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第一章 産声

第一話 東京迷子

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着いた。東京駅。空気が違う。何も匂わない、いや、匂わせない匂いがする。
ここから僕、横浜快斗の一人暮らしが始まる。物件は親が初めの1年間は出してくれる。
池袋駅徒歩5分の家賃8万円のマンションの1ー12号室。
「東京やぁ!!!」
僕は親が送ってくれたカレーを食べながらサザエさんを見ている。明日が立教大学入学式。
明日は親がくる。東京が楽し過ぎてもうどうにも…!走りたい!!!とりあえず…何でもいいから…走りたい気分だ。
タオル片手に何が何だがわからない池袋を出る。
僕は人生初の皇居マラソンをする予定だ。
「次はー東京ー東京ーお足元にご注意くださいー」
ドアが開く、僕はいち早くドアを渡り階段を登っていく。
皇居はでかいため方向音痴な僕でも分かる。
よし!走るぞ。
今日は興奮し過ぎて頭がはち切れている。謎に足が弾む。高校駅伝なんてクソ喰らえだ!
周りを見渡すと僕と同じくらいの年齢の子が一人、大はしゃぎでペースを飛ばしてる。
やっぱりマラソンは楽しい。己の足を止まず走る。目標を達成したあの達成感は他のスポーツの何よりも変えられない。
「今日はこのくらいにしよう。」
皇居3周分、15kmを走って今日の東京マラソンは終わった。まだ、ちょっとやりたいな。
ここから東京駅までは当て勘だと都外に行ってしまうのでナビを使う。
ナビだと着いているのにここは建設中のビルが聳え立つ一等地。
近くに交番はないし、周りの方に尋ねるか。でも、すみません。とは言いづらい。勇気をだぜ、横浜快斗。
「あの、すみません、東京駅は何処でしょう?」
「あ、東京はこの道をまっすぐ。突き当たりで右手に東京駅が見えるよ。まだ若いね。新人さん。これから頑張ってね。」
「ありがとうございます!」
威勢のいい東京人にはそぐわない声を出した。あえて。東京の人は冷たいということがイメージだったが明るい東京人にほっこりした。マラソンを終えた後の孤独のグルメを見るあの感覚。夕日のあの感覚。
池袋、自分の家に着いた。
今日は家にマラソンの格好のまま寝た。
「あぁ!20分寝坊した!」
いそいそしながら支度をする。
会場にたくさんの新入生がいるっていうのにドタバタ横浜君は結婚式場の花嫁を攫っていくのかのような雰囲気で着席する。
これが僕の立教ライフ。思う存分楽しもう!

「今日から数学Iを担当する、内藤です。んじゃぁ教科書買ってもらったでしょ?んじゃ教科書3ページの…」
え、教科書?そんなの買ったっけ?隣の席の子が白けた目で見てくる。
「すみません、忘れてしまいました。」
「え、ちょちょっとそれはないやろ、!」
カバンの中を探す。その中には一冊の教科書があった。
「すみません、ありました!」
「何だ、慌てすぎだぞ!」
その教科書の中には一枚の紙があった。
               『快斗!慌てないで、何事にもファイト!』
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