国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

文字の大きさ
101 / 136
第二部 四章

第四十五話 忘れていた感情

しおりを挟む
「生きてたのか! そうこなくちゃな!」

 ミーミルを見て、ニアは嬉しそうにする。
 ニアにとっては、壊れた玩具が、また動き出したようなものだった。

「待ってろ……今、ぶん殴ってやる……」

 ミーミルは、ニアに近づいていく。

 だが、その足元はおぼつかない。
 まっすぐ歩く事すらできない程に、弱弱しい歩きだった。

「おいおい、今にも死にそうじゃねぇか。大丈夫か? 誰にやられたんだ?」

 ニアは笑いながらミーミルを茶化す。

「く……くそが……」

 ミーミルは地面に膝をつく。
 歩く事すら厳しい。

 その様子はマキシウスの目にも見るに堪えないものだった。

「ほら、お姉ちゃんが凄い頑張ってくれてるぞ。何か言う事ないのか?」

 ニアはセツカとリッカに向かって話しかける。
 二人は黙ったまま、静かに泣き続けている。
 さっきから顔を上げようともしない。

 木を操作し、二人を締め上げても反応が薄くなってしまった。

「ちっ……詰まらん」

 ニアは双子から興味を無くすと、まだ弄びがいのありそうなミーミルに向き直る。

「ほら、憎い相手はこっちだぞ。頑張れ頑張れ」
「ぬ……うおおお……!!」

 ミーミルは気合いを入れ、立ち上がる。
 だが、やはりフラついていた。

「絶対ぶっとばす……」

 ミーミルは力なく拳を振り上げると、ニアに向かって近づいていく。
 その様子を見て、ニアは思わず失笑してしまった。

 神護者の身体は、元の形は保っているものの、実際は大きく変質していた。

 その最も大きな違いは、異常なまでの防御力である。

 身体は非常に硬質化しており、鋼鉄の刃すら傷一つつかない。
 事実、法術付与されたレフナイト製の短剣を薄皮一枚で止めたのだ。
 刃先に塗られた毒が浸透するだけの傷もつけられなかった。

 その神護者に素手で向かってくるミーミルに、ニアは哀れみすら覚えていた。


「頑張れ、もうすぐ当たるぞー」

 ミーミルはゆっくりと、拳を繰り出す。
 その速度は、文字通り蠅が止まりそうなスピードだった。

 ニアは笑みを浮かべながら、その軌道上に手を広げる。
 
 このまま手を掴んで、握り潰してやろう。
 そうすればどんな声で鳴くだろうか。

 ニアはミーミルの拳に、手を伸ばす。








 射程に入った。


『魔人絶掌』


 メッギャ

 
 聞き慣れない音がした。
 それが自分の身体からしたと、気づくのに時間がかかった。
 
 腕が粉々に砕け散っていた。
 
「は?」

 ニアは何が起きたのか理解できず、間の抜けた声を漏らす。

 目の前の女は、深く、深く。

 亀裂のような笑みを浮かべていた。

 
 その笑みでニアは気づく。
 
 
 演技だった。
 何もかも。


 だが気づいた時には、終わっていた。

 
 魔人絶掌はスキルコンボの始点である。

 歌が響く。

 マキシウスの影にいた幼女の歌。
 その幼女を見て、ニアは気づいてしまった。

 その両手で抑えていた足。


 その足には、何の怪我も無かった。


 当たらなかった訳ではない。
 あの槍は、当たらないと爆発しない。

 そして直撃を受ければ、神護者でもダメージを負う程の威力を持っている。
 法術を使えば無効化する事も可能だろうが、使っている気配は一切なかった。

 間違いなく生身で、あの槍を受けたはずなのだ。


 だが無傷だ。
 そんな生物が、この世界に存在するのか?


 ――俺は一体、何を、相手にしていたんだ?


 ニアは全身の血が、氷水に入れ替えらえたような感覚を覚えていた。

 嫌だ。

 この感覚をもう二度と感じたくないから、あの実を食べたのに。
 ずっと忘れていたのにどうして。

 この僅かな瞬間、ニアの全身を支配していた感情。


 それは紛れもなく『恐怖』であった。


 ミーミルの身体が赤く光る。
 
『魔人連脚』
 
ジグラートの烈火ブースト』がかかった魔人の蹴りで、ニアは上下に割れた。


 
 
「うええええん」「アヤメちゃん! アヤメちゃん!」
「もう大丈夫」

 アヤメはセツカとリッカを抱きかかえながら、二人の髪を撫でた。
 二人を縛っていた木の根はミーミルの剣スキル『クロスブレード』で、すでにバラバラにされていた。

 二人は怪我も無く、無事に解放されたのだ。

「怖かった……」「こわかった」

 セツカとリッカはアヤメにしっかりと、しがみ付く。
 本当に無事で良かった。
 アヤメは二人の背中を優しく撫でながら、深く息を吐いた。

「俺も手伝ったのだが」

 ミーミルはそう言ってセツカとリッカに目配せする。

「……ありがとうございます」「……ありがとうございます」

 そう言って二人は頭を下げるだけだった。
 他人行儀だ。
 やっぱりミーミルには懐いていないようだった。

 ミーミルは何故かアヤメを睨む。
 その視線を無視したまま、アヤメは立ち上がった。

 さっきから動かない男性に声をかける為だ。

「マキシウスさん」
「どんな処罰も受けるつもりです」

 マキシウスは地面に正座したまま、アヤメに言う。
 まるで借りてきた猫のように大人しくなっていた。
 大きく見えていた体も、今はとても小さく見える。

 その様子を見ていると殺されかけていたのに、可哀想に思えてしまう。

「えっと、処罰はとりあえず後回しで」
「後回し……」

「神護者が後何人いるのか聞きたいんですけど、分かります?」
「後、五人いると聞いています。人数に間違いはないと思いますな」
「そっか……」

 ミーミルのコンボを最後まで撃つことなく、ニアは倒せた。
 同じ現神触である『骸』は、降臨唱入りのコンボに耐えていた。

 やはり実を食べた量が少ない分、『神護者』の個体能力は『骸』より劣るようだ。
 それならば十分に倒せる相手のはずである。

「それより早く村に戻ろう。何だか嫌な予感がする」

 ミーミルは周囲を見渡しながら腕を組み、二の腕をさすっていた。

「嫌な予感?」
「なんかぞくぞくする。森に敵意が満ちてる……みたいな。上手く言い表せないけど」

 アヤメには何も感じられない
 だが、確かにミーミルは森の異変を感じ取っているようだ。
 今の所、ミーミルの勘が外れた事がない。

「そうだね。まず戻ろうか」
 

 
「そうは させるか」



「!?」

 背からかかった声に、アヤメとミーミルは慌てて振り向く。

 そこには下半身を失ったニアが転がっていた。
 その全身には、まるでガラスのように罅が走っている。

 死んだように見えていたが、ただ気絶していたのか。
 だが人質がいない以上、もはや恐れる相手ではない。

 ミーミルは落ち着いて、剣を抜く。

 だが、声を発したもののニアは一向に動こうとはしなかった。
 僅かに身じろぎしただけで、ひび割れた体は砂のように崩れ去っていく。
 下半身はすでに粉々になり、砂の山と化している。

 誰の目にも、ニアが死の淵に立っているのは明らかであった。

「……まだやるつもりか」
「クク……フフ……」

 ミーミルの言葉にニアは短く笑う。

 それだけで、辛うじて繋がっていた左手が根元から折れた。
 折れた左手は地面に落ちただけで脆くも粉々になる。

「もう やってやった」

 そう言ってニアは、また笑う。

「何を――」

 ミーミルが問いただす前に、答えが分かった。
 ミーミルは耳をぴくぴくと動かす。
 この世界ではまだ聞いた事のない音だが、日本では何度でも聞いた事がある。
 
 その耳には、砂浜に押し寄せる波のような音が届いていた。

「波……か? 何でこんな場所で」
「ミーミル?」

 ミーミルに近寄ろうとしたアヤメに、セツカとリッカがしがみつく。

「ちょ、ちょっと二人とも」
「……何か、来てる」

 二人は震えながら森の奥を凝視していた。

「俺の兵を全部呼んでやった。クク……ハハハ……」

 ニアは笑いながら崩れていく。
 だが、崩れる原因は笑いのせいではない。
 
 地面が振動している。
 だが地震ではない。

 地震ならば、揺れ方に差はあっても来る時は一瞬だ。
 こんな風に少しずつ振動が大きくなっていく地震など考えられない。
 岩盤破壊による震動波にしては、余りにゆったりしすぎている。
 
「足音だ」

 ミーミルが、そう呟いた時だった。
 音がぴたり、と止まる。
 
 そしてゆっくりと、木陰から小さな人間が現れた。
 
 だが姿は歪で両手両足が体と同じくらいの大きさがある。
 ディフォルメをかけた人間のような姿だった。
 だが姿は歪で両手両足が体と同じくらいの大きさがある。

 そして頭には大きな単目。


 見た事のある魔物――パロックだ。
 だがパロックと違うのは、体が銀色に染まっている事だった。

 
 シルバーパロックの後ろから、またシルバーパロックが現れる。
 その後ろからも、後ろからも。
 続々とシルバーパロックが現れた。

「おいおい……」

 ミーミルもその数には冷や汗を浮かべる。
 ざっと見ただけで二・三百はいるのではないか。


 アヤメ達は完全に包囲されていた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

処理中です...