指切りの彼

藤咲 ふみ

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始まった高校最後の夏休みと付き合って初めてのデート。

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 僕と柊は約束した日、昼頃に最寄り駅で待ち合わせて、初めて一緒に電車に乗った。
 緊張する僕に、柊がそっと電車の中、手をギュッと握った。
 それを僕は、なんか慌てちゃってつい跳ね除けてしまった。

「ご、ごめん!緊張、してて⋯」

 僕が謝ると、柊が

「ムードとか考えなかった俺が悪かった⋯!」

 と頭を下げた。
 なんか、悪いことしちゃったなと、思った。でも、それきりしばらく柊は手にもどこにも、触れては来なかった。なんか友達だった頃の方が、僕達上手く触れ合えてた気がした。

「どこ、行くの?」

 僕の質問に、柊は

「内緒」

 とイタズラッぽく笑った。

 柊に連れられ着いた場所は、都会の綺麗な赤いレンガの建物だった!

「わー、綺麗!ここなに?」

 柊に聞くと、柊は

「買い物できる場所!ショッピング、しよ!」

 と、いつもみたいにやんちゃに笑った。

 僕らはその中を楽しく回って、この服似合うね!とか、こっちだろ!とか言い合ったりして笑い合う。

 オシャレな雑貨なんかも見て、こんなの似合う部屋憧れるなーとか、空想の部屋を作ってお互い語り合ったり、お互いに気に入った手頃の雑貨をプレゼントし合ったりした。

 そんなことしていたら、小腹が空く。僕らは少しオシャレなカフェに入って、甘いものを食べて飲んだ。

「蓮のもちょっとちょーだい!」

 柊の可愛らしいおねだりに、僕は自分のケーキを少し切り分けて、柊のお皿に乗せた。
 それに柊は嬉しそうに、自分のケーキも切り分けて、僕のお皿にドンッと置いた。

「分けっこ!」

 柊はそう言って、とても幸せそうに笑っていて、僕も同じように幸せに笑った。

「ありがとう、柊!」

 ねぇ、柊、君はいつでも優しいよね?本当は自分がケーキ、欲しかったんじゃないんでしょ?僕とケーキ、分けっこしたかっただけでしょ?本当に、不器用で優しい人だね、君は⋯!

 微笑む僕に柊は

「なんだよ?」

 とやんちゃに笑った。

「別に、なんでもないよ!ケーキ、美味しいね!」

 僕らはいつもそうだった。核心的なことには触れずに、なんならただのお友達の延長みたいにじゃれ合って、遊んでいたね。でもそれが、なんだか心地良かったんだよ。

カフェを出ると、外も暗くなりだし、帰るのかと思ったら、柊が僕の手を引いて駆け出した。そこは夜の遊園地だった!

「わー、キラキラしてて、綺麗!」

 僕は柊の手を握ったまま、キラキラ光る遊園地を一周見回し、目を輝かせた。

「気に入った?」

 柊の優しい問いかけに、僕は何度も頷く。

「うん!うん!とっても、とってもここ好き!だって、綺麗だもん!あちこちキラキラしてて、とっても綺麗!」

 それに柊は、なんか小さい子供でも扱うように優しく、僕に笑いかけ、そっと手を引く。こっちおいでって。

「そんなに喜ぶんじゃ、もっと早く、連れてくれば良かったな!なぁ、蓮、もっと綺麗なもん、見せてやるからな!」

 僕は手を引く柊に着いて、キラキラ光る遊園地の中を、あちこち見回しながら歩いた。

「着いたぞ!ほれ!ここ大観覧車!」

 それは何色にも点滅する、とてもキラキラした、大きな観覧車だった。

 「わー、おっきいね!綺麗だね!これ、乗るの?」

 それに柊はやんちゃに笑って、頷く。
「勿論!ここ来たらこれ、乗んないと損だよ!」

 そう言って、僕の手を離すと、どこかへ走って行った。そして戻って来ると、その手には、チケットが握られていた。

「はい!お前の分!これ持って行くぞ!」

 僕は慌ててお金を払おうとした。でも柊が、いいよ!と言って受け取らない。

「お前に景色、プレゼントしてやりたかったんだよ!俺の夢、叶えさせろ!」

 僕はそれにときめいて、お礼を言って、お財布をしまった。
 僕らは大観覧車に乗ると、少しずつ高くなってゆく景色を眺めた。

「わー、凄い、街がキラキラしてる!凄いね!こんなに光ってるんだね!」

 そんなはしゃぐ僕に柊は

「蓮は、本当にいい反応するな!心、綺麗だな!俺さ、蓮と会うまでこういう光とか、あんま綺麗だって思わなかったんだよ!本当に、心荒んでるよな⋯でも、蓮が隣りにいるようになって、世界が変わった、何もかもが、綺麗に見えるんだ!本当だよ、嘘じゃないよ!だからね、蓮、ありがとう!俺の世界に色を付けてくれて、ありがとう!」

 その時、観覧車が丁度頂上に辿り着いた。
 それに気付いた柊が、勢いよく僕の方に、抱きついてきた!

「わー、観覧車すごい揺れた!何、柊は突然!君はいつも、突然なんだから!」

 僕に抱きついて、幸せそうに笑う柊は、そっと僕の髪を撫でていた。
 僕はそれに照れて、でもとても幸せで、僕も微笑んで、柊のことを抱き返した。
 僕らは二人きりの観覧車の中、幸せにお互いの体温を分け合って、過ごした。それ以上でも以下でもなかったけれど、それがとても、幸せだった。

 やがて観覧車が下りだし、降車場が迫ると、名残惜しかったけれど、僕らは体を離して、元の席に戻って、また夜景を眺めた。

「綺麗⋯だったね!」

 僕が微笑むと、柊は

「うん!また⋯来ような!約束!」

 と、いつもお馴染みの、小指を立てて、やんちゃに笑った。
 それに僕は自分の小指を絡めて

「約束!ぜーったい約束!」

 そう言って笑った。
 なんだか切なかった。でも、観覧車、僕らの番はもうおしまいだから仕方ないね!

 ねぇ、柊、いつかまた僕をここに、連れてきてね!約束だよ!本当に!絶対!

 観覧車を降りた僕らは、手を繋いで夜の遊園地をさまよう様に歩いた。でも僕は知っていた。そろそろ

「帰んなくちゃね⋯!」

 僕のその言葉に、柊が寂しそうに俯いた。でも唇を尖らせながら

「そう、だな⋯!」

 と言った。
 そのまま僕らは光溢れる遊園地に別れを告げると、駅に向かい、帰りの電車を待った。

「柊、可愛い雑貨、ありがとう!大切にするね!今日は素敵な想い出を、ありがとう!僕、一生覚えてる!忘れない!」

 そんな僕の言葉に柊はなんだか口数少なく

「ああ、俺も!」

 とだけを言った。
 その時電車がやって来て、僕らはあっさり帰りの電車に吸い込まれて、揺られて地元の駅を目指した。
 なんか、喋ったらいけない気がした。喋ったら、心にある想い出、逃げてく気がした。だから僕らは帰り道、何も喋らなかった。

 そのまま電車は僕らの地元最寄り駅に辿り着き、黙ったままの僕らは、手だけ繋いで、ゆっくり夜の海辺の街を歩いた。

「じゃあ、僕、こっちだから!」

 僕が柊に言うと、柊は黙って僕を抱き締めた。
 その温もりが、なんだか切なかった。またいつでも会えるのに、なんか好き過ぎて、別れるのが切なかった。

「柊、やめてよ!もう二度と会えないみたいにそんな、そんな真面目に抱き締めたり、しないでよ!」

 ちょっと笑った僕に柊は

「ごめん、俺、余裕なくて⋯お前のこと、スゲー好きなんだ⋯だから、なんか、余裕ない⋯」

 そう言って、僕をもっとギュッと抱き締めると、サッと体を離して

「悪い!俺、かっこ悪いな!今日は楽しかったな!また⋯地元でフラフラ遊ぼうな!夏休み、始まったばっかだし!じゃあ俺、帰るわ!またな!蓮!」

 柊はそう言って、逃げるように、走って去って言った。
 一人取り残された僕は、なんかちょっぴりの切なさと、素敵な想い出を両手に抱えて、なんて言ったらいいのか分からない気持ちで家に帰った。
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