どん底韋駄天這い上がれ! ー立教大学軌跡の四年間ー

七部(ななべ)

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第二章 桃源郷

第二十話 君の羅針盤のように。 ー前編ー

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その日、彼女と最後に会話をした日、僕は連絡先を僭越ながら交換させて頂いた。
KAEと、名前を大文字の英語にしてるのが僕の好きな人の連絡先の名前、第二の、裏の、SNS上の、彼女の名前。ここに一つ、彼女の秘密を知れた気がした。
丁度交換をした時間は、夏のように暑い春。でも僕の心は本来のあるべき春だった。青い春、青き春。晩年の青春時代に、ようやく陰毛が生えた。僕にとって今は青春時代を生涯に例えるなら思春期、第二次性徴期なのだ。伸び盛りの青春に、誰が邪魔をするというのか。

僕はSNS上の彼女に初メールを送信した。
「さっきさ、いつか遊ぼうみたいなこと言ってたじゃん。いつにする?」22:59
あとあと振り返るとこのメールは5点だ、1000点満点中の。『さっき』の時間の表現の履き違えてるし、余計なところを突っ込んでは掘り返してるし、極め付けに彼女に委ねてしまってるので100%相手任せになってるから。
でも青春の第二次性徴期。このくらいのミスは付きものだ。

もう寝てもいい頃合いになった。窓の外の池袋の街並みは、夜空と街灯がもたらす人工の光そして星々がもたらす天然の光、それぞれ7対2.99対0.01。スマホを開けると返信2件。
「うん、言ったね~」/「今週の日曜とかどう?」23:28
この文字を見た瞬間、流れ星が池袋の夜空を貫いた。頭の中はその文字で情報がいっぱいだったからなんも祈れんかった。『結ばれますように』って言いたかったのに。
「日曜ね。おっけー。」23:45



それからの日々は悠久のように、5億年ボタンを押したように感じた。とにかく長かったのである。
授業の一コマ一コマ、トラック10周の自己最短記録をマークしても、長く感じた。やる気に満ち溢れていたからだろうか。理由は分からない、原因不明の病である。でも目星はある。不治の病とも言われている、青春学生特有の、あの噂の、『恋の病』である。




土曜日の夜。5億年も残り4億と幾千万年になったんだろうか。この日の1つの暗と2つの異なった明の比は6対2対2。天然の、あるべきの光が多い今日の副都心、池袋。その星々を見ながら今日のことを思い出す。
午前から部活があって、トラック15周×3回もして…とにかく疲れた。でも次の関東インカレの5000mの代表枠を勝ち取るために、箱根にまた行けるように、ランナーの闘志を燃やした。
きっとあの赤いベテルギウスも頷いているだろう。

忘れかけの眠り方を、独自のおぼつかない方法で無理くり試したけど、寝れなくなった。もう既に丑三つ時。そんな中に一件、メッセージが来た。
「明日楽しみだね。」
白築からだった。もう今日なのに、てかこんな時間なのに。相手もこのことに対し緊張しているのかと妄想を膨らますと、自然と眠れてきた。
「うん。」
とそっけない返事だけをして、僕はようやく寝た。



目が覚める。目的のある希望の朝。朝ごはんなんて食べずに、髪の毛を整えることに命をかけて、清潔感保ったコーデで、なるべく余分なものを入れずに。9時30分の僕は行ってきますと、家に告げた。
ちょっと走って池袋駅に着くと、彼女の姿はいなった。10時集合の9時35分だもん、仕方がない。
商業施設が立ち並ぶ真ん中でイヤホンをつけて大好きな音楽をかける。今日は朝からONE OK ROCKの気分だ。ハイになった気分で彼女に会いたい。いつもの僕とはなんか違うような僕でいたい。
1曲目が終わって、2曲目も終わった。この6分もある長い3曲目も終わりにさしかかる。ドタキャンか?と嫌な予感がよぎる。結局僕のことなんて何にも思ってないのか。ただの同じ学科の男ってだけなのか。他に好きな男なんてものがいるのか。卑屈に走ったら、僕のところを目掛け一直線に走ってくる君がいた。
「遅くなってごめん!気合い入れてた。」
かわいい遅刻の言い訳に、ちょっと笑った。
Stand up! Right now! 4曲目がこう言う。イヤホンを外して、僕は言う。
「良かった。来ないのかと思ったよ。」
思ったことをそのまま言っただけ。僕の青春はまだ青いけど、青こその良さがある。これから達者になればいい。いやでも達者になんてならなくていい、真っ直ぐな君の心だけを青のままでも奪い取ればいい。
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