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至って平凡な見た目、並の学力、可もなく不可もない運動神経を持ち、今現在何の変哲もないサラリーマン。
我ながら平凡を絵に描いたら、自分になるのでは?と思うほど、ド平凡な生活、そして普通の人生。
そんな僕が一つでいいから、人に自慢できることを何か挙げろと言われたら、めちゃくちゃイケメンでハイスペックな幼馴染がいることだろうか。


「はぁ~~足を怪我しただぁ⁉︎何やってんだよこのドジッ!」
「いや……ちょっとこけて捻っただけだから」
電話の向こうから聞こえてくる大声に、スマホを耳から離して三波朔(みなみさく)はそう答えた。
「何やってんだよ!まったく……」
なおも大きな声でそう言い、呆れたように幼馴染の木元(きもと)侑(ゆう)星(せい)は溜息を吐
いた。
ことの発端は仕事終わり、朔は今日侑星と食事に行く約束をしていた。少し待ち合わせ時間に遅れていたので、急いで会社の階段を駆け下り、調子に乗って三段ほどの段差をジャンプで飛んだのがよくなかった。
着地の瞬間見事に足を挫き、たまたまそこを通りがかった同僚に助けを借りどうにか病院に辿り着いたのだった。診察を済ませ、食事に行けなくなったことを侑星に連絡を入れたところ……このように朔は電話越しに怒鳴られている。
「たいしたことないらしいから大丈夫だって」
 宥めるようにそう言うと、ハァとまた侑星は大きくため息を吐いた。
「で、どこの病院?」
「え?」
 急な問いに朔は首を傾げる。
「だから!どこの病院にいるんだよ」
「えっと……〇〇病院」
 朔は今自分がいる病院の名前を答えた。
「分かった。すぐ行くから、一歩もそこを動くなよ!」
「動くなって……?」
 行くってどこに?そう聞こうとしたら、すでに通話は切れていた。
(もしかして…迎えにきてくれるのかな)
 わざわざ何で?通話の切れた画面を見つめながら、朔は首を傾げた。


「お前……一歩も動くなって言っただろうが!」
 会計をするため、受付カウンターの前に立っていたら、聞きなれた声が後ろから聞こえて朔は振り向いた。
「侑星」
(ほんとに迎えにきてくれたんだ)
 その姿を見て、朔は驚きに目を瞬かせた。
 現れたまるでファッション雑誌から切り抜かれたような侑星の姿に、待合場にいた全員の視線が一気に集まる。精悍な顔の男らしい美貌に、スタイルのいい長身の体躯、そんな侑星を見て周りから感嘆のため息が零れた。
「たくっ……」
 そう呟いて侑星が朔の方に歩いてくる。モデル並みにスタイルがいい侑星が歩くと、質素な病院の廊下も、さながらファッションショーのランウェイのように見えて、ますます周囲の人間はホウとため息を零した。
 そんな幼馴染の登場に驚いていると、松葉杖をつく朔の姿に顔を顰め、朔の手から荷物を奪うと、侑星は近くにあった椅子を指さした。
「そんなのいいから、座ってろ」
「お会計……」
 朔はそう言うがそんなことには構いもせず、侑星は自分の財布からお金を出して支払いを済ます。朔は大人しく言われたまま、椅子に腰かけた。
「あいつの足のこと聞きたいんですけど」
「あら、家族の方ですか?」
 受付の女性スタッフが、侑星を見てポーッと頬を染めながら聞き返す。
「はい。そうです」
 頷いた侑星を、スタッフがこちらへどうぞと案内する。
(いや、家族ではないだろ……)
 小さい頃からの幼馴染で、朔と侑星の家は家族ぐるみで仲がいいから、家族と言ってもいいようなものだけれど。
 その後姿を眺めながら、朔は心の中でつっこんだ。
 

「ほら」
 戻ってきた侑星が、朔の方に背中を向けてしゃがむ。ほら、と言われ目の前にある大きな背中を朔はジッと見つめた。
「え?まさかおぶってくれようとしてる?」
 慌てる朔に侑星は相変わらず背中を向けたままだ。
「いいって!歩けるって……‼」
 さすがにそこまでさせるわけにはいかない、それに何より人前でおんぶなんて恥ずかしい。朔が戸惑っていると。
「早くしないとお姫様だっこするぞ」
 ちらとこちらを見て侑星がそう言い放つ。
「………」
 お姫様抱っこなんて、おんぶの恥ずかしさの比ではない。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
 朔はしぶしぶと言った様子で、侑星の背中に体を預ける。
「ん」
 軽く頷いて朔を軽々と持ち上げると、侑星が歩き出す。そんな二人の仲睦まじい様子を、周囲は微笑ましい視線で見つめていた。


「足、気をつけろよ」
 助手席に乗り込んだ朔にそう言葉をかけて、侑星が車のエンジンを入れる。朔の方に体を寄せるので何かなと思っていたら、自然な仕草で朔のシートベルトを締めてくれた。
「わざわざ来てくれてありがと」
「んー」
 朔のお礼に、侑星は何でもないことのように返事をする。
「で、なんで怪我したんだ?」
「あー時間に遅れてたから、会社の階段急いで駆け下りてこけちゃって……」
 本当は調子にのって、階段を飛んだのが原因だけど、恥ずかしいのでそれは隠しておく。
「バカ…急がなくていいんだよ。朔のことなら何時間だって待てるんだから」
「……ああ、そう」
 車を走らせる侑星に、朔が少し間を空けて答える。
「遅れるって連絡あったきり、返事入れても既読にならないから、なんかあったのかって心配した」
「それは……ごめん」
「何謝ってんだよ、朔はなんも悪くないだろ。病院からじゃなくて、会社で連絡入れてくれてよかったのに」
 そう言って、侑星が朔の髪を撫でる。大きな掌の温かい感触と優しい言葉に、どこかくすぐったさを朔は感じた。
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