閉じた光

七部(ななべ)

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第二部 Whatever you’ll be.

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ーいつも通りじゃなくなる、帰り道の話。ー
この日は花の開花を急かすようなあったかいよりあつい日でした。そして明日は、開花した花を痛めつけようとでもするのか、とっても寒い日でした。


「なんか全ての光景が愛おしく見えるね。ほら、ここの曲がり角でケンカしたこともあったね。」
「ほんとにね。ケンカは確か小六の時だから、もう4年前の事になっちゃうのか。そして私たち、もうこうやって一緒に帰れないのかぁ。」
大きなため息を吐く。いつもの3月だったらまだこの地域は白い息になってるのに、今日は見えない。私は今、十三年来の幼馴染と一緒に帰ってる。これで一緒に帰るのも多分、残り二回になる、今を含めてね。
「いつもの道は飽きたよ。ちょっと寄り道しよ?」
「しょーがねぇなぁ。いいよ。あっちの海行こうぜ。」
ちょっとだけ、家には帰りたくなくてそう言った。夕陽が落ちる寸前の津軽海峡は海面下が橙になっていて綺麗だった。
「何百回もここで遊んだよな。結依が家出した時もここ来てたよな。」
「ちょっと~!やめてよそれぇ!!今でも恥ずかしいんだから。そう言う太一だってさ、ここでしょっちゅう泣いてたじゃん。」
「ふーん。」
「なにさ!!」
「全く効かないもんね!」
「もおぉぉ!」
右は海、左は山。その狭間で私たちは最後から二番目の下校をしている。明日、3月19日は卒業式。ここの人は小学校も同じ割合が多いから、3+6年間の友情の最終回。
海から波の音、山から風で揺れる木の音。高校は知内のとこにした。今までの9年間、いや太一との13年間は、最高の青春と称される高校生活相手でも勝らない。
浜辺で遊んだ時も、遠出して函館に2人で行った時も、そして喧嘩しちゃった時も。いつも太一と居た気がする。それが明日ぽっきりでそうでなくなるなんて、私の未曾有、未開拓の脳では答えは出てこなかった。
だけど、それが嫌であることは分かりきってた。明日がその答え合わせの日。





翌日

いつも通り太一の家に行き、インターホンを鳴らす。
「おはよ。」
「…おはよ。」
2人ともなぜか重苦しかった。
『あ、そうちゃんじゃん!』
「よ、太一と結依。いつまで経ってもお似合いだなぁ。」
「だから違うって!何回言わせるの!」
照れていて怒った口調で私はいう。
「はいはいw。でも、こんなんで笑えるのも今日までなんてな。俺、涙出てきた。」
「おいおい大丈夫かよ。卒業式じゃ洪水もんだな。」
太一はいつでも笑ってる。でもその笑みの奥には涙があるのを私は分かってる。

学校に入り、体育館に卒業生が入場する。
拍手で迎えられ、席に座り、話があり、花束を渡されたり…
『3年1組、合原一樹!』
いよいよ卒業生が卒業証書を渡される時が来た。ここは過疎地域だから中学もたった2クラスしかない。


『竹田結依!』
私の名前が呼ばれた。悲しげに、はいと返事をする私を太一は笑ってすましてる。




卒業式が終わり、下校を促され下校することになった。
「今日も海行こうよ、太一。」
「分かった。」
またあの海に向かう。私は海が好きなのだ。身に流れを任せて時空をも飛び越えそうな力強さがあるから。
でも今日の海は弱く見えた。



今しかないと思い、私は言う、告白を。
「あのね、ずっと前からさ、私、太一のことが好きだったんだよね。」
恥ずかしくなってしゃがみこみ、目をつむり、ここから先の『付き合ってください。』が言えなくなった。
「うん。気持ちはわかったよ。……でも俺、結依と親友の関係でありたいかな。ごめんね。」
…なんでいつもは意地悪なのにこんなに優しいんだよ、ばか。
何も言えなくなって、2人黙り込んだまま家に帰ろうとする。私たちの13年間が水の泡になってしまった。だけどなんでだろう、高校があるからと思ってしまった。高校よりも太一の方がいいとか前まで思ってのに、前者を縋ってしまう結果になった。でも後悔はしてない、私には高校生活があるから。




太一との人生で最後の会話は、そっけなかった。
「じゃあね。また会える日まで。」
いつもは『じゃあな』なのに、今日は『じゃあね』だったなぁ。
1人で帰る道はとてつもなく寂しかった。途方に暮れた。前を見ると、澄んだ空気の奥から、小さい何かが動いてた。
(北海道新幹線か。)
今は頭がフラれたことでいっぱいで、どうにかこうにかしてこの頭の思考回路を切り替えたかったから、新幹線のことを一生懸命考えた。
あの新幹線は誰を乗せて運んでるんだろう。私を乗せて欲しいな。新幹線の進む通りに超高速で進んで、太一のこととかどうでもいいって思えるようになりたいな。
結局、太一のことを考えてる自分が大っ嫌いになった。

13年前、太一と少ししか仲良くなかった時のこんな約束をしたのを今になって思い出した。
『10000歳までよろしくな!』
10001歳の誕生日がこんなにも早く来るとは思わなかったよ、太一。
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