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第二部 四章
第三十五話 事件現場の調査
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「ここが現場か……」
事件現場を検分する刑事の真似をしながら、ミーミルは室内を見渡す。
長老の家の隣――ミョルドの家の中だ。
激しく床板が損傷していた。
「これは何でしょうか?」
パークスが地面に転がっている宝石のようなものを拾い上げる。
「こりゃキャンディだな。イベント配布のアイ……んー、と。お菓子だ」
「お菓子なのですか? 見た事がありませんが」
「昔はこういうのがあった。アヤメが出したんだな」
適当に誤魔化しながら、室内を歩くミーミル。
やはり床板が損傷している以外は、争った形跡はない。
セツカやリッカと一緒にいた所を、何かに襲われたのか――。
「うーむ」
刑事の真似をしてみたものの、何も分からない。
推理小説で犯人を全く当てられないミーミルには荷が重かった。
「アベル、どう思う?」
早々に諦めアベルに丸投げするミーミル。
「そうですね……」
室内を見渡すアベル。
「仮に不意打ちを受けたとしてもアヤメ様が、何かに倒されるとは思えません。それこそ現神でも現れない限り無理でしょう。ここは森の現神がいるのです。他の現神が現れる可能性は無いでしょう」
「たしか現神って他の現神がいる場所には近寄らないんだっけな」
「そうですね。ですが、実際にアヤメ様はいなくなっています。誰かに助けを求める事無く。ここは耳の良い亜人種が住むネーネ族の村の中です。叫べば誰か必ず駆け付けます。となると叫ぶ事すらできない状況だったのではないでしょうか」
「ふむー」
「あのアヤメ様が抵抗すらできず、助けすら呼べない。考えられるとすればセツカとリッカが人質に取られて、アヤメ様が動けなかったとしか」
「なるほどな」
確かに人質を取られたら、ミーミルでも言う事を聞くしかなくなるかもしれない。
「それで合っていると思います」
一緒にいたミョルドが、床板を見ながら呟いた。
「床板がほどけるようにバラバラになっています。ですが破片が見当たりません」
「おお、確かに」
パークスはぽん、と手を打った。
「何? どゆこと?」
ミーミルはパークスに聞く。
「ただ破壊されたなら、破片が残るはずです。ですがここには破片がない。つまり攫った相手はアヤメ様と、セツカとリッカ、そして床板を持ち去った事になるのです」
「???」
ミーミルは言わんとする事を理解できず、首を傾げる。
「木霊縛という法術があります。これは木を操作して、相手に絡みつかせ、動きを封じる法術なのです」
「アヤメ様の力ならば、床の木材程度で拘束できるはずがありません。砕かれてその辺に散らばっているはずです。ですがそれがない。という事は――」
「なるほど。セツカとリッカが木霊縛で捕まったんだな」
ミョルドとパークスの説明でやっと理解するミーミル。
「だからアヤメ様は人質の為に何の抵抗も出来なかったのです」
「となると、シドやブルートゥースのような魔物ではない。法術を使いこなし、人質を取る知恵のある者――」
アベルとパークスは言葉を止める。
そうなると、この現神の森では一つの種族しか該当する存在がいなくなる。
「――そう考えると亜人種しかいなくなるんじゃね?」
ミーミルが答えを言ってしまう。
「私達ではありませんよ。攫う理由がありません」
亜人種であるミョルドが即座に否定した。
「――うむ」
パークスも頷く。
確かに攫う意味がない。
「じゃあ別の亜人種か?」
「だとしたら匂いくらい残っていてもおかしくないのですが……」
ミョルドは深呼吸しながら呟く。
ここには知った匂いしか残っていなかった。
人とネーネ族。
そして神護者。
どれも良く知っている匂いだ。
他の部族が残した匂いなど感じない。
「何かいい感じに謎が解けていくと思ったら、いきなり塞がってしまった」
ミーミルは頭を抱える。
他の三人も考え込んでしまう。
攫った相手が特定できなければ、助けに行く事もできない。
その停滞を破ったのは、羽の音だった。
ばさり、と音がして部屋の中にイカルガが入ってきたのだ。
「失礼する」
そしてその横には、ゼロ――神護者ゼロ・イースがいた。
「これは神護者様。どうされましたか?」
ミョルドがゼロに話しかける。
「実は森の中で、見知らぬ人間を見つけてな。気になったので報告に来たのだ」
「見知らぬ人間?」
「ああ。そちらの人間と同じ柄の鎧をつけていたので、仲間だと思ったのだが、どうにも気になったのでな」
そう言ってゼロはパークスの鎧についている紋章を指差す。
それはジェイド家の紋章だ。
「背丈の良い頭を丸めた男を先頭に、三人の護衛と歩いていた。最初は仲間だと思ったのだが、一度も見た事のない人間でな」
その言葉でパークスの脳裏に一人の人物が浮かび上がる。
マキシウス・ジェイド。
自分の父親だ。
何故、自分の父親がこんな所に。
「ただ森を歩いているだけで、人数も少なかったので捨て置いたのだが……ネーネ族の子供が二人いたのだ。あれは道案内でもさせているのか?」
パークスの顔から血の気が引く。
まさか父親が、これをやったのか?
何の為にこんな事を。
「その二人の横に、アヤメはいなかったか!?」
ミーミルがゼロに詰め寄る。
「いや、見なかったな。荷物は多そうだったが」
「荷物?」
「ああ。狩りで使うような、獲物を入れる布の袋を持っていたのだが――その様子を見る限り、狩りの案内をさせていた訳ではなさそうだな」
「クソ! それだ! マジかあの野郎!」
頭に血が昇ったミーミルは部屋を飛び出そうとする。
しかし、足を止め、踵を返す。
「どこで見たんだ!」
「北部森林へと向かっていたぞ。少なくともここから三十分ほど歩いた所だ。今からではもっと移動しているかもしれん……」
常人の歩きで三十分程度ならば、ミーミルの足ならば余裕である。
ミーミルの足は馬より速い。
「大丈夫! 行って来る!」
「ミーミル様! お待ちください!」
今度こそ行こうとしたミーミルに、アベルが声をかける。
「何だ!?」
「行ってどうなさるのですか!」
「アヤメを助け出す!」
「人質を取られているのです。ミーミル様まで、捕まるおつもりですか」
「そりゃ、んなもん、不意打ちで、四人くらい、一瞬で」
「出来るのですか」
アベルの短いが、ハッキリとした言葉に、ミーミルは声を詰まらせる。
「一瞬で――」
四人を殺せるのか?
四人もの人間を、刀で斬殺できるのか?
もちろん武功で名を馳せたマキシウスと言えど、ミーミルの技量の方が遥かに上である。
殺す事は十分に可能だ。
だがパークスの父親を。
マキシウスは名前も知らない人間ではない。
話した事も無い人間でもない。
だが特別に、深い関係ではない。
確かな証拠はないが、悪い事もしているのだろう。
暗殺にだって関わっているはずだ。
ならば自分にだって殺す事はできるはず――。
そうミーミルは簡単に思っていた。
しかしマキシウス本人との付き合いは浅くとも。
マキシウスの息子であるパークスとの付き合いは深い。
つまり『あなたは、友達のお父さんを、殺せるのか?』という話だった。
事件現場を検分する刑事の真似をしながら、ミーミルは室内を見渡す。
長老の家の隣――ミョルドの家の中だ。
激しく床板が損傷していた。
「これは何でしょうか?」
パークスが地面に転がっている宝石のようなものを拾い上げる。
「こりゃキャンディだな。イベント配布のアイ……んー、と。お菓子だ」
「お菓子なのですか? 見た事がありませんが」
「昔はこういうのがあった。アヤメが出したんだな」
適当に誤魔化しながら、室内を歩くミーミル。
やはり床板が損傷している以外は、争った形跡はない。
セツカやリッカと一緒にいた所を、何かに襲われたのか――。
「うーむ」
刑事の真似をしてみたものの、何も分からない。
推理小説で犯人を全く当てられないミーミルには荷が重かった。
「アベル、どう思う?」
早々に諦めアベルに丸投げするミーミル。
「そうですね……」
室内を見渡すアベル。
「仮に不意打ちを受けたとしてもアヤメ様が、何かに倒されるとは思えません。それこそ現神でも現れない限り無理でしょう。ここは森の現神がいるのです。他の現神が現れる可能性は無いでしょう」
「たしか現神って他の現神がいる場所には近寄らないんだっけな」
「そうですね。ですが、実際にアヤメ様はいなくなっています。誰かに助けを求める事無く。ここは耳の良い亜人種が住むネーネ族の村の中です。叫べば誰か必ず駆け付けます。となると叫ぶ事すらできない状況だったのではないでしょうか」
「ふむー」
「あのアヤメ様が抵抗すらできず、助けすら呼べない。考えられるとすればセツカとリッカが人質に取られて、アヤメ様が動けなかったとしか」
「なるほどな」
確かに人質を取られたら、ミーミルでも言う事を聞くしかなくなるかもしれない。
「それで合っていると思います」
一緒にいたミョルドが、床板を見ながら呟いた。
「床板がほどけるようにバラバラになっています。ですが破片が見当たりません」
「おお、確かに」
パークスはぽん、と手を打った。
「何? どゆこと?」
ミーミルはパークスに聞く。
「ただ破壊されたなら、破片が残るはずです。ですがここには破片がない。つまり攫った相手はアヤメ様と、セツカとリッカ、そして床板を持ち去った事になるのです」
「???」
ミーミルは言わんとする事を理解できず、首を傾げる。
「木霊縛という法術があります。これは木を操作して、相手に絡みつかせ、動きを封じる法術なのです」
「アヤメ様の力ならば、床の木材程度で拘束できるはずがありません。砕かれてその辺に散らばっているはずです。ですがそれがない。という事は――」
「なるほど。セツカとリッカが木霊縛で捕まったんだな」
ミョルドとパークスの説明でやっと理解するミーミル。
「だからアヤメ様は人質の為に何の抵抗も出来なかったのです」
「となると、シドやブルートゥースのような魔物ではない。法術を使いこなし、人質を取る知恵のある者――」
アベルとパークスは言葉を止める。
そうなると、この現神の森では一つの種族しか該当する存在がいなくなる。
「――そう考えると亜人種しかいなくなるんじゃね?」
ミーミルが答えを言ってしまう。
「私達ではありませんよ。攫う理由がありません」
亜人種であるミョルドが即座に否定した。
「――うむ」
パークスも頷く。
確かに攫う意味がない。
「じゃあ別の亜人種か?」
「だとしたら匂いくらい残っていてもおかしくないのですが……」
ミョルドは深呼吸しながら呟く。
ここには知った匂いしか残っていなかった。
人とネーネ族。
そして神護者。
どれも良く知っている匂いだ。
他の部族が残した匂いなど感じない。
「何かいい感じに謎が解けていくと思ったら、いきなり塞がってしまった」
ミーミルは頭を抱える。
他の三人も考え込んでしまう。
攫った相手が特定できなければ、助けに行く事もできない。
その停滞を破ったのは、羽の音だった。
ばさり、と音がして部屋の中にイカルガが入ってきたのだ。
「失礼する」
そしてその横には、ゼロ――神護者ゼロ・イースがいた。
「これは神護者様。どうされましたか?」
ミョルドがゼロに話しかける。
「実は森の中で、見知らぬ人間を見つけてな。気になったので報告に来たのだ」
「見知らぬ人間?」
「ああ。そちらの人間と同じ柄の鎧をつけていたので、仲間だと思ったのだが、どうにも気になったのでな」
そう言ってゼロはパークスの鎧についている紋章を指差す。
それはジェイド家の紋章だ。
「背丈の良い頭を丸めた男を先頭に、三人の護衛と歩いていた。最初は仲間だと思ったのだが、一度も見た事のない人間でな」
その言葉でパークスの脳裏に一人の人物が浮かび上がる。
マキシウス・ジェイド。
自分の父親だ。
何故、自分の父親がこんな所に。
「ただ森を歩いているだけで、人数も少なかったので捨て置いたのだが……ネーネ族の子供が二人いたのだ。あれは道案内でもさせているのか?」
パークスの顔から血の気が引く。
まさか父親が、これをやったのか?
何の為にこんな事を。
「その二人の横に、アヤメはいなかったか!?」
ミーミルがゼロに詰め寄る。
「いや、見なかったな。荷物は多そうだったが」
「荷物?」
「ああ。狩りで使うような、獲物を入れる布の袋を持っていたのだが――その様子を見る限り、狩りの案内をさせていた訳ではなさそうだな」
「クソ! それだ! マジかあの野郎!」
頭に血が昇ったミーミルは部屋を飛び出そうとする。
しかし、足を止め、踵を返す。
「どこで見たんだ!」
「北部森林へと向かっていたぞ。少なくともここから三十分ほど歩いた所だ。今からではもっと移動しているかもしれん……」
常人の歩きで三十分程度ならば、ミーミルの足ならば余裕である。
ミーミルの足は馬より速い。
「大丈夫! 行って来る!」
「ミーミル様! お待ちください!」
今度こそ行こうとしたミーミルに、アベルが声をかける。
「何だ!?」
「行ってどうなさるのですか!」
「アヤメを助け出す!」
「人質を取られているのです。ミーミル様まで、捕まるおつもりですか」
「そりゃ、んなもん、不意打ちで、四人くらい、一瞬で」
「出来るのですか」
アベルの短いが、ハッキリとした言葉に、ミーミルは声を詰まらせる。
「一瞬で――」
四人を殺せるのか?
四人もの人間を、刀で斬殺できるのか?
もちろん武功で名を馳せたマキシウスと言えど、ミーミルの技量の方が遥かに上である。
殺す事は十分に可能だ。
だがパークスの父親を。
マキシウスは名前も知らない人間ではない。
話した事も無い人間でもない。
だが特別に、深い関係ではない。
確かな証拠はないが、悪い事もしているのだろう。
暗殺にだって関わっているはずだ。
ならば自分にだって殺す事はできるはず――。
そうミーミルは簡単に思っていた。
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