々と頭を下げる。
 とても優しそうなお婆さんであった。

 少なくとも人を食いそうには見えない――のだが。

「神護者のゼロ様も、来てくださったようで。感謝いたします」
「何、たまたま通りがかっただけだ。しかし神護者としての責務があるからな。会には参加させて貰う。だが私も外界との交流は望ましい事だと思っているのだ。お互いが公平である限り邪魔はせんよ」

 ゼロはそう言って笑みを浮かべた。
 最初こそ危険を感じたが、この人も人間を襲うようには見えない。

「それで、我が村とどういった交友を?」
「えーっと、そうですね。まあ簡単に言えばパークスが個人的にやっていたような交易を、規模を大きくして出来ないかな、と」

 ミーミルは事前にパークスやアベルと打ち合わせていた内容を話す。

「なるほど。パークス様が持って来て下さる物資は現神の森では貴重な物ばかりです。ああいった物が沢山手に入るならば、とても有難い事でございます」
「こちらも現神の森で手に入る薬草や鉱石は、とても有益であると聞いています。お互いに得るものは大きいと思います」

「問題は輸送ですね。現神の森には危険な魔物が多くいます。それを何とかする方法を考えなければなりません」
「では、我々が護衛につけばどうですかな」
「それではネーネ族の方の負担が大きくなりすぎます。こちらからも護衛の部隊をつけられるのがベストでしょう」
「ジェイドタウンから現神の森の森は距離があります。途中に中継となる軍駐屯地を整備できれば――」

 アベルとパークスが話を繋げていく。

 最初の一言だけはミーミルの役で、後はパークスとアベルの仕事だった。

 ミーミルとアヤメには、この世界の細かいインフラやら交易に関する価格取り決めなどサッパリ分からない。
 しかしパークスは現神の森とジェイドタウン周辺の地理に詳しいし、貴族のアベルは基本的な教養として経済学を学んでいる。

 という事で分かる所は分かる人に任せるのが一番だ。

 俗説では丸投げとも言うかもしれないが、適材適所という説を推したい。

 ミーミルはそう思った。

「では軍の駐屯地にかかる費用はジェイド家が全て負担します」
「中央からも支援できるでしょう。ミーミル様とアヤメ様、お二人の口添えがあれば恐らくは可能です」

 パークス達の会話を聞きながら、アヤメはゼロの様子をチラリと盗み見る。

 ゼロも黙ってパークス達の会話を聞いていた。
 どうやら今の所、言う事はないようだ。

 ミーミルも大人しく話を聞いている。
 あくびをかみ殺しているのが気になるが、まあそれくらいなら大人しい方だろう。

 アヤメはそう思いながら、長老の部屋を観察して時間を潰す事にした。

 部屋にある調度品は質素なものばかりだった。
 生活できるのに必要最低限の物しか置いていない。
 もしかしたら亜人種は森の中を転々としているのかもしれなかった。

 目立ったものはパークスから受け取ったと思われる道具。
 それから壁にある絵であった。

 これはパークスから手にいれた品ではなさそうだった。
 かなり年季が入っており、動物の皮らしきものに描かれている絵だ。
 そこにはインクや絵の具ではない鉱石の粉末のようなもので、人の絵が描かれていた。
 普通の人ではなく、耳があるので亜人種だろう。

 そして気になるのは、手に持っているモノ。
 その実は銀色で塗られたリンゴのような実であった。

 
 ――現神の実。

 
 その実を食べた者には現神の力が宿るという。
 パークスには、まだこの実についての質問はしていない。

 あの日記を見る限り、パークスもこの実が持つ危険性は理解しているハズだ。
 そして亜人種達も、絵に残しているくらいなのだから、知っているはず。

 なのにパークスは実の事について、自分から語ろうとはしなかった。
 この会で現神の実について、何も会話が出なければ、時間を見て今度こそパークスに質問してみるつもりだ。

 もしかしたら地雷を踏む事になったとしても。

「……ふむ。これ以上は一度、中央での協議が必要になると思います」

 アベルはそういうと、懐から紙を取り出した。

「今回、提案があった内容をアヤメ様やミーミル様だけでなく、大臣にも通してみる事にします。その為に、提案内容を書き記します。最後に私とパークス殿、ミーミル様やアヤメ様、そしてククリア様の署名もお願いしたく思います」

 アベルはそう言ってゼロの方を見る。

「ああ、私はただの傍観者だと思って貰えばいい。亜人種を護る事はするが、それ以外には一切の手出しはしない」
「そうですか。では五人の署名をお願いします」

 アベルやパークスが紙に署名し、ミーミルとアヤメも署名する。

 名前の書き方をオルデミアから、ちゃんと習っていて良かった。
 この世界の文字は読めても、書く事ができないのだ。
 まあ、こんな短期間で異世界文字の習得など不可能なので、文字と認識せず絵柄として書いているが。

「ではククリア様」
「ふむ、よいでしょう」

 ククリアは紙に自分の名前を署名する。
 これで人間と亜人種との友好が、一歩前進した訳だ。

 
 何だか拍子抜けするほどに、あっさりと進んだので、本当に良かったのか疑問に思う程であった。

 
「すまん、ここまでやってて何なんだが……」

 ミーミルがおずおずと手を挙げながら質問する。
 打ち合わせにはない行動だった。

 何だか嫌な予感がする。



「今、割と重要な事があっさり決まったみたいだけど、良かったのか?」



 アベルはミーミルの言葉に言葉を失う。

 確かにアベルも、そう思っては、いた。

 もう少し揉めるかと思っていたが、全く揉める場面が無かったのだ。
 本当に淡々と決まったから、殆どの人間が失念しているが、亜人種との友好など、ほんの一週間前までは夢にも思わない事だった。
 そんな相手と波風が立たず、すんなり物事が決まるとは、さすがに予想していない。

「何か問題がありますかの?」

 ミーミルの言葉にククリアは首を傾げる。

「いや、問題は無いけどさ。フツー、初見の人間を連れて来て、いきなり重要な事を決定されて、何か騙されてるかも? とか思ったりしないか?」
「ふむ……何か騙されておるのか?」

 ククリアはミョルドに意見を求める。
 だがミョルドは首を振った。

「パークス様がいらっしゃるのです。この方が我々を騙すなんて考えられません」
「そうじゃの」

 長老と長老の娘は、事も無げに言う。

 
 ――そうか。

 パークスは、ここまでの信頼を得ていたのか。

 
 アヤメとミーミルは、パークスを見る目が変わった気がした。
 ここまで亜人種との信頼を得るには、並大抵の事では無かったはずだ。

 こうもあっさり事が運んだのは、パークスが下地を作っていてくれていたからだろう。
 それも十年以上の時間をかけて。

 亜人種と付き合っている事も、部下の口が堅くなければ、あっという間に広まっていただろう。
 それだけ口が堅くなるくらいに、部下との信頼関係も強いのだ。

 人に打ち込めないだけで、日々の訓練を怠っている訳ではない。
 それは鍛えられたパークスの身体を見れば、容易に想像できる。

 パークスは『武人としては優しすぎる』という欠点ではない欠点を、他の事で少しでも埋める為に頑張っている人間であった。

 
「分かった。あんたらいい人なんだな」

 ミーミルは納得したかのように頷きながら言う。

 亜人種は恐れるべき存在ではない。
 ミーミルはそう感じ取ったようだった。



 
 でも、だったら――?



 
 ミーミルと違って、アヤメの中には、まだしこりが残っている。



  『ラナイヤ調査隊捕食事件』


 それは何かの間違いではなく、本当に起こった事だ。
 幻覚や出所のはっきりしない噂の類ではない。
 本当に何百もの人間がいなくなったという事件であり、事実だ。

 その事実だけが、余りに異質であった。

 それが、どうしても気になる。

「では、これで会議は終わりにしましょう。皆さん、お疲れさまでした」

 アベルは紙をくるくると丸めると、円筒形をした鉄の筒に収めて蓋をする。

「お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」

 口々に労いの言葉をかけあう面々。

「うむ。特に問題はなさそうなので、私はそろそろ戻るとしよう。もし次回があるようならば呼んでくれ。口出しはしないが、様子だけは見させて貰う」
「いつもありがとうございます、神護者様」

 ククリアは神護者に向かって頭を下げる。

「うむ、それではな」

 ゼロはそう言い残し、長老の家から出る。

「さあ、皆さま。お食事の用意が出来ております。ささやかなもてなしですが、ぜひご一緒にいかがですか?」
「おー! やった」

 ミョルドの言葉にミーミルはガッツポーズを取る。

「パークス殿、ゼロ様は食事には?」

 アベルはパークスに耳打ちする。

「ああ、神護者の人は食事を摂らないのです。だからお呼びしなくても問題ありません。いつもの事ですので」
「いつも――こういう食事は毎回なのですか?」
「時間がある時は、よく御馳走になります。美味いですよ」
「そ、そうなのですか」

 一緒に食事までするとは思っていなかったアベルは面食らってしまう。
 だが断る理由は何もない。

「では我々もご一緒しましょう」

 アベルはミョルドの提案に頷いた。

「アヤメ、良かったな。新しい料理のレパートリーが増えるかも――」

 ミーミルは足元にいるはずのアヤメに話しかける。

 
 が、どこにもいない。


 ミーミルは辺りを見渡す。
 アヤメの姿はどこにも無かった。

「アッレ?」

 背が小さいから見失った訳ではない。
 部屋には隠れられそうな物陰も無い。
 いつの間にかこっそりと外に出たくらいしか思いつかない。

 しかし何の為に?

「外か?」

 ミーミルは家の外に出る。


 そこにはアヤメの姿があった。
 やはり外に出ていたらしい。


「どうしたんだ? 何も言わずに外に出るなんて」
「うん……」

 アヤメは何故か浮かない顔をしていた。

「いつから出てたんだ? 全然気づかなかったわ」
「ゼロさんに聞きたい事があって」

 アヤメの前にゼロはいない。
 すでに去った後のようだ。
 途中で退室したゼロを、こっそりアヤメは追いかけたという事なのだろう。

「で何を聞いたんだ?」
「ラナイヤ調査隊の事を知ってるか? って」
「おま……! なかなか突っ込んだ事聞いたな!」

 アヤメの言葉に、さすがのミーミルも驚く。
 地雷中の地雷であった。
 恐らく長く付き合ってきたパークスですら触れていない地雷だろう。

「そしたら良くは知らない。だがどこか別の部族が外界の人間と付き合っていた事は知っている。それではないか? だって」
「…………あー、なるほど! そういう事ね!」

 ミーミルは、ぽんっと手を打つ。

 ミーミルもラナイヤ調査隊の事は引っかかっていた。
 だがネーネ族の人達が人間を食べるとは、どうしても思えない。

 これは騙されている、いないの話ではない。
 単純に必要性を感じないのだ。

 ネーネ族の人々はやせ細っていないし、料理を御馳走できる余裕もある。
 つまり食料事情で問題を抱えていない事の証明となる。
 そんな人々がわざわざ人間を食べようとは思わないはずだ。

 それでも人間を食べるとするならば、よっぽどの理由が必要となる。
 その理由が何だったのか?

 それが疑問だったが『ネーネ族ではなく別の部族が食べた』というなら答えは実にシンプルだった。

 ラナイヤ調査隊が出会った亜人種はネーネ族だと思いこんでいた。
 亜人種はネーネ族だけではない。
 他にも沢山いるのだろう。

 つまりそいつ等が、悪い亜人種なのだ。

「いやー、思い込みだったわ。そうか。パークスが会った亜人種とラナイヤ調査隊が出会った亜人種は別の部族だった、ってこったな。何でこんな簡単な事に気づかなかったんだ」
「うん」

「おっ。てことは、もうネーネ族は疑わなくていいのか?」
「そうなると思う」

「そうか。これで胸のつかえが取れたな! やったな」
「そうだね」


 ミーミルはアヤメの頭をぽんぽんと叩く。
 アヤメは木と木の間を、じっと見つめていた。
 
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