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第7章 友情の崩壊
4. 予想外の現実
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帰り道、有理の姿を見つけたのはほんとうに偶然だった。
沈みかけている夕日がまっすぐ差し込んで、校門の影が長く伸びている。
なぜか有理はそこに、ひとりで立っていた。
名前を呼ぶ前に、有理がこちらを向いた。
その目からは、先ほどのような怒りは見られない。
でも、もっと違う感情が宿ってた。
泣きそうなのを必死でこらえてるみたいな。
苦しくてたまらないみたいな。なんとも言えない表情をしていた。
「……有理」
声をかけると、有理は小さく笑った。
でもその目は——まったく笑ってなかった。
「ねぇ、樹ってさ……」
有理の声が、震えていた。
寒い風が頬を撫でていく。その風のせいで、俺の頬が熱を持っていることを自覚させられる。
「……昔から、男子にだけ異様に優しかったよね」
「は……?」
思わず間の抜けた声が出る。
でも、有理は一歩も引かずに、まっすぐ俺を見ていた。
「サッカー部のときさ、樹って女子にモテモテだったじゃん。可愛い子もたくさんいて、彼女なんてすぐにできると思っていた。でも……誰とも付き合わなかったよね」
「それは……別に、なんとなくっていうか」
「うそ。興味なかったんでしょ、女子には」
「……」
頭の奥がじわじわ熱くなっていく。
何を言われてるのか、わかっていた。けれど、わかりたくなかった。
「最初、大澤先生のこと好きなんだって思ってた。変に距離近いし、樹の目がさ、あの人のときだけ違ってたから」
「なっ……」
胸の奥がぎゅっと縮む。言葉が詰まって出てこない。
「でも、それは疑問だけで済んでいた。俺が核心したのは、南条との件」
「……」
有理の声が強くなる。抑えてたものが、溢れ出すようだった。
「樹さ、あいつのことになると目の奥が光るんだよね。たぶん自分じゃ気づいてないと思うけど」
「……」
「前に、南条のどこが好きかって聞いたじゃん? あのとき、樹は南条のことが好きなんだなって確信してたから聞いたんだよ」
その言葉が、胸の奥に突き刺さる。
呼吸がうまくできない。何かを言わなきゃって思うのに、声が出ない。
「俺さ……ずっとずっと、樹のこと見てた」
有理の声が、震えながら続く。
「サッカーしてるときも、笑ってるときも、悩んでるときも、楽しいときも、喜んでるときも、ムカつくくらい鈍感なときも、ずっと、ずっと、目で追ってた」
「……」
「わかってたよ。樹にとって俺は〝友達〟で、それ以上のことにはならないって。でも、それでもいいって思ってた。友達でもいいって……それで十分だって、自分に言い聞かせてた」
有理の目が、赤くなっていた。
涙が浮かんでいるのがわかる。
「でもさ。ずっと隣にいて……樹の〝好き〟が、自分に向くことは一度もなくて。しかもそれが、別の人に向いているのを近くで見てたらさ……」
浮かんでいた涙が、こぼれた。
制服に小さな染みができる。
「もう……限界だった」
それを皮切りに、有理の涙は止まらなくなった。
声にわずかな嗚咽が混じる。けれど有理は、顔を背けたりしない。
まっすぐ俺を見て、叫ぶように言葉を続けた。
「俺さぁ……樹のことが、好きだったんだよ」
「……」
「ずっと、ずっと、ずーーっと、好きだったんだよ!!」
夕暮れの学校に、有理の声が響く。
今は誰もいない。けれど、いつ誰が来るかわからない。
こんなの誰にも聞かれたくないのに、有理の声は止まらなかった。
「でも……俺じゃダメだったんだよな。最初から。俺が〝友達〟だから。樹が俺を〝恋愛対象〟として見ることなんて、絶対にないって、わかってたよ」
それでも、好きだった。
それでも、隣にいたかった。
それでも、想いを止められなかった。
有理の涙が、制服にぽつぽつと落ちる。
俺は、その場から一歩も動けなかった。
「もうさ、知らないでいてよ。俺の気持ちなんて……何も知らなかったことにして、普通にしててよ」
「……」
「届かないことくらい、もう元にも戻れないことくらい、自分が一番わかってる。でも……言わずにはいられなかった。樹が南条と話してるの見たらもう……無理だった。でも、明日からもまた……何も知らなかったことにして、普通にしてよね。気まずいのは、苦手だから」
有理はそれだけ言うと、俺に背を向けて歩き出す。
俺は何も言えなかった。
言葉が、何ひとつ出てこなかった。
その背中が夕陽に溶けて、見えなくなっていく。
俺の目の奥には、いつまでも涙を流す有理の顔が残っていた。
沈みかけている夕日がまっすぐ差し込んで、校門の影が長く伸びている。
なぜか有理はそこに、ひとりで立っていた。
名前を呼ぶ前に、有理がこちらを向いた。
その目からは、先ほどのような怒りは見られない。
でも、もっと違う感情が宿ってた。
泣きそうなのを必死でこらえてるみたいな。
苦しくてたまらないみたいな。なんとも言えない表情をしていた。
「……有理」
声をかけると、有理は小さく笑った。
でもその目は——まったく笑ってなかった。
「ねぇ、樹ってさ……」
有理の声が、震えていた。
寒い風が頬を撫でていく。その風のせいで、俺の頬が熱を持っていることを自覚させられる。
「……昔から、男子にだけ異様に優しかったよね」
「は……?」
思わず間の抜けた声が出る。
でも、有理は一歩も引かずに、まっすぐ俺を見ていた。
「サッカー部のときさ、樹って女子にモテモテだったじゃん。可愛い子もたくさんいて、彼女なんてすぐにできると思っていた。でも……誰とも付き合わなかったよね」
「それは……別に、なんとなくっていうか」
「うそ。興味なかったんでしょ、女子には」
「……」
頭の奥がじわじわ熱くなっていく。
何を言われてるのか、わかっていた。けれど、わかりたくなかった。
「最初、大澤先生のこと好きなんだって思ってた。変に距離近いし、樹の目がさ、あの人のときだけ違ってたから」
「なっ……」
胸の奥がぎゅっと縮む。言葉が詰まって出てこない。
「でも、それは疑問だけで済んでいた。俺が核心したのは、南条との件」
「……」
有理の声が強くなる。抑えてたものが、溢れ出すようだった。
「樹さ、あいつのことになると目の奥が光るんだよね。たぶん自分じゃ気づいてないと思うけど」
「……」
「前に、南条のどこが好きかって聞いたじゃん? あのとき、樹は南条のことが好きなんだなって確信してたから聞いたんだよ」
その言葉が、胸の奥に突き刺さる。
呼吸がうまくできない。何かを言わなきゃって思うのに、声が出ない。
「俺さ……ずっとずっと、樹のこと見てた」
有理の声が、震えながら続く。
「サッカーしてるときも、笑ってるときも、悩んでるときも、楽しいときも、喜んでるときも、ムカつくくらい鈍感なときも、ずっと、ずっと、目で追ってた」
「……」
「わかってたよ。樹にとって俺は〝友達〟で、それ以上のことにはならないって。でも、それでもいいって思ってた。友達でもいいって……それで十分だって、自分に言い聞かせてた」
有理の目が、赤くなっていた。
涙が浮かんでいるのがわかる。
「でもさ。ずっと隣にいて……樹の〝好き〟が、自分に向くことは一度もなくて。しかもそれが、別の人に向いているのを近くで見てたらさ……」
浮かんでいた涙が、こぼれた。
制服に小さな染みができる。
「もう……限界だった」
それを皮切りに、有理の涙は止まらなくなった。
声にわずかな嗚咽が混じる。けれど有理は、顔を背けたりしない。
まっすぐ俺を見て、叫ぶように言葉を続けた。
「俺さぁ……樹のことが、好きだったんだよ」
「……」
「ずっと、ずっと、ずーーっと、好きだったんだよ!!」
夕暮れの学校に、有理の声が響く。
今は誰もいない。けれど、いつ誰が来るかわからない。
こんなの誰にも聞かれたくないのに、有理の声は止まらなかった。
「でも……俺じゃダメだったんだよな。最初から。俺が〝友達〟だから。樹が俺を〝恋愛対象〟として見ることなんて、絶対にないって、わかってたよ」
それでも、好きだった。
それでも、隣にいたかった。
それでも、想いを止められなかった。
有理の涙が、制服にぽつぽつと落ちる。
俺は、その場から一歩も動けなかった。
「もうさ、知らないでいてよ。俺の気持ちなんて……何も知らなかったことにして、普通にしててよ」
「……」
「届かないことくらい、もう元にも戻れないことくらい、自分が一番わかってる。でも……言わずにはいられなかった。樹が南条と話してるの見たらもう……無理だった。でも、明日からもまた……何も知らなかったことにして、普通にしてよね。気まずいのは、苦手だから」
有理はそれだけ言うと、俺に背を向けて歩き出す。
俺は何も言えなかった。
言葉が、何ひとつ出てこなかった。
その背中が夕陽に溶けて、見えなくなっていく。
俺の目の奥には、いつまでも涙を流す有理の顔が残っていた。
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