国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第二部 四章

第六十話 皇帝の剣

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「がっはぁああああ!!??」

 顔面に蹴りを入れられ、声を上げながらゼロが吹き飛ぶ。

 ミーミルの突進はゼロの顔に向かって放たれていた。
 ゼロは勢いよく地面を転がっていく。

「ミーミル!?」

 いきなり現れたミーミルに驚くアヤメ。
 ミーミルはシルバーパロック達と戦っていたはずだ。
 あの量を一人で捌くには、まだかなり時間がかかる。

 マキシウスもいない。

「おー、アヤメ無事に到着してたみたい何だそれ!? 後ろにいるの何だよ!?」

 ミーミルは光神を見て驚愕している。

「それよりマキシウスさんはどうしたの?」
「あ、それな」

 ミーミルは空を見上げる。
 アヤメも釣られて空を見上げる。

 ――空を丸太が飛んでいた。

 丸太はゆっくりとこちらに向かって落ちてきている。


 アヤメはそれを見て、恒例の嫌な予感がした。


「……とう!!」

 ミーミルはタイミングを見計らって丸太へとジャンプする。
 そして空中で丸太をキャッチすると、着地した。

「マキシウスさんはこちらです」

 ミーミルは地面に立てた丸太をくるっと回す。
 丸太の裏にはマキシウスが縛り付けられていた。

 白目を剥いて気絶しているが、恐らく無事だ。

「まさか――投げてきたの?」
「親父!?」
「父上!」

 パークスとレガリアが父親の惨状を見て声を上げる。
 二人は丸太に駆け寄ってマキシウスの拘束を解き始めた。

「シルバーパロックは全部いなくなったぞ。アヤメ、転瞬楽土使っただろ? あれをやる少し前に勝手に逃げてった」
「そんな事よりマキシウスさん大丈夫なの?」

「全力で投げずに、力を調節して投げれば良かったんだよ。そうすれば突進系スキルで瞬間移動しながら、飛んでいく物体にも追いつける。それを繰り返せば高速で移動できるんじゃないかなと」
「マキシウスさんは?」

「……まあ最悪、高級回復POTで何とかなると思って」

 アヤメ無言のボディブローがミーミルの腹に入る。

「ふんっぐぅ」

 ミーミルは地面に倒れた。

「キャッチ成功とか声が聞こえてたけど、そんな無茶苦茶してたの?」
「ぐふっ……間に合ったからいいじゃん」

「キャッチ失敗してたら?」
「おなか痛い」

 アヤメはため息をつくと、神護者の方へと向き直る。



 
「……………」




 いない。

 神護者達がいなかった。
 さっきまでいたはずなのに、影も形もない。
 
「あ、やばい」

 アヤメの顔が青ざめる。
 
 逃げたのだ。

 アヤメ一人だけなら、何とかなるかもしれない。
 神護者はそう思っていたに違いない。
 事実ゼロは攻撃法術を展開し、アヤメに攻撃を加えようとしていた。
 
 そこにミーミルの投入である。
 こうなると、もはや場の状況は覆らない。

 現神触の軍隊も失い、仲間も半分を失っている。

『逃げる』を選択するのは当然だった。

 
「ちょっ……ミーミル起きて!」
「寝かしといて勝手な」
「神護者が逃げてる! ここで倒しとかないと大変な事になる!」

 ここで逃がしたらどうなるか分からない。
 ここまで力の差を見せれば、アヤメ達に復讐してくる可能性は無い、かもしれない。
 だが他の人間に被害が及ぶ可能性は十分にある。

「……ヤバいな」

 ミーミルは耳をぴくぴくと動かしながら、立ち上がった。

「三方向にまっすぐ逃げてる。二人はゆっくりだが一人がめっちゃ早い」

 恐らく深手を負っているオルタとジーベがゆっくりな二人なのだろう。
 ストームインパクトを受けたものの、元のダメージが余り無かったゼロは、まだまだ元気のようだ。

「参った。一人追いかけると他を逃がすぞコレ」
「ぐぬぬー」

 アヤメは苦悶の表情を浮かべる。
 今からアヤメとミーミルで追いかけるとしても、やはり一人足りない。

 なにせMPが足りていない。
 とりあえず今からMP回復POTを飲んで――。


「――よし。パークス!! アベル!! すぐこっちに来い!!」

 
 ミーミルは突然、大声で叫んだ。
 
「は、はい!? 何でしょうか!?」
「はい!」

 突然、名前を呼ばれたパークスとアベルは、慌ててミーミルの元に駆け寄って来る。

「何か御用でしょうか?」
「どうされましたか」

 二人は不思議そうな表情でミーミルを見る。

 
 二人の問いに答える事無く、ミーミルは空中に両手を掲げた。


 燐光が両手に収束する。

 そして両手に、剣が現れた。
 

 右手には『レ・ザネ・フォルの枝』。

 薄い緑色の刀身が美しい剣だ。
 ミーミルはもう使わなくなったが、攻撃値『1975+3000』を誇る恐るべき剣である。

 
 左手には『細雪』。

 どの職業でも装備可能な魔人刀。
 レ・ザネフォルの枝より威力は劣るが、それでも『500+1500』というブラストソードの三倍近い攻撃値を持つ刀。

 
 ミーミルは空中で、その二本を掴むと、パークスとアベルに、こう言った。

 
「剣を与える」


 僅かな間、その言葉の意味が分からなかった。
 そして理解した瞬間、アベルとパークスは身震いした。
 
 ――皇帝より剣を賜る。

 それがどれほどの意味を持つか、アイリス帝国の騎士ならば当然、理解していた。

 アヤメが剣をばらまいた時とは違う。
 あれはアヤメの使っている武器ではなく、国からの支給品扱いである。
 しかし、この二つの剣は皇帝の私物であり、愛用の剣である。


 国からの装備支給と、皇帝から私物を渡されるのとでは意味合いが大きく変わるのだ。
 
 
 過去に皇帝から剣を受けた人間は、数える程しかいない。
 その全員が、何らかの功績を残した歴史に名を残す英雄である。

 その英雄達に褒美として、皇帝は自らが使う剣を与えた。
 その剣を使い、皇帝の剣として戦う事は帝国における最高位の名誉なのだ。

 つまりパークスとアベルは、この剣を受けた時、皇帝に認められた最高位の英雄となる。
 
「み、ミーミル様。本気なのですか」

 さすがのパークスも狼狽えながらミーミルに問う。
 本来ならば様々な手続きが必要になるはずだ。
 貴族への根回しや、儀式の準備。

 それをこんな簡単に、戦場でやってしまうなど前代未聞である。
 
「ここで剣の授与を……行うのですか」

 まさか自分が該当者になると思っていなかったアベルは、声を掠れさせながら言う。
 アベルは貴族ではあるが、大貴族ではない。
 四大貴族の三男であるパークスならまだしも、アベルが受け取れるレベルの栄誉ではない。

「え? 何が?」

 当然ながらミーミルは事の重大さに気づいていなかった。

「何がと言われましても」
「ええ……」

 パークスとアベルはお互いに顔を見合わせて、所在なさげにしている。

「ははぁ、なるほど」

 それをミーミルは、物を貰う前の遠慮だと気づいた。
 確かにそれは合ってはいるのだが、重みが全く違う事には気づいていない。

「気にするな! この武器で敵を倒せ! それだけの事だ!」
「もうちょっと言い方あるんじゃない?」
 
 ミーミルの余りに適当な言葉にアヤメが突っ込む。
 
「……」
 
 確かにそれもそうだ。
 ミーミルは少しだけ考えると、それっぽい言葉を思いついた。

「アベル、パークス」

 ミーミルは手元で剣を一回転させ、柄をアベルとパークスに向けた。
 
「剣皇マグヌス・アルトナの名において命じる」
 
 神妙な顔つきで、ミーミルは声を張り上げた。

 
「――この剣で、我がアイリス帝国に仇名す敵を、倒して参れ!!」

 
 その言葉でアベルとパークスの全身に電流が走った。

 二人は跪く。

 気がつくと跪いていた。
 身体が勝手に、動いていた。
 そうする事が、まるで必然だったかのように。
 
 そして柄に手を添える。
 
「パークス・ジェイド。剣を、承ります」
「アベル・シェラトン。剣を、承ります」
 
 パークスは細雪を。
 アベルはレ・ザネ・フォルの枝を手に取る。
 
 手にした途端、全身に恐るべき力が漲ってきた。
 剣に籠められた『強化属性エンチャント』が二人を大幅に強化する。

 だが力が漲ったのは、それだけが理由ではない。
 自分が守るべきもの、戦うべきものが明確に定まった瞬間だった。
 身体の中に一本の、太く曲がらない芯が入る。
 そんな感覚だった。
 
「よし! あのカス共をぶっ殺すぞ!」

 ミーミルはそう言って二人に背を向ける。

 その手には、すでに『鬼哭 裏桜花』が握られていた。
 
 風に靡く黒髪と、均整の取れた美しい肢体。
 不思議と惹き付けられるうねる尻尾に、ぴくぴくと動く猫耳。

 身長はアベルとパークスより低い。
 武の達人とは思えない程に、佇まいは隙だらけだ。
 

 それなのに二人には、その背中が自分より遥かに大きく見えた。

 
「アヤメ、歌いけるか?」
 
 言い終わる前に体をオーラが包み込む。
 アヤメはすでに場が収まりそうになった時点で降臨唱を発動させていた。

 
『シュヴァリエの風』
『死霊都市の鎮魂歌』
『カリギュラの協奏曲』
『狂戦士戯曲』

 移動速度向上。
 攻撃速度・クリティカルダメージ向上。
 命中率・回避向上。
 防御力がダウンする代わりに攻撃力・攻撃速度・クリティカル率・命中率・移動速度向上。


 移動速度重視。
 完全に「はよいけ」構成である。
 相変わらず言葉より雄弁なアヤメの歌構成にミーミルは苦笑を浮かべた。


「――ゼロは私が追う」 

 ミーミルはゼロの向かった方向を見る。

「パークスとアベルは二人を。方向はあっちと、あっちだ」

 刀の先でジーベとロクスが逃げた方向を指す。
 
『御意』

 二人は同時に頷いた。
 そして同時に法術を発動させる。
 
雷霊瞬光トーニト・ラッシュ
風霊疾駆ヴェチル・ラッシュ
 
 二人の身体を紫電と烈風が包む。
 
「よし! 行くぞ!」

 
 ミーミルの掛け声で、アベルとパークスが地を蹴った。
 その速度は目にも止まらない。
 

 鍛えた武人としての肉体と技術、折れぬ強き芯を得た精神。
 法術による強化と歌による相乗効果。
 そして皇帝より賜った神器の強化属性エンチャント
 
 
 もはや二人は、人の領域を完全に超越していた。
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