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第六章 祈りと救済
第22話 境界線(上)
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(えっ……)
不審者の男の挙動が、不思議とティルフィーユにはひどくゆっくりに見えた。
突き放された聖女様は地面に倒れ、その美しい銀髪が乱れる。すぐさまディルクと護衛の騎士がそんな聖女様に駆け寄り、暴漢からガードするように聖女様を取り囲む。一方で男はなぜかティルフィーユに向かって冷酷な視線を向け、そしてそのナイフを迷いなく振りかざしてきたのだった。
――ザシュッ。
「っ……」
顔のすぐ傍まで寄ったナイフ。それは果物ナイフ程度の小ささで、中央軍事教練場の食堂で働いていた頃にティルフィーユが持っていた調理用ナイフとほぼ同じ大きさだ。しかしその刃先は容赦なくティルフィーユの肌を――首の血管を的確に狙ってきた。
――ぐわん。
ティルフィーユの視界が、不思議な音を立てて大きく揺れる。するとティルフィーユはその場に倒れ込んだ。
「ティルっ!」
キアンの大声が近付いてくる。その声は何度もティルフィーユの名を呼んだが、しかしティルフィーユに聞こえたのは最初の一回だけだった。
「あっ……ハハッ!」
「貴様ッ!」
倒れたティルフィーユを見下ろして暴漢が気味の悪い笑い声を上げる。
そんな男の肩を掴むと、キアンはその頬を思いきり殴った。手刀で気絶させてやってもよかったのだが、冷静さを欠いたキアンの頭の中は男への報復行為を激しく求めた。倒れ込んだ男に馬乗りになると、キアンは男の頬を左右交互に容赦なく殴りつける。
――どぐっ、げしっ。
「ぅぐっ……」
口の中が切れた男は潰れた声でうめき、血の混じった痰を吐き出す。その様に馬鹿にされているような気がして、キアンの頭にはさらに血が上り、殺さんばかりに男を殴り続けた。
「ストーラー! 殺すな! そいつは生け捕りだ!」
聖女様の護衛を近衛兵部隊の騎士たちに任せたディルクは、我を忘れていそうなキアンにいち早く駆け付け、キアンの腕を捕らえて殴るのをやめさせた。ほかの騎士や兵士たちは、鬼の形相で暴漢を殴り続けるキアンの気迫に委縮してしまい、一時停止したように一歩だに動けずにいる。
「ここにいるグントバハロン軍は至急、スベーク城を閉鎖! 今から誰一人この敷地から出すな! 使用人は全員、前庭に集合させろ!」
ディルクの次に冷静なヨルディが大声で指示を出す。すると、再生ボタンを押されたように軍人たちは次々と動き始めた。
「エヴァエロン共和国の騎士団は、同じく街を閉鎖しろ! 今からマルドレーゼには誰も入れるな! 逆に街からは誰も出すな! それと、今すぐにスベーク城内の見回りを増やして、ほかに不審者がいないか捜せ!」
エヴァエロン共和国の騎士団には、ディルクが大声で指示をする。副団長のトーケルがこの時間は騎士団本部にいるので、「副団長に伝令します!」と一人の兵士が宣言して、急いで馬を駆って街へ下りていった。
「レシクラオンの近衛兵部隊は、レシクラオン関係者全員でまとまって聖女の傍にいろ! ジェレミー!」
「はい、特殊作戦部隊はこの男の身柄を拘束、監視します。エヴァエロン側の騎士もどなたかご一緒にお願いできますか。男の収容場所については、サンテソン副団長の指示に従いましょう」
いつの間にかディルクの近くに寄っていた藍色の髪の騎士――ジェレミーと呼ばれた男が返事をする。ジェレミーは無表情のキアンに「どいていただけますか」と冷静に声をかけ、キアンの股下に伸びていた暴漢を立たせると、エヴァエロンの騎士たちと共に男の両腕を拘束した。
「ティルフィーユさんっ……!」
その時、聖女様の甲高くて鋭い悲鳴が響いた。ただならぬその悲鳴を聞いたディルクは、倒れているティルフィーユに視線を向ける。すっぱり切られたティルフィーユの首からは大量の血が流れ出ており、ティルフィーユの頭部周辺には血の海が広まり始めていた。
「まずい……っ!」
その傷と出血量が致命傷であることを一目で見抜いたディルクの表情が変わった。
「止血する! おい、ストーラー! いつまでぼうっとしてんだ、動け!」
ディルクはキアンに怒鳴りつけながら、迷彩柄のジャケットを脱いだ。そして携帯していた小型ナイフで肩口をびりびりと破いて袖だけにすると、それを四角く折りたたんでティルフィーユの傷口に強く押し当てて、どうにか止血を試みる。
ディルクに怒鳴られたキアンだったが、血まみれのティルフィーユを見て言葉を失い、動けと言われても一歩も動けなかった。
「くそっ、血が止まらねぇ! 頸動脈がやられてる!」
「ディルク様っ、離穢の儀を行います!」
暴漢に突き放されたのち地面に座り込んだままだった聖女様は、心配する神官や騎士たちを払いのけてティルフィーユの傍に駆け寄って膝を突いた。
「おい、神官ども! 聖壺を持ってこい!」
「今日の儀式で使ったものはだめよ! 予備の空の聖壺を持ってきて、早く!」
「それと清祈の儀も行う! 清めの水も用意しろ!」
ディルクと聖女様が交互に叫ぶ。聖女様はティルフィーユの頬をそっとなでたが、ふと目を閉じて悲痛に叫んだ。
「真っ赤……!」
「炎に色はまだあるんだな!?」
「ええ、でも……早くしないと……!」
目を開けた聖女様は、今にも泣き出しそうな表情でティルフィーユを見つめた。
「あっひゃっひゃひゃ! いい気味だ、さっさと死ねよ、クソ女!」
その時、ジェレミーたちに連行されようとしていた暴漢が下品な声で笑い声を上げた。その恐ろしいほどに冷たい視線は、突っ立ったまま木偶の坊と化しているキアンに向けられる。
「なあ、そこにいるミリ族の騎士団長さんよぉ? 身内が殺されるってのはどんな気持ちだ? 何も感じないか? そんなわけねぇよなあ? これで少しはわかるか? 二年前のクーデターでお前らミリ族が殺したジャノオン王国民の遺族の痛みが! お前も理不尽に身内を殺される痛みを味わえ! この野蛮人が!」
暴漢の言わんとしていること――この騒ぎを起こした男の真の目的をキアンは理解した。
男の狙いは聖女様ではなかった。聖女の傍女――いや、ミリ族の族長の妻であるティルフィーユが狙いだったのだ。そして、ティルフィーユを狙う理由は二年前のクーデターの報復。キアンたちミリ族が戦って命を奪った者の中に、この男の家族がいたのだろう。
「おい、行くぞ! 歩け!」
「グントバハロンさんよ~! よーく憶えとけよなあ! お前らが手を貸したこの国は、お前らの国の姫さんを犠牲にしたんだぜえ! 付き合う相手はよ~く考えるこった!」
「黙って歩け!」
なおも不愉快な語りをする男を、ジェレミーたちは引きずるようにして連れていく。そうこうしている間に、神官たちが予備の聖壺を持ってきて聖女様の隣に置いた。
「ルシー、目隠し布は」
「要りません」
ティルフィーユの止血を試みているディルクに、聖女様は首を横に振った。
「ウォンクゼアーザ様……どうか、どうか今一度、強い力をお貸しください。ティルフィーユさんの命を助けてください。彼女はこんな風に死んでしまうべき女性ではありません」
聖女様はぎゅっと強く目をつむり、両手を組んで神に祈る。それからその手をほどくとティルフィーユの首元あたりにかざし、何かを両手で覆うようなしぐさをしてみせた。そして、その両手を脇にある聖壺の中へと落とし込む。
「黒い炎よ……ティルフィーユさんの命を奪わんとする穢れよ……ティルフィーユさんから離れなさい」
聖女様は閉じた目から涙を零しつつ、その動作を繰り返す。しかし進捗は芳しくないのか、聖女様の涙は止まらない。
「っ……」
その時、何かに気付いたのか聖女様は一度目を開けた。そして、ティルフィーユを無言で見下ろしていたひときわ背の高い男性――騎士団長のキアンを見上げる。
「ストーラーさん……お願いです、ウォンクゼアーザ様に祈ってください! ティルフィーユさんご自身もよく祈ってくださっていましたが、彼女を救うにはあなたの祈りも欠かせません……!」
「いのり……?」
聖女様の露草色の瞳を、キアンはぼうっと見下ろした。いまだに思考の停止しているキアンに苛立ったディルクは、ティルフィーユの首元に袖布を押し当て続けて止血を試みたまま、大きな声で叫ぶ。
「言うとおりにしろ、図体がでかいだけのガキが! てめぇの嫁が死んでもいいのか!」
「お願いです、ストーラーさん。ティルフィーユさんを死なせないでと……また一緒に笑い合いたいと……そうウォンクゼアーザ様に願ってください」
聖女様は頬に伝っていた涙を拭き取ると、再び目を閉じて黒い炎の分離作業に戻った。
(ティル……)
どの瞬間からだろうか、キアンの体感する時間はずっと止まっていた。暴漢を殴っていた時だけは高揚感にも似た意識があったようにも思うが、今は五感で感じるすべてのことの処理が滞っており、思考停止状態だった。
(ティルフィーユ……)
キアンはよれよれと地面に膝を突いた。ティルフィーユの頭部付近の血の海はある程度まで広がったが、ディルクのおかげでどうにかそれ以上の広がりは見せていない。だかディルクが手を離さないということは、完全な止血はできていないのだろう。こんな小さな身体で大量の血を失えば、それだけで死んでしまう。
(死ぬ……のか……? ティルフィーユが……?)
不審者の男の挙動が、不思議とティルフィーユにはひどくゆっくりに見えた。
突き放された聖女様は地面に倒れ、その美しい銀髪が乱れる。すぐさまディルクと護衛の騎士がそんな聖女様に駆け寄り、暴漢からガードするように聖女様を取り囲む。一方で男はなぜかティルフィーユに向かって冷酷な視線を向け、そしてそのナイフを迷いなく振りかざしてきたのだった。
――ザシュッ。
「っ……」
顔のすぐ傍まで寄ったナイフ。それは果物ナイフ程度の小ささで、中央軍事教練場の食堂で働いていた頃にティルフィーユが持っていた調理用ナイフとほぼ同じ大きさだ。しかしその刃先は容赦なくティルフィーユの肌を――首の血管を的確に狙ってきた。
――ぐわん。
ティルフィーユの視界が、不思議な音を立てて大きく揺れる。するとティルフィーユはその場に倒れ込んだ。
「ティルっ!」
キアンの大声が近付いてくる。その声は何度もティルフィーユの名を呼んだが、しかしティルフィーユに聞こえたのは最初の一回だけだった。
「あっ……ハハッ!」
「貴様ッ!」
倒れたティルフィーユを見下ろして暴漢が気味の悪い笑い声を上げる。
そんな男の肩を掴むと、キアンはその頬を思いきり殴った。手刀で気絶させてやってもよかったのだが、冷静さを欠いたキアンの頭の中は男への報復行為を激しく求めた。倒れ込んだ男に馬乗りになると、キアンは男の頬を左右交互に容赦なく殴りつける。
――どぐっ、げしっ。
「ぅぐっ……」
口の中が切れた男は潰れた声でうめき、血の混じった痰を吐き出す。その様に馬鹿にされているような気がして、キアンの頭にはさらに血が上り、殺さんばかりに男を殴り続けた。
「ストーラー! 殺すな! そいつは生け捕りだ!」
聖女様の護衛を近衛兵部隊の騎士たちに任せたディルクは、我を忘れていそうなキアンにいち早く駆け付け、キアンの腕を捕らえて殴るのをやめさせた。ほかの騎士や兵士たちは、鬼の形相で暴漢を殴り続けるキアンの気迫に委縮してしまい、一時停止したように一歩だに動けずにいる。
「ここにいるグントバハロン軍は至急、スベーク城を閉鎖! 今から誰一人この敷地から出すな! 使用人は全員、前庭に集合させろ!」
ディルクの次に冷静なヨルディが大声で指示を出す。すると、再生ボタンを押されたように軍人たちは次々と動き始めた。
「エヴァエロン共和国の騎士団は、同じく街を閉鎖しろ! 今からマルドレーゼには誰も入れるな! 逆に街からは誰も出すな! それと、今すぐにスベーク城内の見回りを増やして、ほかに不審者がいないか捜せ!」
エヴァエロン共和国の騎士団には、ディルクが大声で指示をする。副団長のトーケルがこの時間は騎士団本部にいるので、「副団長に伝令します!」と一人の兵士が宣言して、急いで馬を駆って街へ下りていった。
「レシクラオンの近衛兵部隊は、レシクラオン関係者全員でまとまって聖女の傍にいろ! ジェレミー!」
「はい、特殊作戦部隊はこの男の身柄を拘束、監視します。エヴァエロン側の騎士もどなたかご一緒にお願いできますか。男の収容場所については、サンテソン副団長の指示に従いましょう」
いつの間にかディルクの近くに寄っていた藍色の髪の騎士――ジェレミーと呼ばれた男が返事をする。ジェレミーは無表情のキアンに「どいていただけますか」と冷静に声をかけ、キアンの股下に伸びていた暴漢を立たせると、エヴァエロンの騎士たちと共に男の両腕を拘束した。
「ティルフィーユさんっ……!」
その時、聖女様の甲高くて鋭い悲鳴が響いた。ただならぬその悲鳴を聞いたディルクは、倒れているティルフィーユに視線を向ける。すっぱり切られたティルフィーユの首からは大量の血が流れ出ており、ティルフィーユの頭部周辺には血の海が広まり始めていた。
「まずい……っ!」
その傷と出血量が致命傷であることを一目で見抜いたディルクの表情が変わった。
「止血する! おい、ストーラー! いつまでぼうっとしてんだ、動け!」
ディルクはキアンに怒鳴りつけながら、迷彩柄のジャケットを脱いだ。そして携帯していた小型ナイフで肩口をびりびりと破いて袖だけにすると、それを四角く折りたたんでティルフィーユの傷口に強く押し当てて、どうにか止血を試みる。
ディルクに怒鳴られたキアンだったが、血まみれのティルフィーユを見て言葉を失い、動けと言われても一歩も動けなかった。
「くそっ、血が止まらねぇ! 頸動脈がやられてる!」
「ディルク様っ、離穢の儀を行います!」
暴漢に突き放されたのち地面に座り込んだままだった聖女様は、心配する神官や騎士たちを払いのけてティルフィーユの傍に駆け寄って膝を突いた。
「おい、神官ども! 聖壺を持ってこい!」
「今日の儀式で使ったものはだめよ! 予備の空の聖壺を持ってきて、早く!」
「それと清祈の儀も行う! 清めの水も用意しろ!」
ディルクと聖女様が交互に叫ぶ。聖女様はティルフィーユの頬をそっとなでたが、ふと目を閉じて悲痛に叫んだ。
「真っ赤……!」
「炎に色はまだあるんだな!?」
「ええ、でも……早くしないと……!」
目を開けた聖女様は、今にも泣き出しそうな表情でティルフィーユを見つめた。
「あっひゃっひゃひゃ! いい気味だ、さっさと死ねよ、クソ女!」
その時、ジェレミーたちに連行されようとしていた暴漢が下品な声で笑い声を上げた。その恐ろしいほどに冷たい視線は、突っ立ったまま木偶の坊と化しているキアンに向けられる。
「なあ、そこにいるミリ族の騎士団長さんよぉ? 身内が殺されるってのはどんな気持ちだ? 何も感じないか? そんなわけねぇよなあ? これで少しはわかるか? 二年前のクーデターでお前らミリ族が殺したジャノオン王国民の遺族の痛みが! お前も理不尽に身内を殺される痛みを味わえ! この野蛮人が!」
暴漢の言わんとしていること――この騒ぎを起こした男の真の目的をキアンは理解した。
男の狙いは聖女様ではなかった。聖女の傍女――いや、ミリ族の族長の妻であるティルフィーユが狙いだったのだ。そして、ティルフィーユを狙う理由は二年前のクーデターの報復。キアンたちミリ族が戦って命を奪った者の中に、この男の家族がいたのだろう。
「おい、行くぞ! 歩け!」
「グントバハロンさんよ~! よーく憶えとけよなあ! お前らが手を貸したこの国は、お前らの国の姫さんを犠牲にしたんだぜえ! 付き合う相手はよ~く考えるこった!」
「黙って歩け!」
なおも不愉快な語りをする男を、ジェレミーたちは引きずるようにして連れていく。そうこうしている間に、神官たちが予備の聖壺を持ってきて聖女様の隣に置いた。
「ルシー、目隠し布は」
「要りません」
ティルフィーユの止血を試みているディルクに、聖女様は首を横に振った。
「ウォンクゼアーザ様……どうか、どうか今一度、強い力をお貸しください。ティルフィーユさんの命を助けてください。彼女はこんな風に死んでしまうべき女性ではありません」
聖女様はぎゅっと強く目をつむり、両手を組んで神に祈る。それからその手をほどくとティルフィーユの首元あたりにかざし、何かを両手で覆うようなしぐさをしてみせた。そして、その両手を脇にある聖壺の中へと落とし込む。
「黒い炎よ……ティルフィーユさんの命を奪わんとする穢れよ……ティルフィーユさんから離れなさい」
聖女様は閉じた目から涙を零しつつ、その動作を繰り返す。しかし進捗は芳しくないのか、聖女様の涙は止まらない。
「っ……」
その時、何かに気付いたのか聖女様は一度目を開けた。そして、ティルフィーユを無言で見下ろしていたひときわ背の高い男性――騎士団長のキアンを見上げる。
「ストーラーさん……お願いです、ウォンクゼアーザ様に祈ってください! ティルフィーユさんご自身もよく祈ってくださっていましたが、彼女を救うにはあなたの祈りも欠かせません……!」
「いのり……?」
聖女様の露草色の瞳を、キアンはぼうっと見下ろした。いまだに思考の停止しているキアンに苛立ったディルクは、ティルフィーユの首元に袖布を押し当て続けて止血を試みたまま、大きな声で叫ぶ。
「言うとおりにしろ、図体がでかいだけのガキが! てめぇの嫁が死んでもいいのか!」
「お願いです、ストーラーさん。ティルフィーユさんを死なせないでと……また一緒に笑い合いたいと……そうウォンクゼアーザ様に願ってください」
聖女様は頬に伝っていた涙を拭き取ると、再び目を閉じて黒い炎の分離作業に戻った。
(ティル……)
どの瞬間からだろうか、キアンの体感する時間はずっと止まっていた。暴漢を殴っていた時だけは高揚感にも似た意識があったようにも思うが、今は五感で感じるすべてのことの処理が滞っており、思考停止状態だった。
(ティルフィーユ……)
キアンはよれよれと地面に膝を突いた。ティルフィーユの頭部付近の血の海はある程度まで広がったが、ディルクのおかげでどうにかそれ以上の広がりは見せていない。だかディルクが手を離さないということは、完全な止血はできていないのだろう。こんな小さな身体で大量の血を失えば、それだけで死んでしまう。
(死ぬ……のか……? ティルフィーユが……?)
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