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③
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「ほら、水」
「うーありがと」
ベッドに腰かける朔に、侑星が水の入ったコップを渡す。それを受け取って朔は一気に飲み干した。
「ふう……」
のぼせた体に冷たい水が心地いい。生き返るような心地で朔は一息ついた。
「大丈夫か?」
「生き返ったありがと」
空になったコップを、自然な動作で侑星は朔の手から取ると頭を撫でる。その掌が心地よくて朔は瞳を閉じた。
いつの間に持って来ていたのか、侑星が後ろに座って朔の髪をドライヤーで乾かし始める。優しい手が髪を梳いていく感触が気持ちいい。朔はとろんと瞳を溶けさせた。
「凭れていいぞ」
そう言われ、朔は気付いたら後ろにいる侑星の体に背中を預けていた。髪が乾く頃には、すっかりうとうとと朔はまどろんでいた。
「眠い?」
優しい声にうんと頷く。すると侑星がリモコンで電気を消して、ベッドに寝転がった。片腕を差し出すように横に伸ばし朔の方を見る。
「ほら、こいよ」
「……」
誘われるまま、朔は侑星の横に寝転ぶ。差し出された腕に頭を乗せると、すぐにもう片方の腕が朔を抱きしめて引き寄せた。
(腕枕…されてる……)
何で?と思うが抱きしめられる腕と、侑星の体温が心地よくて何も考えられなくなる。素直に体を預ける朔に、侑星は上機嫌で微笑んだ。
「なぁ……さくぅ……そろそろここに引っ越して来いよ」
(引っ越す…?ぼくがこのへやに……)
「家賃も何もいらない。朔一人ぐらい余裕で養えるし」
(養えるって。僕も働いてるから生活には困ってないけど……)
「なぁ~~さく……」
心の中で侑星の言葉に返事を返していると、甘え切った声で名前を呼んで、侑星が朔をギュッと抱きしめた。
それに、ふと朔の中で昔の記憶が蘇る。
泣いている小さな侑星。
『なんで!なんで!?朔と結婚できないの?』
そんな侑星を小さい朔は必至で抱きしめていた。
『男同士は結婚できないってママたちが言ってた』
そういう朔もうるうると目を潤ませ泣くのを必死に我慢していた。
『大きくなったら結婚しようね』と約束をしている二人を微笑ましそうに見ながら、侑星と朔の母親は言ったのだ。
『それは素敵だけど……男同士は結婚できないから残念ね』
初めて知った事実に、侑星と朔は打ちのめされていた。
『おれ……がんばる!』
『え?』
涙を堪える朔を侑星がギュッと抱きしめる。
『いっぱいいっぱい努力して誰よりも勉強ができるようになって、かけっこも早くなって、お金もいっぱいいっぱいつくる!そしたら朔をお嫁さんにしたいって言っても誰ももんく言えないでしょ?』
『ゆうちゃん……』
『だから待っててね、さく!』
そう言って朔を抱きしめる侑星に、朔は強く抱きつき返した。
それから本当に、本当に侑星は努力をした。
成績はいつもトップ。所属するバスケ部では小中高ともにエースでスタメン。大学は経済学部に入学し、在学中から企業でアルバイトを始め経済を実践で学び、投資の勉強も始めだした。一流企業にいち早く就職を決めたと思ったら、卒業と同時に車を購入した。そして一年ほど働いた後に、自分の会社と朔の会社に通いやすいという理由でこのマンションに住みだした。
完璧な侑星に、周りはいつも「さすが侑ちゃん!」「侑星なら当たり前」という言葉を送っていたけど。
朔は知っている。それがどれだけの努力の上に成り立っているのかを。あの約束を交わした日から、一番側でずっと見てきたから。
侑星が努力を実らせる度、その努力を純粋に尊敬し、すごいね!と言う朔を、いつも嬉しそうにそして愛しそうに侑星はギュッと抱きしめた。
「うん。住む……」
気付いたら勝手に口から言葉が零れ落ちていた。
「えっ……」
侑星が驚いたような声を出す。
「今…うんって言った……?」
自分で言っておいて驚くなんて、なんだか可笑しくて笑ってしまう。朔はもう一度、しっかりうんと頷いた。
「ここで侑星と一緒に暮らす。ずっと……」
「っ……朔」
朔の言葉に侑星は息を飲んで、そして次の瞬間嬉しそうに朔の名前を呼んだ。
顔を上げた朔の目の前に、侑星の笑顔が広がった。瞳を潤ませて、とてもとても幸せそうな笑顔の侑星が朔の瞳に映る。
心がキュンと締め付けられて、朔は侑星の胸に顔を埋めた。その体に強くしがみつく。すぐに温かくて大きな腕が朔を包み込んでくれる。
きっと今、侑星の腕の中にいる自分も、侑星と同じ顔をしている。
(なんだかとんでもないことを言ってしまったけど……)
抱きしめてくれる体温がとても心地いいから、細かいことは全部後から考えればいい。
「さく…すきだ、大好き…愛してる……」
(僕も昔からずっと…大好きだよ……)
繰り返される愛の言葉にそう答えて、朔は幸せに包まれたまま目を閉じた。
「うーありがと」
ベッドに腰かける朔に、侑星が水の入ったコップを渡す。それを受け取って朔は一気に飲み干した。
「ふう……」
のぼせた体に冷たい水が心地いい。生き返るような心地で朔は一息ついた。
「大丈夫か?」
「生き返ったありがと」
空になったコップを、自然な動作で侑星は朔の手から取ると頭を撫でる。その掌が心地よくて朔は瞳を閉じた。
いつの間に持って来ていたのか、侑星が後ろに座って朔の髪をドライヤーで乾かし始める。優しい手が髪を梳いていく感触が気持ちいい。朔はとろんと瞳を溶けさせた。
「凭れていいぞ」
そう言われ、朔は気付いたら後ろにいる侑星の体に背中を預けていた。髪が乾く頃には、すっかりうとうとと朔はまどろんでいた。
「眠い?」
優しい声にうんと頷く。すると侑星がリモコンで電気を消して、ベッドに寝転がった。片腕を差し出すように横に伸ばし朔の方を見る。
「ほら、こいよ」
「……」
誘われるまま、朔は侑星の横に寝転ぶ。差し出された腕に頭を乗せると、すぐにもう片方の腕が朔を抱きしめて引き寄せた。
(腕枕…されてる……)
何で?と思うが抱きしめられる腕と、侑星の体温が心地よくて何も考えられなくなる。素直に体を預ける朔に、侑星は上機嫌で微笑んだ。
「なぁ……さくぅ……そろそろここに引っ越して来いよ」
(引っ越す…?ぼくがこのへやに……)
「家賃も何もいらない。朔一人ぐらい余裕で養えるし」
(養えるって。僕も働いてるから生活には困ってないけど……)
「なぁ~~さく……」
心の中で侑星の言葉に返事を返していると、甘え切った声で名前を呼んで、侑星が朔をギュッと抱きしめた。
それに、ふと朔の中で昔の記憶が蘇る。
泣いている小さな侑星。
『なんで!なんで!?朔と結婚できないの?』
そんな侑星を小さい朔は必至で抱きしめていた。
『男同士は結婚できないってママたちが言ってた』
そういう朔もうるうると目を潤ませ泣くのを必死に我慢していた。
『大きくなったら結婚しようね』と約束をしている二人を微笑ましそうに見ながら、侑星と朔の母親は言ったのだ。
『それは素敵だけど……男同士は結婚できないから残念ね』
初めて知った事実に、侑星と朔は打ちのめされていた。
『おれ……がんばる!』
『え?』
涙を堪える朔を侑星がギュッと抱きしめる。
『いっぱいいっぱい努力して誰よりも勉強ができるようになって、かけっこも早くなって、お金もいっぱいいっぱいつくる!そしたら朔をお嫁さんにしたいって言っても誰ももんく言えないでしょ?』
『ゆうちゃん……』
『だから待っててね、さく!』
そう言って朔を抱きしめる侑星に、朔は強く抱きつき返した。
それから本当に、本当に侑星は努力をした。
成績はいつもトップ。所属するバスケ部では小中高ともにエースでスタメン。大学は経済学部に入学し、在学中から企業でアルバイトを始め経済を実践で学び、投資の勉強も始めだした。一流企業にいち早く就職を決めたと思ったら、卒業と同時に車を購入した。そして一年ほど働いた後に、自分の会社と朔の会社に通いやすいという理由でこのマンションに住みだした。
完璧な侑星に、周りはいつも「さすが侑ちゃん!」「侑星なら当たり前」という言葉を送っていたけど。
朔は知っている。それがどれだけの努力の上に成り立っているのかを。あの約束を交わした日から、一番側でずっと見てきたから。
侑星が努力を実らせる度、その努力を純粋に尊敬し、すごいね!と言う朔を、いつも嬉しそうにそして愛しそうに侑星はギュッと抱きしめた。
「うん。住む……」
気付いたら勝手に口から言葉が零れ落ちていた。
「えっ……」
侑星が驚いたような声を出す。
「今…うんって言った……?」
自分で言っておいて驚くなんて、なんだか可笑しくて笑ってしまう。朔はもう一度、しっかりうんと頷いた。
「ここで侑星と一緒に暮らす。ずっと……」
「っ……朔」
朔の言葉に侑星は息を飲んで、そして次の瞬間嬉しそうに朔の名前を呼んだ。
顔を上げた朔の目の前に、侑星の笑顔が広がった。瞳を潤ませて、とてもとても幸せそうな笑顔の侑星が朔の瞳に映る。
心がキュンと締め付けられて、朔は侑星の胸に顔を埋めた。その体に強くしがみつく。すぐに温かくて大きな腕が朔を包み込んでくれる。
きっと今、侑星の腕の中にいる自分も、侑星と同じ顔をしている。
(なんだかとんでもないことを言ってしまったけど……)
抱きしめてくれる体温がとても心地いいから、細かいことは全部後から考えればいい。
「さく…すきだ、大好き…愛してる……」
(僕も昔からずっと…大好きだよ……)
繰り返される愛の言葉にそう答えて、朔は幸せに包まれたまま目を閉じた。
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