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第07話 高飛車な操言士と修了試験
5.それぞれの試験前(下)
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ミケルの助言に半信半疑だった紅雷は、ディマンニ地区にある貸し馬屋で騎乗練習をしようと試みたのだが、どの馬を借りても紅雷が背に乗ると落ち着きなく、それどころかイライラとした風に馬が足で地面を蹴るので、騎乗練習は諦めた。
ミケルの話の裏付けとして、思えばニジドリのメヒュラである最美は問題なく騎乗していた。最美のニジドリ型は、身体が大きくないからだろう。
「馬に乗れたところで、いつ紀更と相乗りするつもりだったんだ?」
疑問に思ったので、ユルゲンは隣でむくれる紅雷に尋ねた。紅雷は唇を尖らしたまま、器用に喋る。
「そりゃあ、一人前になった紀更様とまた旅をするときとかですよ」
「旅か。お前は、故郷にはもう帰らないのか」
「へ? ん~」
予想していなかった意外な質問をされて、紅雷の表情はぽかんとなる。隣に立つユルゲンを横目でじろじろ見たあと、馬に視線を戻して紅雷は答えた。
「アルソーの村に戻りたくない、ってわけじゃないんですよ。ただ、あたしはもう、死ぬまでずっと紀更様の傍にいる……そんな気がするし、それでいいし、そうしたいから。紀更様に付いてくるな、って言われるまでは、どこへでも紀更様に付いていくんです。なんたってあたしは紀更様の言従士なんですからね!」
ユルゲンが持っていなくて、紅雷が持っている理由――紀更と一緒にいていい理由。それを自慢げにかざして、紅雷はふふふんと鼻で笑った。
得意げな紅雷とは違い、馬が放牧されている敷地に背を向けて腕を組むユルゲンの表情には陰りが落ちる。
――先のことなんて考えても不安になるだけなんだから、率先して不安になる必要はないんだ。目の前のはっきりしているものをまずは気にかけようぜ。
大人ぶって紀更にはそう言ったが、実際、先のことを考えて不安になるのはユルゲンも同じだ。紀更が修了試験に合格して一人前の操言士になったあと、自分はどうしたらいいだろう。どうしたいのだろう。
(メルゲントを出た頃は、あんなにも渇いてささくれ立っていたのに)
見つけなければ、という義務感。
なんとしてでも探し出したい、という渇望。
それがないと満たされない、という飢餓感。
それがなくて不安でたまらない、という絶望。
そんな感覚にとらわれて、何をしても誰と話しても、常に胸のどこかが痛んだ。その感覚を振り払いたくて、故郷を飛び出した。胸の痛みを紛らわすように、どんな依頼でも引き受けてこなした。野犬狩りも怪魔退治も、時には人間相手の暴力も。野蛮で野生的な行為は、心の渇きを少しの間だけ忘れさせてくれた。
(もう、あの頃の飢えた感覚はない。満たされたのか、そもそも最初から錯覚だったのか)
紅雷に尋ねた質問は、自分自身に向けたようなものだ。故郷を出た理由が解消されたのなら、故郷に帰るべきは自分だろう。
(メルゲントに戻って、淡々と傭兵の仕事をする……死ぬまでずっと)
そういう生き方でいいのか。そういう人生を過ごしたいのか。
(先のことじゃなくて……)
自分が紀更に言ったように、考えても不安になるだけの未来のことよりも、いま目の前ではっきりしているもの、気にかけるべきもの。それはなんだ。
――もう……ふふっ……ユルゲンさんと話してると、私、笑っちゃう。
愛らしく笑うところ。
――でもわからないから知りたいと思う……知らなきゃ、って。
真剣に悩むところ。
――加護をくれ! 早く!
――はいっ!
恐れずに戦うところ。
――ち、ちがっ……すみ、ま……せん。
何かをこらえながら泣くところ。
――それはないですよ! もう、ユルゲンさん、ひどいですっ。
遠慮なく怒るところ。
――利用なんて思っていないです。そんな……っ。
慌てて焦る姿。
(紀更……)
これまで見てきた彼女の姿で、頭の中はいっぱいだ。
素直に喜怒哀楽を出して、くるくると変わる表情。真剣な姿も困ってるところも、気を抜いて少しドジをするところも。うまく言えずに黙り込んでしまうところも、無理して笑おうとするところも。その姿を、いつでも見ていたい。どんな表情も全部、朝も昼も夜も余すことなくずっと。
立ち止まり悩むなら、隣に立って支えたい。
目標を持って進むなら、その道を歩むための助けになりたい。
害する者がいるなら剣となり盾となり、すべてから守りたい。
疲れたなら甘やかしてやりたい。苦しいなら代わってやりたい。
今までどんな相手に対しても、こんなにも強く深く、思ったことのないこの感情。
いま、自分の中ではっきりとしているこの気持ちは――。
その時、強い視線を感じてユルゲンは黒目だけを斜め下に向けた。柵の上の両腕に頭を乗せた紅雷が、ジト目でこちらを見上げている。
「そういう傭兵さんこそ、故郷に帰らないんですか。いつまで紀更様の周りをうろちょろするつもりですか」
ユルゲンは返事をすることなく黙る。
「クールぶってますけど、あたしにはバレバレですよ。紀更様の傍にいたくてずっともじもじしてるの。今はあたしを理由にできてますけど、それももう終わりですからね。紀更様が操言院を出たら、傭兵さんがあたしの子守をする必要はないんですから」
気付いているだろうとは思っていた。紀更の前では駄犬のような紅雷だが、観察眼が鋭く察しのいい彼女なら、こちらの胸の内をある程度は見透かしているだろう。そして気付いていながらもそこに触れてこないことはありがたいと、そう思っていた。
「お前な」
しかし、これまであえて言葉で指摘してこなかったことを、ついに紅雷は口にした。崩れた均衡が苛立たしく、ユルゲンは紅雷に文句を言う。
「どうせ黙ってるなら最後まで黙っててくれよ」
「黙っていようかと思いましたよ! でも、それが紀更様にとって最良かなって考えたら、言った方がいいかと思ったんです!」
「なんで沈黙を破ることが紀更の最良になるんだよ」
紅雷は不満顔を隠すことなく、不服だと言わんばかりにユルゲンを睨んだ。
「それより答えてくださいよ。故郷に帰らないんですか」
しかしユルゲンは答えない。その態度に、紅雷の堪忍袋の緒が切れる。
「傭兵さんってほんっと! あたしの質問には答えてくれませんね! ああ、もうっ! こんなこと言いたくないですけど!」
紅雷は黙秘するユルゲンの前に移動し、左手を腰に当てる。そして右手の人差し指をユルゲンの鼻先に突き付けた。
「紀更様の傍にいたいならいればいいじゃないですか! 言従士のあたしのことを羨んだり、傍にいる理由がない自分に自信がないからって紀更様を突き放したりしないで!」
「突き放してなんかいない」
「突き放したじゃないですか! 紀更様のご自宅で!」
「お前、狸寝入りだったのかよ」
「寝てましたよ! でも紀更様のことなら、どんな小さなことでも感覚が敏感になるんです!」
「そりゃ便利で結構なこったな」
紅雷の甲高い声に、放牧されている馬たちの耳がぴくりと動く。その馬たちと同じく紅雷の声が耳に響くユルゲンは、深いため息をついた。
――俺の曖昧な探し物のために紀更たちを利用することはもうしない。そんなもの、気にかけてくれなくていいんだ。
そうだ、あの時自分は紀更を突き放した。こちらの身勝手な目的をいつまでも気にかけてくれる紀更に、これ以上中途半端に付きまとうことはできなくて。もうすぐ一人前の操言士になって操言士としての道を本格的に歩いていく彼女に不必要に干渉できなくて。
(いや、違う……俺は)
「なんで正直に言わないんですか」
紅雷が悔しさを噛み殺して問う。
「紀更様の傍にいたい、って。これからも一緒にいたい、って。一言、そう言えばいいのに……あなたはそんな自分を見ないようにしてる」
「ほんと妙に鋭いよな、お前は」
「あたしのことはいいんですよ! それより、どうして自分の心の声を無視するんですか。怖いの? 紀更様にイヤだって拒絶されるのが」
(……そうだよ)
ユルゲンは観念したように目を閉じた。
こうもはっきりと指摘されては、ごまかすことも否定することもできない。だが、すべてを肯定することもできない。ましてや、言葉という形で声に出すことなんて。
――祈聖石巡礼の旅はいったん終わりね。私は王都の操言院に戻ってまた勉強漬けの日々。でも一日でも早く修了試験に合格して、一人前の操言士のスタートに立つ。それが私の望む私の道だから。
ポーレンヌの宿の談話室で、自分の気持ちに整理をつけた時の紀更の言葉。彼女は操言士としてのさだめを受け入れ、その道を生きていく決心をした。その決心を揺るがしてはいけない。邪魔してはいけない。迷わせてもいけない。
(紀更が自分の道を進むこと。それを、俺も望んでる)
だから一緒にいたいだなんて、自分の欲望をぶつけることはできない。それに、紅雷の言うとおり怖いんだ。望んだところで拒絶されたらと思うと。願ったところで何も手に入らないかもしれないと思うと。欲しいと思うものが、この手をすり抜けたらと思うと。
(滑稽だよな。まだ手に入れたわけでもねぇのに、失うことを恐れるなんてな)
けれど、自分の感情はどうにもできない。
求める気持ちと、求めることを恐れる気持ち。相反する心。終わりの見えない葛藤。いっそ消えてくれればいいのに、消えることは絶対にないとわかる。それほどに、彼女の存在は大きい。いつの間にか、こんなにも大きくなっている。
「紀更様は必ず合格します。だからもう、あなたとのコンビは終わりです! あたしは紀更様の言従士だから、紀更様の隣に行くんです。もうあなたの〝理由〟になんてなってあげませんから。そのつもりでいてくださいね!」
返事をしないユルゲンに背を向けて、紅雷は貸し馬屋を後にする。
ユルゲンは身体を反転させ、地べたの草を食んでいる柵の向こうの馬を遠い目でぼうっと見つめた。
◆◇◆◇◆
ミケルの話の裏付けとして、思えばニジドリのメヒュラである最美は問題なく騎乗していた。最美のニジドリ型は、身体が大きくないからだろう。
「馬に乗れたところで、いつ紀更と相乗りするつもりだったんだ?」
疑問に思ったので、ユルゲンは隣でむくれる紅雷に尋ねた。紅雷は唇を尖らしたまま、器用に喋る。
「そりゃあ、一人前になった紀更様とまた旅をするときとかですよ」
「旅か。お前は、故郷にはもう帰らないのか」
「へ? ん~」
予想していなかった意外な質問をされて、紅雷の表情はぽかんとなる。隣に立つユルゲンを横目でじろじろ見たあと、馬に視線を戻して紅雷は答えた。
「アルソーの村に戻りたくない、ってわけじゃないんですよ。ただ、あたしはもう、死ぬまでずっと紀更様の傍にいる……そんな気がするし、それでいいし、そうしたいから。紀更様に付いてくるな、って言われるまでは、どこへでも紀更様に付いていくんです。なんたってあたしは紀更様の言従士なんですからね!」
ユルゲンが持っていなくて、紅雷が持っている理由――紀更と一緒にいていい理由。それを自慢げにかざして、紅雷はふふふんと鼻で笑った。
得意げな紅雷とは違い、馬が放牧されている敷地に背を向けて腕を組むユルゲンの表情には陰りが落ちる。
――先のことなんて考えても不安になるだけなんだから、率先して不安になる必要はないんだ。目の前のはっきりしているものをまずは気にかけようぜ。
大人ぶって紀更にはそう言ったが、実際、先のことを考えて不安になるのはユルゲンも同じだ。紀更が修了試験に合格して一人前の操言士になったあと、自分はどうしたらいいだろう。どうしたいのだろう。
(メルゲントを出た頃は、あんなにも渇いてささくれ立っていたのに)
見つけなければ、という義務感。
なんとしてでも探し出したい、という渇望。
それがないと満たされない、という飢餓感。
それがなくて不安でたまらない、という絶望。
そんな感覚にとらわれて、何をしても誰と話しても、常に胸のどこかが痛んだ。その感覚を振り払いたくて、故郷を飛び出した。胸の痛みを紛らわすように、どんな依頼でも引き受けてこなした。野犬狩りも怪魔退治も、時には人間相手の暴力も。野蛮で野生的な行為は、心の渇きを少しの間だけ忘れさせてくれた。
(もう、あの頃の飢えた感覚はない。満たされたのか、そもそも最初から錯覚だったのか)
紅雷に尋ねた質問は、自分自身に向けたようなものだ。故郷を出た理由が解消されたのなら、故郷に帰るべきは自分だろう。
(メルゲントに戻って、淡々と傭兵の仕事をする……死ぬまでずっと)
そういう生き方でいいのか。そういう人生を過ごしたいのか。
(先のことじゃなくて……)
自分が紀更に言ったように、考えても不安になるだけの未来のことよりも、いま目の前ではっきりしているもの、気にかけるべきもの。それはなんだ。
――もう……ふふっ……ユルゲンさんと話してると、私、笑っちゃう。
愛らしく笑うところ。
――でもわからないから知りたいと思う……知らなきゃ、って。
真剣に悩むところ。
――加護をくれ! 早く!
――はいっ!
恐れずに戦うところ。
――ち、ちがっ……すみ、ま……せん。
何かをこらえながら泣くところ。
――それはないですよ! もう、ユルゲンさん、ひどいですっ。
遠慮なく怒るところ。
――利用なんて思っていないです。そんな……っ。
慌てて焦る姿。
(紀更……)
これまで見てきた彼女の姿で、頭の中はいっぱいだ。
素直に喜怒哀楽を出して、くるくると変わる表情。真剣な姿も困ってるところも、気を抜いて少しドジをするところも。うまく言えずに黙り込んでしまうところも、無理して笑おうとするところも。その姿を、いつでも見ていたい。どんな表情も全部、朝も昼も夜も余すことなくずっと。
立ち止まり悩むなら、隣に立って支えたい。
目標を持って進むなら、その道を歩むための助けになりたい。
害する者がいるなら剣となり盾となり、すべてから守りたい。
疲れたなら甘やかしてやりたい。苦しいなら代わってやりたい。
今までどんな相手に対しても、こんなにも強く深く、思ったことのないこの感情。
いま、自分の中ではっきりとしているこの気持ちは――。
その時、強い視線を感じてユルゲンは黒目だけを斜め下に向けた。柵の上の両腕に頭を乗せた紅雷が、ジト目でこちらを見上げている。
「そういう傭兵さんこそ、故郷に帰らないんですか。いつまで紀更様の周りをうろちょろするつもりですか」
ユルゲンは返事をすることなく黙る。
「クールぶってますけど、あたしにはバレバレですよ。紀更様の傍にいたくてずっともじもじしてるの。今はあたしを理由にできてますけど、それももう終わりですからね。紀更様が操言院を出たら、傭兵さんがあたしの子守をする必要はないんですから」
気付いているだろうとは思っていた。紀更の前では駄犬のような紅雷だが、観察眼が鋭く察しのいい彼女なら、こちらの胸の内をある程度は見透かしているだろう。そして気付いていながらもそこに触れてこないことはありがたいと、そう思っていた。
「お前な」
しかし、これまであえて言葉で指摘してこなかったことを、ついに紅雷は口にした。崩れた均衡が苛立たしく、ユルゲンは紅雷に文句を言う。
「どうせ黙ってるなら最後まで黙っててくれよ」
「黙っていようかと思いましたよ! でも、それが紀更様にとって最良かなって考えたら、言った方がいいかと思ったんです!」
「なんで沈黙を破ることが紀更の最良になるんだよ」
紅雷は不満顔を隠すことなく、不服だと言わんばかりにユルゲンを睨んだ。
「それより答えてくださいよ。故郷に帰らないんですか」
しかしユルゲンは答えない。その態度に、紅雷の堪忍袋の緒が切れる。
「傭兵さんってほんっと! あたしの質問には答えてくれませんね! ああ、もうっ! こんなこと言いたくないですけど!」
紅雷は黙秘するユルゲンの前に移動し、左手を腰に当てる。そして右手の人差し指をユルゲンの鼻先に突き付けた。
「紀更様の傍にいたいならいればいいじゃないですか! 言従士のあたしのことを羨んだり、傍にいる理由がない自分に自信がないからって紀更様を突き放したりしないで!」
「突き放してなんかいない」
「突き放したじゃないですか! 紀更様のご自宅で!」
「お前、狸寝入りだったのかよ」
「寝てましたよ! でも紀更様のことなら、どんな小さなことでも感覚が敏感になるんです!」
「そりゃ便利で結構なこったな」
紅雷の甲高い声に、放牧されている馬たちの耳がぴくりと動く。その馬たちと同じく紅雷の声が耳に響くユルゲンは、深いため息をついた。
――俺の曖昧な探し物のために紀更たちを利用することはもうしない。そんなもの、気にかけてくれなくていいんだ。
そうだ、あの時自分は紀更を突き放した。こちらの身勝手な目的をいつまでも気にかけてくれる紀更に、これ以上中途半端に付きまとうことはできなくて。もうすぐ一人前の操言士になって操言士としての道を本格的に歩いていく彼女に不必要に干渉できなくて。
(いや、違う……俺は)
「なんで正直に言わないんですか」
紅雷が悔しさを噛み殺して問う。
「紀更様の傍にいたい、って。これからも一緒にいたい、って。一言、そう言えばいいのに……あなたはそんな自分を見ないようにしてる」
「ほんと妙に鋭いよな、お前は」
「あたしのことはいいんですよ! それより、どうして自分の心の声を無視するんですか。怖いの? 紀更様にイヤだって拒絶されるのが」
(……そうだよ)
ユルゲンは観念したように目を閉じた。
こうもはっきりと指摘されては、ごまかすことも否定することもできない。だが、すべてを肯定することもできない。ましてや、言葉という形で声に出すことなんて。
――祈聖石巡礼の旅はいったん終わりね。私は王都の操言院に戻ってまた勉強漬けの日々。でも一日でも早く修了試験に合格して、一人前の操言士のスタートに立つ。それが私の望む私の道だから。
ポーレンヌの宿の談話室で、自分の気持ちに整理をつけた時の紀更の言葉。彼女は操言士としてのさだめを受け入れ、その道を生きていく決心をした。その決心を揺るがしてはいけない。邪魔してはいけない。迷わせてもいけない。
(紀更が自分の道を進むこと。それを、俺も望んでる)
だから一緒にいたいだなんて、自分の欲望をぶつけることはできない。それに、紅雷の言うとおり怖いんだ。望んだところで拒絶されたらと思うと。願ったところで何も手に入らないかもしれないと思うと。欲しいと思うものが、この手をすり抜けたらと思うと。
(滑稽だよな。まだ手に入れたわけでもねぇのに、失うことを恐れるなんてな)
けれど、自分の感情はどうにもできない。
求める気持ちと、求めることを恐れる気持ち。相反する心。終わりの見えない葛藤。いっそ消えてくれればいいのに、消えることは絶対にないとわかる。それほどに、彼女の存在は大きい。いつの間にか、こんなにも大きくなっている。
「紀更様は必ず合格します。だからもう、あなたとのコンビは終わりです! あたしは紀更様の言従士だから、紀更様の隣に行くんです。もうあなたの〝理由〟になんてなってあげませんから。そのつもりでいてくださいね!」
返事をしないユルゲンに背を向けて、紅雷は貸し馬屋を後にする。
ユルゲンは身体を反転させ、地べたの草を食んでいる柵の向こうの馬を遠い目でぼうっと見つめた。
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