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第02話 消えた操言士と闇夜の襲撃
8.奮闘(下)
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【魅惑の歌声……女神の美声……笛の音を連れて、空へ響け】
紀更は、ザッハー広場の広場ステージで見かけた演奏を思い出した。
あんな風に、ステージの上で青年が笛を吹き、もしもその隣に美しい声で歌う人がいたのなら。きっと笛の音と歌声は華麗にからみ合い、とけ合い、聞いている人の胸を打ってラフーアの空に満ちていくことだろう。あたかも音が遠くへ移動して見えなくなるように。
【笛の音に乗る歌声よ、星が輝く夜の空の彼方へ、笛の音を連れていけ】
あの青年がここで何をしていたのか、ここを出て何をしようとしているのか、それはわからない。あの表情の下にある感情も笛の音に託された彼の心も何ひとつ理解できることはないが、こんなところで動けなくなるわけにはいかない。
未熟だと言われた。そうだ、自分は未熟な見習い操言士だ。だからこそ祈聖石巡礼の旅をして、一人前の操言士になるために学ばなければならない。ここでのんきに突っ立っている場合ではないのだ。
【どこまでも高く、笛の音と共に昇っていけ。縛られし我が身と扉を解放せよ】
紀更の推測はどうやら正解だったらしい。
たわわな髪を風になびかせた女神と笛を吹く青年が星空の彼方へ幸せそうに消えるイメージで言葉を紡いだら、青年のかけた操言の力が弱まったのか、徐々に紀更の身体は動くようになった。耳の奥でまだ響いていたような気がする笛の音は徐々に小さくなっていって、やがて完全に聞こえなくなった。いつの間にか音楽堂の外の強い光も消え、室内はまた明灯器ひとつ分の明るさに戻っている。音楽堂の外からも、特に大きな音は聞こえない。
「ふぅ……」
指先が動くのを確かめながら、紀更はゆっくりと息を吐いて頭を落ち着かせた。
「紀更!」
その時、予期せぬ大声で名前を呼ばれて、紀更の心臓は驚いてどっくんと高鳴った。
「え、あ……ユルゲン、さん?」
背後の扉の方に視線を向けると、乱暴に扉を開け放ったユルゲンと目が合った。
「無事か!?」
ユルゲンはよほど慌てたのか、それとも怪魔との戦闘で全力を尽くしたのか、肩で息をしている。その表情は安堵しつつもどこかまだ懐疑的で眉間に皺が寄っており、逆に紀更が、ユルゲンに大丈夫かと問いたいくらいだ。
「は、はい。えっと……」
「外に出るぞ。早く」
大股で紀更に近付くと、ユルゲンは紀更の手を取った。早歩きをするユルゲンに引っ張られるように、紀更は少し弱々しい足取りで音楽堂を出ていく。
「ああ、紀更! 無事だね。よかった」
「王黎師匠……」
外には王黎とルーカス、それに知らない男たちに支えられているエリックがいた。怪魔がいたはずだろうに、王黎たちがすべて斃したのか、一匹たりとて姿は見当たらない。
紀更たちはそれ以上交わす言葉を少なめに、ひとまず宿へ向かうため、北坂を下りることにした。
けがはしていないが、しびれが全身に広がっているようで歩きにくそうなエリックの歩幅に合わせながら、一行は宿を目指してザッハー広場を通り過ぎる。楊とミケルは紀更たちとは別の宿に宿泊しているそうで、途中で別れることになった。
「楊、ミケル、本当に助かった。ありがとな」
「困ったときはお互い様だ」
「何かあればまた声をかけてくれ」
「ああ」
ユルゲンが礼を述べると、二人は颯爽と立ち去った。なぜ街の北に怪魔がいるとわかったのか。何か知っているのか。きっと疑問に思っただろうに、彼らは王黎たちに質問のひとつも投げかけることはしなかった。語らぬなら訊かず――他人の事情に不用意に入り込もうとしないあっさりとしたその距離感が、あえて言葉にはしないものの、今の王黎たちにはありがたかった。
(訊かれても答えられないしね)
去っていく二人の傭兵の背に、王黎は胸中で呟く。
それから、王黎はルーカスと二人でエリックを支えながら宿に戻った。
宿は怪魔が出現した街の南側に位置していたが、怪魔の被害には遭っておらず、出た時と変わらぬ姿だった。怪魔の侵攻は、宿よりもう少し離れたところで食い止められたらしい。
「騎士の誰かが亡くなったらしいわよ」
「南っていうと、小麦畑だろ。被害はどんなもんなんだ」
「怪魔は全部退治したらしいけど、民家がまだ燃えているってさ」
「なあ、水の村レイトでも数日前に怪魔が出たんだろ?」
「いや、レイトは村の外だ」
「まったく、よしてほしいよねえ、怪魔って奴は」
「仕方がない。操言士がいるだけいいじゃないか」
「その操言士は何してたんだ! 都市部の中に怪魔が現れるなんて!」
「また同じことが起きたらいやだねえ」
夜遅い時間にもかかわらず、突然の怪魔襲撃の興奮が醒めないのか、宿の主人や女将、住み込みの従業員と客たちが、一階の受付や談話室で街の状況についてあれこれとおしゃべりをしている。就寝時間はとうに過ぎているが、不安にかき立てられて眠れないのだろう。そして、それは紀更たちも同じだった。
「紀更、寝られるかどうかわからないけど、横になるんだよ」
宿の階段を上って二階の廊下に出たところで、王黎は紀更の背中に声をかけた。
「はい……」
「最美、念のため警戒を怠らないでね。これで終わりじゃないかもしれないから」
「畏まりました、我が君」
「じゃ、おやすみ」
王黎はそう言って背中を向けると、自分たちの客室の方へ廊下を歩いていく。
紀更と最美は手前にある自分たちの客室に入ったが、王黎の言うとおり安心して眠れそうになかった。
紀更は寝台に横になるものの、何度も何度も寝返りを打った。
最美は寝台には横たわらず、客室内の椅子に腰掛けて目をつむっている。完全に熟睡する気はなく、何か気配を感じたら即座に反応できるレベルで意識を保ったまま、窓の外が白み始めるのを待つつもりのようだ。
(怖いのか、興奮してるのか、気になるのか……頭が休んでくれない)
紀更は、音楽堂で見た光景を思い出す。
南に現れた怪魔も北に現れた怪魔も、紀更は自らの目では見ていない。だがエリックたちの疲労具合からして、音楽堂の前に現れた怪魔はきっとキヴィネ一匹という数ではなかったのだろう。
(あの人……ラフーアの操言士……笛を吹く人)
音楽堂にいた笛吹きの操言士。
あの笛は何だったのだろう。彼にとってどんな意味があって、そしてどんな役割を担っていたのだろう。なぜあんな時間に音楽堂にいたのだろう。水の村レイトで聞こえた笛も現れたキヴィネも、あの操言士が関わっているのだろうか。
(でも、一番気になるのは……)
あの青年のことが頭から離れない理由。それは、「なぜ操言士が?」ということだった。
生まれつき操言の力を持つ者、操言士。操言の力を持つ者はすべて操言院で学び、一人前の操言士になって、人々が平和に暮らせるように国に尽くす。国を支える重要な存在である。
その操言士になったはずの彼がなぜ、普通の操言士のように振る舞っていないのか。なぜ人々を脅かす怪魔という宿敵を、相手にしないのか。
(ああいう操言士もいるの? 怪魔と戦うことの少ない、民間部の操言士とか?)
見習い操言士になる前、ほんの一年前まで普通の一般市民だった紀更は、操言士という存在と直接関わったことがほとんどない。操言の力を持つ弟の俊が時々操言院に行っては何かを学び、つたない言葉でそれを教えてくれたくらいだ。
だが、幼い弟のそれさえもほとんど聞き流してしまっていた紀更には、普通の操言士の姿というものがわからない。この一年間、操言院の教師操言士たちとは関わりがあったが、教える姿以外のことはほとんど知らない。
いま一番身近にいる操言士は師匠の王黎だが、彼を操言士の基準として考えるのは様々な意味で適切ではないだろう。
(王黎師匠みたいに怪魔と戦える操言士の方が少数で、ああいう操言士が普通なの? それとも、あの人は異質なの? だけど、普通の人は怪魔に関してはすべて操言士頼み……怪魔のことは操言士がなんとかすべきって思ってる。その感覚がそもそもおかしいの?)
怪魔が現れても対応しない、笛吹きの操言士。街の住民たちが傷ついているだろうに、そのことを心配する素振りすらなかった。まるで、すべて他人事かのように。国と民を守り支える気など、さらさらないというように。
――怪魔殲滅は操言士の義務……ぼくにそう言いたいんだろう?
それは、義務を押し付けてくれるな、という非難にも聞こえた。
怪魔は恐ろしい存在だ。操言士だから、という理由だけでその恐ろしい存在にいついかなるときでも立ち向かえ、と押し付けるのは確かに酷な気もする。
彼のように考える操言士は、少数派だろうか。それとも、実は多くの操言士が彼のように考えているのだろうか。「人々のために尽くす操言士」ではない操言士もいるのが、当たり前なのだろうか。
(国や民が求める操言士の在り方……でも操言士だって一人の人間で……〝操言士だから〟って理由でなんでもかんでも決めつけられるのは……何かが違う……と思う)
宿の外からは、まだ人々の声が聞こえている。
怪魔の攻撃で家が倒壊した者を避難させる。怪魔の攻撃で焼かれた小麦畑を必死で消火する。けが人の治療にあたる。これ以上怪魔が出現しないか見回り、出現しても即座に対応できるように、不眠の警戒にあたる。
街の一般市民が、騎士が、操言士が、できることとすべきことをしている。その一方で休める者は休み、夜が明けてから自分の役割を果たそうと英気を養う。
今頃あの青年は、この街の現状をどんな気持ちで見ているのだろうか。自分も役に立たなければとは、思わないのだろうか。
じんじんと重たい意識がなかなか落ち着きを取り戻してくれなかったが、さすがにしばらくして、紀更は眠気を感じ始めてゆっくりと眠りに落ちた。
音の街ラフーア全体を覆う不安は、東の地平に太陽が昇ってもまだ、完全に晴れることはなかった。
◆◇◆◇◆
紀更は、ザッハー広場の広場ステージで見かけた演奏を思い出した。
あんな風に、ステージの上で青年が笛を吹き、もしもその隣に美しい声で歌う人がいたのなら。きっと笛の音と歌声は華麗にからみ合い、とけ合い、聞いている人の胸を打ってラフーアの空に満ちていくことだろう。あたかも音が遠くへ移動して見えなくなるように。
【笛の音に乗る歌声よ、星が輝く夜の空の彼方へ、笛の音を連れていけ】
あの青年がここで何をしていたのか、ここを出て何をしようとしているのか、それはわからない。あの表情の下にある感情も笛の音に託された彼の心も何ひとつ理解できることはないが、こんなところで動けなくなるわけにはいかない。
未熟だと言われた。そうだ、自分は未熟な見習い操言士だ。だからこそ祈聖石巡礼の旅をして、一人前の操言士になるために学ばなければならない。ここでのんきに突っ立っている場合ではないのだ。
【どこまでも高く、笛の音と共に昇っていけ。縛られし我が身と扉を解放せよ】
紀更の推測はどうやら正解だったらしい。
たわわな髪を風になびかせた女神と笛を吹く青年が星空の彼方へ幸せそうに消えるイメージで言葉を紡いだら、青年のかけた操言の力が弱まったのか、徐々に紀更の身体は動くようになった。耳の奥でまだ響いていたような気がする笛の音は徐々に小さくなっていって、やがて完全に聞こえなくなった。いつの間にか音楽堂の外の強い光も消え、室内はまた明灯器ひとつ分の明るさに戻っている。音楽堂の外からも、特に大きな音は聞こえない。
「ふぅ……」
指先が動くのを確かめながら、紀更はゆっくりと息を吐いて頭を落ち着かせた。
「紀更!」
その時、予期せぬ大声で名前を呼ばれて、紀更の心臓は驚いてどっくんと高鳴った。
「え、あ……ユルゲン、さん?」
背後の扉の方に視線を向けると、乱暴に扉を開け放ったユルゲンと目が合った。
「無事か!?」
ユルゲンはよほど慌てたのか、それとも怪魔との戦闘で全力を尽くしたのか、肩で息をしている。その表情は安堵しつつもどこかまだ懐疑的で眉間に皺が寄っており、逆に紀更が、ユルゲンに大丈夫かと問いたいくらいだ。
「は、はい。えっと……」
「外に出るぞ。早く」
大股で紀更に近付くと、ユルゲンは紀更の手を取った。早歩きをするユルゲンに引っ張られるように、紀更は少し弱々しい足取りで音楽堂を出ていく。
「ああ、紀更! 無事だね。よかった」
「王黎師匠……」
外には王黎とルーカス、それに知らない男たちに支えられているエリックがいた。怪魔がいたはずだろうに、王黎たちがすべて斃したのか、一匹たりとて姿は見当たらない。
紀更たちはそれ以上交わす言葉を少なめに、ひとまず宿へ向かうため、北坂を下りることにした。
けがはしていないが、しびれが全身に広がっているようで歩きにくそうなエリックの歩幅に合わせながら、一行は宿を目指してザッハー広場を通り過ぎる。楊とミケルは紀更たちとは別の宿に宿泊しているそうで、途中で別れることになった。
「楊、ミケル、本当に助かった。ありがとな」
「困ったときはお互い様だ」
「何かあればまた声をかけてくれ」
「ああ」
ユルゲンが礼を述べると、二人は颯爽と立ち去った。なぜ街の北に怪魔がいるとわかったのか。何か知っているのか。きっと疑問に思っただろうに、彼らは王黎たちに質問のひとつも投げかけることはしなかった。語らぬなら訊かず――他人の事情に不用意に入り込もうとしないあっさりとしたその距離感が、あえて言葉にはしないものの、今の王黎たちにはありがたかった。
(訊かれても答えられないしね)
去っていく二人の傭兵の背に、王黎は胸中で呟く。
それから、王黎はルーカスと二人でエリックを支えながら宿に戻った。
宿は怪魔が出現した街の南側に位置していたが、怪魔の被害には遭っておらず、出た時と変わらぬ姿だった。怪魔の侵攻は、宿よりもう少し離れたところで食い止められたらしい。
「騎士の誰かが亡くなったらしいわよ」
「南っていうと、小麦畑だろ。被害はどんなもんなんだ」
「怪魔は全部退治したらしいけど、民家がまだ燃えているってさ」
「なあ、水の村レイトでも数日前に怪魔が出たんだろ?」
「いや、レイトは村の外だ」
「まったく、よしてほしいよねえ、怪魔って奴は」
「仕方がない。操言士がいるだけいいじゃないか」
「その操言士は何してたんだ! 都市部の中に怪魔が現れるなんて!」
「また同じことが起きたらいやだねえ」
夜遅い時間にもかかわらず、突然の怪魔襲撃の興奮が醒めないのか、宿の主人や女将、住み込みの従業員と客たちが、一階の受付や談話室で街の状況についてあれこれとおしゃべりをしている。就寝時間はとうに過ぎているが、不安にかき立てられて眠れないのだろう。そして、それは紀更たちも同じだった。
「紀更、寝られるかどうかわからないけど、横になるんだよ」
宿の階段を上って二階の廊下に出たところで、王黎は紀更の背中に声をかけた。
「はい……」
「最美、念のため警戒を怠らないでね。これで終わりじゃないかもしれないから」
「畏まりました、我が君」
「じゃ、おやすみ」
王黎はそう言って背中を向けると、自分たちの客室の方へ廊下を歩いていく。
紀更と最美は手前にある自分たちの客室に入ったが、王黎の言うとおり安心して眠れそうになかった。
紀更は寝台に横になるものの、何度も何度も寝返りを打った。
最美は寝台には横たわらず、客室内の椅子に腰掛けて目をつむっている。完全に熟睡する気はなく、何か気配を感じたら即座に反応できるレベルで意識を保ったまま、窓の外が白み始めるのを待つつもりのようだ。
(怖いのか、興奮してるのか、気になるのか……頭が休んでくれない)
紀更は、音楽堂で見た光景を思い出す。
南に現れた怪魔も北に現れた怪魔も、紀更は自らの目では見ていない。だがエリックたちの疲労具合からして、音楽堂の前に現れた怪魔はきっとキヴィネ一匹という数ではなかったのだろう。
(あの人……ラフーアの操言士……笛を吹く人)
音楽堂にいた笛吹きの操言士。
あの笛は何だったのだろう。彼にとってどんな意味があって、そしてどんな役割を担っていたのだろう。なぜあんな時間に音楽堂にいたのだろう。水の村レイトで聞こえた笛も現れたキヴィネも、あの操言士が関わっているのだろうか。
(でも、一番気になるのは……)
あの青年のことが頭から離れない理由。それは、「なぜ操言士が?」ということだった。
生まれつき操言の力を持つ者、操言士。操言の力を持つ者はすべて操言院で学び、一人前の操言士になって、人々が平和に暮らせるように国に尽くす。国を支える重要な存在である。
その操言士になったはずの彼がなぜ、普通の操言士のように振る舞っていないのか。なぜ人々を脅かす怪魔という宿敵を、相手にしないのか。
(ああいう操言士もいるの? 怪魔と戦うことの少ない、民間部の操言士とか?)
見習い操言士になる前、ほんの一年前まで普通の一般市民だった紀更は、操言士という存在と直接関わったことがほとんどない。操言の力を持つ弟の俊が時々操言院に行っては何かを学び、つたない言葉でそれを教えてくれたくらいだ。
だが、幼い弟のそれさえもほとんど聞き流してしまっていた紀更には、普通の操言士の姿というものがわからない。この一年間、操言院の教師操言士たちとは関わりがあったが、教える姿以外のことはほとんど知らない。
いま一番身近にいる操言士は師匠の王黎だが、彼を操言士の基準として考えるのは様々な意味で適切ではないだろう。
(王黎師匠みたいに怪魔と戦える操言士の方が少数で、ああいう操言士が普通なの? それとも、あの人は異質なの? だけど、普通の人は怪魔に関してはすべて操言士頼み……怪魔のことは操言士がなんとかすべきって思ってる。その感覚がそもそもおかしいの?)
怪魔が現れても対応しない、笛吹きの操言士。街の住民たちが傷ついているだろうに、そのことを心配する素振りすらなかった。まるで、すべて他人事かのように。国と民を守り支える気など、さらさらないというように。
――怪魔殲滅は操言士の義務……ぼくにそう言いたいんだろう?
それは、義務を押し付けてくれるな、という非難にも聞こえた。
怪魔は恐ろしい存在だ。操言士だから、という理由だけでその恐ろしい存在にいついかなるときでも立ち向かえ、と押し付けるのは確かに酷な気もする。
彼のように考える操言士は、少数派だろうか。それとも、実は多くの操言士が彼のように考えているのだろうか。「人々のために尽くす操言士」ではない操言士もいるのが、当たり前なのだろうか。
(国や民が求める操言士の在り方……でも操言士だって一人の人間で……〝操言士だから〟って理由でなんでもかんでも決めつけられるのは……何かが違う……と思う)
宿の外からは、まだ人々の声が聞こえている。
怪魔の攻撃で家が倒壊した者を避難させる。怪魔の攻撃で焼かれた小麦畑を必死で消火する。けが人の治療にあたる。これ以上怪魔が出現しないか見回り、出現しても即座に対応できるように、不眠の警戒にあたる。
街の一般市民が、騎士が、操言士が、できることとすべきことをしている。その一方で休める者は休み、夜が明けてから自分の役割を果たそうと英気を養う。
今頃あの青年は、この街の現状をどんな気持ちで見ているのだろうか。自分も役に立たなければとは、思わないのだろうか。
じんじんと重たい意識がなかなか落ち着きを取り戻してくれなかったが、さすがにしばらくして、紀更は眠気を感じ始めてゆっくりと眠りに落ちた。
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